混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
高空で後ろのハッチを開けたままにしているが全く強風は吹いていない。飛ばされるどころか、髪すらなびかない。どんな理屈は分からないが、この好機は逃してはいけない。
ハッチから見えるのは澄み渡る空。だが、すぐそこに敵は来ている。何も出来ないと思ったが、グレンの奇抜な発想で一途の可能性は見えた。
楽しそうに笑うグレンに問いかける。
「なぁ? 流石にここからじゃ後ろ60°が限界だぞ?」
ミサイルというのは絶対に機体の後ろに付くわけでは無い。飛行機の何倍もの速度で飛翔し、飛行機のルートを予測して交点が重なるように動いている。例えば鬼ごっこで走って逃げる人を車で先回りしたりして、捕まえようとしているのと同じだ。だから横から、前から来ることもあり得る。
また戦闘機ですら軌道だけで避ける事は難しく、チャフやフレア、デコイ等ーーミサイルを撹乱する装備ーーを駆使してかわしている。
だがこの輸送機は鈍足で、急旋回等出来ず、チャフやフレアの数もそう多くない。
要するに守る手段も少なく、必ず後ろからミサイルが来るという保証もない。
グレンはいたずらっ子のように微笑むと後ろに振り返る。
「それはここに居る先輩達がどうにかしてくれるさ」
いきなり指名された代表直属部隊の面々。だが何人かは状況が掴めたようだ。
座席から立ち上がり、こちらに歩いてくるソフィア。
「……グレン、よく考えたな。この作戦、見事だ。ただ見守るのは何とも歯がゆい。我々も参加する。我々はウォールシールドを張れば良いんだな?」
ウォールシールド!! そうか、ミサイルに対しては何発か耐えられる。そう何発か。いつかは壊れてしまう。
グレンは満足げに頷く。
「そうです。後ろのはラインが。それ以外は皆さんにお任せしたい。出来ますよね?」
ソフィアでは無く、後ろの荒くれ共を一瞥する。その安い挑発に乗る代表直属部隊。
「新人に負けてられるか!! てめぇらやるぞ!!」
「俺らを誰だと思ってやがる!! エルス国最強の部隊だぞ!!」
今にも外に投げ出されそうな勢いだが、これで士気は十分だ。
やはり、グレンは人心把握術にも長けているのか……これほどの実力があるグレンは一体何を考えている?
グレンは俺に向き直ると手を差し出す。
「ほれ、俺の魔力を使いな」
使う魔法はライトニング。それも高出力にしないとミサイルや戦闘機は落とせない。俺一人では数発が限度だ。だが、グレンが魔力を分けてくれるなら10発以上は行くだろう。
グレンの意外と綺麗な手を握る。本人曰く、女を愛撫する手は綺麗でなくてはならないだとさ。
どうでもいいことを頭から払いつつ、手を握ると俺に膨大な魔力が流れ込んでくるのが分かる。その量は尋常では無かった。もはやスケールが違う。
普通ならばシャワー程度だが、グレンは蛇口を全開で開いていた。それ自体は誰にも可能だが、直ぐにぶっ倒れる。だがグレンは顔色一つ変えず、不敵な笑みを浮かべたままだ。
可笑しい、とても可笑しい魔力量だった。この場に居る誰しもこの量に及ぶ人は居ない。魔力は修行で増えていくが、それは微量。グレンは魔法師何人分、それ以上の魔力量かもしれない。もはや異常とも言える魔力量に俺は動揺を隠しきれない。
グレンは口に人差し指を当てると秘密という意味のジェスチャー。
確かに触ってるのは俺だけで、知っているのは俺だけだ。黙っていれば他の人には分からないかもしれない。
そして俺が声高らかにグレンの秘密を叫ぶメリットも無い。叫んでグレンとの友情が壊れる方のが嫌だ。
グレンの少し心配そうな表情に俺は微笑み掛けてやる。するとグレンは秘密を共有したいたずらっ子のように微笑む。
そしてグレンはパイロットに指示を出す。
「出来るだけミサイルに対して背後を向けろ!! 俺のラインが撃ち落とす!!」
いつからお前のになったんだ。まあ良い。さぁ、来い!!
