混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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16-5 反逆の可能性

 

 卒業試験は終わった。卒業生は3人。それは俺達が3年間も一緒に過ごした仲間を殺した事を示していた。手が血で濡れているのではと錯覚が起きて冷や汗をかかせられる。

 

 生き残った俺らは車に乗せられ、長らく過ごしたここを離れる。最悪の場所だったが出来た仲間はかけがえのない物で、それを俺らは自分で殺したんだ。

 

 車の中で他の仲間の1人は嗚咽を堪え、1人はぶつぶつと何かを呟いている。俺は何とかラフィの優しい言葉のお掛けで正気を保ている。だがラフィを殺したという罪悪感は俺を一生責め続けるだろう。

 

 辛い、苦しい。今すぐ何も考えずに居たい。だがそれはラフィとの約束を破ることになり、ラフィの人生を奪った俺への責務で、それから逃げることは許されない。

 

 そして連れられた場所はアパートで、どうやら一人一人部屋が与えられるらしい。ここまで来れば1人前として扱う訳か。

 

 部屋の出入りは自由で逃げることも自由だ。逃げ出す者は居ないのかと思ったら逃げ出した瞬間、警察に殺人で指名手配されるらしい。それほど警察と癒着があるようだ。万が一逃げ切れても人を殺した罪悪感と共に生きていく。まともに生きられるとは思えない。

 

 そして警察に通報し、仲間を救出するという俺の唯一の望みは絶たれ、ラフィの生き残って、という言葉だけが微かな希望となって俺を屍として生かし続けた。

 

 

 

 

 

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 端末のアラームが起床時間を知らせる。鳥が可愛らしく鳴く朝の時間ではなく、人が寝静まる夜だ。

 

 暗殺者として生きることになってから2年が経った。俺は17歳になり、ラフィの死から2年。

 

 最近は悪夢に悩まされる事も減り、少し気が楽になった。だが無意味に過ぎた時間はラフィの顔を(もや)を掛けていく。何とか思い出そうとするが写真もなく、ラフィの事を忘れつつある自分に怒りが込み上げる。忘れてはいけない人なのに忘れていく自分が腹ただしい。

 

 その時アラームではなく、鳴った着信音が俺の思考を打ち払う。

 

「……グレンです」

 

 電話に出るといつもの聞き慣れた声がさっさと集合しろと言っている。リカディのように厳しくは無いので焦ることは無い。

 

 黒ずくめの戦闘服を身につけ、黒く塗られたナイフや飛び道具を仕込んでいく。今回は警備が厳重らしくサイレンサーを付けた銃では音が大きい。音のしない飛び道具でいく。

 

 部屋を出て、下に降りると同じ格好をした同業者達が居た。何故か仲間意識はない。それはプロだからだろうか、それとも俺が仲間を作ろうとは思わないからだろうか。

 

 そして作戦も厳しい教育の賜物なのか、自分達を駒として立案していく。誰がどれだけ死のうが補充すれば良い、という考えの元に作戦は練られる。

 また今回の主犯者は俺に決まったようだ。

 

 

 

 

 

 月だけが俺を見ている夜。実行犯の俺達は古めかしい洋館の屋根に登っていた。中では権力者達が楽しくパーティーをしている。

 

 他の連中は見張りを、主犯の俺はターゲットの殺害。そして作戦が実行され、次々と見張りを仕留めていく味方。上空への警戒が解けたら俺らは屋根を自由に動き回れる。

 

「こちら、見張りは倒した。ターゲットを排除しろ」

 

 本命への排除命令が出て、俺は窓を割って中に侵入する。

 

 中には驚いた表情を顔に貼り付かせた男とその妻と2人の子供が居た。

 

 男は慌てて懐から銃を出すが、撃たせる前に腕に付けられてる小型のクロスボウで封じる。

 一方、妻は助けを呼びに外に出ようとするーーこれも飛び道具で抑える。

 

