混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
青白い光はグレンの機体の背中まで突き抜けていた。通信が途絶えるのと同時にグレンの機体は力を失ったかのようにうな垂れる。
白熊がレーザーソードを引き抜くと、ピクリとも動かなくなった機体はそのまま自由落下を始める。
そして地面に叩きつけられると爆発を起こす。
“紅蓮”に燃える炎と空に上がる煙に家族を失った時を思い出し、胸が軋むように痛む。それと同時に心にある感情が生まれてくる。
そしてその感情がもう1人の“俺”を呼び起こす。
『よぉ、暫くだな。ここまで素直になったのもあれ以来か』
心の中のもう1人の俺が心底楽しそうに微笑む。その笑顔は苛つく程の笑顔だったが、瞳は深い闇が見て取れた。そうだ、これが俺なんだ。
それを自覚すると、心が闇に埋め尽くされていく。普段なら抵抗するはずなのに、今はそれもなく、むしろ心地良かった。心の矛盾が無くなっていくような……
次に目を開けた時は世界が違って見えた。前よりもクリアに見えるし、何も無い計器類が何故か悲しく見える。
だが心は痛くなかった。心を闇で覆い尽くせば、不思議と元気になる。
目の前に佇む白熊は俺を見ると何も言わず、突っ込んでくる。
今、仇を討ってやるぞグレン!!
左右に高速で変則的に動く白熊だが、そこに規則性が見えてくる。やはり人間はどうやっても癖が出て来るものだ。先読みして当てる。
そしてある感情ーー殺意がレールガンの引き金を躊躇なく引かせる。だが攻撃は白熊の機体を掠めた。
外したんじゃ無い。先読みした事を読まれ、咄嗟に減速したのか……
流石は白熊。だが……必ず殺す!!
強く操縦桿を握りしめた時、白熊から通信が入る。
「これだよ、先程までは私の動きに撹乱されていたのに、今は先読み。
戦場で成長することもあるが、それは多くの経験と鍛錬とセンスが生み出す奇跡だ。だが君はセンスは有るかもしれないが圧倒的に他が足りてない。だからあり得ないのだ。そう、別人が乗らない限り」
その正確な推理に俺は無言で答える。答える気すら起きなかった。
俺の態度に白熊は興味深そうに微笑む。
「ほう、無言は肯定となるが、その通りだな。その目つき、先程までの君とは違う。違い過ぎる。とても興味深いが、君はーー危険過ぎる。早々と退場して貰おうかーー」
肩のレールガンを俺に向ける。
今度は射撃戦か。接近戦は危険と思ったのか、良い判断だ。だがお前を殺す事には変わらんっ!!
みるみるたぎる力が体を支配していく。今までで一番調子が良いかもしれない。今なら俺の思うように動くーー
相手に照準を合わせないようにするためにひたすら両手で弾幕を張る。流石にアイツも回避運動の中で肩部固定のレールガンは撃てないようだ。
「絶対にっ、仇を撃つんだ……」
無意識に口から言葉が零れる。
仇を撃つ為なら心なんて……
そのままじゃらちが明かないと思ったのか、近接戦に持ち込む敵。
今度は意図的に回避運動をしていた。だがそれも結局は人の癖が介入する。だからこれで終わりだ。
両手で弾幕を張り、徐々に追い詰める。
そして取った!! と思った瞬間ーー白熊は盾を投げてきた。
ーー盾だと!? 目でははっきり見えていた。もちろん頭でも分かっていた。
だが遅い速度で飛んでくる盾に俺は混乱した。何故、盾を投げたのか、当たるはずも無い遅い速度で。
その一瞬の硬直に白熊は動いた。その動きを慌てて追うが、白熊は視界から消えていた。レーダーを見ても、カメラで周りを見ても何処にも居なかった。
まさか瞬間移動でもしたのか、という発想が浮かびながら、盾を躱そうと横にずれた時、その盾の後ろに白熊が居た。
機体を地面と水平に倒し、正面から見える範囲を最小にしていた。まさか盾に隠れるとはーー
盾が来るよりも白熊の方が早く来た。咄嗟に銃を構えるが、もう近距離で、間に合わない。
連続でレーザーソードを振り回してくる。銃と盾でとりあえず防ぎ、何とか俺もレーザーブレードを抜く。
向こうは盾が無い。盾が無ければ、俺の剣を受け止めることは出来ない。代わりに俺はマシンガンを失ったが、接近戦は問題ない。
敵の攻撃を盾で防ぎながら、反撃する。敵は1つ1つ避けながらの攻撃で次第に攻撃が遅くなっていく。
もう少しだ。もう少しでやれる!!