そして直ぐにミサイル接近のアラートが機内に鳴り響く。何度聞いても不快にさせる音だ。
「来るぞぉ!! 着弾まで10秒だ!!」
パイロットの叫びと共に機体が旋回して、安定すると遥か彼方からミサイルが飛んでくるのが見える。最初は点のように見えるが、一瞬でその距離を詰められる。
マッハ4以上で飛ぶミサイルは10秒で20kmを移動する。そう1秒で2kmだ。流石に射程内から撃っても間に合わない為、あらかじめ撃っておく。
「ライトニング!!」
グレンから貰った魔力を込め、最大威力で放出する。余りの高い威力に手がチリチリと痛む。
見たことも無い威力で放たれた電撃は空を切り裂き、その延長線上に入ってきたミサイルに命中し、爆発する。
その大きな爆音と爆風は機体を激しく揺らすが、ハッチを開けていても中には入ってこない。思わず、誰しもが身構えてしまったのが無意味となる。
そして静寂が戻ると喜びに機内は湧き上がる。だがそれも束の間、次弾の来襲を知らせるアラートが鳴り響く。
それと同時に瞬時に切り替える人達。流石は猛者達だ。
「次も行ける!! 8秒だ!!」
機体が旋回し、後部をミサイルに向ける。
そしてライトニングを放ち、迎撃する。
再度湧き上がる機内。
だが確実に状況は悪化していた。敵の方が圧倒的に速く、距離を詰められ、ミサイルの到達時間が短くなり、機体の旋回が間に合わないとなるとウォールシールドを使うしか無い。そしてそれが何度も続くと破壊され、ゲームオーバーだ。
あくまでもこれは時間稼ぎでしかない。敵と遭遇した時点で近くの基地に援軍要請しているだろう。
それまでの辛抱だが……
そして次弾を知らせるアラートが鳴り響く。
「次は、2方向!! 6秒!!」
とうとう来たか、同時攻撃。
二つは無理だ。角度的に不可能だ。
「もう一つは我々が防ぐ!! ライン、一つは頼んだぞ!!」
ソフィアさんが号令を掛け、Gウォールシールドを展開の準備を始める。
俺は任された仕事をこなす!!
「ライトニング!!」
電撃が放たれたと同時に半透明の膜が機体を覆う。そして外での爆発と遅れて直撃した爆発が機体を襲う。直接被害は受けてないものの、機体の揺れは先程と比べ物にならず、ハッチから落ちないようにするのに必死だ。
だが何とか機体は保っていた。ちゃんと飛べている。
「これはマズいな……」
呻くように呟いたパイロットにグレンが問いかける。
「どうした!?」
「……既に我々以外の機体は落とされたようだ。残った敵全ての攻撃が次は来る。もはやこれまでだ……」
敵は多数。一斉攻撃されたらもはやウォールシールドは保たないだろう。
これまでか……
そしてソフィアさんが悔しげに叫ぶ。
「皆、良くやった。我々に出来ることはこれまでだ。各自パラシュートにて落下せよ。必ず救援が来る。それまで耐えろ!!」
誰もが顔を悔しさで歪ませる。空ではまだ魔法師の出番は少ないのだ。
各自急いでパラシュートを付けていると、パイロットが悲鳴を上げる。
「来たのか!?」
もはや猶予が無いのかと思い、ハッチに向かって走り出すーー
「来ました!! 味方です!!」
勢い良く走り出した体を全力で止める。だが勢いは簡単に止まらず、落ちーーそうな所をグレンに捕まえて貰った。
危ねぇ……早とちりするところだった……
パイロットにグレンが情報を急かすと詳細が明らかになる。
「味方は3機です!!」
「3……え? たった3?」
誰もが少なすぎる援軍に落胆どころか、困惑する。敵は15機以上。こっちは3機。急いで送ったにしろ、焼け石に水過ぎる……
まだ去らない死の恐怖に喉がとても渇いた。