花咲く世界のクロニクルセブン -じじいと孫のCode:VFD-   作:白鷺 葵

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揺れる心のモノグラム

 この夏休みは、暫くノーデンスの方で寝泊まりすることになった。自宅からノーデンスに通うには、あまり条件が良くないためだ。リヒト、ソウセイ、シキも同じように、ノーデンスで寝泊まりすることが決まっている。

 長期間家を空けることは確定していたため、イノリたちは一度自宅に戻って準備を整えることにした。自宅を懐かしむミカゲも、「手伝いをする」と動向を申し出たし、リヒトのお手伝いさんも一緒に手伝ってくれた。

 

 

「とりあえず、こんなものかな」

 

 

 必要な荷物を纏め終えて、イノリは大きく息を吐いた。ミカゲも頷く。

 

 

「あとは、俺の日用品を取り繕えばお終いだな」

 

「そうだね。おじいちゃんが亡くなった後、全部処分しちゃったから」

 

 

 自身の私物を確認したミカゲは、その少なさに苦笑する。遺品整理はとうに済ませていたためだ。死んだ人間が再び戻ってくることなど想定していない。

 丁度それと同じタイミングで、荷造りを終えたメイドがやって来た。白い髪に赤い瞳、紺と黒基調のメイド服を着た女性――小鳥遊ミユは、リヒト専属のメイドである。

 リヒト専属の使用人は4人いて、ミユはその1人だ。彼女の他に女性が1人、男性が2人いる。他の使用人たちは、シキやソウセイ、リヒトに同行し、手伝いに駆り出されていた。

 

 

「それじゃあ、こちらの荷物はノーデンスに運び込んでおきますね。ハウスキーパーもお任せください!」

 

「お願いします、ミユさん」

 

 

 満面の笑みを浮かべたミユに、イノリはぺこりと頭を下げた。ミユはてきぱきとした仕草で荷物を運び出していく。

 その背中を見送った後で、イノリとミカゲは顔を見合わせる。2人で買い物をしに行くのは8年ぶりだ。

 

 ――いや、3人だ。

 

 背後から漂う優しい気配は、ユイのものだ。祖母は楽しそうに目を細めている。3人で買い物に行くのは、実に9年ぶりであった。

 祖父母と孫――この3人で買い物をする機会が再び訪れるだなんて思っていなかったため、イノリは堪らず口元を綻ばせる。

 

 

『ふふっ。ミカゲくんと街で買い物するの、久しぶりね』

 

「だな。私服に関するアドバイス頼むわ」

 

『ミカゲくん、自分で自分の服選べないもんね。トウゴくんの私服には、ばっちりアドバイスできたのに』

 

 

 ユイが口元に手を当てて微笑んだ。菫色の双瞼はどこまでも優しい。ユイの言葉を聞いたミカゲも頷く。心なしか、ミカゲも楽しそうに目を細めたような気がした。

 幽霊騒ぎ防止のため姿を消しているとはいえ、一緒に買い物ができるということは嬉しいことだ。3人は意気揚々と家を出て、繁華街へと繰り出した。

 

 

 

***

 

 

 

 東京の繁華街は人でごった返している。長期休みの最中ということで、学生たちを中心とした若者で賑わっていた。

 

 イノリ、ミカゲの手には、デパートで買い占めた日用品が入った袋が抱えられている。その背後には、イノリたちにのみ視認できるレベルで実体化したユイがついて来ていた。

 買い物の大部分を終えた3人は、近場のベンチに腰かけた。街路樹がベンチを覆う傘のように聳え立っており、丁度いい日影が出来上がっている。吹き抜けるそよ風が心地よい。

 空を見上げれば、雲1つもない快晴が広がっている。遠くの方には、渋谷に生い茂る大樹が見えた。あそこの奥地はマモノが出現するため、ISDFか戦闘訓練校の関係者以外立ち入り禁止である。

 

 

『東京も随分と復興してきたんだね』

 

「うん。と言っても、まだ異界化したままの区画も多いけど」

 

『それでも、人が生活できる建物、買い物できる場所、遊べる場所が増えたように思うなあ』

 

「だな。目の前の屋台群とか、まさしくそれだ」

 

 

 ユイはゆるりと目を細めた。ミカゲも、目の前に並ぶ出店を眺めながら頷く。ムラクモ13班が駆け抜けた時代は、生き抜くための環境整備が重要視されていた頃だ。彼らが生きていたときよりも、異界化したままの区画は確実に減ってきている。

 日本列島の完全復興までには1世紀以上かかると言われているため、イノリたちが生きている間には見れないだろう。……まあ、だからといって、現代に生まれたことには満足しているのだが。イノリが“ここに生まれ落ちたこと”自体が奇跡みたいなものだし。

 

