IS大戦OG   作:sigurui

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6話 明かされる凶鳥

倉持技研第2研究所襲撃事件はイングにとっても倉持技研にとっても浅からぬダメージだった。

 

先ず頭を悩ませたのが死者は出なかった物の怪我人が続出し第2研究所は一部使用不可と言う状況だった。

 

KEEP OUTの黄色いテープがそこら辺中の壁やドアを飾り付け、血痕、弾痕跡や薬莢が落ちた部分、襲撃者が倒れていた部分にはチョークが引かれていた。

惨憺たる有様にイングもヒカルノも臍を噛む思いだった。

一番堪えたのは事情聴取だった。

警視庁公安部の外事全課が合同調査を行う大事件となった。さらに、IS開発企業襲撃という状況が状況だけに国家安全保障会議までもが動く事態となった。その取り調べは国家安全保障会議の要請により一元化されたとはいえ膨大な時間を要した。

イングの国籍は無い。それこそ国籍不明、戸籍不明の“存在しない男”なのだ。公安や国家安全保障会議の要らぬ関心を引いてしまうのは致し方なしであろう。

いくらカバーストーリーを用意しても穴はある。

そこを突くのが彼らは心得ていた。

 

何度目か分からない事情聴取を終え、イングは倉持技研に帰る事を許されたが監視は付いた。遠くからの視線に辟易しながらも社長室に足を運んだ。

門の外には情報規制が敷かれたとはいえ報道陣が詰めかける騒ぎとなっていた。

これもイングを辟易させるに十分な状況である。

 

横目にそれを眺めながら社長室を目指すイングに見知らぬ少女がいた。

年の頃は自分と同じだろうか。水色の髪をショートカットした利発で美しく整った顔立ち、スタイルもそこそこいい。

しかし、イングが一番気になったのは彼女を構成する雰囲気だった。

 

(全く隙が無い。それでいて気配の消し方も自然だ。この人は強い)

 

直感だがイングの警戒レベルは一気にレッドゾーンへと引き上げられた。

攻撃的な気配を殺し、目線を合わさず気配だけを読み取る。

何時でも反撃できるように念能力で筋力を強化し、それを悟られない様に歩く。

丁度、少女を通り過ぎた時、少女の方から声が掛かった。

 

「あら、冷たい。こんな美人がいるのに声を掛けないなんて男として減点物だわ」

 

その言葉にイングも振り向きながら返した。

 

「そう言う貴女こそ、見知らぬ男に声を掛けるお尻の軽い女性は減点物ですね」

 

その言葉に少女は扇子で口元を隠しながらニヤリと笑う。

 

「以外に古風なのね? まあ、いいわ。イング・イーグレット君」

 

自身の名を呼ぶ少女の声にイングは更に警戒感が増した。

 

(この人、何で僕の名前を!?)

 

イングの内心の驚きを知ってか知らずか少女は唄う様に言葉を紡ぐ。

 

「イング・イーグレット、国籍不明、年齢不詳、今年2月から倉持技研に入社。入社成績は優秀。第二研究所に配属後、目覚ましくソフト面において非凡な才覚を見せる。更に凶鳥プロジェクトの実質的責任者として第3世代型IS『エクストラ・ヒュッケバイン』を製作。と……。いっや~、天晴れ、天晴れ」

 

そう言いながら彼女は扇子を広げ白の無地に墨でアッパレ! と達筆に書かれた文字が見えた。それを見たイングはあの扇子、デジタル画像扇子である事を見抜く。

 

「何せ、日本国内において内閣情報調査室、通称内調の情報網に引っかからないなんてそう無いわよ?」

 

その少女の言葉にイングは明らかな不審の目を向けた。

 

(何者だ? 隙が無いならまだしもわざわざ諜報機関の人間がターゲットに接触? 情報戦は基本的には気付かれず、悟らせず、悟られず、情報を得る。これはシギントだろうとヒューミントだろうと変わらない)

 

イングは一瞬で思考する。

 

