イングがエクスバインの開発を進めているが行き詰ってしまう。
T-linkシステムの完成を見たのもつかの間の事である。
そもそも、第3世代の提議は操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした世代であるが、搭載した兵器を稼働させ制御するにはかなりの集中力が必要で、未だ実験機の域を出ない。また、どの機体も燃費が悪く、使い勝手も悪い。それは、特殊兵装に使用するシールドエネルギーが多過ぎる事と、特殊兵装に割くリソースが多過ぎて使い勝手が悪くなるのが大きな要因である。
燃費重視の機体もありアメリカのファング・クエイクや中国の甲龍があるが実験機の域を出ない。
イングが目指したのは重力射撃兵装、グラビトン・ライフルとT-LINKシステムを用いた接近戦兵装、T-linkセイバーの併用による戦闘でありこれは彼の前の機体エクスバイン・アッシュの運用方法である。
しかし、欠点はイングしか使えない代物になってしまうという事だ。
これでは倉持技研が要求する使用にはならない。
そうした物かと思い悩む。
自身が操縦者という事で製作もその色が出てしまう。
イングはココアに砂糖を入れそれを呷った。
その時である。
イングは閃いた。
(何も全部、一緒にする必要はないんだよ。量産型ゲシュペンストMk.Ⅱも兵装を換装して局面に対応していたじゃないか?)
T-LINKシステムは使えるユーザーが今の所、自分しかいない為、乗せはするがオン・オフの切り替えが出来る様に設定。
つまり、重力兵装、グラビトン・ライフルとロシュセイバーのみに限定させる。
フォトン・ライフルはS使用で標準装備枠で装備。
チャクラム・シューターは威力は高いが使い勝手が悪すぎるのでオミット。
ファング・スラッシャーはゾル・オリハルコニウムがこの世界に無いので別の素材で代用する事とした。
T-LINKセイバーはT-LINKカット時は通常剣として使用となった。
装備換装は2種類、高速戦闘型と遠距離攻撃型である。
接近兵装も増やそうとしたが容量とエネルギー効率の悪さの問題でキャンセルされた。
1か月後、完成したISを見るイング。
第2研究所整備室にエクスバインをISにデフォルメした様な出で立ちの機体が鎮座していた。
「これがエクスバインか……。なんか、メカメカしいかんじね」
ヒカルノの言葉にイングは苦笑しながら自身の念能力を発露した。
確かにその通りで、フルスキン、全身装甲というだけでも珍しい。さながら鎧が鎮座した様な感じをヒカルノは受けた。
イングの体が一瞬、濃いエメラルドグリーンの光に包まれ今度はエクスバインの前装甲が開いた。
イングはそれに乗り込むとOSを起動させる。
「フォーマット及びフィッテングを開始。フィッティングデータ、ロード。スペック、FCS、T-linkダイレクト。ラーニング・スタート」
イングの呟きと共に各種画面が忙しなく動く。
「モーション誤差、サーボモーター限界値、RT修正。過負荷部分はフィールド・コート。リスタート、オミット。オプティマイゼーション」
イングは何をやっているかといえば、各追加装備装着時のデータ取得。必要スペックの参照、火器管制への反映はT-LINKシステムで直接出入力。搭乗者への学習転写開始。追加装備の構造および出力の変化によるモーションのズレ、サーボモーターの稼働範囲限界はリアルタイムで修正。それにより発生する過負荷は念動フィールドにより緩和。更新作業における再起動はスキップ。最適化開始の作業を念能力で機体に働きかけ作業したという事だ。
これを見たヒカルノは唖然とした。
なにせ、機体の不具合を調べ機体を矯正、専用のソフトでOSのバグを数ヶ月調整し、パイロットの学習に1ヶ月以上かかる作業を僅か数十秒にスキップしてしまった。
しかも念能力でパイロットが瞬時に学習、機体に掛かるソフトウェア、ハードウエアの負荷を念能力で捻じ伏せたのだ。
これにはヒカルノも言葉が無い。
(勘弁してよ……数ヶ月の作業を僅か数秒? 頭おかしくなりそうよ)
そう思いながらもヒカルノはこうも思う。
(こんな事をしないと生き残れなかった世界か……)
と。
「ハッチオープン」
イングの声と同時に整備室の訓練場に繋がるハッチが静かに開く。
エクスバインを乗せたターンテーブルが静かにハッチ開放部へと回転した。
ターンテーブル側のレールとハッチ側のカタパルトレールが繋がる。
発進許可は出た。後は飛び立つだけだ。
「イング・イーグレット。エクスバイン、行きます!」
