混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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2話投稿です。
急に寒くなったので体調にご注意を。
今思ったのですが、コイツらあちこち行ってるけど体調崩してない……


15-4 ビジネス

 

 マナン達との一時は最後の晩餐としては豪華な物で無かったが俺にとっては1番のご馳走で、美味しい物よりこうやって穏やかに一緒に笑える時間が何よりも幸せだった。

 

 本当はずっとこうしていたい。でもそれはもう1人の俺が否定する。

 

 ーーお前は目の前で大切な人が死ぬのをまた見てるだけなのか? 仮に大切な人を全員囲ったとする。でも外因はどうする? この世界に生きている以上、それは避けられない。ならば手に入れろ、圧倒的な力をーー

 

 大切な人を守りたいなら力を、手に入れるしかない。仮に命を落とそうともこの理不尽な世界から逃げたくなかった。

 

 マナン達が寝ている内に俺は部屋を出る。マナン達と話したらまた心が揺らぎそうだからだ。

 

 外ではグレンがタバコを吸いながら待っていた。こちらに気付くと満足そうに微笑む。

 

「このまま出て来ないと思ってたよ。だがお前は前に進んだ」

 

 タバコを口で吹いて消すグレン。そんな消し方初めてみたな。どうせ魔法だろうが。

 

「さあ行こうか」

 

 そう言って歩き出すグレンの背中を追う。何だかその一歩一歩がマナン達と離れていく気がして、足が重くなった。

 

 

 

 

 

 それから俺達はあちらこちらに動き回った。

 まずは飛行機で日本へ。そして師匠に貰った許可証で税関や入国審査をパスしてそのまま飛行機を乗り継ぎ、北京に入った。

 

 空港内は多くの言語が飛び交うが1番多いのは中国語。流石に中国語は勉強していないので分からないが英語も十分通じるので問題ない。

 

 ここから陸路で行くので外に出るとすぐ近くの北京市が見える。多くの人口を誇る北京は火星独立共和国の支配によって更に発展しており、地球侵攻時に1番最初に支配した大都市でまたその時の方面軍指揮官、朱威(シュッウェイ)が戦死した為、混乱した北京は大した抵抗なく火星独立軍の手に落ちた。それ故か、復興する必要なく平和な暮らしをしているようだ。

 

 またここが戦場になったことは1回も無く、そして地球侵攻本部のウランバートルの近くの大都市とあって、多くの兵士が見掛けられる。

 俺達は顔は割れてない為、大丈夫だろうが……

 

 俺達はメインストリートを抜け、夜の街に入っていく。夜の暗さと人混みとネオン街で人の顔はよく分からない。ふと見た隣の人は裕福そうな人も居る。わざと暗くしているのかもしれない。

 

 客引きや誘う若い女性達の声が聞こえる中、俺達は裏路地に入っていく。するとガラの悪い奴らがこちらを見てくる。その視線は値踏みするような目つきだ。

 

 グレンは気にした様子も無く、通り抜けようとすると立ち塞がる男達。

 

「おい、ここからは俺達の縄張りだ。通過料を払いな」

 

 提示された金額はどう見ても通過料とは言えず、気持ちよく払える金では無かった。

 

 グレンは額に青筋を立てて睨み返していて、これではどちらが不良か分からない。

 魔法はここは敵陣のど真ん中で使えず、仕方なく肉体強化による実力行使をしようとするとーー

 

「君たち、何やっている!?」

 

 大きな声が後ろから聞こえてきて、振り返ると若い男が剣を抜きこちらに向かってきている。

 

 格好を見るにそこそこ位の高い軍人だ。しかしその動きは魔法を使ったでもなく、猛者のような鋭い動きでもない。

 だが軍人が来たことにガラの悪い奴らは慌てて逃げ出す。

 

 戦闘もなく解決した揉め事に俺らは安堵する。

 

「ふぅ、君たち大丈夫か……い?」

 

 俺の顔を見た男は驚愕の表情を浮かべ、咄嗟に距離を取る。

 

「何故、君がここに!? まさか日本からのスパイか!?」

 

 日本? 何故日本なんだ? ……って事は日本で会ったことがある人ーー

 

「まさか、タチバナ殿か!?」

 

 そう言うと男は頷く。だが剣はこちらに構えたままだ。

 

「久しぶりだな、ライン殿。今は敵同士。このまま見過ごすことは出来ない」

 

 当然明らかな敵意を向けてくる。敵が国内に入ってきて、それをそのままというのは確かに無理だ。

 

「おい、コイツは日本の時の敵か? ここで応援を呼ばれても面倒だ。さっさと片づけるぞ」

 

 グレンが痺れを切らして指をボキボキと鳴らしながら前に出る。

 知り合いとはいえ、敵同士。仕方ないのか……

 

 その時、俺らの間の地面に何が突き刺さる。それは光で出来た矢であった。

 

「まあ待てって」

 

 タチバナの後ろからゆっくり歩いてくる男の頭は少ない光にも反射してキラキラと輝く白い髪、そして瞳は暗闇でも見通すような気がするほど赤い。

 俺が知ってるそんな人はーー

 

