僕の平穏な人生がある日突然終わりを告げたようです   作:木原

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小猫の味方

その日の夕刻、俺たちは、グレモリー領の隅にポツンと立っているこの度のパーティ会場となる超高層高級ホテルに来ていた。

 

ここまで来るのにグレモリー邸から馬車で送迎してもらったのだが……問題は、目の前の同じ顔の金髪の少女共二人。

 

「なぁ、二人とも、只の高校生として一つだけ指摘していいか?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「なんだよ」

 

「いや、別に人の服装とかあまり気にしない方なんだけど、さすがにおかしくないか?」

 

そう、目の前のセイバー達の格好は、誰が見てもおかしい。

 

まず、アルトリア。ブリテンの王様でお嬢様だからドレスで来ると思いきやまさかの、黒ネクタイ、黒スーツ。

 

そして、モードレッド。こちらは、男気溢れるって感じでも、根の部分は女の子。だから動きやすいドレスを着てくるのかなぁと思っていると、こちらも黒ネクタイに黒スーツ。

 

親子そろって黒ネクタイに上下黒スーツ。同じ顔だから、わかりづれぇ!でも似合ってんなぁコンチクショウ!!

 

僕の言葉に二人とも、自分の姿を見ると、アルトリアは、何か思ったことがあるのだろう。口を開く

 

「あぁ、そういうことですか。一応、公の場ですのでアルトリアではなく、アーサーとして出席した方がいいのかと思いまして」

 

「俺は普通にひらひらしたドレスなんかよりこっちの方が動きやすいからだな」

 

「アルトリアはともかく、お前は適当過ぎるだろ」

 

「シドーこそ、パーティに学校の制服って庶民丸出しだな!」

 

「僕の正装は、制服なの。第一、こっちのほうが動きやすいな」

 

悪意を込めて指摘してきたモーレッドを受け流す。

 

たしか、パーティ会場は、このホテルの最上階だったっけ?

 

大勢の従業員に迎えられながら、フロントで確認を取って、いざエレベーターへ。

 

「そういえばグレモリー眷属は、もう入ってたようだよ」

 

「今日のパーティの主役は、彼らと聞いてますからね。でも、シドー。タダだからと言って油断してはいけませんよ。相手は悪魔なんですから。気は抜かないようにお願いします」

 

「父上の言うとおりだぜ。こういう催しってのは、何考えてるかわからない腹黒い奴らがうじゃうじゃ蔓延ってるからな。そいつらの言葉をうのみにしたら最後、寝首かかれるだけだから、あまり俺から離れんじゃねぇぞ」

 

「お前が言うと妙に説得力あるな」

 

さすが叛逆の騎士。何考えてるかわからない張本人だけに、警戒の色が濃い。

 

二人からアドバイスを受けてるうちに、エレベーターも到着し、一歩出ると会場入り口も開かれる。

 

きらびやかな広間には、フロアいっぱいに大勢の悪魔と美味そうな食事に数々。

 

見た感じパーティはすでに始まってるようだ。

 

部長に連れられあいさつ回りしているイッセーも見ることができる。

 

フロアの隅のテーブルに見知った顔を見た僕らは、そちらへ足を進める

 

途中、アルトリアが、和洋中、様々な料理が置かれたテーブルを気にしながら涎を垂らしていた。

 

席に着いた僕たちは、一応、グレモリー眷属の面々に挨拶しようとするも、二人は、席に着くなり、料理を取りに行ったようだ。

 

「まっ、いっか……よう、木場。久しぶりだな。元気にしてた?」

 

「そういう、乙坂君こそ、見違えるようにステキな体になったね。イッセー君も負けてないけど」

 

「お、おう。そうだな」

 

なにこいつ。見違えるほどホモ度上がってないか?