(先ず、彼女は諜報機関かそれに類ずる人間なのは間違いない。セレーナさん程では無いにしても手練れだ。そんな人間がわざわざ危険を冒してターゲットに接触を図る。普通はターゲットに近しい人間を懐柔、脅迫して得た情報を収集、そこから資料の正確さを加味して情報の精度と鮮度を計る。セレーナさんが言っていた。『情報は生き物。捕ったらすぐ料理しろ』と……。このセオリー無視の彼女の行動……)

 

その時、イングの頭に雷鳴が走る。

 

(そうか……。時間。彼女以外の人間も僕の情報を得ようと躍起だ。少なくとも電子世界の情報戦で今主流のシギントでは僕の情報は圧倒的に少ない。まず間違いなく先が無い。ただ、“可笑しな社員”で終わってしまう。だからこそのヒューミント。対人情報収集にシフトした。“僕と言う人間”を彼女、或は彼女の上が把握する為に……。僕が何者で何を目指し、何を考え、どの様な行動をとるのか。それが国家、或は組織にどの様な影響があるのかその行動で利害はどこにあるのか、利がありその利を何処まで広げられるのか、害がありその害を何処まで摘み取るのか、或はその害をどの様に利用できるか、或は害が大きすぎるなら暗殺なんて手もある)

 

彼女をチラリと一瞥した後、更に考える。

 

(何故、彼女に時間が無いのか? 分からない虎穴に入るか……)

 

決意したイングは彼女に語り掛けた。

 

「お名前を聞かせていただけますかレディー? 名前を知らない相手と会話は余り気乗りしない物で」

 

「それは失礼、ジェントルマン。私の名前は楯無、更識 楯無よ」

 

イングの言葉に女性はアッサリと名を告げた。

 

(偽名だな……。更識? 以前、どこかで……)

 

その時、イングは記憶の隅から更識という名を探り出す。

その時だった。イングの脳裏にその名がヒットする。

 

(更識、確か……日本の裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部『更識家』があった)

 

その時、イングはハッキングで情報を収集していた時、諜報関連でよく更識 楯無の名が踊る事を思い出した。

 

「という事は、貴女は若干15歳にして楯無の名を襲名した17代目更識当主か」

 

その言葉に笑顔から驚きへとその表情を変える楯無。

 

「よくご存じで」

 

しかし、すぐに元の人を食った様な笑顔を作る。

イングもイングで真偽の程は分からない。

 

(本当に彼女が更識? 分からん)

 

そう思いながらもイングは楯無に話しかける。

 

「で、その裏の世界のサラブレッドが僕に何の用です?」

 

「あら、お喋りじゃ不服かしら? “凶鳥”さん?」

 

その呼び名に懐かしい思いで聞く。

彼の敵からの二つ名が『凶鳥の眷属』、『凶鳥の長』とうたわれていた。

懐かしい想い振り切りイングは冷たく彼女をあしらった。

 

「悪いが社長に呼ばれていてね……。すまじきものは宮仕えってね……。生活の為とはいえ中々どうして儘ならない物だよ」

 

そのお道化たイングのいい様に楯無も苦笑する。

 

「似たようなモノね。私も偉そうに当主だ、長だといっても国に仕える立場なの」

 

「それは日本にかい? それともロシアに? ロシアIS代表の更識 楯無さん?」

 

その言葉にイングは肩を竦めながら彼女のもう一つの顔も言ってのけた。

そう、彼女はロシア代表のIS操縦者なのだ。

 

「何の政治的取引で日本人の君がロシアのISを作った挙句、その代表になったかは分からない。日本の為なら企業としても思惑が合致するから君の諜報活動に協力するけど、ロシアの為ならお断りだ。企業としての理念に反する。僕達は商売人だけど最大のお得意様である日本を裏切れない。義理が廃ればどの業界でも爪弾きにされる。信頼と信用は行動でのみ得られる。金では買えない。買えたとしても上辺だけ。そんな信頼や信用、ゴミと一緒だ。札束で靡くコウモリはどの世界でも信頼も信用されないそんな奴は自分の陣営を殺しかねないからだ。敵味方の境界は曖昧にしない。これは基本だ」

 

そして、イングは問う。

 

「君はどの陣営だ? 日本か? ロシアか? 義理立てするのはどちらだ? 先ずは旗を見せてくれ。話はそれからだ」

 

