混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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11-3 バラバラのライン達

 

 連携実習の翌日。連携実習は週1なのでそれまでは自由時間だ。自主練でも連携確認でも作戦会議でも構わない。

 

 早速、好機とばかりにゲームをやり始めようとするマナンを部屋から引きずり出す。

 

「この時間は休みじゃない。それに昼間からやるんじゃ無い」

「えー、たまりに溜まってるんだよ、やってないゲームがぁ~~」

 

 駄々っ子のように抵抗するマナンを部屋から連れ出すと諦めたのか静かになる。

 

「……それでどうするの?」

 

 少し不満げなマナンにこれからの動向を教える。

 

「とりあえず、全員の関係を一定以上にしないと集団行動すら不可能だ。だから一人一人、仲を深めるしかない」

「なるほど、まるでギャルゲーだね!!」

「その例えは辞めろ……女が一人で他は男しか居ないギャルゲーはやりたくない……」

 

 ヒドイ物を想像してしまって苦笑いするラインはとりあえず班の部屋に向かう。

 

 

 

 

 

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 班の部屋に入ると中にはドリーだけだった。

 

「こんにちは、ライン」

「こんにちは、ドリー」

 

 椅子に座りながら笑顔で挨拶するドリーの目の前には沢山の本があった。

 

「ここで何をやってるんだ?」

 

 沢山ある本の1つを手に取って見ると、その題名は『仲良くなる方法100』だった。

 なんだ、ドリーも同じ気持ちだったんだな。

 

 恥ずかしそうに慌てて隠すドリーに微笑みかける。

 

「別に隠さなくても……俺も同じ気持ちだ。皆と仲良くなりたい。これから一緒に戦う仲間なのだから」

「……そうですね、どうせやるなら仲良くしたいですね」

 

 2人して遠い目をしているのに蚊帳の外のマナンがそっと声を掛ける。

 

「あのー僕も入れて欲しいなあ……」

 

 不安そうなマナンに俺とドリーは目を合わせて頬を緩ませる。そして答える。

 

「「もちろん」」

 

 

 

 

 

 

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 その後、3人でマヤが居そうな場所に向かう。勉強熱心な彼女がいる場所には見当がつく。

 

 その場所の入り口にはICカードが無いと開かない扉と警備員として2名の魔法師が立っている。どちらも完全装備でこちらに睨みを効かせている。どちらもベテランなのは一目瞭然だ。

 

 その他に完全装備の兵士が居て、その兵士の受付を済ませ、中に入る。

 

 中は凄く広く、天井に届くまで何階あるのか分からないほど高い。上を見上げると気が遠くなるほどだ。そして奥行きはこれも端が遠くて気が遠くなる。

 

 そんな広大な場所は紙が擦れる音と人の息遣いが聞こえるほど静寂だ。自分達の足音がやけに響いて申し訳なく感じる。

 もちろんライン達の足音がうるさい訳では無く、ここが静寂過ぎるのだ。

 

 人気(ひとけ)のないこの場所ーーエルス国最高図書館は一般向けに開放されていない。ここは世界のあらゆる書物が集まって来ている。歴史書や古文書はもちろん、魔法書が沢山存在するのだ。何故これらがあるのかというと、以前大戦があった際中立を保ったエルス国は戦火に巻き込まれず、あらゆる書物がこちらに避難されたという事だ。

 世界最大級の貴重な書物を保管する場所なのだ。

 もちろん禁書もあるが更に地下にあるらしいので代表ですらなかなか入れないらしい。

 

 そんな場所に踏み入ったライン達はお目当ての人物を発見する。

 

 黒髪で真面目に本に取り組んでいる女子生徒ーーマヤ。大きなテーブルを一人で使っているが誰も何とも言わない。そもそもここには人は来ないし、持ち出し不可なのでここで写しているのだろう。

 

 マヤが何を読んでいるのか気になるが邪魔をしてはいけないと思い、少し離れた場所で待つ。

 