 

木場の視線がねっとりと僕の頭からつま先までを駆け巡る。

 

木場から逃げるようにして、僕も料理を取りに席を立つと、ちょうど入れ替わりで二人が豪華な料理を皿に山盛りで乗っけて戻ってきた。

 

皿に乗らない分は、口の中に放り込んでるし。

 

この親子。食い意地はりすぎだろ。下品極まりない。

 

近くの悪魔がこっち見てヒソヒソ話してるし。

 

木場も同席してるアルジェントも一緒と思われたくないのか、眼をそらしている。

 

僕も他人の振りして、料理取りにでもいこう。

 

だが、ここで僕に話しかけてくる悪魔がいた。

 

イッセーだ。

 

部長とあいさつ回りが終えたのかぐったりした様子でこちらにやってくる。

 

「よう、シドー。それにアルトリアさんとえっーと……」

 

テーブルに座って料理をがっついてる二人を見て若干引き気味のイッセー。

 

「そういえばイッセーは、ずっと山籠もりしてたからまだ紹介してなかったな。僕の二人目のサーヴァント、モードレッドな」

 

モードレッドは、イッセーの方を一瞥するも、軽い会釈だけして、料理を食す。

 

「アルトリアさんとそっくりなんだけど……」

 

だって親子ですもん。でも、こいつの言説明するとなるとブリテンの歴史から説明しなきゃいけねぇからめんどくさいな。

 

「まぁ、いろいろあんだよ。気にすんな。それよりも料理取りに行こうぜ」

 

有名なグレモリー眷属のイッセーが隣にいれば、今日の会場で名の全く知れてない僕でも、肩身も多少広くなるもんだ。

 

二人で料理を取りに向かうと、途中、こちらへ向かってくる人影が。ドレスを着た女の子だった。すっごいイッセーを睨んでるが……。

 

「おい、イッセー。スゲー睨まれてるぞ、知り合いか?」

 

「あー、あいつね。確か、焼き鳥野郎の妹だったけど」

 

「レイヴェル・フェニックスです。まったく、これだから下級悪魔は、頭が悪くて嫌になりますわ」

 

ぷんすか怒ってる。なんだこいつ。カルシウム不足か?

 

「イッセー。あんまり怒りっぽい人と関わらない方がいいぞ」

 

と、イッセーの耳元で呟くが、

 

「聞こえてますわよ!初対面の癖に失礼じゃありませんの。あなた、イッセーさまの友達でして?」

 

「いや、友達と言うかなんて言うか……僕たちどんな関係だっけ?」

 

「言うまでもなく友達だろ。ちょっぴり、傷ついだぞ」

 

と、イッセーは、僕に突っ込みを入れた後、レイヴェルに、向かって、

 

「こいつは、俺の友達で乙坂士道。こいつに敬う必要ないから、呼び捨てで構わないよ」

 

おいおい、イッセー。僕たち本当に友達か?ちょっぴり傷ついたぞ。

 

「そ、そう。では、遠慮なくシドーと呼んで差し上げてよ」

 

「………」

 

僕は、またイッセーの耳元で今度は、もっと声量を落として言う。

 

「おい、イッセー。この小娘、マジで呼び捨てやがったぞ」

 

「いちいち細かいな。俺だって下の名前で呼ばれてんだから問題ないだろ」

 

「いや、お前の場合はイッセーさま。僕はシドー。しかも初対面で超上から。高飛車すぎんぞ」

 

すると、さらにそこへ、背の高いお姉さんが登場する。

 

「レイヴェル。旦那様がお呼びだ」

 

「あっ、こんばんは。フェニックス家のイザベラさんだっけ」

 

またも、イッセーの知り合いのようだ。

 

知り合い多いな。悪魔の視線をイッセーに集めて僕は空気のように陰で料理を取る作戦だったのだが、こう何度も足を止められて、紹介されては、僕の人間強度が下がる一方だな。

 

ここは、ひとまず戦線離脱して、イッセーが一人になったころ合いを見計らって合流するか。

 

「わりぃ、イッセー。僕、ちょっとトイレ行ってくるわ」

 

そうイッセーに断りを入れてトイレへと向かった僕だった。

 

 

そして、トイレで本当にしょんべんを済ませた僕は、会場に戻る途中、廊下を歩いていると、なにかフワフワしたものが足に当たった。

 

視野を下げ、見て見ると、なんと一匹の黒猫だった。

 

「ん?迷子か?」

 

