「大丈夫かい?えっと、乙坂士道君といったかな?」
アルトリアに邪魔だからと雑に投げられ、三勢力のトップが展開している安全圏にたどり着くも、魔王、天使長が展開するすごい頑丈そうな結界に真正面から激突した僕に魔王ザーゼクスが心配そうに結界の中から頭を抱えうずまっている僕に言ってきた。
その隣にいる天使長もザーゼクス以上に僕に同乗の目を向けている。
ザーゼクスは、すぐに結界を一部解除して、僕を結界内に避難させるも、僕はそれどころではなかった。
テロリストが放つ銃弾より威力があるであろう魔力弾を何百、何千発受けても傷一つ付かない結界に盛大に頭を強打したため、すんごい頭が痛い。
それはもう、脳震盪でも起こしたんじゃないかと思えるぐらい。
つうか、絶対、頭蓋骨にヒビ入ってんじゃね?
くっ!アルトリアめ!僕の騎士ならマスターのことを労わって加減してくれよ。
これはもう、明日から二週間ほどアフターケア付きで手厚く介護をしてもらうしかないな。
あぁ、それにしても頭が痛いな。
痛みが引く気配すらない。
そんな時、僕の視界に一人の少女が入った。
アーシア・アルジェントだ。
確か彼女は、回復系の神器を所有していたな。
アルジェントは、僕が痛がってる姿を見て泣きそうな表情を浮かべて近寄ってきた。
「だ、大丈夫ですか?」
そう言いながら、アルジェントは、僕の頭を包み込むようにして抱えると、手から優しいオーラのようなものを発生させた。
同時に、あれほど痛かった痛みが嘘のように引いていく。あと、いい匂い。アルトリアとは、違う優しい女の子の匂いだ。
いや、これがあの噂に聞く聖女の匂いか?
すでに、全くと言っていいほど痛みは感じないが、このままだと、この桃色空間が終わってしまう。
それに、アルジェントの性格上今の僕のようなけが人は放置することは、できないっぽいので、ちょっと彼女の優しさにつけ込むとするか。
「あ、頭が割れ…頭がぁぁぁああ!!」
突然、すさまじい頭痛が襲ってきたかのように頭を抱え激しく上下に動かして……アルジェントの胸にソフトタッチ&スーハ―スーハ―。
ふむふむ、これは洗剤の匂いだけではないな。やはり、アルジェントが持つ先天性の匂いか。
それに服の上からだと確証は、できないが、手の甲から感じる弾力と、胸に顔面を押し付けた時の、柔軟性。その他、視認、嗅覚、鼻から吐く息の空気圧から考えて彼女は、まだ発展途上中か。
全く、1年後が気になるぜ。
「キャッ!お、お、乙坂さんどこをッ……」
やばっ!気づかれた。
周りにかんぐられるのは少々まずいので、あくまでも事故で済ませるために、僕は、彼女の声以上の声で彼女の声をかき消す。
「いだいよぉぉ!!頭がいだいよぉぉおおお!!お母さッ……」
そういえば、今僕の母親は海外だった。
「……アルトリアぁぁぁあああ!!!いだいよぉぉおおお!!!」
「た、たいへんです。シドーさんがッ!」
突然、異常なまでに苦しみだした僕に周りにいる面子は、僕に目を向けアーシアは、治癒のオーラを強める。
そろそろ、怪しまれる頃合いかな?