イングがあえて義理立てという言葉を使ったのは彼女の本心は分からないなら彼女の“儀”がどこにあるのかそこが知りたかった。

 

イングにとっての儀はあくまで会社、しかし、会社が間違いを犯したなら全力で止める。例え会社に弓引く事になっても。

それがイングがこの世界で世話になった会社への義理の通し方だと思ったからだ。

それに社長はリン・マオを何処かに思い起こさせる何かを持っていた。

 

あの人なら自身の持つ技術を有益に使ってくれる。

 

そう思わせる何かが。

 

「あくまで私は日本の味方よ。心配しないでね」

 

「そうですか、では僕はこれで」

 

そう言う楯無にも思惑や裏はあるだろう。だが、表面上がそうならそれでいい。

イングはそう思うと今度こそ社長に会う為、社長室を目指したが。

 

「何でついてくるんです?」

 

イングの問い掛けに楯無は笑いながら答えた。

その笑顔は人を食った様な笑顔では無い。年相応の少女が悪戯を考えた時の顔だった。

 

「まあ、私も貴方の社長に用事があるからよ」

 

その言葉にイングは訝しんだが、まあいいだろうと考えなおしスルーした。

 

 

楯無は楯無でイングに対し思う所はあった。

 

(成程ね……。面白い男の子だわ。ちょっと私の周りでは見ない感じの子ね)

 

面白い。

 

そう純粋に思えた。

更識の名を知り、それでも野心無く楯無に付き合う人間はそういない。

それは同性で自身に仕える布仏 虚しかいない。

 

それだけ更識という家の名は大きい。

自慢じゃないが彼女はお嬢様なのだ。

他の温室育ちのお嬢様との違いがあるとするなら幼き日より裏の世界に浸かり切り、メキメキと頭角を現し、15で当主の証たる“楯無”の名を襲名した。

 

更識 刀奈。

 

それが彼女の本当の名前だった。

 

そんな彼女にとって周りの異性は自身を“更識の次期当主”としか見てくれなかった。

パーティーでもそんな連中をあしらってきた。

そんな彼女がイングに感心を抱いた。

異性で初めての事だ。

 

「イング・イーグレットか……面白くなりそう」

 

そう呟いた楯無はイングの背中を追いかけたのだった。

 

 

 

2人か無言のまま社長室に到着し、社長室のドアを軽快ノックする。

上質な木の音が廊下に響きあたると社長である石田 ヒロミの声が響く。

 

「入れ」

 

その声と共にイングと楯無が入室するとそこには背広姿の老紳士が一人、応接用の椅子に腰かけイングを観察していた。

 

「接客中でしたか? 出直します」

 

「いや、いい。この方とそこにいる更識を交えての話し合いだ」

 

イングの言葉に社長が待ったをかけた。

 

「この方は?」

 

イングの質問に老紳士は立ち上がり自己紹介を開始した。

 

「初めまして、イング・イーグレット君。私は轡木 十蔵。IS学園の学園長だ」

 

その言葉にイングも挨拶をする。

 

「初めまして、ご存じだとは思いますが、私、倉持技研第2研究所所属のイング・イーグレットです」

 

「若いのに礼儀がしっかりしている。大変結構」

 

その様子を見た十蔵はうんうんと頷きながらお互いの名刺を交換し合う。

そのやり取りが終わるとイングは疑問に思った事を口にした。

 

「IS学園の学園長は女性と伺っておりましたが……」

 

その言葉にああ、と十蔵は納得した様にイングの疑問に答える。

 

「表向きは妻がIS学園の学園長を運営しているが、何分ご時世でね。男が学園長では外部から要らぬ軋轢を生む可能性がある。その為の措置と思って結構ですよ」

 

成程、とイングが一拍置くと今度は楯無に語り掛ける。

 

「楯無君、久しぶりだね。IS学園入学おめでとう。少し早いが学園長として、また一個人として嬉しく思うよ。それにまた一段と美しくなった。お父君も鼻が高いだろう」

 

「有難う御座います。学園長。学園長のご期待に沿えるよう励みます。それに、学園長にそう言っていただけると女として自信がつきますわ」

 