 人は出自や生まれた環境を選ぶことができない。自分が持ちうる/背負ったものを駆使し、運命を切り開いていかねばならないのだ。自分が生まれ落ちた時代、出自、環境が揃っていなければ、出会えない人々だっている。渡来一家はそれを人一倍理解しているつもりだ。

 

 ミカゲとユイが、2020年に試験監督とムラクモ候補生として出会わなければ、イノリは生まれなかった。

 今こうして生きていなければ、リヒト、ソウセイ、シキたちと友人になることもなかった。

 セブンスエンカウントでミオやナガミミたちと知り合うこともなかったし、ユウマと出逢うこともなかっただろう。

 

 

(ユウマさん……今、どこで何をしてるんだろう)

 

 

 イノリはそんなことを考えながら、出店に視線を向けた。民間主催の物産展が開かれているため、日本各地の料理が並んでいる。その他にも、祭りの屋台で並びそうな料理もあった。美味しそうな香りが漂ってくる。

 

 

「丁度いい時間帯だし、昼飯でも食おうか」

 

「そうだね。何食べる?」

 

 

 ミカゲの提案に乗ったイノリが屋台の方を向いたときだった。丁度、イノリが見ている場所に、ISDFの制服を身に纏った軍人が飛びこんできた。

 黒い上着を羽織り、青い制服を身に纏った青年。彼の隣には、上官と思しき厳つい壮年の男性が同伴している。彼らのことを、イノリは知っていた。

 

 イノリが声を上げるよりも先に、青年がイノリたちの方向を向いた。彼はイノリを見つけたのだろう。表情を綻ばせ、こちらに向けて手を振った。

 

 

「イノリ!」

 

「ユウマさん!」

 

 

 ユウマに応えるように手を振り返せば、彼は小走りでこちらへ駆け寄ってきた。

 一歩遅れてヨリトモがミカゲを見つける。ミカゲは合図するように手を挙げた。

 

 

「こんなところで会うなんて珍しいですね。巡回ですか?」

 

「ええ。イノリは?」

 

「おじいちゃんと私の日用品を買ってたんです。暫くはノーデンスで寝泊まりすることになったので」

 

「そうですか」

 

 

 不思議だ。ユウマと話していると、気持ちが弾む。楽しくて楽しくて仕方がない。勿論、友人たちと一緒にいるときも楽しいし、気持ちは弾んでいる。

 けれども、その中でも1番、ユウマは“特別”だった。うまく説明はできないが、酷く甘い心地がするのだ。もっと一緒に居たいとすら思う程に。

 できればでいいのだが、ユウマも、“イノリと話をしていて楽しい”と思ってくれたら嬉しい。その気持ちをひっそりと抱え込みながら、イノリは微笑んだ。

 

 

「丁度、昼食を食べようとしていたところなんです。もしよろしければ、一緒に食べませんか?」

 

「いいですね、それ。……ああ、ちょっと待ってください」

 

 

 ユウマは二つ返事で答えようとして、何かを思い出したように言葉を切った。彼は振り返る。提督、という呼称を口に仕掛けたユウマだが、彼は止まった。

 

 視線の先には、たい焼きを口に突っ込まれたヨリトモと、今川焼を頬張りながら、右手にアイス、左手にクレープを持ったミカゲの姿があった。

 イノリとユウマが話し込んでいる間に何が起きたというのだろう。自分たちが話し込んでいた時間は、そんなに長くなかったはずなのに。

 

 

「先生、いきなり何をするんですか!?」

 

 

 咳き込んだヨリトモが恨めし気にミカゲを見上げる。教え子の反応を見たミカゲが目を細めた。

 

 

「“今川焼よりたい焼き派。特に、オーソドックスなもので、中身の具はつぶあん一択。白たい焼きや、カスタードみたいな小洒落たものは好きじゃない”」

 

「――!」

 

「“クレープやアイスクリームのような洒落たものは、自分が食べるのはあまり好きではない。でも、他の人が食べている図は悪くないと思う”。――だろ?」

 

「……覚えていたんですか」

 

「すまん。実は、今しがた思い出した」

 

「ご冗談を」

 

 

 懐かしさと親しさを込めた紫水晶の瞳は、自分の記憶が間違っていないことを確認したかのようだ。それを聞いたヨリトモが苦笑する。しかし、どこか嬉しそうに見えたのは気のせいではないらしい。

 夫と夫の教え子の様子を見守っていたユイも苦笑した。菫色の瞳には、惜しみない愛情が滲んでいる。妻と教え子の眼差しを受け止めたミカゲもまた、嬉しそうに目を細めた。活き活きした横顔に、イノリも自然と口元が綻ぶ。

 ユウマは物珍しそうにヨリトモたちの様子を眺めていたが、用事を思い出して手を叩く。彼はヨリトモに「イノリと昼食を食べたいが、構わないか」と問いかけた。ヨリトモはポカンとしたようにユウマとイノリを見比べたが、2つ返事で頷いた。

