また、この夢か。
荒れ果てた街中を、女性が俺の手を引っ張りながら走っている。
「大丈夫。きっと、父さんには、会えるはず、だからっ!」
一人だけで走って逃げるのも難儀なのだろう、その表情は歪み、額には玉のような汗をいくつも流していた。
それでも俺の手を離すことは無く、むしろ繋いでいる手のひらの力が強くなるのを感じた。
それに対して俺は、一体何が起きているのかも分からないまま彼女が引っ張る方向にただただ付いていった。
それもそうだ。このときはまだ歳も二桁に届くか届かないかの位だったから。
そろそろ、またあの光景を見なければいけないのか…。
「ほらっ!きっと、こっちに、父さん達が、いるから!」
あぁ、だめだ。そこの角を曲がっちゃいけない。曲がってしまったら---。
一つ、その破裂音は、乾いた空に高らかな響きを奏で消えていく。
それと同時に、目の前にいる女性の背中の中心あたりだろうか。
服がはじけ飛び、そこから女性の体の一部だった物が俺に向かって飛んでくる。
彼女の後ろにいた俺は顔に紅い、温かいものが触れるのを感じる。
手の甲でそれを拭うと、その手も紅く染まる。
力強く握っていた手も離れ、うつ伏せに倒れた女性はリズムを刻むかのようにその体を小刻みに震えさせていた。
彼女の焦点の定まっていない瞳は、かろうじて俺を視界の隅にとらえていたのだろうか。
「……逃げ…なさ…」
しかしそのリズムも俺、久遠へと女性が言葉を伝えきる前に止まってしまう。
俺の目の前には、6人ほどだろうか。
下品な髭を生やした男達がさらに下品に、そして何よりも楽しそうにその顔を歪ませていた。
一人の手には、黒く、鈍く光る拳銃。其の先から白い煙が上がっている。
―――――…どうして…こんなことに…―――――
一体何があったのか、あまりに一瞬の出来事にただ呆然とするしかないこの時の俺にはこうしか考えられなかった。
地面に膝をつき、顔を俯かせて俺は働かなくなった頭を必死に働かせようとした。
不意に、顔を上げる。
俺が顔を上げたことに気づいた男たちの下品な笑顔が一瞬だけ凍りつき、そしてまた全員で声を上げながら笑い出す。
俺は弱く、ふらつきながらも立ち上がる。
この時のことはよく覚えている。
妙に心が落ち着いていて、周りの世界が余りに遅く感じて、
妙に体が軽く、今にも飛び立ってしまいそうで、
そして、妙に、
---冷え切っていた---
そして、男たちの中の先ほど女性を撃ち抜いた大柄な男がその体を俺のほうに近づけてくる。
その男は固く結んだ右手を振り上げて---。
いつの間にか、周りには俺以外”誰も”居なくなっていた。
俺のその手には、先程まで男が持っていた拳銃が握られており、女性の血で紅く染まった服はさらにその色を深めていた。