「わ、私と、付き合ってください!」
中学3年の夏、僕は放課後の誰もいなくなった教室で別のクラスの女子に告られた。
今の……高校生になった僕ならばその告白を嬉々として受け入れていただろう。
だが、あいにく過去の自分は今の僕とは違う……そう、僕は……
「……なぁ、付き合うって……なんなんだろうな」
あの頃の僕は窓の外に広がる空を遠い目で見つめた。
「…えっ!」
「気にするな。ふと、心に刻んだ三千世界の記憶を思い出してしまってな……まったく、俺という奴はつくづく世界を逸脱した存在だぜ……」
と、惨劇に満ちた世界にたった1つの夢を見た罪深き人間、「悪罪の救世主(ギルティーイノセクト)」シドゥー・フランチャイズ・オトサカ……真名、乙坂士道は哀しみに満ちた目で彼女を見つめる。
「……悪いが俺は君のものになれそうにない。俺は前世から1000年生きた真祖の吸血鬼の所有物だからな。だからそんな目で見つめないでくれ、思わず君の告白を受け入れてしまいそうになるだろ……まったく、君は困った子猫ちゃんだぜ」
彼女の顎に手を添える。
「ひっ!」
その行為に彼女はひどく怯えた表情を浮かべたがあの頃の僕はそんな事に気づかない。自分の世界に浸っているのだから。
たしかその後、僕は告白してきた彼女に突き飛ばされ以降、口を聞いてくれなくなるどころかいつの間にか学年全体に広がり誰も口を聞いてくれなかった。
「ハァー」
昔の事を思い出して胸が苦しくなる。
高校生になった僕は中学の頃の黒歴史を封印し、僕を知らない町にある高校を受験した。
その高校の名は私立駒王学園。
小学校から大学までの小中高大一校の学校だ。
知らない町の高校を受験するにあたって両親の承諾には、揉めると予想していたが運良く海外転勤が決まり放任主義もあってか僕を日本において海外に行ってしまった。
よって僕は一人暮らし、平穏な学校生活を僕を誰も知らない人達の町で暮らす事になった。
そんな僕も今では高校2年生。
成績も普通だし、女の子とも普通に話せるしこれこそ夢にまで見た平凡。
最高だ。
でもこんな僕でも秘密がある。
それは僕が前世の記憶を持っているということだ。
夢かもしれないが死んだ直後神様と名乗る人とも会ったことがある。
その時、転生特典をやろうと言っていたが……まっ、タチの悪い夢だろう。
僕には特別な力などない。昔はあると思っていたがそれも思春期特有の病気だ。
昔、黒い猫や隣町の神社から爆発音などのフラグに何度も遭遇したこともあったがことごとく無視してやった。
触れぬ神に祟りなし。
別にラノベの主人公じゃないし。
平穏最高!
そんな事を思いながら僕は目を覚ました。
今日は土曜日、学校は休みだ。
春のうすら寒い空気に感化されながら平穏な人生を歩む為に、できるだけ外には出ないでおこう。
それは、ちょいちょい死亡フラグが発生するからだ。
もう一度言う。僕はラノベ主人公ではない。特別な力も正義感も全くない。
自分さえよければそれでいい。
ということでもう一度、夢の世界へ旅立とう。
おやすみ、今の僕。
朝の日差しをカーテンで遮り、再度ベットに潜る。
その時であった。
突如、目をつぶっているにもかかわらずまぶた越しに伝わってくる光。
まるで目を懐中電灯で照らされているようだ。
……目を開けたくない。
夢だ。夢以外こんなこと起きるわけがない。
目を瞑って数秒で夢の世界に行けるなんて僕はのび太君以上の眠りの才能があるのかもしれない。
やがて、光は嘘のように消え伏せた。
やはり夢か。
「……問おう。貴方が私のマスターか?」
……幻聴が聞こえる。
一人暮らしの僕の部屋で女の子の声が聞こえるわけがない。
結論、僕のストレスが生み出した脳内女子だ。
「……マスター?」
うん、僕が生み出した脳内女子が布団を揺らしてくるが、これはきっと僕の五感がこういう風になんやかんやしているのだろう。
じゃないと説明がつかない。
いきなり自室に女の子が現れたなんて。
ガバッ!