こう見えても僕は、動物好きだ。

 

もし本当に迷子なら見過ごしていられないのでフロントにでも渡そうと、猫を抱いてみるた瞬間、黒猫は、足をばたつかせ、必死の抵抗へとでた。

 

「ちょっ、なんだこいつ」

 

猫は、僕の手の中でもがきつづけ、必死に腕から逃れようとしてくる。

 

こいつ、野良か?首輪をしてないし、迷い込んだのだろう。

 

会場に戻って今すぐにでも料理に手を出したいが、迷子の黒猫を見放しにしてしまうのも気が引けるしな。

 

「しゃーないから、外まで送ってやるよ」

 

 

黒猫を抱いたまま、エレベーターに乗り1階へ。

 

1階へ着くと、黒猫は、入口方面に腕を向ける。

 

「……行けってか!?」

 

この猫、ちゃんと足を行きたい方向へ向けて、僕を誘導してくれる。

 

えらいな。その可愛さに免じていまだけ、使われてやろうじゃないか!

 

明るい場所を抜けて、森の方へと案内される。

 

「おいおい、あんまり遠くまで来させられると、困っちゃうんだけど」

 

そろそろ、降ろそうかなと考えていると、

 

「にゃ、にゃぁ」

 

黒猫がこちらにつぶらな瞳を見せ、訴えてくる。

 

「………わかったよ。あと、もう少しだけ付き合ってやるよ」

 

そうして、森の中を進むこと数分。

 

黒猫がここで降ろせと、言ってきたので、降ろしてやると、突然、背後に何かを感じた。

 

振り向くと、黒い着物に身を包んだお姉さん。しかも、頭部に猫耳、巨乳!!

 

「あら、あなたがこの子をとど……」

 

お姉さんは、僕の顔を見るなり声を詰まらし、急に、キョロキョロ挙動不審になった。

 

「急にどうした?」

 

「えっ…なんで、こんなとこにシドゥーが!!」

 

こんどは、僕が挙動不審になる番だった。

 

「な、なななんで僕の黒歴史を……」

 

「これはそっちのセリフよ。なんで冥界に悪罪の救世主(ギルティーイノセクト)シドゥ―がいるのよ!!」

 

「やめろぉぉぉおおおッッ!!」

 

なぜこいつは、僕の封印したはずの二つ名を!!

 

「シドー先輩――っ!……それにあなたは!!」

 

お姉さんの言霊によって悶絶していると、小猫ちゃんの呼ぶ声が。

 

声の発生源に目を向けると、小猫ちゃんが僕と猫耳女性を目で交互に見ながら佇んでいた。

 

「ハロー、白音。お姉ちゃんよ」

 

お姉さんの意識はすでに僕になく、小猫ちゃんに向いている。

 

「黒歌姉さま……!」

 

絞りだすような声の小猫ちゃん。

 

――っ!なに!!小猫ちゃんのお姉さんだと。同じ猫耳だからそうなのかなって思ってたけど!!マジか!!将来、小猫ちゃんもこのお姉さんみたいなダイナマイトボディになる?やはり僕の目に狂いはなかった!

 

「姉さま。これはどういうことですか?なんでシドー先輩が!」

 

「怖い顔しないで。シドゥ―に関しては完全にお姉ちゃんでも想定外なのよ。でも白音が来てくれたから別にどうでもいいのだけど」

 

「ハハハハ、こいつもしかして、噂の聖杯君かい?」

 

男の声がどこからともなく聞こえ、姿を現したのは、中国風の鎧みたいなものを着たイケメンの男。僕の次にイケメンだ。

 

ふいにイケメン男の視線が木の陰に向けられる。

 

「気配を消しても無駄無駄。俺ッチや黒歌みたいに仙術知ってると、気の流れの少しの変化だけでだいたいわかるんだよねぃ」

 

イケメン男に声を掛けられ木影から姿を現したのは、イッセーと部長。

 

「……イッセー先輩、部長」

 

「よう、クソ猿。ヴァーリは、元気かよ?」

 

「まぁねぇ。そっちは多少強くなったのかねぃ」

 

「まぁな。で、なんでお前らがここにいんだ?テロか?」

 

イッセーは、そちらのイケメン男と知り合いみたいだけど誰?

