混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
戦況はジリ貧で、ユルゲン閣下達は防戦一方。敵に近接武器を持った敵が居ないのが幸いで、ウォールシールドで防げているがそれも時間の問題だ。
地球連合軍の援軍もその内来るだろうが、火災の消化と外の戦闘に必死で時間が掛かるかもしれない。援軍を待っている時間は残って無さそうだ。徐々にウォールシールドにヒビが入り始めている。
そして俺達の前で立ち塞がるのはどうやら氷使いの女。
目の前には居ないが何処かでこちらを見ているはずだ。ここには障害物が多く、隠れるには最適だ。
俺らもウォールシールドに隠っても、このままではジリ貧となる。
そんな時、打開策を一つだけ思い付くがそれは使いたく無かった……
だがそんな事も言ってられず、死ぬよりはマシだ。
隣で悩んでいるグレンの肩を叩いて振り向かせ、視線で意図を伝える。
一瞬驚いた表情を浮かべ、直ぐに目を細め、俺の胸倉を掴むグレン。
「お前っ、分かっているのか!! その力はお前の力じゃないっ!! その力に頼れば頼るほど、お前はお前じゃ無くなるぞ!!」
目前まで迫るグレンの怒った表情。それは心配から来ている怒りで嬉しかった。
「ああ……だがこの状況を妥協するにはこれしかない」
俺の固い決意にグレンはたじろぎ、手を離す。だが一旦伏せた視線を再度上げた時にはグレンの瞳にも固い決意が浮かんでいた。
「……いいや、俺がやる。お前がそこまでするのに俺は迷っていた。任せとけ、俺が片づける」
と勝手に前に出るグレン。ウォールシールドから全身を出す。
「一体何をーー」
引き留めようとした時には既に無数の氷の槍がグレンに襲いかかるーーがグレンの気迫の波動で全ての氷の槍が弾き返される。
その圧倒的防御力はまるでノエのようであり、師匠の気の波動のようだった。
確かにグレンが強いことは知っていたが、なんだこの強さは……俺の知っているグレンじゃない。
周りを見渡すグレンの額には光輝く何かが見えた。光が反射しているのでは無く、それ自体が発光していた。
「……なるほどな。そこか」
何かを見つけたらしいグレンが手を振り下ろすと少し離れた所が大きな鎌で切り裂かれたようになる。
そしてそこから出て来たのは驚愕の表情が張り付いた女だった。
「どうやって私のが場所が分かったというのだ!? それにあの防御魔法は!?」
と信じられない困惑している女にグレンは妖しく微笑む。
「質問攻めされるのは良く有ることだが、それを教えるのは俺の女になってからだな」
と茶化して答えるが女は
「ふざけるな!! そんな辱めを受けるなら死を選ぶ!!」
と激怒し、完全拒否されたグレンは少し肩を落とす。本当に狙っていたのか。
「なら教える訳もない。天国で俺を待ってたら教えてやるかもよ?」
更なる挑発に女は完全に理性が飛んだようだ。
「貴様は地獄に送ってやる!! もはや人間に転生したくないほどに痛みつけてからな!!」
グレンを包囲するように配置された氷の鏡。だが一瞬で粉々にされるが微笑んだグレンの頭上には大きな塊が浮いていた。
自由落下を始めた氷はその大きな重量を破壊力に変え、グレンを潰そうと襲いかかる。
その氷の塊は壊れる事無く、地面に直撃する。衝突の際の氷の粒子が視界を遮り、グレンの生存が分からない。
「グレンっーー」
と叫んだ時に視界が急に晴れ、氷の塊を感心しながら手で叩くグレンが居た。
「あの一瞬でこれだけの氷を精製するとはスゲえな。やっぱり俺の女にならない? ここで死ぬには惜しいわ」
だが女は身体を震わせて怒りを露わにする。
「貴様のようなヘラヘラとした男は生理的に無理だ!!」
するとグレンは膝と手を床につけて、凄く落ち込む。ナンパ失敗だな。
暫くして立ち上がったグレンはさっきまでのヘラヘラとした表情を辞め、殺意を露わにしていた。
「どうやらどうしても降伏はしないようだな……なら軍人らしく華麗に散らしてやるか」
更に魔力が膨れ上がり、離れた俺にも感じることの出来るほどの魔力量だった。これほどの魔力量ならはノエに匹敵するかもしれない。
「……なら一矢報いるのみ!!」
と覚悟を決めた女は踵を返し、ユルゲン閣下の方へ駆け出す。
俺も間に入ろうとして駆け出すが相手の方が近く、速い。
そんな様子を佇み、見守るグレン。
何故動かないーーそう思った瞬間、俺の視界から消える。そして瞬時の内にユルゲン閣下達の前に立ち塞がる。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
回り込めないと思った女はそのまま右手を氷の槍としてグレンに突きかかる。
だがその刃が届く前に、身体中が切り刻まれ、あちらこちらから血を噴き出し倒れる。
グレンが何かしたようには見えなくて、寂しげな表情のまま女の顔を見詰めていた。
そして指揮官が倒れた事によって崩壊すると思えた残りの魔法師と兵士達は降伏する事無く、グレンに襲いかかり散っていった。
グレンの前に何人もの死体が積み重なる。それを哀しげに見下ろすグレン。
