混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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1-4 火星の裏側

 -火星 宇宙空港-

 

 ユーリはサラを抱えながら、静かにゆっくりと監獄に向かって歩いていく。落ち込んでいるように見えるが、心の中は憎悪で埋め尽くされていた。

 

 一方、ユーリに対して兵士達は距離を取って見ているだけだった。

 

 それがなせたのはユーリの目を見たからだろう。

 それほどユーリの目は殺意に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

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 ユーリが監獄に戻るとサイオンが駆け寄って来た。サイオンは部屋に戻るよう促す。

 

 サイオンはサラを一目見て、ユーリの目を見ると、無言のまま拳を振り上げ、壁を思いっきり殴った。

 壁は壊れる事はなかったが、ドスンと振動が伝わるぐらいの拳の威力であった。

 

 サイオンも怒っていた。サラが死んだ事で娘の事を思い出してしまった。

 娘と妻が私の名前を呼びながら連れて行かれるあの情景を。俺は2人の顔を見れなかった。自分の無力さの余り、見れなかった。

 

 このやりきれない気持ちはどこにぶつけるべきなのか……

 

 

 

 二人が落ち込んでいると兵士が入って来た。

 

 二人は兵士を殺意の籠もった目で見る。

 

 兵士は一瞬たじろいだが、我に返り用件を伝える。

 

「……ユーリ=エリクソン。これから出頭しろ。拒否権は無い」

 

 ユーリはチラッとサイオンを見る。サイオンは力強く頷いた。

 

 行ってこいとサイオンの目は語っていた。

 

 ユーリは兵士に連れられ、部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

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 兵士に連れられ、たどり着いたのは監獄から離れた地球連合軍、火星支部であった。

 

 ここが火星とは思えないほど、外見は豪華だった。もはや支部と言うより豪邸と言った方がいいのではないかというぐらい豪華過ぎた。

 

 正面からでは無く裏口から入って行く。

 

 裏口から入ると中は思いの他、静かだった。

 

 正面にはあれだけ人がいるのに、裏口は全く人気が無い。不気味なぐらいに。

 

 結局誰とも会わずに、エレベーターに乗る。エレベーターは音も無くスーっと上昇し、5階で止まる。

 

 扉が開くと正面に両開きの扉があった。

 

 兵士は開ける前にノックし、叫んだ。

 

「失礼します! ユーリ=エリクソンをお連れしました!」

 

 するとドアの向こうから声が返って来た。

 

「入れ」

 

 兵士は扉を開ける。

 

 ユーリの目にはまず最初に、眩しいほどのきらびやかな装飾したシャンデリア、高価そうな壺など沢山入る。

 

 まあ、ユーリには価値など一つも分かりそうに無い。

 だがこれだけ物が有っても全く窮屈さを感じ無い。

 

 すると扉が閉まると大きな音が鳴り、ユーリは我に返った。

 

 正面を見ると男が座っていた。ガタイのいい男が座っていた。

 目は鋭く、ユーリをジッと見つめていた。

 

 兵士は靴を鳴らし、敬礼する。

 

「失礼しました」

 

 兵士は扉から出て行く。

 

 兵士が居なくなるとユーリと男の2人の間に、居心地の悪い静寂な時間が流れる……

 

 すると男が口を開いた。

 

「ユーリ=エリクソン……まだ10歳だな。良くあそこまでやるもんだ」

 

 ユーリは無言で男を睨み付ける。

 

 すると男は苦笑いしながらユーリに近づく。

 

 ユーリは身構えながら近づく男を睨み付ける。

 

 だがその身構えも無意味のように、男はユーリの胸倉を掴み投げ飛ばした。

 

 ユーリは思いっきり壁に叩きつけられる。

 その威力はユーリが口の中が切れ、軽い脳震盪を起こすぐらいだった。

 

 男はクラクラしているユーリの顔を両手で抑えると、目の前で吠える。

 

「お前のせいで計画が台無しだろうが!!」

 

 その声は耳がキーンとするぐらい大きかった。

 

「俺の計画が……お得意様だったのに……台無しにしやがって!」

 

 男は苛立ちを露わにしていた。

 

「たくさん売って一儲けしようと思っていたが貴様のせいで……計画変更だ! 貴様に罰を与えたいが貴重な労働力だからな……まあどうあがこうがここで一生過ごすから罰は必要ないか」

 

 男はニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべ不適に笑う。

 