 一分ぐらい経つとマヤは大きなため息を吐き、本を閉じて椅子から立ち上がる。

 そしてこちらに近付いてくる。

 

 目の前に立つと目線を向けてくる。その視線はいつものキツい物では無く、普通だった。

 

「……わざわざこんな所まで来て、すぐに話しかけて来るかと思えば律儀に待つのね。それにこんな所では離れても気配がバレバレよ」

 

 だよなあ。まあ気配を隠す気も無かったが。

 

「邪魔して悪いな。少し話がしたくてな」

 

 真剣な表情のラインに嫌みの1つでも言おうと思っていたマヤは止める。

 

 ライン達は外に出て、4人が向かい合うテーブル付きのベンチに座る。

 最初に切り出したのはマヤだ。

 

「それで、何しに来たの? もう諦めたのかしら?」

 

 やっぱり嫌みを言ったマヤにラインは横に首を振る。

 

「いいや、俺は諦めてない。このメンバーであることには意味があるのだと俺は思う」

 

 ラインの言葉にマヤは激高する。

 

「ふざけないで!! こんなチーム可笑しいわ!! あんな問題児に、頼り無い班長、それに約に立たない班員ーーぐっ!?」

 

 突如襟元を掴まれ言葉が止まったマヤ。襟元を掴んだ手はラインの手であった。

 マヤを見つめるラインの瞳は怒りに満ちていた。

 

「マヤ……俺を罵るのは構わない。確かに俺は優秀でも無いのに指揮官科に行った。コネでも使った等と馬鹿にしてくれても構わない。

 だが、俺の友人を罵るのは許せない!! 彼らは必死にやってるんだ!! 彼らがいつ怠けた? 自分の欠点と向き合っているのに何故認めようとしない? 何故、人のせいにしてお前は努力しないんだ? 仲間は理想の人形じゃない!! 一人一人、個性のある人間なんだ!!」

 

 ラインの気迫のこもった言葉にマヤは無言で顔を伏せた。

 そしてゆっくり口を開いた。

 

「……ごめんなさい、言い過ぎたわ。でも私は更に上を目指さないといけないの。こんな所で立ち止まるわけにはいかないの」

 

 顔を上げたマヤの瞳には強い意志が宿っていた。

 その強い意志が見えたラインは1回目線を逸らして少し考えて口を開く。

 

「……良ければ理由を聞いても?」

 

 控え目に聞いてくるラインを一目を見た後、空を見上げる。

 空は快晴で今日の太陽はやけに高く見えた。

 

「……そうね。ここまで話したのなら全部話しても良いのかもしれないわね」

 

 そう言った彼女の瞳は揺れていた。

 

 

 

 

 

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 彼女の家は家柄が良く、魔法師としても優れていた。その長女である彼女は親の期待に答える為頑張っていた。

 そしてあるとき彼女の父親が戦死したのだ。母親は既に出産の時死に、親は父親だけだったのだ。

 

 父親が死んで後継者が彼女になったので彼女がその後を継いだが、しかし彼女にとって右も左も分からない事だらけで、周りからは失望の視線をその身に注がれていたのだ。

 

 親の、彼女の家の名声をこれ以上落とさない為、彼女は常にトップを走り続けなければいけなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

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 そんな彼女の事情を知った彼らは目を伏せる。そういう理由で彼女が常にトップに居たことを知ったライン達が目を伏せたのは感じる同情からだった。

 しかし彼女は同情して貰いたいわけでは無い。むしろ哀れみの目で見られるのは不快だろう。

 

「……そうか。そんな理由があったのだな。だが君は本当にトップを目指したいのか?」

 

 そのラインの言葉にまたマヤは激高する。

 

「今、私が理由を話したでしょう!! 私はどうしてもトップを目指さないといけないの!!」

 

 今度は怒りに満ちた視線を向けたのはマヤだった。

 だがラインは特に表情を変えなかった。

 