 

 上司から許可を得たことで安心したのだろう。ユウマは表情を綻ばせながらイノリの方へ向き直った。

 

 

「許可がもらえました。それじゃあ、何を食べますか?」

 

「そうですねえ……あそこのパン屋さんとかどうでしょう? 私の行きつけなんですよ」

 

 

 ユウマに問われ、イノリは販売用の車を指さす。以前からイノリたちが贔屓にしていた、美味しいパン店であった。

 長蛇の列はなかったが、車の周辺にある食事スペースには沢山の人で賑わっていた。ユウマは物珍しそうに周囲を見回している。

 

 店主は忙しそうにパンを売っていたが、イノリの存在に気づくと笑って手を挙げた。

 

 

「いらっしゃい、イノリちゃん! 今日は何にする?」

 

「“いつもの”でお願いします」

 

「オーケー、“いつもの”ね!」

 

 

 イノリの注文を聞いた店主は2つ返事で頷くと、棚から2つのサンドイッチを取り出した。

 

 1つめは、新鮮な野菜――真っ赤なトマトや歯ごたえのあるレタス、甘い玉ねぎ等をふんだんに使い、ハーブとスパイスで味付けされた鶏肉を挟んだベーグルチキンサンドだ。

 2つめは、新鮮な果物――マンゴー、バナナ、苺、キウイフルーツに、ホイップクリームと濃厚なカスタード――バニラビーンズが入っている――を使ったフルーツサンドである。

 イノリはいつもこの2つのサンドイッチを頼む。前者は食べごたえがあり、充分なボリュームがある。後者は午前中に頑張った自分へのご褒美であり、午後からの活力になるのだ。

 

 店主からベーグルチキンサンドとフルーツサンドの包みを受け取り、代金を支払う。ユウマは呆気にとられたようにイノリのサンドイッチを見つめていた。

 「隣のお兄ちゃんは何を食べるんだい?」と店主に問われたユウマは、ショーウィンドウに並ぶサンドイッチを一通り眺めているようだった。

 

 

「……俺も、彼女と同じものをお願いします」

 

 

 散々迷った後で、ユウマはぎこちなく注文した。程なくして、店主からベーグルチキンサンドとフルーツサンドを手渡される。

 

 

「あ、そうだ。私が払いますよ」

 

「え?」

 

「貴方に助けてもらったお礼、何も返してませんから」

 

 

 精算しようとしたユウマの手を止める。きょとんとこちらを見返した命の恩人は、イノリの言葉を理解しているようには見えなかった。

 イノリが代金を払おうとした現場を見て、ようやく合点がいったのだろう。酷く焦った様子で、「待ってください」と引き留められる。

 ユウマは割り込むようにして財布から代金を支払った。呆気にとられるイノリを横目に、店主はユウマから代金を受け取った。

 

 

「気にしないでください。俺は、当然のことをしただけですから」

 

 

 ISDFの若きエースは、爽やかな笑みを浮かべて言い切った。何て眩しい笑みなのだろう。どうしてか、謙虚で礼儀正しい好青年の姿が、大きな壁のように思えた。

 イノリは暫し代金を握り締めて所在なさげに佇んでいたが、仕方がないので財布にしまう。何とも言えない気分になり、思わず俯いてため息をついた。ユウマは気づいてない。

 

 自販機で飲み物――イノリがミルクティー、ユウマがコーヒー――を購入した後、空いたテーブルへと腰かけた。……向かい合う形で、だ。

 

 

「…………」

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、なんでもないです」

 

 

 イノリを真正面から見つめて首を傾げたユウマから逃げるようにして、イノリはベーグルチキンサンドの包み紙を外した。そのままの勢いでかぶりつく。

 ベーグルのもちもちした食感を堪能する。直後、野菜の甘さとジューシーな鶏肉の油が口の中一杯に広がった。自然と口元が綻ぶ。

 

 

「…………」

 

 

 真正面から視線を感じて、イノリは思わず顔を上げた。視線の主は、イノリを興味深そうに見つめるユウマである。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、なんでもありません」

 

 

 イノリの問いに、ユウマは曖昧にはぐらかした。そのまま、彼もベーグルチキンサンドにかぶりつく。その動作がどこかぎこちないように見えたのは何故だろう。まるで、イノリの食べ方を手本としているみたいだった。

 暫くサンドイッチを咀嚼していたユウマだったが、纏う気配が変わった。ぱああ、という擬音がつきそうな勢いで、彼の表情が輝く。どうやら、このサンドイッチは彼のお気に召したらしい。イノリは内心安堵の息を吐いた。