アーシアはともかく、さすがに魔王、天使長を僕の演技で欺ける自信はない。
ありがとよアルジェント。貴様のおっぱいの感触は、忘れないぜ。
「……はぁ、はぁ、ありがとう。アルジェント。やっと痛みが引いてきた。感謝するよ」
「い、いえいえ、わたしはただ、当然のことをしただけでお礼なんて結構ですよ」
「でも、僕は君に恩を感じている。そのことだけは覚えといてくれ」
僕が、イケメンの顔を有効活用してクールに微笑んだ瞬間、突如、戦場となっている運動場から爆音があたりに響き渡った。
僕としては、アルジェントとのお話を続けたかったが、僕以外の全員の視線がそちらへ向いたため、僕も皆に合わせて振り向かざる得ない。
しかたなく、しゃーなしに爆音がした中心部へ目をやるとそこには、不意打ちを食らったのか、すすがこびり付き、ところどころから血がにじんだ片腕を抑え、頭上を睨み付けているアルトリアとその10メートルほど上空に翼を広げながらアルトリアに対し好戦的な笑みを浮かべているヴァーリの姿があった。
「……ぅ、っ……!」
腕をかばうように構えるアルトリア。
ヴァーリは、暴風のように傷ついた彼女へと一瞬で距離を詰め、ほぼゼロ距離でどんな魔法なのか、白銀に迸る稲妻のようなものを放った。
「……っ」
ヴァーリの魔法をもろに受け、苦しげに顔をあげるアルトリア。
「ははは!どうした伝説の騎士殿。貴殿の力は、この程度ではないだろ。もっと俺に伝説を見せてくれ!」
『Divide!!』
ヴァーリが纏う白銀の鎧の宝玉から音声が聞こえたと思うと、突然、彼女が地面に足をついた。
何が何だかよくわからないが、これはまずいな。
見た感じ、アルトリアは、無事、魔王の末裔を滅することができたようだが、今の状態での連戦は素人目から見てもきついだろう。
まして、相手は、なんかめっちゃ強そうな二天龍の一角「白龍皇」だ。
そういえばあいつ、以前からアルトリアに対して好戦的なアプローチを仕掛けてたっけな?
ここは、逃げるのが先決だと思う。
だが、彼女に逃げるという選択肢はないようだ。
ボロボロの体になってもなお、鮮血をまき散らしながら、剣を杖にし、立ち上がる。
その様子になんだか腹の立ってきた僕は、危険を承知で結界の外に飛び出すと、ありったけの声量で腹の奥から声を絞り出した。
「アルトリアァァァァ!!!逃げろぉぉぉぉ!!」
アルトリアがどれだけ強くても、今のハンデを抱えたままでは分が悪すぎる。
だが、アルトリアは、こちらに一瞬目をよこしただけだった。
あいつ、僕を無視して続けるつもりだな。
なら、僕のすることは一つしかないな。
ここは、彼女に任せ、僕は、こんな危険な場所から早く逃げてしまおう。
なんか詳細はよく知らんが、僕の中では強者として名をはせているアルトリアが負けそうになっているのだ。
逃げる以外の選択肢など存在しないだろう?
僕は、聖杯こそ、持っていても、根の部分ではただの一般人。
だが、不思議と僕の足は、すでにアルトリアに向けて走り出していた。
自分でもどうして足がひとりでに動いているのか理解できない。
頭では、逃げたいけど、何故か体が言うことを聞いてくれない。
背後から、魔王方の声が聞こえるが、そんなもん知るか!!
顔だけがイケメンの性格最悪、友達、女性経験共に無しな僕を守るために戦ってくせている女の子を、見殺しなんてできるか。
「テっメェェェェエエエ!!そいつから今すぐ離れや…ガフッ!!」
「シドー!」
特別、早くもないが遅くもない、僕の最上級の全力疾走でアルトリアを救い出そうと、体が勝手に駆けだしたわけだが、あっさりと突き飛ばされてしまった。
「が―――はッ!」
な、なんだ?
普通に吹っ飛んだだけなのに、なんで、こんなに―――。
息ができなくなっているのか?
「…弱いな。聖杯と言う最上級の聖遺物を持っておきながらその力をわずかしか発揮できないとは……残念だが君は兵藤一誠以下だ」
いつの間にか、僕を見下ろすように立っていたヴァーリは、憐れむように、僕に手を翳すと……静かに手を戻した。
つうか、僕が兵藤よりも弱いだと。何を基準に僕の価値を図ってんだこいつ?
「何が面白い?」
「……な、に…ぼ……、くも、…男だ…と、いうこ…と……ガハッ!」
途端、口から有り得ないほどの量の赤黒い液体がこみあげてきたが、どうでもいい。
血が付いた手でポケットの中を弄ると、確かにそこに存在するクラスカードを確認する。
……告げる。
肺が機能しないために僕は声には出さず、心でカードを起動させるキーを唱える。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この断りに従うならば応えよ。
この節を心の中で唱え終わると、僕を囲むように見たことのない魔方陣が浮かび上がる。
「ほう、何をいうかと思えば、俺を楽しませてくれる気か?」
「ッ!」
ヴァーリは、先ほどの憐れむような表情から一転、少年のような好奇心溢れる表情になり、アルトリアは、何かを悟ったのか険しい表情になった。
「シドー!やめてください!!」
アルトリアが、地面をける。
だが、あの距離からだと、僕の詠唱の方が先に終わる。
続けて、カードを通じて、頭の中に浮かび上がる一節を紡ぐ。
誓いをここに。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝は……ッ!