 痛みで転げ回る2人にトドメを刺して、残りを見ると子供達が恐怖で震えていた。

 ターゲットは既に殺した夫婦。子供達は関係ないーーが、目撃者は消さなければならない。

 殺人や子供を殺す事には慣れた。罪悪感は既にラフィを殺した時から感じなくなっていた。

 

「うわぁぁぁぁーー!!」

 

 叫んで俺に飛び付いて来る男の子。幼い彼は俺の足にしがみつく程度だ。だがその行動は妹だろうか、彼女を逃がす為だと直ぐに分かった。

 

 直ぐに男の子をナイフで黙らせ、女の子に向かうと恐怖で腰が抜けたらしく、地面にお尻を付けてしまっている。

 そして懇願の為か俺の顔を見るーー

 

 幼いながらもその顔つきはラフィにそっくりで、涙を流しながら泣く彼女に俺の殺意は完全に消え去った。そして同時に卒業試験の事が鮮明に脳内に浮かび上がる。

 そして何とも思わなかった殺人が突如湧いた罪悪感によって、とてつもなくヒドいことをしていると感じる。

 

 ふと自分の手を見るとナイフは血に塗れ、手からも血が滴り落ちていた。

 

「うわぁぁぁぁーー!!」

 

 気持ち悪くて思わずナイフを落としてしまう。

 大声に気付いた味方がどうしたんだ!? ターゲットは!? と状況を聞いてくるが俺に応える余裕は無かった。

 

 そんな時扉が勢いよく開き、銃を持った警備兵が突入してくる。その人数は多く、無力化する前に撃たれるーーと長年の訓練が勝手に体を、思考を支配する。

 

 煙幕を張り、窓から逃げ出す。だが外は蜂の巣が突つかれたように騒がしくなっていて、警備兵がわらわらと出て来る。

 

「おい、ターゲットは排除したか!?」

 

 目の前に味方の1人が現れ、聞いてくる。俺が頷くと、ソイツの目が笑う。

 

「良くやった。そして済まんな」

 

 謝るのと同時に立ち去るソイツは落とし物を残していく。それは筒状のーースタングレネード!!

 

 と思ったのも束の間、闇夜に慣れてきた目に強烈な閃光が襲う。そして辺りに爆音が鳴り響く。

 

 強い刺激は体に痛みとなって表れ、俺の悲痛な叫びもスタングレネードの爆音にかき消される。

 

 視界は真っ白で、耳はキーンという耳鳴りがずっと止まず、頭はぐらぐらとしていてまともな思考が出来ないが暫く時が経つと回復し始める。その五感で次に感じたのは俺を見つけ、騒いでいる光景だった。

 

 スタングレネードは辺り一面の警備兵を振り向かせ、強烈な閃光で照らす。それは俺を見てくれと言わんばかりだろう。

 

 注目されてる俺はここから降りても逃げられない。そしてその間に逃げる味方。

 とりあえず適当に中に入って、やり過ごすしかない。

 

 目に付いた窓のガラスを割って中に入るとそこには歯磨きをしている男が呆けてこちらを見ている。

 

 罪は無いが、済まないーー

 

 飛び道具で黙らせようと撃ち出すが動いた男に避けられる。身体能力が高いのだろうか。だがそれもまぐれ。高速で撃ち出す小型の矢を見てから躱すのは無理だ。

 

 今度は2本を連射し、横に並べて撃ち出し、どちらに避けても当たるような所に撃つがーーその男は咥えていた歯ブラシで弾道をずらした。

 

 あり得ない現実に頭の回転が追いつかない。一般人がプロ野球の剛速球を打てるだろうか? それは不可能だ。更にそれよりも難しい芸当を初見でこなした男は特に驚いた様子も無い。

 

 その瞬間、察する。コイツとは戦ってはいけないことに。

 

 急いでドアから出ようとするが先回りされ、立ち塞がれる。

 

「どけっ!! 素直に退けば危害は加えない!!」

 

 ナイフを構えて強気で言うが明らかに敵の方が立場は上。

 冷や汗が俺の頬を流れる。

 

 男は妖しく笑うと敵意は無さそうに手招きする。

 