 サンドイッチを食べ進めながら、イノリはちらりとユウマの様子を確認する。彼は美味しそうに食べ進めていた。見ていて気持ち良い食べっぷりである。イノリは思わず目を細める。ISDFのエースは、意外と子どもっぽい一面があるらしい。

 

 程なくして、イノリはベーグルチキンサンドを食べ終えた。ミルクティーで口直しをしつつ、次はフルーツサンドの包みを外す。そのまま一口。果汁とクリームの甘さが、じんわりと体に沁み込んでいく。イノリは口元を綻ばせ、ほうと息を吐いた。至福のときである。

 イノリより一歩遅れて、ユウマはベーグルチキンサンドを食べ終えた。コーヒーで口直しをした後、イノリの真似をするようにしてフルーツサンドへ手を伸ばした。包装を外し、おっかなびっくり気味にかぶりつく。また、彼の表情は一段と明るくなった。

 

 

「……美味しい……」

 

 

 ユウマは噛みしめるようにして呟く。自分の知っている以上のものに出会えた――翡翠の双瞼は、その事実に対する驚きと歓喜で満ちている。つられてイノリも微笑んだ。

 

 

「よかった。喜んでもらえて何よりです」

 

 

 自分たちの間に和やかな空気が漂っている。周りに花の雨が降ってきそうな雰囲気だ。ああ、本当に楽しい。

 飲み物を煽りながら、イノリとユウマはとりとめのない話をする。と言っても、この店のメニューに関する話が中心だったが。

 

 

「イノリ」

 

「? なんですか?」

 

「先程言っていたお礼の件ですが、“この店を教えてもらった”ということで充分ですよ」

 

 

 ユウマは穏やかに微笑んだ。どうやら、市街地の巡回で外食する機会は多くないらしい。東京中を巡回しているけれど、こういった外食関連の知識は疎いのだとユウマは語る。効率重視のため、携帯食に頼ることが多いそうだ。

 「提督の分も購入してきます」と言って、彼は再び車へ向かった。店主と言葉を交わしたユウマは、2種類のサンドイッチを購入した。1つめは、先程食べたベーグルチキンサンドだった。2つめは、砂糖をまぶしたあんドーナッツである。

 そういえば、先程ミカゲが「ヨリトモは洋風の甘味をあまり好まない」と言っていたか。あんこもつぶあんが好みらしい。確か、あの店のあんドーナッツはつぶあんとこしあんの2種類を取り扱っていた。

 

 戦利品を抱えたユウマが戻ってきた。イノリも椅子から立ち上がり、ミカゲとヨリトモらの方へと向かう。ユイを含んだ3人は、先程と同じ休憩スペースに座っていた。

 気のせいか、ミカゲから物々しい気配が漂っているように思う。対して、ヨリトモとユイは脱力したように肩を落としつつ、困ったように顔を見合わせている。

 

 

「提督。イノリが美味しいパン屋を紹介してくれたんです。提督もいかがですか?」

 

「あ、ああ。貰おう」

 

 

 いきなり話しかけられたためか、ヨリトモが動揺した。しかし、次の瞬間には普段通りの表情に戻る。先程の表情は、イノリの見間違いだったのだろうか。

 

 ヨリトモはユウマからベーグルサンドとドーナッツを受け取る。まずは主食――ベーグルサンドにかぶりついた。暫し咀嚼していたISDFの提督は、感心したように頷いた。隣にいたミカゲが「お」と声を漏らす。

 次の瞬間、ヨリトモはつらつらとベーグルサンドの批評を始める。評価基準は栄養価にウエイトを置いているようだ。その様は、坊主の読経と言っても過言ではない。要約して結論を言うと、ベーグルチキンサンドは彼のお眼鏡に叶ったらしい。

 逆に、評価基準が味に傾いたのがあんドーナッツ(つぶあん)であった。これも要約すると、「甘さ控えめのつぶあんと砂糖の甘さが合わさり、丁度いい」らしい。しかし、大量摂取は体に悪いという結論が出た。逆転ホームランで負けた感じだ。

 

 そんなヨリトモの様子を見たユイとユウマが目を丸くする。見られていたことに気づいたヨリトモは、何とも言い難そうな表情を浮かべた。

 対して、ミカゲは口元を抑えて噴き出した。肩が小さく震えているあたり、笑いを堪えている様子だ。

 

 

「昔からお前、変わらないのなあ」

 

 

 結局笑いを堪えられなかったのだろう。ミカゲは楽しそうに呟いた。

 

 

 

■■■

 

 

 

「なあ、トウゴくん」

 

「……何でしょう?」

 

 

 ミカゲに名前を呼ばれたヨリトモは、たい焼きを飲み込んでから返事を返した。ミカゲの方に向き直る際、ヨリトモはイノリたちから視線を逸らす形となる。ミカゲは教え子が見ていたと思しき場所を一見した。

