混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
敵は迅速に撤退していく。敵軍は壊滅した訳では無く、撤退なのでその引き際は白熊の元、見事だったーーとオペレーターからの通信から状況が入ってくる。
白熊が生きているという事は俺は仇を討てなかったという事だ。
その悔しさだけが心を埋め尽くす。
胸が痛い、頭が痛い……
もう1人の“俺”は既に引っ込んでいた。だが残った俺は元の俺だと言えるのだろうか。もう何もかもどうでもいいと思う俺は。
その時、機体に何かが当たる音がする。砂塵かと思ったが、定期的に機体に当たっている。それもコクピットだ。
何かに突き動かされて、歪んだ扉を魔法で身体を強化して無理矢理こじ開けると、眩しい光が目に入る。今の俺には眩しすぎる光だった。
思わず目を細めて、下を向くとそこには赤髪の男ーーグレンが石を片手に笑っていた。
「よぉ……何だ? 100年振りに会ったような顔しやがってーー」
思わず俺は駆け寄って抱きついていた。俺より身長は高く、引き締まった身体。
そして何よりも暖かった。
「グレン……グレンっ……」
感情が溢れて言葉にならない。唯々、良かったの言葉しか頭に浮かんで来ない。
グレンは困った顔をしながらも俺を抱きしめてくれる。その手は逞しくも優しく、暖かい。
「全く……泣き虫だな、ラインは。俺が死ぬとでも思ってたのか? 言っただろ? 世界中の美女と会うまで死なないって」
「で、でも……あの爆発の中、どうやって……」
嗚咽に引っ掛かりながらも何とか言葉に出来た。
するとグレンは待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべる。
「白熊の攻撃はコクピットを狙った物だったけど、咄嗟の所で避けたのよ。でも操縦面がやられて、そのまま落ちた。で、俺は機体が落ちてる途中で抜けたのよ」
いやー真横のレーザーは熱かったわーとぼやくグレン。
いつも通りのグレンが見れて、また涙腺が崩壊する。
「ほんと、泣き虫だな。男の涙なんてこれっぽっちも欲しくないからそろそろ泣き止んでくれ」
との冷たい言葉に思わず反論してしまう。
「お前の生き甲斐は女だけかよ……」
呆れて言うとグレンは横に首を振る。先程とは違い、哀しげな表情に打って変わる。
「まあ女は良い物だが、俺にとって所詮は道楽だよ。この先、一人の女を愛する事は無い……」
とても寂しげで、辛そうな表情だった。過去に思いの人が居たのだろうか……
そして真剣な表情で俺を見る。
「そしてこれから俺は使命に生きる。それが俺に出来るせめてもの恩返しだ。
またもしお前がこの世界の王になるというのなら俺は手伝うぞ」
ーーこの世界の王!?
その意味はどういう意味だろうか。もしそのままの意味だとしたらどうやって王になると言うのだろうか。
「……どういう意味だ?」
聞き返すと肩をすくめて、答える。
「何も、そのままの意味だ。……まあいずれ好機は来る」
そう言ってグレンは空を見上げる。そこには戻ってきたユリエル隊長らが戻ってきていた。
HAWのエンジンの噴射口からの風がグレンの髪を揺らし、その表情は伺えなかった。
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HAWの手の上に乗せられ、移動する。時速数百kmに達するHAWの速度で外に露出していると普通は息が出来ない。だがグレンの技で普通に室内のような快適さだ。手のひらの上であぐらをかいて座っている俺ら。
そして外の景色がみるみる変わっていく。初めて手のひらに乗ったかもしれない。普通なら不可能だから。
俺らを手のひらに乗せるのはユリエル隊長。最初グレンを見た時は目を見開いていた。いつも怒っているような感じなのに珍しい表情が見れた。他の面々も嘘だろ……と漏らす始末だ。
普通なら強風で声は通らないが、この快適な環境なら声が通るはずだ。
グレンにさっきの事を聞く。
「なぁ、この世界の王になるのは何故俺なんだ? こうしてグレンより実力は低く、カリスマ性も無い」
もしかしたら灼熱のソフィアさんに届くかもしれない実力を持ちながら、謎の部隊を率いる程のカリスマ性。そして名案を浮かぶ頭脳。どう見ても俺よりグレンのほうが優れていた。
グレンは俺を横目で見てから身体毎向ける。
「確かにお前より、俺の方が出来ることは多い。だがそれが王の素質とは限らない。この荒れる世界を統治するにはお前のような強い意志が必要だ」
強い、意志……? それならばグレンの使命感の方が……
違うと訴える俺の目を見て、グレンは首を横に振る。
「俺はもう心が死んでいる。人を殺すのにも躊躇いは無く、後悔もしていない。そんな殺戮者に世界を統治する事は不可能だ。
それに比べお前は色んな感情を持って戦えている。戦場には不必要な感情だが……それを持ちながら戦える強靱な精神力。俺には無理だ」
肩をすくめて、やれやれと言うグレン。
押し殺せない感情。それは殺意、恐怖、悲しみ、後悔。様々な感情を感じながら俺は戦っている。時に震える指で引き金を引くこともある。戦いの邪魔をする感情は要らなかった。
だがこうして必要だと言われると複雑な気持ちになる。
黙った俺の肩を軽く叩く。
「別に王に成れとは言ってない。もしなるのならばお前を手伝ってやるよと言ってるだけだ」
ニヤリと笑ってこの話はお終い、と締めたグレンに俺は何も答えられなかった。
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要塞内に歓声を浴びながら帰還する。それは個人に向けられた物ではなく、勝利への向けた物だ。
その中で目立つ紫色の髪を見つける。向こうもこちらに気付いたようで、地面から手のひらに飛び乗る。その高さ10m近くある。
心配した表情を浮かべているのはソフィアさんだ。
「大丈夫か!? 二人とも!! え? ほとんど傷を負ってないじゃないか……」
目を丸くして交互に見る。
グレンは間一髪。俺はコクピットが狙われなかっただけだ、白熊の温情で。
「心配お掛けしました……」
ここまで心配して貰えるとは思って無かった。
「初戦で新人を全員失うなんて部隊の失態にもなる。なんにしろ、無事で良かった」
柔らかな笑顔を見せるソフィアさん。
「後は地上での掃討戦だが、二人は休んでくれてて良い。今回は敵が撤退してる為、そう多くの敵は居ないはずだ」
HAWでの戦闘が終わると、次は地上での歩兵戦となる。もちろんHAWから援護はあるものの、散開した敵、また森などの複雑な地形では役に立たない。結局は歩兵が必要だ。
何処から攻撃されるか分からないゲリラ戦となるため、簡単にはいかない。だから休ませてくれたのだろう。
「ありがとうございます。休ませて頂きます」
俺達が承諾すると満足そうに頷く。
「では、行ってくる」
そう言ってまたこの高さから飛び降りる。確かに魔法で強化すれば大丈夫だが、やはり少しの恐怖は感じる物だ。
歓声の最中、また次なる戦いが幕を開けようとしていた。