かなりのキャラ崩壊のうえおふざけが目立ちます。閲覧にはご注意を。
それは、腰にかかるほどの長い髪をもった少女、海未が言ったことが始まりだった
「最近スランプで、歌詞を書こうとしても手につかないのです」
「μ's」、伝統ある東京都千代田区の女子高である音ノ木坂学院の廃校を阻止した九人のスクールアイドルグループ。
その主な作詞担当である高校二年生、
そんな海未を助けるためにみんなで詩を考えてみようと、快活な印象を受ける
海未とおなじく二年生であり、幼馴染でもある穂乃果は多少なりとも自信があった。
実際、歌詞を考えた経験がないわけではない。それにμ'sは海未が作った詩をまさに歌っていた張本人たちなのだ。きっとなにか助けになるはず。
全員がそう思い、穂乃果に対して反論する者はいなかった。
その日の練習は中止。穂乃果の家で作詞をすることになった。
九人が集まるには穂乃果の部屋は手狭ではあったが、穂乃果曰く「甘いものを食べれば頭も回るはず!」とのことだ。
小さな机を囲み、九人はそれぞれノートやルーズリーフを取り出して作詞に挑んだ。
だがそんなに詩を書くというのはそんなに簡単なことではない。
ある者は書いては消し、ある者は書いては赤面し、ある者はペンを回しに回していた。
ポップな曲でいくか、それともバラードでいくか。
そういったものも考えずに始めてしまったがゆえの弊害が作詞開始数分でそびえたっていた。
そんな悪い空気のなか
「みなさーん、お待たせしました!」
穂乃果の妹、
正確には、ほむまんとお茶が注がれた湯呑が乗っているお盆だ。
「おー、雪穂ありがとう!」
「ううん、これでμ'sのみなさんの手伝いになれるならお安い御用!」
待ってましたと言わんばかりに受け取り、机の上に置く穂乃果。
それ以上に注視する海未。何を隠そう彼女の好物は穂乃果家のまんじゅう、つまり和菓子屋「穂むら」のほむまんなのである。
「それじゃみなさん頑張ってくださいね!」
自らもスクールアイドルを目指している雪穂なら、μ'sに聞きたいことは沢山あるだろう。
そのμ'sがせっかく一堂に会しているのだ。
だが雪穂はそんな気持ちを我慢して、μ'sを応援するためにお菓子を持ってきてすぐに立ち去ったのだ。
その未来の花へ感謝の念を送りながら、各々が盆を見る。
だがしかし!
(なっ…!?)
(そんな…)
(イミワカンナイ…)
まずその異変に気付いたのは、
ロシア人の祖母を持つクォーター、金髪のポニーテールをもつ三年生、
一にごはん、二にごはん、三、四にごはん、五にもごはん、一年生の引っ込み思案な少女ラブライスかよちんこと
それにイミワカンナイほどクールな雰囲気をもつ作曲担当一年、スター
驚いた三人はその態度で各々がその異変に気づいたことを互いにチェックしあった。
(これはおかしいわよね)
(うん、絶対見間違いじゃない)
(こんなことがあるの!?)
目で会話する三人。
それは少し見ればわかることだった。
まさかまさかこんなことが身に起こるなんて、この三人は思いもよらなかったのだ。
(((お饅頭が一つ足りないっっっ!!)))
そう、お盆に乗っている湯呑は九個。そして真ん中に乗せられた皿に鎮座するは八個のほむまん!
明らかに一個足りないのだ!!
(いいえ、取り乱すことではないわ)
絵里はすぐに平静を取り戻した。
そうだ。穂乃果がこの一個足りない状況に気づけば、この場は収まる。
みなが糖分を補給でき、脳をフルに使って作詞に集中できる。
「じゃあいただきまーす!」
穂乃果が皿のほむまんを一つ手に取る。
(なぁっ!?)
それは長時間の慣れない作業のせいか、それとも頭を使ったことによる糖分不足のせいか。どちらにせよ集中力の切れた穂乃果はほむまんが一個足りない状況に気付くことなく、美味しそうに饅頭をほおばる。
開いた口を急いで閉じる絵里。
周りを見渡してみるも、自分を見ているものは一人としていなかった。
いや、それよりもほとんどが穂乃果を見て驚いた顔をしていた。
(わかった。全員気づいているんだわ!)
絵里は少しばかり安堵した。
この場面で全員が気づいていれば、気づいていないよりかはまだやりやすい!
次にどうするべきか。絵里と真姫は考えた。
ここで「あれ?一つ足りないわね。もう一つもらえるかしら」というのはごく自然なことである。
けどなんか卑しくない?
