混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
作者「……頑張ります」
アーロンのお見舞いの二日後、卒業試験の決勝が始まろうとしていた。
決勝はアリーナで行われる。やはり観客も間近で見たいのだろう。もちろん誤射を防ぐ為、ウォールシールドが張られている。この試合の為にいったい何人の非番の魔法師を使うのだろうか。
試合開始前から盛り上がりは最高潮。割れんばかりの歓声が上がる。やけに大声の奴もいる。
そういえばこの試合が掛けの対象に成ってるとか。だから応援にも熱が入るのか。
そうでなくてもやはりこのような魔法師同士の非殺生の戦いは中々観られない物。戦場でも見られるが、その時は容赦なく殺しに来る。
ある意味スポーツ的な感覚なのだろう。剣道と剣術は紙一重、みたいに。そんな卒業試験が楽しみで来る観客は多い。もちろん軍関係者に限られるが。
そして熱い歓声の中、両チームはチーム毎に集まって最後のミーティングを行っていた。
「さて、いよいよ決勝だな。相手はグレン。敵に不足無し」
再度気持ちを引き締める。全力を出すだけだ。
「まさかこのチームでここまで来れるとは思ってなかったわ。2回戦は負けるかと思ったわ……」
信じられないという表情のマヤ。
そうだな。確かにこのチームはちくはぐだ。
「ふんっ、どいつもこいつも雑魚ばかり。勝つのは当たり前だ」
鼻を笑うアーロン。最初に退場したのはお前だろ?
「いやそれをまとめたのはラインだよ!! 流石だね!!」
上目遣いでベタ褒めしてくるマナン。良し、勝ったら何か奢ってやろう。
「とうとう決勝かぁ……まさか決勝に出れるとはなぁ……」
ボーとしているドリー。まぐれじゃない。俺達は勝って来たんだ。
「俺はこのチームじゃなきゃ決勝まで行けなかった。個人それぞれの実力はばらつきが有るが、この連携は誰にも負けないと思う。改めて感謝させてくれ」
頭を下げる俺にアーロンは居心地悪かったのかモゾモゾと体を動かし始める。
「けっ、お前に感謝されたくてやった訳じゃない。利害が一致しただけだ」
その言葉にマヤも頷く。
「そうね。このチームは勝つ為のチーム。そうでしょ?」
ーーそうだ。二人の言うとおりだ。馴れ合いして負けましたという言い訳なんて戦場では通用しない。負けたら死。それを忘れてはいけない。
「そうだったな。俺達が目指すのは優勝ただ一つ。これが最後の戦いになるわけだが……最後にこれだけ言わせてくれーー」
「ーーありがとう」
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-マヤ サイド-
ラインはありがとう、とだけ言ってこの場を離れた。
ありがとう、ね。こちらこそ感謝したいわね。父の引き継ぎ作業に追われ、疲れ果てた私のモノクロな世界に色を入れたのはライン、貴方よ。
本当はあの祝賀会の時、少し酔っていたけどあの思いは本物。まあ彼女?に邪魔されたけど。あの時のラインの焦り顔は面白かったなぁ。
ふふっ、と思い出し笑いをした自分に気付く。
笑顔を取り戻せたのはラインのおかげね。
祝賀会の時はダメだったけどまだチャンスは有るわね。
でも今は戦いに集中しないと。
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-ライン サイド-
両チームがアリーナの中央に集まる。アリーナ内には人工的に設置物を配置している。体が隠せるコンクリートブロックや土嚢、ドラム缶が置かれている。観客が直接見るため、構造物は無い。ほとんどの場所が開けたフィールドだ。
そして少し開けた中央に両チームが揃うと歓声が上がる。そういえば今日の試合はブライス代表も中継を見ているとか。緊張するなぁ。
「両チーム握手を!!」
その放送と共に目の前のグレンと握手する。その力は強く、痛くなるほどだ。こちらも魔法で強化した握力で握り返すとニヤッと笑うグレン。
「待ってたよ、ライン。お前なら決勝に来れると思ってた」
端からこの言葉を聞くと褒めているようにきこえるがこれはからかっている。
「ん? 俺はお前と当たりたくは無かったぞ」
素っ気ない態度で返すとグレンはやられたー、とでも言いたげな表情になる。
「あちゃーー、片思いだったわけか!! これはこれは、寂しいなぁ」
