かつて、戦争があった。
それは天の川銀河全体だけで無い。多くの銀河を巻き込んだ戦争だ。
後の歴史家はこの戦争を銀河大戦と呼ぶこの戦争に彼はいた。
閃光棚引く多次元世界に一人の少年は狭いコックピットのモニターを見つめた。
「……終わった」
そう呟いた。
モニターを見やるその姿は何処か哀愁を漂わせていた。
彼、イーグレット・イングは彼の愛機、エグゼクスバインのコックピットをゆり籠に天を仰いだ。
「テスラドライブは致命的損傷、両マニユピレータ及び脚部も損壊。辛うじてブラックホールエンジンとトロニウムエンジンは生きてるのが救いか……。酸素もそろそろ限界」
自身の置かれた現状を嘆くでも無くただ、淡々と受け入れたイングは次に仲間たちを思った。
(皆は無事だろうか? 鋼龍戦隊の皆は……)
彼の霊帝との戦いは熾烈を極めた。
皆無事でいてくれと願わずにはいられない。
「生きたい。生きて会いたい……」
イングは静々と涙を流した。
その時だった、声が響いた。
―――――生きたいか?――――――
(生きたい)
―――――彼等に会えない。それでも生きたいか?――――――
(生きていれば何時か、やがて何時かは会える。そんな気がする)
―――――ならば唱えよ――――――
(……)
―――――テトラクティス・グラマトン―――――
「……テトラクティス……グラマトン……」
その瞬間、イングは光を見た気がした。
1月。
寒さ厳しいこの時期にスクール水着に似た上に白衣を羽織った濃い緑色の髪をツインテールに纏めた女性が湖畔にて釣りをしていた。
「いや……なかなか釣れないね……」
一見、変質者みたいな恰好をしているが彼女はれっきとした倉持技研の第二研究所所長、篝火 ヒカルノといい、れっきとした倉持技研の社員である。
スクール水着に見えたのは<インフィニット・ストラトス>、通称ISと呼ばれるパワードスーツの操縦者が着るISスーツと呼ばれるスーツである。
ぼんやり空を眺めながら釣りをするのも乙ではあるが素潜り漁も嫌いでない。
潜るか。
そう思って竿を湖から離そうとした時だった。
突如、空に穴が開いたのだ。
「は?」
なんだ“アレ”は。
二十数年間生きてきたが何もない空間に穴が開くなんて見た事ない。
そんな事を思っているといきない何かがその穴に落ちてきた。
それは湖の真ん中に派手な水柱を上げて着水する。
その余波で津波が起こり彼女に襲い掛かる。
「ふぁ!? 何じゃこりゃ!!」
余りの訳の分からない状況にヒカルノは自身が水浸しになっている事を忘れるのだった。
イングが目を覚ましたのはベッドの上だった。
まだぼやける意識を無理矢理覚醒させると辺りを見回す。
清潔なベッドに白一色の部屋。周辺には自身の心電図が規則正しくリズムを刻む。
左腕に目を向けると点滴用の注射針が刺さっていた。
日本語で点滴専用栄養剤と書かれていた。
鋭い痛みが頭部を刺激する。
額に手をやると包帯らしきものが額付近に巻かれていた。
「ここは……」
「気が付いたかい?」
イングがそう呟くと女性の声が聞こえた。
体を起こし、声のする方へ顔を向けるとそこには女性が立っていた。
身長は160センチ後半だろうか。
スタイルはいいようだ。
鋼龍戦隊の女性隊員と比較しても遜色無い。
地球圏の公用語である英語を話すという事は地球人か地球文明に明るい異星人かそのどちらかだろう。
何処かのコロニーだろうか。
そう思い、質問しようとした時、女性が話し出した。
「地球連邦軍、鋼龍戦隊PT開発チーム所属、イーグレット・イング少尉」
女性は右手に持つイングのドッグタグを読み上げていく。
「返すね」
そう言ってドッグタグをイングに投げ返した。
それを受け取ったイングは困惑する。
困惑の表情を読み取った女性は自己紹介を始めた。
「私は倉持技研の第二研究所所長、篝火 ヒカルノだ。よろしくね、イーグレット君」
それがイングとヒカルノの出会いだった。