それに穂乃果が気づいてしまえば、先に食べてしまった罪悪感でつぶれてしまうかもしれない。
いいや、実際は誰も何とも思わないだろう。誰も何も思わず、穂乃果も笑顔で足りない一個のほむまんを取りに行くことだろう。
ここ重要。
だがこの異常に呑まれてしまった全員に気にしないということはできなかった。
窮地に追い込まれたμ'sにとってもはや取るべき行動は一つ。
((譲る!!))
いかにも「え?私取りませんけど?」というような雰囲気を醸し出していれば、他のみんなが取っていくだろう。
そしてみんなが取った後にしれっと「美味しいわね」と言っておけば、万事解決だ。
だが
「………」
誰も動かない。
それもそのはず。μ'sは全員心優しい乙女のグループ、穂乃果のように「気づいていない」という状況でなければ、みながみな自分を犠牲にするだろう。
その精神は美しいとも言えるだろう。女神たちが譲り合うその姿はまさに「和」。
譲り合う「和」の精神という日本人の美しさが炸裂しているのだ!
しかしこの場でそれはあまりにも致命的。
このままでは誰もほむまんを取らないことに穂乃果が疑問を浮かべるだろう。
誰か、誰か一手を。この逆風を吹き飛ばす一手を!!
「凛も食べるにゃー!」
(凛っっ!!?)
動いたのは元気あり余りムードメーカー
誰しも経験があるかと思うが、まず最初に動くというのは勇気がいることである。
先頭に立つというのはそれだけ困難なことである。
(凛ちゃん…)
思わず感涙にむせびそうになる花陽。
幼馴染のガッツある行動に、見習うべきその心意気に心の中で敬礼する。
幾多の壁を越え成長し、名の通り凛とした姿に三年生は未来を感じ、二年生は歓喜し、一年生は称賛した。
凛は饅頭を手に取り、その甘味を堪能する。
この行為には二つの意味がある。
一つは前述したとおり、「誰も取らない状況を防ぐ」というこよで穂乃果に悟られにくくなる。
そしてもう一つは、他人が取りやすい状況を作り出したことだ。
道は開けた!
あとは順番。取る順番さえ決めてしまえばなんてことはない。
「わたしも~」
「いただきます」
穂乃果と海未の幼馴染、鍋にチーズケーキをぶっこむほどの天然ガール
むしろその行動に感謝していた。
饅頭を取ってない者が減れば、それだけ注意するべき対象が減る。
そして取るリズムを作ってしまえば、あとの者も取りやすい。
穂乃果の幼馴染二人だからこそできるコンビネーションに、他のメンバーは衝撃を受けた。
(こ、これが幼馴染の力!)
「じゃ、じゃあ私も…」
凛の勇姿、そして「幼馴染」という力に勇気づけられて花陽も饅頭をゲットする。
一年生二人の力ある行動に、あの真姫ですら今日もニコッと笑う。
残りは三年生三人に真姫。
ここで再び譲り合いが発生する。
それぞれが目配せを開始。
じりじりと気づかれるタイムが近づいてくる。
焦りのあまり答えを出せずに、そして近づくタイムアウトにより焦る。
「ほ、穂乃果ちゃん!ニュートリノの話しない!?」
「え、し、しないよ!?」
またしても凛である。
少し無茶な話振りだったが、穂乃果の目線を逸らすことができた。
ナイストライ!
絵里と希、そして真姫はにこを見た。
(取って)
三人はそういう目配せをにこへ向ける。
(ふ、ふん。わかったわよ)
案外素直に従うにこ。饅頭を手につかむ。
あなたのハートににっこにっこにー、三年のツインテール
一見取りそうではあるが、三人の幼い妹弟がいることを考えれば、自分の分を差し出すことなぞいとわない可能性だってある。
いいやきっとするだろう。
にこはそれだけ優しい姉なのだ。こんな姉がほしかった。
その二面を持つにこが戦場から離脱したことは、残された面々にとってはよりやりやすい状況となった。
よし、この調子で取っていけば…。
次に手を動かしたのは希だ。
不可思議な雰囲気を醸し出す三年生、バイオレットおうどんさん
しかしその手は饅頭へと向いていない。
湯呑だ!
ああ上手い!!
なんて渋い手を使うのだろうか!!!
目先に捕らわれた考えを超越した行動に、絵里と真姫は思い知らされる。
希のスピリチュアルポテンシャルを。
お茶をすする希の動きは、つまり取る意志を見せないことを意味する。
もっと簡単に言えば…
(ウチはええから)
と言ってることになる。
((希いいいいいいいいい!!!))
後光すら見える。
祈りすらいとわない。
そうさせる希の姿はまさに現代に舞い降りた女神といえるだろう。
ときどき、ネットで見る『○○マジゴッデス』という言葉。
今ならその意味が分かる。
人々がアイドルを崇めるという気持ちはこういうものなのだろう。
ここに…。
ここにいた…。
確かに神はここにいたのだ…!