 そう火星から逃げる事は出来ない。此処に来るのは全てが軍関係。兵士は必ず詰めている。

 

 男は歯を食いしばっているユーリに上から見下す。

 

「ああ、そうだ、その服は変えろ。後、風呂に入れ。そんな汚らしいのが目の前にいるとうざったい」

 

 確かにユーリの身体はサラの血で血まみれになり、とても汚れていた。

 だがそんな言葉にもユーリは男を睨んで動かない。

 

 そんな様子を見た男はバカにしたように微笑む。

 

「別に入らなくても結構だが、せっかくサラのおかげで服も変えられ、風呂に入れるのだぞ? 無駄にするのか?」

 

 その言葉にユーリはハッとする。

 

 確かにユーリ達は基本風呂なんかに入れない。ましても服を新しくするなんてボロボロにならない限り有り得ない。なので、風呂に入れ、服を交換するのはとても貴重だった。

 

 ユーリは悔しさに歯を噛みしめながら、兵士に着いて行く。

 

 兵士用の浴場に着いた。もちろん、豪華では無いがユーリ達がたまに入る浴場よりはかなり豪華だった。隙間風の無い普通の風呂であった。だが今のユーリにとっては十分すぎるほど豪華と言えるだろう。

 

 ユーリは洗い場で身体を洗い、浴槽に浸かる。熱くも無く、冷たくも無くちょうどいい温度だった。

 

 その暖かさはユーリをサラの事を思い出させるには十分だった。浴場にはユーリのすすり泣く声が響いた……

 

 

 

 

 

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 ユーリが風呂を出ると新しい服が置いてあった。ユーリはそれを着て脱衣所を出ると、兵士に連れられ、監獄に連れていかれた。

 監獄に着くと兵士はさっさと去っていった。

 

 兵士が離れたのを見たサイオンとウィリーが近寄って来た。

 

「おい、ユーリ大丈夫か?」

 

 ウィリーは心配そうにユーリを覗き込む。

 

 ユーリは無言で頷いた。

 

 ウィリーはホッとしたように安堵した顔をした。

 

 だがサイオンは難しい顔をしていた。

 

 ユーリはサイオンの表情に気づく。

 

 するとサイオンは口を開いた。

 

「……ウィリー、部屋に戻れ」

 

 ウィリーはサイオンの顔を見て、素直に戻っていった。

 

 サイオンはその後ろ姿が消えたのを確認してからユーリに振り返った。そして消えそうな声で呟いた。

 

「ユーリ、付いて来い」

 

 サイオンはユーリに背中を向けて歩きだした。

 ユーリは遅れないように小走りで付いて行く。

 

 サイオンが足を止めるとそこにはサラが横たわっていた。

 ユーリはサラに駆け寄って手を触ると、冷たかった。非情にもサラの死を理解するには十分だった。

 

 ユーリはまた泣き出す。

 

 サイオンは後ろからユーリを強く抱きしめる。

 

「ユーリ、辛かったな……悔しいよなぁ?」

「……うん。……うん」

「耐えろ! ……今は耐えろ! まだ足りない……力が足りないんだ!」

「……くっ」

 

 ユーリは悔しくて歯をかみしめる。サイオンはユーリを離すと肩をつかみ優しく言う。

 

「ユーリ、今はサラを弔ってあげよう。穴を掘るんだ」

 

 ユーリは頷き、2人は無言で穴を掘り始める。

 

 少しすると十分な深さが出来た。

 

 ユーリはサラの手を握りしめた。

 

「サラ……僕は強くなる……僕はもう失う物なんて無い。だから僕は全てを賭けて復讐してやる! 地球連合国に!」

 

 と小さな声だったがその声は力強かった。

 

 

 

 

 

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 2人はサラを埋めた後、冥福を祈った。

 

 祈りが終わるとサイオンはユーリに向き直り、一言だけ言った。

 

「付いて来い」

 

 今度はゆっくりだった。いやむしろ周りに気をつけてるような感じだった。

 ユーリはそれを感じ、静かに着いて行った。

 

 着いたのは採掘場の倉庫だった。

 

 サイオンはユーリと中に入ると、扉を閉めた。

 そして地面を弄くると地下への階段が現れた。

 サイオンはユーリに手招きしてユーリを入れ、扉を閉めた。

 

 中は薄暗く、ポツポツと小さな光が有るだけで不気味な雰囲気だった。正にこれぞ地下通路という所だ。

 