 

そう思っていると、お姉さんもイッセーを指さし、イケメン男に聞く。

 

「美猴、誰、この子?」

 

「赤龍帝」

 

イッセーの正体を聞いて、お姉さんは目を丸くしていた。

 

「本当にゃん?これがヴァーリを退けたあのおっぱい好きの赤龍帝ね。それじゃ、美猴、しばらく赤龍帝の相手してもらえないかしら、その間に私は白音を攫っとくからにゃん」

 

手を可愛く猫みたいにしてウインクするお姉さん。かわいい!

 

「へいへい。後でラーメンの一杯ぐれぇ奢れよな」

 

瞬間、美猴と呼ばれたイケメン男が消えたかと思うと、イッセーの目の前に出現し、

 

「如意棒ッ!」

 

美猴の手元に棍が現れ、イッセー目がけて解き放つ。

 

「っく!ドライグ!禁手の準備だ!!」

 

赤龍帝の籠手で如意棒を受けながら、森の中へ飛ばされていく、イッセーとそれを追いかけていく美猴。

 

「イッセー!!」

 

「部長。イッセーのサポートをお願いします!小猫ちゃんは、僕に任してください」

 

「し、シドー。大丈夫なの?すごい脚震えてるけど」

 

「……だ、大丈夫です」

 

ぶっちゃけ全然大丈夫じゃねぇ。漏らしそう。さっきトイレ行ったけど、怖すぎて漏らしそうなんですけど!!

 

「わかったわ。シドー小猫をお願い。10分…10分持ちこたえて。それまでにイッセーと二人であいつを倒して戻ってくるから」

 

そう言い残し、イッセーの方へ向かう部長だったのだが、

 

「ちょっと待ってください部長」

 

僕は、振り向かず、背中越しにこう語る。

 

「なに?」

 

「10分持ちこたえるのはいいですけど……小猫ちゃんのお姉さんを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

「……えぇ、シドー。ぶっ倒しちゃいなさい」

 

先輩をそう言い残すと、イッセーを追って森の奥へ消えていった。

 

決まった!決まりすぎた!背中で語る男、シドー!今の僕、すげぇかっこよくない?

 

同時にこちらの空気も様変わりした。

 

「舐められたものね。私相手に、人間の貴方一人なんて。昔のよしみで今なら逃げても追いかけないわ」

 

「逃げてください先輩。先輩では、姉さまには勝てません!」

 

突然、小猫ちゃんがそんなことを口走る。確かに僕を知ってる人間なら100人中99人が負けるといいそうだが、小猫ちゃん。僕は約束は守る男だぜ。

 

「小猫ちゃん。悪いけどそれはできないな。この前約束してしまったからな。僕は小猫ちゃんのピンチに駆け付ける!小猫ちゃんの味方だってな」

 

と、小猫ちゃんを少しでも安心させようと無理矢理、笑みを造る。

 

きっと今、小猫ちゃん的には俺が眠り姫を助ける王子様だろうな。

 

後、は令呪でモードレッドかアルトリアを呼んで黒歌をボコって終了だ。

 

フフフッ……小猫ちゃんフラグは、案外ちょろかったな。感謝するぜ。黒歌。僕の為に負けてくれ。

 

心の中でほくそ笑みながら、優しい笑みを顔に張り付け、僕は正義の味方……もとい小猫ちゃんの味方を演じる。

 

「それに、小猫ちゃんもこれまでいろいろ苦しんできたんだろう。なら、その苦しみ、傲慢かもしれないけど少しぐらい僕に背負わせてくれないか?」

 

「……先輩」

 

「だから、小猫ちゃん。僕に任せろ!イッセーのようにかっこよくは、できないかもしれないけど、君のお姉さんに血のにじむような修行の成果を見せつけてやるぜ!」

 

そういうと、お姉さんを睨みつける僕。

 

「どうしても逃げてくれないかしら。私もシドゥ―を殺すのは気が引けてしまった後のモチベーションに影響しそうだから」

 