「なら君はこれからはトップは取れない」

 

 挑発とも取れるラインの言葉に掴みかかろうとするマヤ。何とかマナンとドリーが抑えているがそれすら振り切りそうな勢いだ。

 

「どういう事よ!! アナタが私に代わってトップでも取る気!?」

 

 今までで一番鋭い視線を向けるマヤにマナンとドリーは不安そうにラインに視線を向ける。

 

「いや俺が取るわけじゃない。君が取れなくなるんだ」

 

 その言葉に驚愕して体の動きをピタリと止めるマヤ。落ち着いたマヤはラインの次の言葉を待っていた。

 

「何故トップが取れなくなるのかと言うと……これからはチーム戦だからだ」

 

 今までは個人競技で本人次第で結果が決まっていた。なので人一倍努力した彼女がトップになることも可能であった。

 しかしこれからはチームでの結果が成績に繫がる。そう彼女が一人奮戦しても無駄なのだ。

 

 その意味を理解した彼女は一度顔を伏せるがまた顔を上げ、声を荒上げる。

 

「なら尚更、チーム変更を要望するわ!! 努力した私が報われないのは可笑しい!!」

 

 また最初の結論に戻ってしまったマヤにラインは顔に憂愁(ゆうしゅう)の影が差す。

 何とも悲しいのだ彼女の視野の狭さに。

 

「……なあマヤ、軍人心得言えるか?」

 

 突然のラインの問いに驚くが、簡単な問いに馬鹿にしたような目線になる。

 

「……馬鹿にしてるの? そんなの簡単よ。

 1つ、我らは国の剣や盾では無く、衣服と成れ。

 2つ、我らは血が無くなるまで這いつくばれ。

 3つ、我らは隣の仲間と……背中、合わせ……だ……」

 

 3つ目の心得を言った途端、歯切れが悪くなり、その直後乾いた笑い声を上げながら涙を流すマヤ。

 

 しばらく無言で泣いて、次に顔を上げた時は自分を自虐した笑みだった。

 

「……ふふ……私は、私はお父様に言われた言葉を忘れていたわ。いつもこれだけは忘れてはいけないと言われてたのに、私は忘れていたわ……我らは隣の仲間と背中合わせだという言葉を。

 そう私は仲間を助けるという事を忘れていたのね」

 

 流石は聡明な彼女だ。もう全てを理解したのだろう。

 

 すると彼女は頭を深く下げる。

 

「ごめんなさい!! 私は貴方達を散々けなし、更に私自身を棚上げしていた。こんなこと許されないと思う。……だからけじめをつけるわ」

 

 そう言った彼女は歩み始める。

 

「ちょっと待った!! どこに行く!?」

 

 慌ててラインが引き留めると彼女目には涙が溜まっていた。

 

「……わ、私はこのチームを抜けるわ。こんな奴とは組みたく無いでしょう?」

 

 震える声で言う彼女をラインは抱きしめる。

 最初は驚きで体が強ばっていた彼女だったが次第に抱きしめ返してくる。

 

「……私を許してくれるの?」

 

 不安そうに訪ねてくるマヤ。

 ラインは半笑いして答える。

 

「ああ、マヤ、君はチームに必要だ。その聡明さ、抜け目の無い能力、そして勝ちへの強い意志。どれもこのチームには必要不可欠だ。だから俺達を助けてくれないか?」

 

 あんだけ罵ったライン達が自分を必要としてくれる事に心が喜んでいることに気づくマヤ。久しぶりの喜びの感情に思わず、頬を緩ませてしまう。

 またそんな感情を思い出させたのはラインに抱きしめられて思い出した父親の姿だったのかもしれない。

 

 涙を拭きつつマヤはライン達に指を差す。

 

「じゃあ、これからは厳しく行くわよ!!」

 

 そう言った彼女の表情は快晴の空のような良い笑顔だった。

 

 

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