(ありがとう希。ありがとう…)
心の中で何度も感謝する絵里。
それは真姫も同じだ。
きらきらと輝く目はまるで恋する乙女のように希を見ている。
だがそれも一瞬。
いまなすべきは希が、いやμ's全員で指し示した希望の道を進むこと。
あとは扉を開けるだけ。
もうすでに目の前にあるユメノトビラを…!
絵里と真姫が同時に手を伸ばす。
(ああやっと…)
(これで終わるのね…)
時間にして一分も経たなかったが、とてつもなく長く感じられたような気がする。
(あ、これ使えるかも)
真姫はこの苦悩を詩に利用できると考えた。
ああそうだ。もともとは作詞をしに集まったのだ。
これを食べたら、すべてを真剣に終わらせよう。そして希に焼肉をおごろう。
饅頭まであと十数センチ。
絵里と真姫の二人は顔を見合わせる。
安堵の表情を浮かべて饅頭を…。
コト。
(え…?)
何の音だろうか。
伸ばした手をそのままに二人は音の出どころを探る。
希だ。
ニヤリと笑った希が湯呑を置いたのだ。
嫌な予感に騒ぐ心のMelodyが止まらない。
(のぞみ…?)
ひらがなになるほど混乱した。
その混乱の隙を突き、希はとてつもない行動に出た。
鋭い手つきで饅頭をさらった!!
(そ、そんなそんなそんな!!)
何度瞬きしても事実は変わらない。
ほおばる希を見て、絵里は悟った。
一番長い付き合いだからこそ、絵里は一番先に気付いた。
(希いいいいいいいいいいいいいいいい!!!)
希はこの状況を楽しんでいるのだ!!
(いやいやこんなことでμ'sが仲悪くなったり、穂乃果ちゃんがふさぎ込んだりするわけないやん♪)
そんな希の考えは至極真っ当といってもいいだろう。
いまさらμ'sはこんなことで仲違いなどはしないだろうし、穂乃果だって「あっ、一つ足りないね。じゃあもう一個持ってくるよ!」と言うだろう。
これは希は最初から気づいていたことだった。
だからこそ希はこの状況を楽しむために今まで手を出さずに待っていたのだ。
この最高で最悪なタイミングまで!!
残り二人はすでに手を伸ばしている。
これをひっこめるのはあまりにも怪しすぎる。
(どうすれば……いったいどうすれば…!!)
聡明な二人でもこのあとに取るべき行動を考えるのは難しい。
加えて、直前まで味方だと思っていた希がまさかの裏切りをしたのだ。
混乱。
混迷。
絵里と真姫は天国からいきなり地獄へと突き放されたかのように感じた。
宙に浮いた感覚がよりそのヴィジョンを強める。
しかし、こうなれば取るか取らないかしかない。
(ここまで来て諦めるなんて私はしない!)
絵里は奮起した。
何があろうと、諦めることだけはしたくない。
音ノ木坂学院が廃校になると言われた時も絵里は諦めなかった。
(守るべきものがそこにある!!)
皿に近づけた手を方向転換させる。
狙いは湯呑。
お茶が入ったその湯呑を確かにつかむ。
(エリー…)
(いいのよ真姫…あなたはその饅頭をつかみなさい…)
それは奇しくもこの窮地を作った希が取った行動と同じものだった。
湯呑をつかんで、饅頭を取る意志がないことを示す。
その柔らかいほほえみを見て、真姫はがっしりと饅頭をつかんだ!
(つかんだ…つかんだわエリー!)
このような状況でなければ、その場の全員が立ち上がって拍手したことだろう。
真姫の手には饅頭が握られている。
(ありがとう…)
それは誰が思ったか、いや全員が思ったのかもしれない。
各々が各々に対して紡いだ感謝。
いまこの戦いが終わる…
真姫はつかんだ饅頭を
口へと
運ぶ
口へと!
運ぶ!!
(………)
滑り込むように真姫の手から口へと饅頭が入る。
その勝利の瞬間に真姫は酔いしれた。
(ああ美味しい)
餡は口どけよく柔らかい舌触りで、苦手な人にも愛される上品な甘さが駆け抜ける。
そしてその餡を包むしっとりとした焼き皮は風味がよく、自らの主張はそこそこに餡をほどよく引き立てる。
いつまでもその甘さに浸っていたい。
うっとりとした、恍惚ともいえる表情を浮かべた真姫を見て、みんながほっとする。
(これで…これでおしまいなのね…)
終焉の時を静かに噛みしめる一同。
そんな余韻が残るひとときに、穂乃果が口を開く。
「あれ?お饅頭一個足りなくない?絵里ちゃん食べてないよね?持ってくるよ!」
((((((((気付くのかよ!!))))))))
おしまい