 移動販売車の近辺にある食事スペースで、イノリとユウマは昼食を食べ進めている。幸せそうな表情でベーグルチキンサンドを食べるイノリと、目を輝かせてベーグルチキンサンドを食べ進めるユウマの姿があった。

 

 

「旧ムラクモ13班は、様々な方面で、常に矢面に立たされてきたんだ」

 

 

 いきなり投げつけられた言葉に対し、どう返事をすればいいのか分からないのだろう。ヨリトモは怪訝そうに眉をひそめた。

 

 

『ミカゲくん?』

 

「守るべき人類から『お前等が脅威だ』と難癖をつけられたり、背後から足を引っ張られたり、あらぬ嫌疑をかけられたこともある」

 

 

 首を傾げたユイを敢えて無視して、ミカゲは言葉を続けた。脳裏に浮かぶのは、2021年の国会議事堂で行われた証人尋問だ。反ムラクモ派の議員たちによって、あわや吊し上げにされそうになったことは今でも覚えている。

 竜戦役の後も、相変わらず反ムラクモ派議員は自分たちに攻撃を仕掛けてきた。予算問題から前総長・ナツメに関することまで多岐にわたる。その度、親ムラクモ派議員が助け舟を出してくれた。

 その矢面に立っていたフジタ議員とアリアケ議員に何度助けられたことだろう。堂島(リン)を筆頭とした自衛隊関係者が証人となってサポートしてくれたり、ブチ切れたキリノが議員を論破したこともあったか。

 

 

「だから、俺たちに対する畏怖とか、敵意のこもった眼差しには敏感なわけだよ。他者が他者へ向ける感情も、うっすらとだが察する自信はあるぜ?」

 

「っ!?」

 

 

 ミカゲは一気に間合いを詰めた。間合いと言っても物理的な方面ではなく、心理的な方面である。言葉と態度という名の刃を、ヨリトモの心に突きつける。

 ヨリトモは一瞬たじろいだが、ぎりぎりで踏み留まろうとしていた。険しい顔を崩さぬまま、口を真一文字に結ぶ。職務に忠実な模範的軍人だ。

 

 答えないということは、ヨリトモが感じている“他者への畏怖”は、ISDFの機密事項に関わることなのだろう。

 

 

「トウゴ」

 

 

 鋭く研ぎ澄ませた眼差しを教え子へ向ける。妙な行動をすれば、ミカゲは容赦なく刃を振るう心づもりでいた。と言っても、言葉と精神的な手段として、だが。

 もう一度、彼の名を紡ぐ。自然と声のトーンが下がった。ミカゲの声に込められた感情を理解したのだろう。ヨリトモは苦い表情を浮かべて視線を逸らした。

 彼の畏怖が何に起因するかは察しがついていた。直属部下――ユウマ関連であり、畏怖の対象者はミカゲの孫であるイノリだ。眼差しを見ていれば、それくらいは分かる。

 

 元々、頼友(ヨリトモ)東吾(トウゴ)という人間は嘘がつけない性質(タチ)であった。

 眼差しで語るタイプの人間であるともいう。同時にそれは、口下手の弊害であるとも言えた。

 

 

「…………」

 

「……ふーん」

 

 

 ヨリトモは口を割らない。どうしても言えないのだと、彼の瞳は悲鳴を上げている。成程、この話題を突き詰めることは不可能らしい。ミカゲは話題を変えることにした。

 

 

「お前の部下。あの優男さあ」

 

「ユウマがどうしたんですか?」

 

「なんかあいつ、アンバランスだよなあ。ヒトとして何かが未熟というか、外見に合わず情緒が未発達というか、歪な感じがする」

 

 

 「方向性は違うが、“昔の俺”みたいだ」なんて言いながら、ミカゲは探るような眼差しでユウマを見つめる。視界の端で、ヨリトモが弾かれたようにこちらを見た。

 蒔いた餌に食いついてくれたらしい。ミカゲは笑みを深くしてヨリトモの方に向き直った。ここでようやく、自分が墓穴を掘ったことに気づいたようだ。

 ヨリトモは、嘗てミカゲが“何のために”生きていたかを知っている。だから、ミカゲの言葉が何を意味しているかも分かっているはずだ。ミカゲはヨリトモへ視線を向ける。

 

 

「……ユウマは……あいつは、“特別な出自”なんです」

 

 

 幾何かの沈黙の後、ヨリトモは重々しく息を吐きだした。

 イノリがフルーツサンドを食べ始めたのが視界の端にちらつく。

 

 

『“特別な出自”?』

 

「詳しいことは言えません。機密事項に抵触してしまいますから」

 

 