そして全てが終わった頃に来る援軍。もちろん俺達も武装解除し、抵抗をしない。同盟国とはいえ、閣下の近くで武装した他国の人間はマズい。
だがその取り調べもユルゲン閣下の一言で終わる。
「2人を解放しろ。彼らは俺の恩人だ」
「はっ!!」
その言葉で俺達は直ぐに解放される。武器やAMAは地球連合軍の物なので返却したが。
「本当に君達のおかげだ。こうやって来てくれなかったら俺達は死んでいた。感謝しきれない」
涙を目に浮かべながら俺達の手を取るユルゲン閣下。ほんと涙脆いなこの人は……
そしてそれと同時に周りの視線も柔らかな物に変わっていくのに気づく。やはり最初はよそ者がという冷たい視線だったが、今は感謝の念を感じる。
「いえ、勝手に武装、そして戦闘を行った事を謝罪致します」
グレンと共に頭を下げる。他人に家で虫が出たので殺すために荒らしましたのと同じでマズいことなのだ。
「いいや、そんな事ない!! そのおかげで我々は生きている。そうだろう?」
護衛とレジス少尉に同意を促す視線を送るユルゲン閣下。
3人は頷く。
「何か感謝の品を贈りたいものだが……君達は他国の軍人だから階級や給料は不可能だ。HAWや武器やAMAを贈っても良いが、エルス国の方が良い物は有るだろうし……」
顎を撫でながら頭を捻るユルゲン閣下にグレンが提案する。
「閣下。私達は一つだけ頂ければ光栄で御座います」
「1つ? もっと要求しても良いのだぞ、仮にも方面軍最高指揮官なのだが」
信じられないという表情のユルゲン閣下。
とんでもない要求をするんじゃないんだろかグレンは。
「私達が欲しいのはユルゲン閣下の信頼です」
「信頼!?」
頭にハテナを浮かべるユルゲン閣下。それを説明するようにレジス少尉が入ってくる。
「なるほど。恩を一括で返えさせず、我々に預けておいてその間、都合良く使おうという事か」
こちらを睨むレジス少尉にグレンは不自然なほどの笑顔を浮かべる。
「いやいや、そんな悪い意味で言った訳では無いんですよ。また私達がユルゲン閣下の軍と共闘した時に助けて頂きたいんですよ」
レジス少尉の言葉の後だからか頑張ってオブラートに包んだ言葉だったが、困ったときは助けろ、にしか聞こえない。もちろん周りの部下達も怪訝な表情を浮かべる。
だがユルゲン閣下は身体の前で手を1回叩くと、頷く。
「よし、その願い聞き入れよう」
え? という言葉が聞こえるほど、周りの部下の表情が困惑に満ちている。
「そりゃあ命の恩人の窮地を救うのは当たり前だ。もし近くに我が軍が居たらこれを見せてくれ」
とIDカードをくれる。変哲も無いただのカードだが……
「それは俺のカードだ。唯一無二のカードだぞ? それを使えばあらゆる支援が受けれるようにしておく」
地球連合軍の支援を受けられるカードか……それを聞いただけでこれが凄いカードに見えてくる。
そしてやはり不満なレジス少尉が止めてくる。
「お待ち下さい。そのカードはユルゲン閣下のみ所持を許されてるカードです。他の人に譲渡なぞ前例が有りません」
苦虫をかみつぶしたような表情で止めるレジス少尉。
だがユルゲン閣下はあっけらかんとしていた。
「前例が無い? なら地球連合軍がここまで追い詰められているのも前例は無いぞ」
と
黙った部下達を一瞥してから俺らに向き直る。
「という事でそれは君達に差し上げよう。もちろんなんでも出来るわけじゃない。そして逐一こちらに報告は入るし、君達が悪用するなら我々の信頼関係は崩れ、そのカードは何の効力も無くなる」
真面目な表情になってそういうユルゲン閣下。俺らは強く頷いた。
するとユルゲン閣下は頭を掻きながら目が泳ぎ始める。
「あ、えー、さっきまでのグレン君の力。あれは素人の俺から見ても異常だった。どうやら公開しない方が良いかな?」
俺らを交互に見て顔色を伺う。
するとグレンが頷く。
「はい、我々はあくまでも援軍が到着するまで時間を稼いだという事にして下さい。私の力の事は秘密にして頂けないでしょうか」
珍しく深刻そうな表情を見せるグレン。あの力は一体……
そんな表情のグレンにユルゲン閣下は大きく胸を張る。
「もちろんだとも。命の恩人の頼みを断る訳にいくまい。安心してくれていい。私の部下は信頼が置ける」
ユルゲン閣下は柔らかな笑みを浮かべる。周りの部下達もそう言われ、誇らしそうだ。信頼関係が生まれている良い部隊だな。
「さて、掃討戦部隊も帰ってくる頃だろう。そろそろ部屋に戻らないとこっちまでソフィア殿が来るぞ?」
眉間にシワを寄せて、マズいという顔を見せるユルゲン閣下。
確かにこんな惨事を見たら気づくかもしれんな。
振り返れば、血の海となった床の上に体中切り刻まれた死体が積み重なるように倒れている。かなり不審な死に方だ。
普通の魔法師相手にはこんな死に方はしない。ここはさっさと立ち去ろう。
「お気遣い感謝致します。ではお言葉に甘えて失礼致します」
「ああ、本当に君達には感謝しきれない。また会える時を楽しみにしている」
ユルゲン閣下の柔らかな笑顔を後に俺とグレンは頭を下げて退出する。
さて何てソフィアさんに説明しようかな……
と頭で考えながら俺達の戦場からゆっくり離れていった。