「まぁまぁ、通報なんかしないから落ち着けって。ちょっと話でもしないか?」

 

 ……警備兵が来るのを待っているのだろうか? だがそんなことしなくてもこの男の実力ならば俺を容易く殺せるだろう。

 

 窓から逃げるというのも思い付いたがドアに先回りした速度から、また同じ風になるだろう。

 

 どうやら俺はここで終わるようだ……と諦めた時、ドアがノックされる。

 

「夜分、失礼致します。ライル様、不審者が侵入したという噂が広まっており、万全な警備態勢ですが一応確認の為に声を掛けさせて頂いています。何かお変わりは御座いますでしょうか?」

 

 外に警備兵がたくさん居るような気配が察知出来る。魔法師も居るだろう。部屋に入ってきたら最後、諦めるしかない。

 

 だがライルと呼ばれた男はドア越しに横に首を振る。

 

「いいや、特に変わりはない。警備ご苦労だった」

 

 御返答ありがとう御座います、という言葉を残してドアの前から気配を遠ざけていく警備兵達。

 

 コイツは俺を突き出さないのか……と驚いて顔を見ると楽しそうに笑う。

 

「俺も軍人なのだが、悪い事しちまった」

 

 落ち込んだ風体を取るが表情は全く反省していない。

 

「まあ、軍人と言っても元だから捕まえる義務はねぇしな」

 

 元軍人でも自分を殺そうとしてきた奴を見逃す理由にはならないのでは? と思ったが俺には得しかないので黙っておく。

 

「ほれほれ、座れ座れ」

 

 フカフカの厚いクッションがある豪華な椅子に座らさせられる。

 

 その対面の椅子に座ったライルは世間話でもするように切り出す。

 

「なぁ、なんで暗殺者なんてやってんだ?」

 

 部屋に備え付けてある菓子を食いながら質問内容では無かった。

 だが助けられたからには答えるべきだと思った。

 

「俺は……幼い頃に誘拐され、過酷な環境だったけど仲間も出来て、まだ良かった。だがラフィを奪ったリカディが絶対許せない」

 

 思い出すだけで怒りが込み上げてくる。歯ぎしりの音が自分の耳でも聞こえる。

 

 そんな俺に同情した様子も見せず、素っ気ない返事を返すライル。

 

「ふーん……リカディって奴を許せないというのにリカディの手下になってる自分をどう思う?」

 

 突き付けられた現実に激しく動揺する。リカディに反抗する訳でも無く、忠実な犬の自分の姿に吐き気がする。

 

「もちろん今すぐリカディを殺してやりたい!! でもリカディには俺じゃ敵わない。それに警察も軍もダメだった……」

 

 そう言うとライルは頭を掻きむしり、小さく唸り声を上げる。

 

「うーむ……またここも腐敗が進んでたか……そこは俺がやるが、リカディはお前が討て」

 

 リカディを討て? この人は話を聞いていたのだろうか? 俺一人じゃリカディ一人にすら勝てないのに。

 

 怪訝な顔を見せるとライルは妖しげに笑い、犬歯が見える。

 

「修行しろ。そしてお前が魔法師になれば可能性はあるぞ」

 

 魔法師ーーそれは将来が約束された職業であり、誰もがなりたいと望んでいた。魔法師になると国の保護下に入り、正に公務員と同じ扱いだ。

 現在ほとんどが軍事利用されているが平和な時が来たら様々な活躍を見せてくれるだろう。

 

 そして目の前に居るライルは魔法師の可能性が高い。矢を歯ブラシで防ぐような桁外れな人なのだから。

 

「どうかっ!! 俺を弟子にして下さい!! 雑用でも何でもやりますのでどうか……お願いします!!」

 

 床に正座して頭を下げる。地に頭をつけるぐらい安いプライドなんか捨てて頼んだ。

 

 するとライルはうむ、と答えたので俺は歓喜で顔を上げる。

 

「うむ、お断りだ」

 

 とどや顔で言ったライルがそこに居た。

 

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