 首を傾げたユイに対しても、ヨリトモは口を割らなかった。恩師や初恋の相手よりも機密事項漏洩を防ぐことを選んだ教え子は、文字通り模範的軍人だと言えた。

 ……最も、大なり小なり“抵触しない程度の情報”を零すというのは、ミカゲの追及に観念したようなものだが。ヨリトモは険しい面持ちのまま言葉を紡ぐ。

 

 

「ただ……あいつが生きてきた年月の中で、あいつに“人間らしさ”を求められたことはありませんでした。むしろ、“人間性は切り捨てるべきもの”だとされてきたんです。“役目”を果たすために」

 

『そんな! “人間性が必要ない”って……』

 

「……成程ねえ。方向性は違えど、本質は“昔の俺”と同じ訳か」

 

 

 納得したミカゲが零した言葉に、ユイがすべてを察してヨリトモを見返す。菫色の瞳は驚愕と悲しみが滲んでいた。

 

 ミカゲの伴侶は、ミカゲの出自を知り、当人以上にそのことを悲しんでくれた人である。“ミカゲの焼き直し”と言えるような存在を目の当たりにして、胸を痛めないわけがない。

 ヨリトモがイノリを脅威と認識する理由は、“如月ユウマが“渡来ミカゲの焼き直し”である”ことに起因している。彼が口にできない機密事項が根底にあることは明らかだ。

 

 

『英雄の系譜は、揃いも揃って私の邪魔をするのか』

 

 

 頭の中で誰かの声がした。声色からして壮年の男性。吐き捨てるような響きを伴う声だった。その声に聞き覚えがあるような気がして、ミカゲは思い出そうと思案する。

 上等なスーツを身に纏い、ふてぶてしい態度を崩さなかった食わせ者。残忍な眼光は、自分の前に立ちはだかる相手をあの手この手で排除してきたという自信があった。

 自分が絶対的な正義なのだと、信じて疑わない眼差し。野心を燃やす男の背中を、ミカゲは知っていたはずだ。――なのに、肝心の顔が思い出せない。

 

 シルクハットを被ったウサギの姿が脳裏をよぎる。無茶に無茶を重ねたミカゲの魂は、変なところで記憶を擦切らしてしまったようだ。しかも、肝心要なところで。

 

 苛立たしさを誤魔化すようにして、ミカゲはクレープにかぶりついた。濃厚なマスカルポーネとやや渋めのコーヒーパウダーが絶妙に合わさる。自然と頬が緩んだ。

 丁度、イノリとユウマはフルーツサンドを食べ終わったらしい。2人は楽しそうに談笑している。いつの間に、あの優男は孫と仲良くなったのか。イライラしてきた。

 

 

「俺は、あいつの方が脅威だと思うね」

 

「ユウマがですか?」

 

「俺の孫とあんなに仲良くなって……しかも近い! イノリを助けてくれたことには感謝するけど、結局は赤の他人だろ。なのに近いんだ、近いんだよ。赤の他人のくせに、赤の他人のくせに!!」

 

 

 彼氏、結婚、嫁入り……ああ、考えるだけで頭が痛くなってきた。ミカゲの発言を聞いて戦々恐々した様子のヨリトモだったが、続きを聞いた途端、何とも言い難そうな顔をして脱力した。

 

 

「なんだ、そっちか……」

 

『ごめんねトウゴくん』

 

「いえ、大丈夫です」

 

 

 2人がそんな会話をしていたのと同じタイミングで、ユウマが戦利品――先程自分が食べていたベーグルチキンサンドと、店主との話し合いの結果購入した揚げパンを抱えてヨリトモの元へとやって来た。

 別な方向に意識を向けていたためか、ユウマに話しかけられたことで目を白黒させる。動揺を押し殺したヨリトモは、部下からサンドイッチと揚げパン――否、つぶあんのあんドーナッツを受け取った。

 

 

 

■■■

 

 

 

「ううううう……。やっと、やっとノルマが終わったのです……」

 

 

 チカがそう言ったとき、壁掛け時計は既に深夜を回っていた。最悪なことに、腹の虫が盛大に鳴きだす。

 

 こんな時間帯だと、営業しているのはコンビニくらいなものだろう。しかし、4徹とオーバーワークによる疲労が振り切れてしまったチカは、最寄りのコンビニに行く力も残されていない。

 相方のリッカはバリバリ仕事をこなしている。彼女の場合は今日で8徹めだ。「体を休める時間は5分あれば充分」と言うが、最低でも休息は30分、睡眠時間はは6時間必要だと思う。

 