そして好機は訪れた。俺の攻撃がすれすれだった故、体勢が大きく崩れた。左手のガトリング砲を向ける。
これからの勝利に思わず、口角が上がる。
だが白熊は空中で一回転すると、蹴りが飛び出す。咄嗟の事にもろに食らい、機体が吹き飛ぶ。大きな衝撃が身体を襲う。
歪む景色の中、モニターを見ると肩のレールガンを俺に向けていたーー
「ーーさらばだ、ラインーー」
放たれた弾丸は見えない。だが身体は勝手に動いた。
右に全力で動き、盾を構えた。そして盾に当たり、爆発音と共に機体は吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、胃の内容物が口から零れる。何とか機体は生きていたが、左腕は盾ごと無くなっていた。
クソッ……アイツを殺すまで死ねない……
朦朧とする意識の中、何とか機体を立ち上がらせる。
上空には俺を見下ろすアイツが居た。
「……まさか死なないとは……恐るべきだな。益々興味が湧いてきた」
俺に銃口を向けながら、話を続ける。
「君の実力を過小評価していたよ。もはや機体が同じなら互角かもしれない。そして1、2年もすれば、君は私を追い越すだろう。
だがそれは君が普段での実力がこれだったならの話だが。今の君は反応速度、予測に頼り過ぎている。そう、冷静さが足りてない。剥き出しの殺意に溢れている」
哀しげに俺を見つめる。
「黙れ!! 今殺してやる!!」
レーザーブレードを右手に突っ込むが、冷静に足、腕、そして頭部と撃ち抜かれる。
どこもかしこも動かなくなった機体。飛べはするが、何も出来ない。そしてカメラすら壊れて、モニターは真っ黒だ。思いっきりモニターを殴るが、変わらない。
「ちくしょう!!」
通信モニターに映る白熊が大きく溜息をつく。
「君は戦士だと思っていたが……ただの野獣だ。もういい。退場してくれ」
銃口から放たれた銃弾を感じながら、仇を撃てない自分の無力感を呪う。
だがその間に誰かが入る。盾を使って銃弾を防ぐ。
モニターにはユリエル隊長の心配そうな表情が映る。
「ライン、無事か!? とりあえず生きていれば良い……」
安堵した声が聞こえるが俺は悔しかった。
「グレンが……グレンが……」
救えなかった事も、仇が撃てなかった事も、自分だけが助けられた事にも怒りと悔しさが入り混じる。
「……死に急ぐ奴はなんぞ我々の部隊には居らん。死にたければ死ね。未来の為に戦ってるんだ我々は」
突き放す言葉。だがその言葉はグレンも言っていた。
『戦場には死にたい奴なんて居ない。どいつもこいつも生きたいと思ってんだ……まあ、俺も世界中の美人と会わないと死ねねぇな』
そんなこと言っていたのにアイツは……
いつもヘラヘラしてて、ふざけた奴だった。アイツと一緒に居ると何にも無いことが楽しくなる、馬鹿騒ぎしてた。
その癖して困った時にはいつの間にか後ろに居るし、リーダーシップを発揮する頼もしい奴だった。
そしてアイツが目指している目標は結局分からない。多くの謎を残したまま逝きやがった。馬鹿野郎!! ちゃんと片付けてから逝けよ……
力無くモニターを叩く。だがグレンと同じく、モニターも何も反応を示さなかった。
その間にも外からユリエル隊長の戦闘音が聞こえる。戦況は分からないが、音が聞こえている間は戦えているのだろう。
そして戦闘は突如終わりを告げる。
通信モニターに映ったのは白熊で、もうその瞳は冷たいままだった。
「生かしといてやる。君は戦いには向いてない。大人しく暮らすんだな」
それだけ言うと通信が切られる。
そして敵が撤退していくという情報が入る。どうやらこちらが優勢になったらしい。
正直どうでも良かった。その後無音がコクピット内を暫く支配した……