「残念だけど、小猫ちゃんと約束してしまったからね。僕が小猫ちゃんを諦めるのを諦めてくれないか?」

 

すると、お姉さんはスッと、殺気をひっこめると、にっこりと笑い言う。

 

「そう、なら殺すにゃん♪」

 

――っ。

 

瞬間、言いしれない感覚が僕を襲う。どこか別の場所に飛ばされた感じだ。

 

「空気が変わったな」

 

「結界にゃ。この森一体の空間を結界で覆って外部から遮断したにゃ。これでここでどんな派手なことしても外には漏れないし、外から悪魔が入ってくることもない。シドゥ―はここで私にころころされてグッバイにゃ♪」

 

「フフッ!フフフ!フハハハハハハ!!」

 

「どうしたにゃ?」

 

「いや、なに?外部から遮断?それは都合がいい。僕も本気が出せるってもんだ」

 

と、右腕を前に突き出して言う。

 

「令呪をもって命ず!セイバーよ……」

 

「あぁ言い忘れてたにゃ。この結界は、外部からのあらゆるモノを遮断する結界。それは魔術的な波数を含めてね。その聖痕から波数的なものを飛ばして仲間を呼ぶつもりなら、やめといたほうがいいわ。無駄だから」

 

「……マジ?」

 

お姉さんは、一度苦笑した後、全身を凍らせるような冷笑を浮かべる。

 

「マジにゃん♪ だから、大人しく死ね」

 

「小猫ちゃぁぁぁあああああんんん!!」

 

僕は、全力で守るはずだった少女の背中に隠れようとするも、

 

ドォォォォォオオオオンッ!

 

「ぐはっ!」

 

破壊力のある一撃が僕を襲う。

 

いつの間にか、辺りは濃い霧に囲まる。

 

前方が確認できない程の霧だ。ただ恐ろしいほどに不気味で、この霧に触れてるだけ――。

 

「――あっ」

 

「……これは」

 

小猫ちゃんも口元を抑えながら膝を落とす。

 

僕は、もっとひどく、口元を抑える力がない。さっきの一撃で全身から血が噴き出ている。

 

万時休す。こうなれば、僕に残された方法は一つ。

 

この方法だけは、使いたくなかったけど、死ぬよりかはましだな。

 

深呼吸をした僕は、心の中で人として大切な何かを躊躇いなく切り捨てると、頭を抱えてその場でうずくまった。いわゆる土下座というやつだ。

 

「すいませんマジすいませんけしてフザけてるわけじゃなくほんとにホントにやばいんです本当に悪意はなかったんですほんとなんですいませんすいませんすいません」

 

「無様ね。さっきの威勢はどこに行ったの?これが今の昔のよしみだと思うと笑いよりもなんだか悲しくなっちゃうわ」

 

笑え!笑うがいい。思う存分嘲笑え!

 

お姉さんは、僕の頭に足を乗せ、嘲笑する。

 

「じゃ、下駄の裏舐めてくれない。舐めてくれたらあなただけは見逃してあげるけど……」

 

「くっ!」

 

さすがに……さすがにそれはできない。

 

そんなことをしたら、僕は……。

 

僕はいつもそうだ。

 

小猫ちゃんを任せた?倒してしまっても構わんだろう?

 

いつも肝心な時に力を発揮できなくて。

 

でも、そうじゃない。そうじゃないだろ!人に頼るな!逃げるな!

 

「……は……ぼ……は……」

 

「えっ!なに?聞こえない?」

 

僕は、頭に乗ってる黒歌の足を握り、持ち上げる。

 

「うぉぉぉぉぉおおおおおおおっっ!!」

 

全身にありったけの力を漲らせ、黒歌を突き放した。

 

僕のことなど後回しだ。

 

せめて、小猫ちゃんだけでもここから……。

 

瞬間、奇跡が起こった。僕の叫びと共に胸が黄金の光を発し、それどころか、全身からいままでにない凄まじい膨大な魔力が解き放ち始めた!黄金の光は俺を包み込んでいく。

 