布団を剥がされた。
「……サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した」
「誰だよ!」
ほぼ反射的に答えてしまった。
でも安心していただきたい。目はつむったままです。
「…誰と言われても、その腕の令呪は私のマスターたる証ではないのでしょうか」
そう僕の脳内彼女は言う。
自分の腕がすごい気になるが目を開けてしまったらもう後には戻れない気がする。
自分でもわかっている。
脳内彼女と思っている少女らしい人物は、実際に目の前に存在しているのだから。
ホログラムでもCGでもない。
もう現実離れするのはやめて、丁重にお引き取り願おう……自称セイバーさんには。
ゆっくり目を開ける。
目の前には、青いドレスに銀色の甲冑を纏った女剣士がいた。
雪のように白い肌にサファイヤグリーンの瞳はまるで宝石のようだ。
黄金を溶かしたような髪は、他者を威圧する神々しさを放っている。
僕の経験からここまでやる人は、自分で気づかない限り設定から目を覚まそうとしない。
どっから僕の家に入ってきたか知らないがこの自称セイバーさんは、僕と何かしらの契約を結んだらしい。
どうして僕が厨二病、それも重症な奴、の相手をしないといけないんだ。
まったくめんどくさい。
「そ、そうか。僕が君のマスターか。なら腕にでも契約の印でも刻んだほうがって……もう刻まれてるッ!」
なんて早業!
いつの間にこんな天使の翼のようなマークを僕の手に書いたんだ。
「マジかよ。普通ここまでするか?しかも取れねぇし」
まさか、油性で書いたわけではないよな?
「なぁ、セイバーだっけ?僕も経験者だから君の気持ちもわかるけど……自分の世界に人を巻き込むのはいけないよ。いや、わかるよ。君の気持ち。でもいい加減いい年だし目を覚まそうよ」
「さっきから何を言ってるのですか、マスター」
ダメだこりゃ。完全に不干渉フィールド展開中だ。
「いや、なんでもない。で、なんだっけ僕が君のマスターだっけ?」
「これより我が剣はあなたと共にあり、あなたの運命は私と共にある……マスターご命令を」
「と、とりあえず僕の名前、じゃないか。えっと、僕の真名は乙坂士道、君は?」
「私の真名ですか?……真名は聖杯戦争でのサーヴァントの弱点のようなものなので余り言いたくないのですがそれがマスターの命令ならいいでしょう……」
「いやいや、別に命令とかではないから。それにマスターってのはやめてくれ。シドーでいい」
「ならシドー。私の真名は、円卓の騎士が1卓、ブリテン王アルトリア・ペンドラゴンと申します。此度はセイバーのクラスを得て限界しています」
誇らしげに言う自称セイバー改めてアルトリアに、僕は若干引いていた。
設定が凝りすぎている。
アルトリア・ペンドラゴンを名乗るところを見るとかの有名なアーサー王の名前と自分の名前をかけているのだろう。
僕だって昔は、「悪罪の救世主」シドゥー・フラン……いや、この話はやめよう。胸が苦しくなる。
「じ、じゃ、アルトリアって呼ばせてもらうけど……僕も暇じゃないだ。だから今度相談に乗ってやるから帰れ。女の子が一人暮らしの野郎の家に勝手に入ってくるもんではありません!」
まったく、僕が紳士だからよかっただけにヒヤヒヤするよ。
「シ、シドー。私は女の子ではッ…」
「はいはい、王さまだっけ。今日はお引き取りくださいね」
アルトリアの肩を押し、玄関へ誘導する。
「ちょ、シドー。さっきから何か勘違いされてませ……」
ガチャ
扉を開け、アルトリアを外に出す。
「今日は忙しんだ。悪の組織退治なら今度付き合ってやるから。またな」
と、一言残しドアを閉めた。
「シドー。ちょっと私の話を……」
ドンドンドンドンドンドンドン。