ここまで言いかけたところで、さらに頭を揺らすほどの先ほど以上の衝撃で、砲弾のような勢いで吹き飛んだ。
途端に、儀式は、強制的に中断され、展開された魔方陣も、光の粒子となって消え失せる。
ただでさえ、息ができないほどの重傷だというのに、もう、終わりだ――と心の中で思っていると、先ほどヴァーリに突き飛ばされた時と違って、突き飛ばされた時の衝撃こそあったものの、それだけだった。
「ぎりぎり間に合った……というところですか。まったく、何考えてるんですか!マスターがサーヴァントを庇うなど、正気の沙汰ではありません!!」
えっ!間に合ったの?
うすぼけた視界の中で空気の塊のようなものが彼女の体を包んでいるのを確認できた。
そうか、風を纏ってスピードを速めたのか。
つうか、アルトリアさん。さっきまでの傷は、いったいどこに行ったんでせうか?
なんと彼女の体から、傷が消えていた。
それどころか、ヴァーリの攻撃を受けてボロボロに廃れた鎧も、ドレスもすべて元通りだ。
瀕死の僕を抱え、撤退に移るアルトリア。
背後からヴァーリが追撃してくるが、撤退に徹した彼女を撃墜するに至らなかった。
それどころか、白い魔力弾が彼女の体に命中しても、彼女は全く気に留めてもいない。
「ハハハ!!なんだ、次は鬼ごっこか……チッ!」
背後に迫るヴァーリが急に舌打ちしたと思うと、突如、回避行動に移った。
瞬間、白い全身鎧を纏うヴァーリに赤い波が襲った。
霞みつつある視野を背後に向けると、そこには、赤がいた。
ヴァーリと類似した全身鎧に身を纏った誰か?
ただ、今の状況的に謎の人物には感謝をしなければならない。
あっ、ヤバい。もう限界かも。
息も途切れた今の状況で、すでに僕の肉体は限界を超えていた。
ガラスが割れる音に似た結界を切り裂く音を耳にしながら、僕は深い闇の中に沈むように意識を手放した。
―――○▽○―――
「ばばぅ、ッがぅぁっっ!!」
静かに意識を取り戻すというより、夢の中でとてつもない衝撃を受け、ショックで現実世界に舞い戻るような感覚だった。
「シドー!!起きてくださいっ!シドー!!」
続けてもう一発、アルトリアの泣きそうな声と共にバクンッ!と、胸から背中に衝撃が突き抜ける。
「ぶっ!」
訂正する。さっきの衝撃の原因はこいつだな。
心臓にショックを与え、僕を蘇生しようとしたのだろう。
ただ、組成の方法が少々クレイジーだったために喉の奥から体内に溜まった空気、いや、これは血だ。ドロリとした血塊が込み上げてくる。
やばい、死ぬ。
「起きて……起きろ!!」
彼女の必死の叫びに、今度こそ命の危険を感じた僕は、夢の世界から無理矢理にでも意識を引っ張り出し、感覚を取り戻していく。
肺いっぱいに酸素を取り込んだまま、全身の感覚を取り戻すと、一目散に目を開き、見る前に叫んだ。
「ストォォッップ!!」
瞬間、僕の体に空気の塊が直撃し、はかなく霧散していった。
まだぐらつく頭を振って周りを見回すと、涙目のアルトリアと、横になっている僕の左胸すれすれのところで停止している風を纏った拳。
「じょ、冗談だろ。僕は、殴るとリアクションがある、リアルサンドバックじゃねぇーんだぞ……」
「私が!!どれほど!!心配したと思ってるんですか。だというのに生き返って第一声がそれですか?」
「生き返ったって……えっ、僕死んでたの?」
そしてまた死のうとしてたの?