その言葉に楯無は微笑みながら返す。

 

「さてイング、彼女とは挨拶が済んだ様だな。なら本題に移ろう」

 

そう言うとヒロミは今回の本題に入る。

 

「襲撃事件での今後の対応だ。正直、君の事を隠す事が難しくなった」

 

その言葉にやはりと言う思いがイングにあった。

そう暗部の更識 楯無が動いた時点で予想できる事だ。

 

「人の口に戸は立てられない。なら、此方から打って出る」

 

その言葉にイングは身構える。

 

「君がISに乗れる事を公表する」

 

その言葉にイングは反論する。

 

「それでは無用の混乱が起こります」

 

「もう起きてるわ。日本に入国した諜報機関の影がチラホラ見え隠れしているの」

 

楯無の言葉にイングは事態は思っていたよりも深刻だと気が付いた。

 

「カウンターエスピオナージにも限界はあるの。特に米国のCIAは死ぬほど厄介なのよ。日米安保が改正されそれに合わせて自衛隊が国防軍に組織転換を計って50年。更に白騎士事件でアメリカの眼は更に強まったわ。白騎士の被害者であるアメリカ第7艦隊の被害が一番甚大だったもの同盟国の筈の日本の関与が疑われる程に」

 

七つの海を支配するアメリカ海軍。その最強艦隊たる第7艦隊の大損害はアメリカのアジア太平洋戦略に大きな転換を迫られた。更に中国人民解放軍やロシア軍も損害は甚大で動くに動けない状態だった。日本も甚大な被害を受けている。

 

あの事件で得をしたのは実質、篠ノ之 束ただ一人である。

 

日本は世界中から厳しい監視の眼に曝されていた。

その事に思い至りイングは暗澹たる想いだった。

 

「それと僕がISを動かせる事と何か関係が?」

 

その因果関係を社長は語る。

 

「公表し国に“保護”してもらう」

 

「事実上の“監禁”でしょう?」

 

その言葉にイングは皮肉を持って返した。

 

「違う。もう、国という後ろ盾が無い状況では我が社は君を守り切れないラインになってしまったんだ。相手は国家機関、公権力だ。何の後ろ盾も無く戦えない相手だ」

 

「背中から撃たれる可能性もありますね?」

 

そのイングの言葉の中に日本が拉致監禁し、自分をモルモットにする可能性がある事を語外に込めた。

 

「我が社を敵に回すという事は日本のISシェアーの40パーセントを担う会社を敵に回すという事だ。国防に浅からぬダメージは覚悟していただくさ」

 

その言葉にイングは呆れてた。

 

「特殊会社でしょう我が社は」

 

その言葉に鼻で笑う。

 

「もう、親方日の丸から離れている。だが、我々は日本企業だ。日本人の視点で日本の為に物を作り、売る。それが我々の会社の在り様だ。その観点から我が社は人体実験などという非人道的な行いをするなら国を正すまでだ。我々、商人のやり方でな」

 

その言葉にイングが以前からマオとヒロミが似ていると感じた所がここだと思った。

 

「という訳だ、更識殿。彼の戸籍の手配を頼む。彼が日本人なら表立って日本政府や軍は動けない」

 

その言葉に楯無は短く了解というと社長室から退出した。

 

「学園長、彼の学園入学の手続きをお願いしたい。3年で我が社と国とでイングの身の振り方に決着をつける」

 

その言葉に十蔵はにこやかにこう言った。

 

「事態が事態ですし、特別枠という事で入学の許可を出しましょう。しかし、試験は受けてもらいますよ?」

 

そう言いながら十蔵はイングの方に向くとこう言った。

 

「入学おめでとう。イング君。良き学園生活を」

 

そう言いながら退出した。

 

「と、言う訳だ。辞令、イング・イーグレット。4月よりIS学園生徒として出向。入学し研修せよ。期間は3年だ。辞令書は後日発行する。質問は?」

 

「明確な脅威があった場合の対処法は?」

 

「正当防衛の範疇で叩き潰せ」

 

その言葉にヒロミはニヤリと笑いながら言い放つのだった。

 

 

 

 

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