「ーー光一族、ノエ」

「久しぶりだな、ライン」

 

 ノエという名前を聞いて横のグレンが大きく目を見開く。グレンが驚くのは珍しく、いつも驚かせる側であった。

 だが直ぐに嬉しそうに微笑むグレン。

 

「ほう、最強と呼ばれる白い死神と会えるとは強運だな」

 

 目を輝かせて笑うグレンだが、体は震えていた。本人は気付いているのだろうか。

 

 逆にノエはそんな様子のグレンに驚く。

 

「まさか俺に会って喜ぶ奴が居るとは……いつも死神だとか化け物とか呼ばれて絶望と恐怖のこもった瞳しか居なかった。これは期待して良いのか?」

 

 ノエは最後、笑顔になって殺気を放ち始める。

 正面から初めて受けたノエの殺気に俺は体が動かなくなる。ここまで成長してきた俺でもヘビに睨まれたカエルのように殺気に呑まれていた。

 隣のグレンも冷や汗が額を、頬を伝っていた。

 

 鋭い視線でグレンを値踏みするように見るノエ。そしてニッコリ笑う。

 

「うん、楽しめそうだ。……でもここじゃ戦えないな。街に甚大な被害が出てしまう」

 

 街の心配をし始めるノエはグレンの実力なんぞ気にしてないようだった。グレンは悔しそうに歯を噛みしめる。

 

「でも今回は辞めておこう。俺も本調子じゃないし、お前らも何かやるみたいだし」

 

 楽観的なノエにタチバナは驚く。

 

「ちょっとお待ちください!! このまま見逃すおつもりですか!? 敵を見逃したらどうなるか……」

 

 タチバナは息を荒げながらノエを説得しようとするが、全く聞こうとしないノエ。もはやそっぽ向いている。

 

「たかがガキ2人じゃねぇか……もし何か有れば俺がやるから、帰るぞ」

 

 しまいには背を向けて大通りに歩いてしまったノエをこちらを悔しげに見ながらタチバナはノエを追い掛ける。

 

 大変な上司を持ったなタチバナ。だがそのおかげで俺達は戦わずに済んだ。

 

 プレッシャーから解放され思わず地面に膝が着く。隣のグレンも全く動かず、表情も笑顔が固定されたままだ。

 

「……クソッ、俺は、まだ俺はこの力を手に入れても白い死神に届かないのかぁ!!」

 

 グレンは拳をコンクリートの壁にぶつけ、怒りを露わにする。

 世界を改変する力を持つ選ばれし者でもノエには勝てないのだろうか? 実際にはどうなるか分からないが、俺の体はノエと戦う事に拒否反応を示していた。

 

 グレンの大声に反応したのか、奥からさっきのガラの悪い奴らが出て来る。反射的に身構えるが、その表情は先程とは違い、申し訳なさそうにしていた。

 

「……あの、この先で姐さんがお待ちしております」

 

 いきなりペコペコとし始めるガラの悪い奴らに何だがむず痒く感じる。

 

「……分かった。案内しろ」

 

 グレンは息を整えて、鋭い視線で答える。その視線に小さく悲鳴をあげる彼ら。

 

 怯える彼らの後ろを付いていくと古びたビルに案内される。中も同じく古く、汚い場所で整理整頓されてないことが分かる。

 奥の部屋に通されると先程とは違い、そこは色んな美術品や物が所狭しと置かれていたがそれは意図的に置いてある感じだ。

 

 中央の椅子には老婆がタバコを片手にくつろいで座っていた。俺らに気付いても態度は変わらない。

 

 俺らが入ると軋む音を立てながら扉が閉められる。

 鍵は掛かってないようだから俺らをどうこうしよいとしてる訳では無いな。

 

 3人だけになり、無音が支配するかと思ったが、老婆が指を差す。

 

「ほれ、そこにさっさと座りな」

 

 老婆の対面に置かれた時代を感じる貴族が使っていたような赤い長椅子に俺らは座る。

 

 グレンは警戒を解かずに殺気を少し放っているが、老婆は気にした様子は全く無い。

 老婆はタバコを灰皿に擦りつけて消す。

 

「ワシらはお主達と戦うつもりも無い。そしてお主達が何処の誰で、どんな実力だろうが、どうでも良い。どんな相手でも対等に話すのがワシの流儀じゃ」

 

 鋭い眼光に一瞬たじろぐ。魔力は全く感じないが、この年齢になるまでどれだけの修羅場をくぐり抜けて来たのだろうか。

 

 一方グレンは細めてた目を柔らかな物に戻し、微笑む。

 

「これは失礼した。力でねじ伏せるという野蛮な事を考えておりました。お許し下さい」

 

 頭を下げるグレンに老婆はカッカッカッ、と笑い出す。

 

「頭の悪いくそガキかと思ったら礼節を知る若者だとは。若者も捨てたもんじゃないのぅ」

 

 優しそうな老婆のような表情に変わるが、直ぐに真剣な表情に変わる。

 

「さて、ビジネスの話と行こうか」

 

 両者の表情が妖しく笑うのを横目で見て、思わず喉が鳴った。

 

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