 最も、労働基準法も生理的欲求も、ブラック企業のノルマの前では何の意味もなくなってしまうのだが。

 ……考えても意味がない。自分の部屋に戻り、何かを胃に入れなければ――チカがそう思ったとき、ぐらりと体が傾いた。

 世界がぐるぐる回っているような錯覚に陥る。もう、立っていることすらできそうにない。そのまま床に倒れこむ。

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

 チカの体は、床に倒れこむ前に誰かに支えられた。何事かと見上げれば、黒いマスクをした青年の顔があった。雪を思わせるような白銀の髪に、切羽詰ったように揺れる紫苑の瞳。数日前にアリーによってスカウトされた13班員の1人、風間ソウセイである。

 技術セクションや研究セクションに勤める社員や、残業による泊まり込みが確定している社員以外、この時間帯に起きていることは珍しい。Code:VFDが始まったとはいえ、現在はISDFの対応待ちだ。その間、彼らは準備期間が与えられていた。

 

 

「あ、ありがとうなのです……」

 

 

 ソウセイに助け起こされたチカは、ぺこりと頭を下げた。立ち上がろうと手に力を入れたが、動けない。

 普段は“なんとか自室に転がり込む”くらいの力は残されているはずなのだが、今回に限ってはそれすら難しいようだ。

 立ち上がることすらままならないチカの様子に、ソウセイの瞳が不安そうに揺れる。

 

 

「顔色が悪いぞ。何かあったのか?」

 

「大したことじゃないのです。デスマーチで4徹して、睡眠不足なだけなのです……」

 

「充分大したことじゃないか!」

 

 

 チカの答えを聞いたソウセイの表情が変わった。彼は「しっかり捕まってろ」と言い、勢いよくチカを抱きかかえた。

 この体勢は、俗にいう“お姫様抱っこ”である。一般女性の多くが夢見る、御伽話のようなシチュエーションだ。

 

 チカのキャパシティは即刻オーバーである。頭が真っ白になるとはこういうことを言うのか、と、辛うじて動く理性がそう理解した。

 

 ソウセイが駆け出そうとした丁度そのとき、チカの腹の虫が鳴いた。

 心なしか、先程よりも音が派手に響いた気がする。結果、ソウセイは反射的に足を止め、チカの方を見た。

 

 

「……あと、まともにご飯も食べていなくて……今日は、昼食と夕食を抜いて働いてたのです」

 

 

 気恥ずかしさと気まずさから、チカはソウセイから視線を逸らした。お姫様抱っこの体勢なので、ソウセイの視線が突き刺さってくるのを感じ取る。

 体の温度が急上昇する。間違いなく、チカの顔は真っ赤だろう。穴があったら入りたい。堪らなくなって、チカは顔を手で覆った。

 一緒に仕事をするノーデンスの花形――13班のメンバーに、こんな恥ずかしい姿を見られてしまったのだから当然だろう。

 

 沈黙が痛い。ソウセイの眼差しが真正面から注がれるため、辛い。チカの手の平では、それを遮る力はなかった。紙以下の装甲である。

 「ふむ」と声がした。チカは恐る恐る手を離し、ソウセイの様子を伺う。彼は何かを思案している様子だったが、決意したように頷いた。

 

 

「チカ。俺の部屋に行こう」

 

「…………えっ」

 

 

 

***

 

 

 

 チカの頭の中は大パニックである。ソウセイの自室にお姫様抱っこで運ばれ、部屋にあるソファに降ろされる。きちんとした体勢で座らせられた。

 「少し待っていてくれ」と言い残し、彼は備え付けのキッチンへ向かった。冷蔵庫から食材を取り出し、調理する。ソウセイの手つきは鮮やかだった。

 普段から調理をしているのだろう。冷徹で不愛想な面持ちではあるが、器用で家庭的な一面もあるようだ。ギャップ萌えという単語が脳裏をかすめる。

 

 調理をするソウセイの真剣な面持ちに、チカの視線は釘付けだった。魅せられたかのように、目を離すことができない。鼻をくすぐる、美味しそうな香りが漂ってきた。

 

 チカの腹の虫が鳴き出す。唾液がじわじわ滲んできた。口から垂れ流すわけにはいかないので、何度も何度も飲み下す。その度、ごくんという音が鮮明に響いた。

 ソウセイは味見をするため、マスクを取った。チカは思わず目を見張る。彼の左頬に――薄らとだが――焼けただれたような跡が浮かんでいたためだ。

 

 

「あ……」

 

「出汁は極限まで薄く――……ん?」

 

 

 チカの異変に気づいたのか、味見をしていたソウセイが顔を上げる。彼は暫し目を瞬かせていたのだが、バツが悪そうに視線を逸らした。

 

 

「ああ、すまない。気持ち悪いか。……見苦しいかもしれんが、味見が終わるまで我慢してくれ」

 

「そんなことないのです。マスク、外したままで大丈夫なのです」

 

 