イングのコールと共にカタパルトは勢いよくエクスバインをゲートの外へと押し出す。
イングの見る世界も加速していく。
数秒にも満たない時間で飛行可能な推力を得てエクスバインは訓練場へと飛び立った。
エクスバインを飛行させながらイングはOSを開き、T-LINKシステムを用いて即座にOSを書き換え、ハード面での調整を即座に洗い出す。
(関節駆動部に若干の誤差、思考制御に0.21秒誤差がある。通常戦闘では気にならないが……嫌な誤差だ。ここも修正課題だな)
『どうだい、イング?』
ヒカルノの通信でイングは自身が感じた事を率直に述べていく。
それを聞いたヒカルノは思考しながら呟く。
『それ位の誤差なら許容範囲内だろうね。君みたいに人知を超えた反応速度なら話は変わるけど普通のIS操縦者なら違和感なく行けるはずだ』
「ですが、高速機動戦では不安材料です。修正を入れておきます」
そういい、イングは次に射撃試験を開始する。
フォトン・ライフルを取り出し右マニュピレータにマウントさせターゲットの中央を確実に射抜いていくが納得できない表情で射抜かれた的を見やる。
(射撃管制制御が甘い。ロックオンに0.25ミリズレてる)
イングはフォトン・ライフの反動に思い至る。
火薬を使用する従来のライフルとは違い反動は軽減されているが、それでもレーザーライフルの様に光の熱で焼き払うのではなく光子を圧縮しそれを撃ちだすフォトン・ライフルや荷電粒子を圧縮し撃ちだすビームライフルなど反動が嫌でも付き纏う。
その為、イングは射撃管制ソフトを瞬時に書き換える。
(フォトン・ライフルの反動を0.25ミリ修正、次は頭部バルカン試射)
今度は頭部の5.7ミリ機関砲を発射する。
この機関砲は対人戦及び、IS搭載型ミサイル迎撃用に使用する兵装である。弾頭はタングステンを芯にその周囲をステンレスでコーティングしたアーマーピアシング弾を使用している。
(こちらも反動でズレる。修正は0.15くらいか)
「こちらイング。グラビトン・ライフルの試射を行います」
その言葉にヒカルノは待ったをかけた。
『それは止めて。あの兵装は火力が強すぎるのよ? それをこんな狭い所でぶっ放せば訓練場が壊れるわ』
このグラビトン・ライフル。火力は文字通り現行するどのISよりも火力が桁違いなのだ。防御重視の打鉄に防御パックを搭載しても翳めただけでシールドエネルギーが3分の2持っていかれる。回避しようにも亜光速。正に一撃必殺なのだ。これを試験射撃したイング以外は唖然とした。何せ、ISを最強の兵器たらしめ、射撃兵装では突破困難の最強で最後の砦である絶対防御が発動、翳めただけで発動させそれにヒビを入れたのだ。
『富士駐屯地の東富士演習場で撃たせてあげるから今は我慢して。ね。』
「軍に協力を?」
『お得意様だし、デモンストレーションを兼ねてね。流石に軍も打鉄に変わる新たなISをご要望なのよ。世界に先駆けて量産された第3世代機を正式採用して内外に威信を示すのと国防上のアドバンテージを周辺諸国に見せ付ける名目かな』
その言葉にイングは眉根を潜めた。
抑止力は確かに無用な争いを生まないのに必要だ。
それはこう言う理論だ。
自分に手を出せばタダではすまない。勝つにせよ負けるにせよ相手は手酷い痛手を負う。だから手は出さない方が身の為だ。
これが抑止になる。
旧時代の核抑止と理屈は同じ。いや、核をISにすり替えただけなのだ。
人間の本質とは早々変わらない。
他者との違いから生まれる不信感と違和感。
これが人なのだ。海外旅行をしていても感じる。いや、強く感じる。
自分は自分が所属する国民なのだと。
その意味でEUとはある意味失敗なのだ。
国境を無くしオールヨーロッパは幻想だった。移民問題、経済問題、他国との格差問題。この世界のヨーロッパはその様なゴタゴタに目を瞑り、男を隷属する事で生き残った経緯がある。どちらにしろ世界は頭打ちなのだ。
新たな価値観が生まれても根底が変わらなければ何も変わらない。
その事をイングはあの大戦で学んだ。
人に変え難きモノを変える。難しいだろう。多くの屍を築き上げてなお、人は本質的に変わらなかった。
人は過ちを繰り返す。
何度も、何度も。
イングは自身がこの世界の抑止力の輪の中にいる。積極的に係わっている事に拭い難い不快感があった。
かといって見て見ぬふりをして逃げる事もイングには出来ない。
ジレンマがイングの心を焦燥とさせる。
そう言う意味ではイングはこの世界との係わりを兵器開発と言う非生産的な事でしか係わっていないのだ。