ピンポーン。ピンポーン。ピンポピンポピンポピンポンピンポーン。
ガチャ。
「なに?僕じゃなかったら警察呼ばれるレベルだよ」
思わずドアを開けてしまった。
「シドー。あなたはやはり勘違いしている」
「ハァ、めんどくせ。なら証拠見せてくれよ。そしたら信じて……」
「なら歯を食いしばってください。風王鉄槌ッ!」
その時、トラックに跳ね飛ばされたような衝撃が襲い、気付くと僕の身体は、壁にめり込んでいた。
「…グハッ!」
あとになってようやく鈍い痛みが全身を駆け抜け、胃から何かがこみ上げてくる。
「あ、あばらが…何本か…逝ったようだ」
こんなセリフをいう時がリアルに来るとは。
僕の意識が持ったのは、ここまでだった。
ーーーー◯△◯ーーーー
「…ド……ドー……シドーッ!」
水を通して聞こえる声がだんだん鮮明になってくると僕は眼を開いた。
眼を開いて目に入ってきたのはアルトリアの顔だ。
「ア、アルトリア……ッて!なにしてんの」
この頭越しに感じるムチッとした感覚。
それにこの近くで感じる女の子特有の甘い匂い。
間違いない。これが巷で聞く膝枕というものだ。
まさか母ちゃん以外にされるとは。
美少女に膝枕。童貞には、耐えれないご褒美だ。
思わず起き上がろうとしてしまうが……
「……痛ッ!」
お腹に力を入れると鈍い痛みが腹から全身に伝わってしまう。
この痛みでさっきのことが嘘のように思えるが本当にあったことだと痛感した。
「動かないでください。一応、肋骨が内臓に刺さってましたから」
「……マジ?」
「力を思いっきり抜いたつもりだったんですがシドーの体が余りにも脆かったので……本当に申し訳ありません」
「……う、うん。謝らなくてもいいよ。証拠見せろって言った僕に非があるんだから」
「……ですが」
「別にいいよ……もう、なんか今ならいろいろ諦めれそうな気がするし」
さらば、僕の平穏。
「で、シドーにいくつか聞きたいことがあるのですが?」
「なに?僕が知ってる範囲ならなんでも答えるよ」
「それでは、シドーは、聖杯戦争というものをご存知でしょうか?」
「初めて聞く単語だね」
「そうですか。なら英霊は?」
「かっこいいね。その言葉」
「なるほどやはり……」
アルトリアは、何か自分の中で納得した後、まっすぐ僕の眼を見てくる。
「……シドー。信じがたい話かもしれませんが落ち着いて聞いてください。まず私は英霊と言う人間という種の到達点のような存在だと認識してください」
僕が今思っていることを一言で言おう。
「なに言っての?」
「いえ、だから私は、人間であり人間ではない。それに聖杯戦争とは、聖杯を私のような英霊とそのマスターが奪い合うゲームのようなものなのですが、貴方に呼ばれてから聖杯から入ってくる情報は、おろか聖杯の気配さえ感じ取ることはできない。そのことから私が考えられることは1つ。聖杯戦争とは全く関係なく、私は何かによって無理やりシドーのもとに召喚されたということですね」
「……ごめん。意味が全然わかんない」
「私もこのようなことはイレギュラーすぎて理解に苦しみます。きわめつけはシドーが未熟なせいで全力が振るえませんし」
「……いや、未熟もなにも僕、素人だし」
「えっ!でもシドーからそこそこの魔力を感じますが」
「……マジ?」
もしかして、あれか?中学の時ネットに書いてた魔力精製の特訓の成果か何かか?
「ですが、見たところ使い方は全然のようですね。さしづめ魔力タンクといったところでしょうか」
「ねぇ、さっきから思ってたんだけどちょくちょく失礼だね」
「まぁ、これからどちらかが死ぬまで運命を共にするわけですし、これぐらいで行きましょう」
「……うん。そ、だね」
あぁ、平穏が……
セイバー以外のサーヴァントと出てきません。