「心臓が止まった時、本当に焦ったんですから!!どうしてシドーはそんなにバカなんですか!!」
危うく、僕がもう一度死んでしまってたかもしれないのに、僕が悪いように言葉巧みに僕を惑わしてくる。
とりあえず、なんとか今回も命すれすれながら生き抜くことができた。
胸のあばらから鎖骨にかけての骨折し、息をするのも体を起こすのにも激痛を伴うが命を取り戻しただけでも良しとしよう。
となると気になるのはやっぱり、ウァーリのことだ。
「あの後どうなった?」
「途中で士道を連れて離脱したために詳しくは分からないのですが、赤龍帝が白龍皇を撃破したそうです」
「……マジで?」
普通に考えて有り得んだろ。だってあの兵藤だぜ。僕より弱い兵藤だぜ。
もし本当にこの話が事実なら、もしかすると僕もヴァーリ倒せるんじゃね?
いや無理か。
実際に僕はヴァーリに対して指一本すら出なかった。
「あぁ、それと堕天使、天使、悪魔の各陣営が平和協定を結んだことにより、アザゼルが駒王学園の教員兼オカルト研究部の顧問になりましたので、私たちは堕天使陣営か悪魔陣営の両方から庇護をうけることになりましたので」
「昨日の今日でなんだかすごい話が進んでんな」
「は?」
なにいってんだこいつ。的な目つきを僕に向けてくるアルトリア。
「お言葉ですが、あれから3日立ってますよ。三日間、人をさんざん心配させといて、随分と頭がお花畑で何よりです」
「……なんかごめん」
そういえば、アルトリアの目下にくまができてるし、ちょっとだけゲッソリした感じがある。
「もしかして、寝る間も惜しんでずっと僕の看病してたの?」
恐る恐る聞くと彼女は、顔を赤くしながら答えた。
「い、いえ、別にシドーを心配して看病していたんじゃないです。私は、私の目的を完遂するために仕方なく、本当にいやいやシドーの看病をしてただけなんですから」
「なぜそこでツンデレなの!?」
まぁ、彼女がいつも唐突にツンデレになるのはいつものことなのであまり気にしないでおこう。
それにしても、テロリストにヴァーリが下ったのか。
三日たってるけど昨日のように思い出せる。
だが、深く考えたところで僕にはどうしようもない。
というより、ぶっちゃけヴァーリがテロリストになろうがなるまいが全然関係ないな。
うん、もうこれ以上ヴァーリのことは考えないでおこう。
あいつ的に僕は、弱すぎて目にも留めれないほどの存在だしな。
願うことならこのまま、僕のことを眼中に入れてくれないよう祈るだけだな。
いや、心配だから念には念に神にでも祈っとくか。もういないけど。
ベットの上で自分の体が動くか、確認し終えた僕は、アルトリアの手を借りてベットから立ち上がろうと足を床に置き、一気に腰に力を入れて立ち上がるが――
三日という時間の中、想像以上に足の筋力が落ちていたらしい。
右足の力が崩れ、そのまま横倒しに崩れそうになったところで、別の女の子が突然現れに寄り添ってきた。
白い髪に高校生と思えないほどの未発達ボディの駒王学園の制服耳を着た少女。
「大丈夫ですか。シドー先輩」
「……小猫ちゃん?」
どこにいたんだろう?
さっきまでこの病室のような部屋にはアルトリアしかいなかったはず。
だけど、アルトリアの表情から彼女は、小猫ちゃんがここにいることを知っていたっぽいな。
ということは、僕の視界に入らない場所にいたのか。
とりあえず、僕は、この偶然手に入れた絶好のシュツエーションを友好的に活用しないわけがない。
今度は、わざとそれでもって自然に見えるように足の力を抜き、小猫ちゃんのちょうど胸のあたりに顔をうずめるように倒れこむ。
「っとっとと!」
「シドー!!」
「…シドー先輩?」
アルトリアは、突然倒れた僕を心配し、小猫ちゃんは逆に僕の真意を読み取ったのか疑いの念を送る。
スーハ―。スーハー。ヤバいいい匂い。
女の子の匂いすぎて昇天しそうだぜ。
こんなにおい嗅いでしまったらもうあとには戻れないぜ。
僕はさらに匂いを嗅ぐ。
スーハ―。スーハ―。スーハ―。スーハ―。スーハ。
「シドー?」
クンクンクンクンクンクンクンクン!!!
「ひっ!」
「シドー!!」
ヤバい溜まらん。
小猫ちゃんの匂いが僕の理性を……。
ペロペロペロペロペロペロ!!!
「シドー!!」
「死んでください」
次の瞬間、両サイドから同時に頭蓋骨が砕けるレベルの拳が両頬に炸裂し、僕は意識を失った。
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