 薄暗い中、サイオンは慣れたように歩いて行く。

 ユーリはサイオンに捕まりながら着いて行った。

 

 地下は迷路になっていて、右曲がったり、左曲がったりしてユーリも覚えきれなくなっていた。

 

 混乱しているユーリに疲れが見えて来た頃、角を曲がったら、目の前に明るい場所からの光が見えた。

 

 サイオンは着いたぞと言い、ユーリを励ます。

 

 ユーリは次第に足取りが軽くなるのを感じた。早歩きで光へ向かう。

 

 そこまで行くと大きく開けた場所に出た。

 

 サッカー場よりでかい地下基地だった。

 上を見上げると、もはや地下と思えないほど天井が高い。

 

 そして目の前にはデカい金属で出来たロボットが居たのであった。

 高さは15mぐらいだろうか。分かりやすく言えば電柱ぐらいの高さである。

 

 ユーリは呆気に取られていた。初めて見る巨大なロボット……その大きさ、重厚感に圧倒されていた。

 

 するとサイオンがユーリの隣に立ち、説明する。

 

「ユーリ、これは〔humanoid armored weapons〕。略称〔HAW〕。和訳すると人型機甲兵器だ」

「HAWと言うんだ……スゴイ……まるで想像の世界みたいだ。でもコレは何の為に?」

「コイツは俺達の希望だ! コイツが完成したら連合国なんて倒せる!」

「!? 勝てるの!? 僕達が連合に!?」

「ああ、勝てる! もし博士の言う事がホントなら圧勝だ」

 

 ユーリは震える。もちろん泣いている訳では無い。嬉しさのあまりだ。

 拳を強く握りしめる。

 

(サラ。僕に可能性が出来たよ。僕はサラを奪った連合国を許さない。絶対復讐してやる!!)

 

 その時、ユーリは足音で我に返った。

 

 むこうから白衣を着た若者が歩いて来る。

 丸いメガネをかけた彼は如何にも頭が良さそうだ。

 

 白衣の男はサイオンに手を上げて話しかけ来た。

 

「やあ、サイオン。この子がユーリかい?」

「ああ、コイツがユーリだ。前、話していた通り、計画に加える」

 

 サイオンは話しながらユーリの頭に手を乗せる。

 

 頭に手を乗せられる行為はユーリの父が良くやっていた。ユーリはお父さんを思い出して、少し寂しくなった。

 

 その表情をチラッっと見た男は腰を落とし、ユーリと目線を合わせる。

 その目はユーリの瞳をじっと見つめていた。

 

 ユーリは全て見透かされてるような気分になり、目を逸らした。特に悪い事はしてない。でも何故か目を逸らしてしまうのだ。

 

 男はニヤリとして立ち上がり、サイオンに振り返った。

 

「なるほど、いい目をしている。純粋な目だ。どこぞの馬鹿共みたいに汚れていない」

「ああ、ユーリは伸びる。間違い無く伸びる。だがこの世界がその可能性すら与えない。今の世界は腐った世界なんだ」

 

 サイオンは遠い目をしながら、歯を強く噛み締める。そして手を動かし、ユーリの髪をわしゃわしゃとかき回す。

 

 ユーリは恥ずかしくて、サイオンから逃げる。

 

 それを微笑ましく見ていた男はユーリに振り返って話しかけた。

 

「やあ、はじめましてユーリ。僕は博士と呼ばれる者だ。まあ確かに格好は博士みたいだけど」

 

 男は自分の白衣をわざとらしく広げ、苦笑いする。

 

「そして名前はアイザック=グレンジャー。僕を呼ぶときは博士でいいよ。博士は僕しか居ないし」

 

 そこにサイオンが付け加える。

 

「博士はHAWの第一人者だ。俺達に力を貸してくれる。主に兵器部門だけだがな」

「実際それ以外興味無いし……あらゆる兵器は僕の頭の中に有るからいつでも聞いてくれよ。……そういえば、最近興味有るのは人かな」

 

 その言葉にユーリとサイオンは博士から後ずさる。身の危険を感じるからだ。

 

「おいおい! 僕はそっちじゃないよ! ……最近人がやっと信じられるようになって来たから……興味湧いて来たんだ」

 

 博士は頭を掻きながら恥ずかしそうに答える。

 

「さて、作業再開するかな」

 