イングはISというこの世界に限りなく根幹に近い所に関わっているのに価値観と言う所では限りなく遠かった。
そう、イングはこの世界では“ゲスト”なのだ。
歓迎もされよう、疎まれもしよう、だが、住人にはなれない。
同じ価値観を共有、或は、賛同していない。知識でしか知りえない異物。
それがイングの立ち位置なのだ。
イングが自身とこの世界との係わりに想いを馳せている時だった。
突如警報が鳴り響く。
「『!?』」
イングもヒカルノも慌てて状況確認を開始する。
『イング』
「ええ、招かれざる客のようです」
その言葉にモニター越しにヒカルノは忙しなく目と指を動かす。
『侵入者はIS搭乗者2名、機械化歩兵が10名ね。ああ、クソ。クラッキングされてる。やるわね、このハッカー……。私が組んだソフトを強引にでも突破するなんて』
「IS一小隊に随伴歩兵が一分隊。ハッカー部隊も含めれば典型的な小規模制圧作戦に投入される編成ですね」
イングの言葉にヒカルノも頷いた。
なら、この侵入者達の目的は何か。
「目的は、展開行動から予想されるのは第2研究所。つまり……」
『エクスバインか』
「迎撃します」
その言葉にヒカルノは待ったをかけた。
『無茶するね……。クロスレンジの試験はまだでしょうに。まあ、それしか無いか……』
ヒカルノは頭を掻き毟りながら自身のIDパスを機会に翳した。
電信音と共に承認確認のディスプレーが空間に浮かぶ。
ヒカルノが手を翳すと彼女の手の静脈を読み取る。
『所長権限で君の施設内のIS使用の許可をだしたわ。施設を壊さないレベルでお願いね。後、人死には出来るだけ避けてね』
「了解」
そう言うや否やイングは飛び出していった。
その頃、侵入者達は手際よくスタッフや技術者達を拘束していく。
「人質は1か所に集めろ。残りは引き続き施設の探索を」
「了解」
IS操縦者の命令でアサルトカービン銃を持った歩兵が静かに動く。その動きに無駄は無く規律が見え隠れする動きだった。
「我々は例のISを回収する」
「了解」
IS操縦者はパートナーであるもう一人にそう言うと調査を開始した。
「それにしても、政府は思い切った事をする」
一人の操縦者の言葉にもう一人も頷いた。
「ええ、まさか、クラモチに襲撃を仕掛けるなど」
「だが、忌避すべき事態だ。第3世代機を量産するなど」
その言葉にもう一人も頷く。
「ええ、軍事バランスはこのままの方が有り難いです」
その時、ふと、疑問が浮かぶ。
「人が少ないな」
そう、第2研究所とはいえスタッフは多い筈。
それなのにスタッフが少ないのだ。
「日曜日ですし人は少ないでしょう。私としては有り難いです。無用な流血沙汰は避けたいのが本音ですから」
彼女達の上司もその日を選んだのだろう。
男ながら話の解る上司だ。
IS操縦者の彼女達のまとめ役で指揮も上手い。
「まあ、楽でいいけどね」
「ウエットワークに変わりありませんわ。なら、すぐ済ませましょう」
もう一人の女性がそう言った時だった。
「!? レーダに感知! これは……」
「ああ、ISだ。しかも速い」
「馬鹿な……。入り組んだ建物内を戦闘速度で動けるなんて!?」
その言葉にIS操縦者達は確信した。
この操縦者は出来る。それもかなりの技量だ。
「やれやれ、ハイキングみたいに楽な任務かと思いきや」
「とんでもないのが出てきましたね」
ディスプレーに歩兵達の負傷表示が次々に浮かぶ。
「おいおい……、これだけ高速で動いて死者なしかよ」
「真似できませんね。対人専用装備でもあるのかしら?」
「機体とパイロット、どちらも腕が一級品」
その事に思い至り彼女達は冷や汗を流した。
彼女達の耳からは阿鼻叫喚の音声が耳を震わせる。
『駄目だ! 速過ぎる! ギヤああああああああ!!』
『くそ、現行装備では対応できない! 2ブロック下がるぞ!』
『クソ!? 何だアイツは!?』
その音声と共に画像が映し出される。
「おいおい……」
「全身装甲でこの速さ。それにコメカミに対人兵器とは斬新ですね。マスク型センサーの上に更にゴーグル型センサーなんて……」
彼女は本部に通信する。
「HQ、こちらP-1」
『P-1どうした?』
男が通信越しにP-1に語り掛ける。
「問題発生。例の機体が動きだしこちらを迎撃。歩兵に負傷者多数。此方に向かってきています。画像を転送します」
『確認した。全身装甲……。マスク型センサーの上に更にゴーグル型センサー。以降、コイツの事は“ゴーグル付き”と呼称する。奴を迎撃しろ』
「聞いたなP-2、ゴーグル付きを止めるぞ」
「了解!」
そう言うと彼女達は動きだした。