「にゃ!これは…なんにゃ!?」

 

黒歌が、あまりの異様な光景に、距離を取る。

 

その時、僕を中心に凄まじいほどまでの神秘が吹き荒れた。

 

そして―――。全身を包み込む黄金の光は、鎧として、僕を包み込んでいき――

 

気づくと、下半身は、黄金の鎧で包まれ、上半身は、なにも身に着けてなく、赤い幾何学的な線が体に刻み込まれた恰好になっていた。

 

「こ、これは、もしかして、クラスカーッ…かッ!カかッかKKKックッッ」

 

自分の姿を確認した途端、僕の口が勝手に……ヤバい、何かが僕の中に……。

 

「………幾分面白い器ではないか」

 

その時、僕の口から発せられたのは、声質こそ僕だが僕とは違う威厳のある口調の声だった。

 

「アハハハハ!」

 

そんな中、笑う者がいた。小猫ちゃんのお姉さんだ。

 

「八ッ!おもしろいじゃないの!なら、妖術仙術ミックスの一撃を一発お見舞いしようかしら!」

 

黒歌の両手がそれぞれ違う力を纏い始めるが、

 

ジャラララララッッ!

 

黒歌の周りに波紋が出現した瞬間、中から出てきた鎖にあっけなく縛られた。

 

「恐れ入ったぞ雑種。王たる我に働こうとした蛮行、その生を以て償うがいい」

 

すると、僕の隣に波紋が生まれ、一刀の剣が刃を覗かせる――も、波紋が向きを変え、あやぬ方向へと、剣が発射された。

 

ガキンッ!

 

森の奥へと消えて言った剣が弾かれた音が響く。

 

「ほう、雑種の分際でやるではないか」

 

僕の口が勝手に動くと、森の奥から、こちらに向かって一匹の猿が現れ、追いかけるようにしてイッセーも姿を現す。

 

「戦闘中に横やりを入れてくるとは、随分と、舐めたことしてくれんじゃねぇか!」

 

猿は、如意棒を構え、殺気を放ってくる。

 

「貴様ら、雑種の尺度で物事を計るな。我こそがこの世のル―ル、秩序そのものよ!」

 

僕の背後に波紋が無数に出現し、剣、斧、ククリ刀と言ったありとあらゆる武器が波紋から発射される。

 

「オラオラオラオラッッ!!」

 

迫りくる無数の斬撃を猿は、手に持つ如意棒を巧みに操り撃ち落していくが、いかんせん、数が多すぎる。

 

「チッ!、おい、黒歌、一先ず撤退だ。こいつはヤバい!」

 

相手の実力を察知し、早々に逃げ腰となった猿は、黒歌に忠告する。

 

しかし、猿に言われるまでもなく鎖に捉えられたまま、すでに脱出用の転移魔方陣を展開させていた、黒歌は、猿の言葉を聞くなり、一人、この場から脱出。

 

黒歌がいなくなったことで結界も解除され、空間が元に戻っていくも、僕の中の何者かはそれが気に食わなかったらしい。

 

「雑種ごときは、王に刃向かうかッ!?」

 

僕の目がぎょろりと逃げていく猿を捉える――も、横から掛けられた声で僕の中の誰かは、そっちへ関心を置いた。

 

「おい、シドー。なんか様子が変だぞ」

 

イッセーだ。赤い全身鎧に身を包んだイッセーが忽然とした態度で話しかけてきたのだ。

 

途端、僕の表情が憤怒に染まる。

 

「――口の利き方に気をつけろよ、雑種」

 

と、問答無用でイッセーを攻撃した。

 

「ぐぁぁぁああああっっ!!」

 

弱っ!イッセーよわッ!あんなに強そうな鎧着込んでんのに、一発KOとは……。

 

直後、イッセーを中心に爆音と粉塵が巻き起こり、地面には攻撃の痕跡らしきクエーサーが形成される。

 

一瞬の出来事だった。

 

僕は、心の中でイッセーに謝る。ごめんちゃい、と。

 

その圧倒的破壊力に、イッセーは、瞬殺――されてなかった。

 

