混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
グレンvs.ティナがグレンの勝利に終わった後、次の試験に移る。
次の試験は武芸。
武芸とは軍の兵士などが戦場で戦うために訓練した技芸のことで、魔法が世の中に広まる以前は銃火器、近代兵器の為、武芸は衰退したが魔法が白兵戦を支配した今、魔法師の間では当たり前の技能となっている。
また武芸と言えば、剣、弓、槍等だが今は銃も加わっている。
銃が入った事により、銃が圧倒的有利では? と思われたが魔法は魔法を掛ける対象の大きさにより効果が変わるので、一概に銃が優位とは言えない現状だ。
銃は弓より、威力が低いが連射が利き、射程も長いという立ち位置となった。
また威力ではやはり近接武器の剣や槍等に大きく劣る。
なので一概にどれが強いともいえない。
ところで魔法師向けの武器や鎧に使われる金属は魔鉱石から作られる。魔鉱石で作られる武器や鎧は普通の金属で作られた物に比べ、多量の魔力を保有出来たり、伝達量が高くなる。
魔鉱石は魔法が世に広まってから見つかった物だが、金やダイヤモンドぐらい貴重では無い。
だが鉄等と比べて高価な物には変わりは無い。
なので魔鉱石から作られる魔鋼でHAWを作るにはコストがかかり過ぎるし、魔力を込めるには燃費が悪すぎるのである。
だからあまり数が少なくても大幅な戦力上昇出来る魔法師向けの鎧や武器に使われているのが現状である。
さてこの試験も担当はゴリとエマだ。
得物は自由。もちろん得物は刃潰ししてある。銃と弓はペイント弾を使う。
また魔鋼鎧があるので基本的には怪我をしないはずだ。危険になったら自動的に防御してくれる。
今回の試合は防御が発動したら負けである。
そして注目の試合はグレンvs.ティナとなりそうだ。この二人以外まともに使える者がいないーーと思われたが一人、意外な人物が名乗りを上げた。
金髪のサラサラヘアーの三人組のリーダー、 エドウィン=ヘールズ。
エドウィンは大貴族へールズ家の三男だ。
この時代、貴族といっても大地主のような大金持ちであり、血筋を重んじる一族である。
血筋とは魔法師の血筋であり、多くの優秀な魔法師を輩出している。
もちろん全体の割合としては少ないが貴族と呼ばれる一族達からは安定した魔法師を供給して貰える為、この現代にも残っていた。
そしてへールズ家以外にもいくつか存在する。
その三男、エドウィンが剣を使い、ここまで勝ち上がって来たのである。
途中ティナはエドウィンに敗退し、決勝はグレンvs.エドウィンとなった。
エドウィンが扱うのは細身の剣。レイピアに近い物だ。
それに対し、グレンが持つ物は小型のナイフ。
明らかにエドウィンの武器の方がリーチが長く、有利である。
「そんなちっぽけなナイフで良いのか? 格闘術では活躍したようだがこれはそうはいかない」
そうせせり笑うエドウィンにグレンは困ったように頭を掻く。
「あー、そういうの良いから早く掛かってくれば?」
グレンの面倒臭そうな視線と態度にエドウィンは挑発に乗る。
「なら、さっさと終わらせてやる!!」
エドウィンは魔法師の卵だが、肉体強化魔法は使えるみたいだ。
だがティナのような速さは無くそこそこの速さでしかない。
エドウィンは剣で突きをものすごい速さで繰り出すが、グレンはナイフで逸らし、最小限の動きで防御する。
次第に疲れでエドウィンの動きが鈍くなる。
「はあ、はあ、はあ」
とエドウィンの息は上がる。
だがグレンは全く息が切れてなくやれやれと呆れ顔だ。
「まだだ。まだ本気を出していない!!」
とエドウィンは粋がるが、グレンは大きくため息を付く。
「はあ~。……お前さ、戦場では最初から本気出してないと死ぬぞ? 死んだら『本気出してない』と言い訳出来ないだろうが」
グレンは冷たい視線をエドウィンに送る。
ぐ……とエドウィンは反論出来なくて歯を噛み締める。
「さて、そろそろこちらのターンだな」
と言い、グレンは走り出す。
エドウィンは身構える。
(さっきはアイツが防御に徹したから、傷つけられなかったが今度はカウンターを狙えばーー)
とエドウィンはニタリと微笑む。
その意図を読んだのか、グレンはどこからか出した三本のナイフ
ーーなっ!?
エドウィンはいきなり三本飛んでくるナイフに驚くが、躱し、剣で弾く。
防いだエドウィンはゴリに抗議する。
「おい!! アイツ、ナイフ何本も持ってんぞ!!」
だがゴリは静かに答える。
「誰が得物が1本だけと言った? 俺は得物は自由としか言っておらん」
ゴリの正論に反論出来ないエドウィン。
抗議は無駄だと分かったのか再度構える。
「まあ良い!! 俺はこの1本で十分だ」
抗議の間も冷ややかな視線を送っていたグレンはエドウィンが構えたのを見て動き出すーー
グレンは懐からナイフを三本取り出し、投擲する。
エドウィンは訳もなく防ぐ。
再度、グレンは三本投擲する。
これも訳なく防ぐ。
エドウィンは次第にある結論にたどり着く。
(コイツは……
そう思うとグレンの動きが可愛く見えて来る。
必死に何度も無駄だと分かっている投擲を繰り返し、体力の消耗でも狙っているのだろうか。
そう思うと自然に笑みが零れてしまう。
それに気付いたグレンは聞いて来る。
「……何がおかしい?」
少し焦りが見えるグレンにエドウィンはいつもの上から目線が復活する。
「いやいや、ご苦労様かなと」
そう言うエドウィンの頬は緩み放しだ。その顔を見たグレンは投擲を止める。
「……そうだな。もう終わりにしするか」
グレンは踵を返し、エドウィンに背中を向ける。
(ふん……決め手が無くて降参か、コイツも俺には及ばんなーー)
と顔を上げた瞬間、目の前ーーいや、自分の周りには沢山のナイフがこちらに矛先を向け、浮遊していた。
ーーえっ?
と自分の状況を理解しようとした瞬間、ナイフが四方八方から襲う。
もちろん刃潰しし、鎧の自動防御があるので傷つく事は無いが、刃物が自分にめがけて無数に飛んでくるのは平常心では居られない。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー」
というエドウィンの恐怖に震える悲鳴がアリーナに響き渡る。
これを見ていたライン達にもあれが我が身だったら……と身体をブルッと震わせる。
またこれを見ていた教官達は考察する。
「なるほど、あのナイフ投擲は無差別では無く、エドウィンの周り、四方八方にばらまく為か」
「そうみたいですね。でもナイフ自体には魔力は掛かって無い……どういう事でしょうか」
「……ナイフでも無ければ、空間に影響させたという事か?」
憶測でしかない考察を出すしかない教官達。
見ていた教官達にも謎めいていたグレンだった。