 どこか傷ついたように笑うソウセイに、チカははっきりと言い返した。確かに驚きはしたけれど、彼の傷跡を気持ち悪いと思ったわけではない。沈黙がこの場を支配する。

 一歩遅れてチカの言葉を理解したソウセイは、安堵したように口元を綻ばせた。花が咲くような、柔らかな微笑み。左頬の傷など気にならないくらい、魅せられた。

 彼はすぐに真剣な面持ちに戻ると、調理を再開した。口元が見えると、ソウセイの表情はころころ変わるのが分かる。“冷徹で不愛想な青年”という第一印象が嘘みたいだ。

 

 マスクの下では、こんな風になっているのか――ほう、と、知らず知らずのうちに息が零れる。

 程なくして、ソウセイの料理は出来上がったらしい。満足げに微笑んだ青年は、器に料理を盛りつけた。

 

 

「済まない。和食しか作れなくてな」

 

「おお……!」

 

 

 ソウセイが作ったのは、お茶漬けと飲み物である。お茶漬けには鮭の切り身が盛り付けられており、かすかに鰹の香りが漂ってきた。出汁が云々と言っていたのはこのためだろう。飲み物からは、ほのかに糀とシナモンの香りが漂う。どちらも美味しそうだ。

 

 食欲に従い、チカは蓮華でお茶漬けを掬う。そのまま、一口。鮭の塩味と鰹出汁の旨味がチカの口いっぱいに広がった。噛みしめる度に広がる味が――作り手の優しさが、じわじわと体に沁み込んでいく。

 ささくれていた心が潤うような感覚。人の優しさをはっきりと感じ取ったのは、チカにとって文字通り“初めて”のことだった。入れ違いで、心の奥底から熱いものが湧き上がってくる。気づいたときには、視界がじわりと滲んでいた。

 

 

「お、おい!? 泣く程まずかったか!!?」

 

「ち、違うのです。……お、美味しくて……美味しくて……! こんなに美味しいご飯を食べたの、初めてなのです……!!」

 

 

 口に出した途端、チカの目から涙が溢れだした。堰を切ったように涙がこぼれる。

 

 

「こんなに美味しいご飯を食べれるなんて……そんな機会なんて、“一生”無いと思ってたので、嬉しくて……」

 

「……大げさだな」

 

 

 服の袖で涙を拭うチカを見つめていたソウセイは、苦笑しながらもハンカチを差し出してくれた。そのまま、飲み物を勧める。彼に従い、チカは飲み物に口を付けた。

 甘酒と豆乳の甘さの中に、シナモンのアクセントが効いている。飲み物のはずなのだが、飲みごたえと言うか、食べごたえがあった。作り手同様、優しい味がする。

 チカは無心で料理を食べ進める。拭っても拭っても涙は溢れてきて止まらない。ずっとこの味を噛みしめていられたら、どんなにいいだろう。

 

 

(ずっと、ずっと、“このまま”でいられたら――)

 

 

 チカの願いは空しく、器もグラスもあっという間に空っぽになった。「ごちそうさま」を言うのが惜しい。でも、感謝の言葉を伝えないわけにはいかなかった。

 手を合わせて「ごちそうさま」と挨拶すれば、ソウセイは柔らかに笑った。「お粗末さま」と紡ぐテノールボイスが心地よい。なんだか眠くなってしまいそうだ。

 

 ――いや、実際に、眠い。自室に戻る体力も回復したし、これでもう大丈夫だ。

 

 

「ありがとうなのです。本当に美味しかったのです」

 

「そうか。……時間が空いたら、また明日も何か作るか?」

 

「え」

 

 

 ソウセイの申し出に、チカは一瞬凍り付いた。だって、あまりにも、チカにとって都合が良すぎるのだ。驚くのも当然である。

 このチャンスを逃してはならないと本能が叫ぶ。新しく紡がれる“このままの日常”が欲しい。また、あの優しい味を噛みしめたい。

 チカは暫し躊躇った後、首が千切れるんではないかという勢いで頷き返した。それを見たソウセイが表情を綻ばせる。

 

 

「期待してくれ。それじゃあ、また明日」

 

「はい。それじゃあ、また明日」

 

 

 ソウセイは何の気もなしに言ったのだろう。当たり前の光景が、当たり前に続いていくのだと信じて疑わない眼差しが向けられる。

 明日なんて永遠に来なければいいのにと/早く明日が来ればいいのにと願ったのは、チカにとって初めてのことであった。

 

 




【参考・参照】
『Pasco パンの学校 パンのまめちしき パンの種類』より、『ベーグル』
『COOKPAD』より、『飲む夜食♪ホッと甘酒豆乳シナモン(古町糀製造所さま)』

―――
休日回にしてフラグ回。地の文に「美味しい」を書かず、描写だけで美味しさを伝える試みに挑戦してみましたが、撃沈した感が否めません。
小ネタがぽんぽん浮かんでは消えていきます。これからたくさん盛り込めたらいいなあ。
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