土煙の中、背中から広がるドラゴンの翼のようなもので身を守っていたようだ。

 

もちろんドラゴンの羽は、ボロボロで見る影もないし、鎧もところどころ砕けたり、ヒビが入ったりしている。

 

「ほう、頭だけは切れるようだな。だが、雑種程度では、それが限界よ」

 

僕が腕を軽く上げた瞬間、背後の空間が歪み、忽然と剣や槍が現れる。その数は、4。

 

僕にはわかる。その一つ一つがアルトリアのもつ聖剣に劣るモノの凄まじいまでの力を秘める宝具だ。

 

その伝説の一撃が4つ同時に放たれた。

 

すでにイッセーの体は虫の息。この猛攻を防ぐことは無理だろう。

 

だが、ここでまたしても横やりが入った。

 

紅色の魔力の弾が横やりから乱入し、イッセーを狙った宝具に直撃、爆発したのだ。

 

「なにっ!」

 

宝具がただの魔力の塊にやられたと知り、驚愕する僕と僕の中の誰か。

 

「イッセー。しっかりして!」

 

「ぶ、部長……ここから逃げて……ください」

 

先輩だ。イッセーの後を追いかけてきた先輩が、この惨状を見て大好きなイッセーを守るために咄嗟に放ったのだろう。

 

先輩は滅びの魔力を操る。つまり、宝具を相滅したのだろう。

 

ただ――

 

「――貴様!我が財を愚弄するかッ!」

 

宝具を破壊された僕の中の誰かはお怒りのようだけど。

 

「イッセーっ」

 

地面に倒れるイッセーに駆け寄る先輩を僕は見つめながら手を掲げる。

 

「――死ね」

 

剣を出現させ容赦なく部長に向かって放つ。

 

これ部長死んだな。

 

何もできない僕は、心の中で部長に送る念仏を唱える――南無阿弥陀仏と。

 

僕にできることはこれだけだ。まったく、何もできない自分が嫌になるぜ!

 

押し寄せる爆風を手をかき消し、ミンチとなった先輩を見ると、なんと部長を庇うようにして前に出たイッセーのボロボロの体を腹から背中へと剣が貫通していた。

 

僕は、急遽、念仏を唱える対象を部長からイッセーへと切り替える。

 

「ぐ、ぐぶぁっ」

 

口から赤黒い血を吐き、スイッチがオフになったかのように倒れるイッセー。

 

「イッセーッ!」

 

悲鳴を上げ、倒れるイッセーを受け止める先輩。

 

「イッセーッ!イッセー……しっかりしてッ!ねぇイッセーッ!」

 

「ぶ……ぶちょぅ……にげ…て」

 

「雑種風情にしては、よく持ちこたえた。安心して眠るがよい。そのゴキブリ並みの生命力免じて、すぐにそこの女も死出の旅路に送ってやる」

 

黄金の波紋から現れた剣を手に取り、先輩へと足が動く。

 

「よくもッ!よくもイッセーを!シドー、なんであなたが!許さないッ!絶対に許さない!」

 

先輩が全身から滅びのオーラを迸しながらすごい形相で僕を睨みつけてくる。

 

正直メッチャ恐い。普段の僕なら尻尾撒いて逃げてるよ。

 

僕の意思じゃないし……あぁ、伝えたいこの思い。

 

実際に先輩を中心に草木が消滅してるし!

 

「ほう、雑種の分際で散り際で我を興じさせるつもりか?よい。王たる我が許可する。気が済むまで無様に足掻くが良い」

 

「このっ」

 

部長は怒りに任せ、滅びの力を圧縮に圧縮を重ねて、無数の魔力の弾を宙に展開させるが、僕の背後に現れた10を超える波紋から掃射される宝具に一瞬にして打ち消された。

 

「貴様の足掻きとは、もしや今のことじゃないだろうな?もしも今のが貴様の全力なら醜態という言葉に失礼というモノだ。そのような雑種によもや生きる価値はない」

 

そうして、黄金の波紋から現れた槍が一直線に部長へと向かっていった。

 

あぁ、死んだな。さよなら先輩。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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