 面白い物が見れたと喜ぶ博士は意気揚々とユーリ達に背中を向けて歩いて行った。

 

 サイオンはユーリに振り返り、念を押す。

 

「ユーリ、ここの事は秘密だ。親しい者にも教えてはならん。計画が成功してから皆に教えるつもりだ。少しでも漏れる可能性を減らさなければならん。ユーリ頼むぞ」

 

 ユーリは頷いた。

 

 しかし同時にたくさんの疑問が浮かんだ。

 

「そういえば、どうやってここの維持してるの? 僕は何すればいいの?」

「実はな、連合軍側に協力者が居るんだ。そいつが物資などを供給してくれてるんだ。だからここまで出来た。感謝しなければな。

 ユーリ、お前は何もしなくてもいい。いつも通り行動してくれ。あえて言えば、筋トレを頼む」

「筋トレ? あ、作戦に備えて?」

「ああ。体力や力は有るだけ助かるからな」

 

 ユーリは力強く頷いた。

 

 我々の目標が決まった。やることをやるだけだ!

 

 

 

 

 

 

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 あれから一年が経った。

 

 ユーリはいつも通り、放送で起きる。いや正確には放送直前だろうか。放送の時間が身体に習慣付いたのだろう。鳴る前に起きてしまう。皮肉な物だ。

 

 ユーリは起きてチラッっと隣のベッドを見る。

 

(あれから一年経つのか……)

 

 サラが死んでからもうすぐ一年である。隣のベッドには誰も居ない。だがそのベッドは綺麗だった。ユーリは毎日掃除を欠かしていないのであった。

 

(サラ。僕は今日も頑張るよ)

 

 その時、放送が鳴る。ユーリは部屋を出て行くのであった。

 

 

 

 

 

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 いつも通り作業が終わり、日課になった筋トレをしているとウィリーに呼ばれる。

 

 あの事件以降、筋トレをしているユーリは逞しくなった。前はややヒョロだったが、今はなかなかマッチョになったか。栄養が十分だったらスポーツ選手並みだろうか。

 

 それはさておき、ウィリーと共に地下基地に行くとサイオンと博士が居た。

 

 そういえば、ウィリーはサイオンに誘われ入ったらしい。本人はやる気十分だ。空回りしなければいいが。

 

 ウィリーとユーリが来た事にサイオン達が気付くと近づいてきた。

 

「来たか、二人共。今日はな発表が有る。それは「完成したんだよ! HAWが!! コレで計画が成る!!」

 

 サイオンは話を被せた博士を無言で睨む。

 

 博士はそれに気が付いていない。

 

 ユーリは苦笑いするが、ウィリーは喜んで踊っている。

 

 サイオンはんんと咳払いをして、二人を落ち着かせると話を続ける。

 

「まあ、博士の言うとおりHAWは完成した。だから計画を実行に移す! この後皆集めるからここに居ろ」

 

 

 

 

 

 

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 一時間後……

 

 地下基地の格納庫には沢山の人が集まっていた。

 100人ぐらいだろうか。だがその構成は誰もが驚くような物だった。老人もいるし、少女すらいる。そして、主力は少年達である。

 ほとんどが10~15歳ぐらいで構成されていた。

 

 なぜ大人は居ないのかという問いにお答えしよう。

 

 もちろんサイオンみたいな少数の大人を除いて、他の大人は最初に殺されたというのが事実である。地球連合軍に抵抗したので殺されたのである。あの行動には多くの大人が参加していたがほとんど殺されてしまった。そして生き延びた大人は尻込みしている。

 なので、この構成になっているのであった。

 

 皆がざわついているとサイオンが声を上げた。すると皆すぐに静まった。

 

「皆、集まってくれて感謝する。集まって貰ったのは報告したい事が有るからだ。それは後ろを見てくれ」

 

 皆が後ろに振り返る。そこにあったのは完成したHAWである。

 皆、歓喜の声を上げる。

 

 続けてサイオンは声を上げる。

 

「皆、明日作戦を決行する! 今日はゆっくり明日に備えて早めに休んでくれ!」

 

 皆は明日に備えバラバラに散って行く。

 

 ユーリも帰ろうとしたがサイオンに呼び止められる。

 

「ユーリ、後で会議室に集合だ」

 

 サイオンはそれだけ言うと他の人の元に向かって行った。

 

 ユーリは会議室に向かう。その足取りは希望に満ち溢れていた……

 

 

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