大げさに悲しむグレンだが、その本心はまるで悲しんでない。いやまあ俺もお前と戦いたい。
シクシクと女々しく泣いているグレンだったが直ぐに戦う顔に戻す。そのギャップで女性を落としたんだな。男の俺でもカッコイイと思うぞ。
「ライン君も反抗期かな? ……まあお前も俺と同じ気持ちのはずだ。そうだろう?」
「……ああ。俺はお前と戦いたい。お前だからこそ戦いたいのかもしれない」
お互いにニヤッと満足そうに笑うと手を離す。
他の面々も握手を済ますとそれぞれのチームは対極の所定位置に移動する。
ここからは設置物で相手の動きが見えない。それは相手も同じ。
最初の動きが見えないのがこの戦いのポイントだ。
だからそこでお互いに作戦を実行するのだ。
グレン達はグレンが主力のチーム。他の面々の実力は不明だがグレンを活かした戦い方のようだ。前回の戦いがグレンのみで戦うように、グレンが絶対的リーダーのようだ。
そして地形が単純なのでほとんど作戦は無い。初動だけだ。
「さあ、最後の戦いだ。全て出し切れ!!」
「「「おう!!」」」
その声と共に試合開始のブザーがアリーナ内を鳴り響く。
大きな歓声と共にお互いは動き出す。
しかし直ぐに俺達の足は止まった。
そう、グレンが空中を浮遊して設置物を乗り越えてこっちに向かって来るのだ。
その大胆さにも驚いたがそれ以上に宙に浮いている事が衝撃だった。自分の目を何回も疑い、そして脳は正常なのかとすら疑い始めるぐらいだ。
そしてその証明は会場のざわめきで出来た。
宙に浮くーーその方法は確かに存在する。大量の上昇気流を受けて飛ぶか、ワイヤーでぶら下がるか、透明な板の上を歩くか。
だがどれも違うようだ。大量の上昇気流何ぞ感じないし、ワイヤー、透明な板など設置出来ない。
そして考えられる最後の方法はーー
ーー飛行魔法。
しかし飛行魔法は理論上は可能だが、実現は難しいと言われている。
何故なら多方面放出系魔法だからである。
多方面放出系魔法ーーその名の通り、幾つもの方向にそれぞれ魔力を放出し続ける魔法だ。
もちろん魔力の消費も大きいが、それに比べものにならないほどの難易度の制御が待ち受けている。
人間はバランス感覚が優れているゆえ、立つことが出来る。そして倒れない。
しかし足場の無い場所に立ち、バランスを取る事は想定していない。
そんな不安定な状態を魔力によって支える。だがそれは不規則な魔法発動となる。
飛行魔法はウォールシールドのような安定した放出では無く、状態によって多方面に放出する魔力を変える必要があるのだ。
考えただけで頭が痛くなる。
そんな魔法をグレンは涼しい顔で使っているのだ。当然会場も大騒ぎとなる。
「まさか、あれは飛行魔法だというのか!?」
「あり得ない……我々でも不可能なのにアカデミー生が出来たというのか……」
と観客はもはや試合そっちのけな状態となっているがグレンはやる気満々だ。
「さあライン、俺と一対一でやろうじゃないか」
ふわりと正面に着地するグレンに俺は冷や汗を掻く。
飛行魔法も使えるとなるとグレンの行動範囲は3次元。普通ならば空中は弱点となるのだがグレンは地上にいるのと変わりは無いだろう。
「ははっ、まさか飛行魔法まで使えるなんてお前は規格外だな。手加減でもしてくるか?」
苦笑いしながら冗談半分で言うとグレンはさも当然のように頷く。
「それはそうだろ。一方的な試合展開は面白くない。お前の全力が見れるまで手加減してやるよ」
ニヤッと笑うグレン。
まさかそこまで舐められるとはな。まあそれほどの実力差かもしれない。だが俺はその差を埋めてやるよ!!
「手加減? それは負けた時の言い訳か? 直ぐに手加減など辞めたくなるようしてやる!!」
剣を抜き、構える。
思わぬ威勢の良さにグレンは目を丸くしたが、更に楽しみな表情になる。
「そうだ!! それこそラインだ!! どんな状況でも諦めない、前を見ている……変わって無くて安心した。行くぞ!!」
グレンの手元から次々とナイフが投合される。その連射速度は余裕で対処出来るほど遅い。まだ遊んでいるのだろう。
そして何十本ものナイフが地面に転がるとグレンの手は止まる。ここからが本番だ。
「さて、ここからが本番だ。息は上がってないな?」
「もちろん」
ここまではまるで練習のような雰囲気だが、ここからが本当の戦いだ。