最近、僕は思う。どうにも一人の時間が少ない……というかほぼないと。
ほんの半年ほど前までは、学校でも浮いた存在であり、友達と呼べる友達もおらず、休み時間は一人席に座り寝たふりをして、友達いないわけじゃないんだからね! アピールを続けて、クラスメイトとあまり話さない。
私生活でも、一人家に閉じこもってゲーム、漫画、アニメ、ネット三昧。外に出る時は、決まってトイレットペーパーなどの日用品や食料品を買いに行くときだけで、それ以外の用事で外出はなるべく控え、近所の人たちとの交流を完全にシャットダウンしていた。
バイトもしていたが、ほぼほぼ仕事と割り切っていたのでバイトでも仕事以外のコミュニケーションを取ったことがない。
そんな僕だったわけなのだが、最近はどうだ?
高校2年の春、アルトリア・ペンドラゴンという英雄を召喚したことを境に僕の平穏は完全に消滅した。
醜い半裸のはぐれ悪魔に襲われるわ、堕天使に攫われるわ、質の悪い先輩から目を着けられるは、とんだ半年だった。
まぁ、これらのことは、学校生活の延長線上に発生した事案だから、いいとしよう。
問題は私生活。そう、アルトリアに続いてモードレッドを召喚した時にはすでに僕のプライベートは死んだのだ。
というのも、僕の住んでるマンション。ただの普通のありふれたマンションで、半年前までは僕の城だったのだが、今ではブリテンの城。僕はその中の小さな物置小屋にいる召使Aに過ぎない。
一人暮らし用のマンションでアルトリアが住むことになり空き部屋がなかったマイハウスにさらに住居人が一人増えたために、モードレッドに僕が自分の部屋を明け渡し、僕は、リビングへ追いやられたわけだが本当に大変なのは、自室がなくなったことではなかった。
まず朝。誰よりも早く起きて、二人のご飯を作りながら並行で3人ぶんのお弁当も作る。ちなみに僕は生粋の日本人なので朝は、毎日お米と決まっていたのだが、モードレッドが住むようになってからは。洋食と和食交互に造るようになった。
アルトリアに関しては、残飯でも残り物でもとにかく何か食わしておけば何もうるさくないのだが、問題はモードレッドだ。
こいつは、朝、誰よりも遅く起きてくるだけに注文が多い。やれ、何時に起こせだの、掃除しとけだの、食パンよりバゲッドだの、ランチパックだの、俺の舌にあわねぇだの……何様だ。
こっちは、朝食を作るのと同時に三人分の弁当も作らんといけねぇってのにそんな暇あるかっての!!
弁当作り終わったら、洗い物して、半年前の5倍ほどに増えた洗濯物を干したり、いろいろ忙しい僕の苦労あいつら絶対わかってない。
まったく、女ってなんであんなに洗濯物多いんだよ!!
学校から帰ってきても、自分の好きなことしている二人とは別に、僕はすぐに洗濯物を取り込んだ後、夕食の準備に取り掛からないといけない。
さらに夕食の準備に並行して風呂も沸かさないといけないし、兎に角大変なのだ。風呂は最近いつも、最後だし、就寝時間も一番最後。
ゲームやアニメなど、ここ最近全くしてない。そして、なによりも思春期男子として大事なアレを全然してない。
ここ最近、アルトリアやモードレッドの裸を1回、毎日、風呂上がりの薄着姿の彼女たちを見続けている。だがしかし、毎日同じグラビアの女の子を見突けるのと同様、飽きるのだ。
まして、僕は想像より実際見て、始めて興奮するタイプの人間だ。スカートの中のパンツより、スカートの中のノーパン。雫が滴る濡れた体操服に浮かぶブラより、肌に張り付く濡れた体操服のうっすら見えるピンクの乳首なのだ。
つまり何を訴えたいのかというと……イタしてないのだ……ッ!
夏に行ったグレモリー先輩の家なら広かったし、一人一部屋与えられてたためにそういう行為も毎日必ず一回してたのだけど、僕の部屋だと、狭すぎて、さらに異性が2人もいる中そういう行為が全くできない。
男の毒素を抜くアイテムもティッシュしかないし、肝心のオカズになるものがあまりないってのも理由にあるのだが。
一応、女性ものの使用済み下着に関しては、毎日手に入るのだが、グレモリー先輩の家でアルトリアの下着で一人毒素を抜いていたのを何故かモードレッドは知ってた件もあるし、もう、下着使ったナ二はできない。
バレた時が最後、マジで殺される。アルトリアさん、ああ見えて結構うぶだから。
というわけで、本日、雲一つない晴天の日曜日。以前までの僕なら休日の最終日、嬉々として家に閉じこもっていたのだが、今は、閉じこもっても自宅でのヒエラルキーが一番下なために家の家事をボイコットすることにし、二人分の朝ごはんだけを用意して、いざ、玄関へ!自由が待つ外へ。久しぶりに一人の時間を過ごしてみようと思い勇気を振り絞ってドアノブを回した。
瞬間、吸血鬼なら泣け叫びそうなほどの太陽光が僕を照らす。8月は過ぎ9月に入り、秋ということで多少は涼しくなっているのだろうと期待してみるも、まだ夏の暑さは全然残っている。
久しぶりの自分の時間をこれから堪能できると思うと暑さもへっちゃらだぜ。
さて、今からどこにいこうか?
ショッピング?それとも映画?思考を変えてぶらぶら街を歩くか?電車に乗って秋葉とかもいいかもしれないな。
そんなことを考えてる暇も季節に置いてきぼりにされた太陽が僕を照り尽す。
……熱い。早くクーラーのかかってる場所に行きたい。
よく考えた結果……よし、イッセーの家でも行ってゲームするか。アイツの家ならここから結構近いし、なにせあまり歩かなくていい。
こんな暑い日は外なんか行かずゲームだな。ショッピングに映画、遠出とかどうにかしていたぜ。暑さで頭がやられたんだな、と邪な発想を振り払いイッセーの家に向かったのだが……
「……なぜ誰もいないッ!」
夏の間に豪邸へと様変わりしたイッセーの家のインターホンを鳴らすこと数十回。誰も家の中から出てこなかった。無論インターホンからの反応もない。
あてにしていたイッセーが不在という現実に今日のプランが大きく崩れる。
これは、別の奴の自宅に乗り込んでプランを修正する必要がある。しかし、僕に友達と呼べるような存在はあまりいない。というかぶっちゃけイッセーしかいない。
「……ふっ、神はいなかったということか」
無計画すぎる自分が一番悪いのだが、イッセーよ。なぜ家にいない!?
イッセーの家の前で俯き、ショックのあまり一人でぼそぼそ呟いていると背後から最近、どっかで聞いたような育ちのよさが一発でわかる声質の声が聞こえた。
「あら、あなたは確かシドーさ――シドーでしたっけ?」
「いまなんで言い直した。普通にシドーさんでよかっただろ」
癪に触るような失礼な物言いに振り向き、一言モノ申すと、声をかけてきた金髪ドリルは、そんなことどうでも良いとばかりに僕の言葉を受け流し、イッセーの家のインターホンを鳴らした。
金髪ドリルの手には、なにか高級そうな紙袋が握られており、中に入ってる何かも大変お高い物なのだろう。それに金髪ドリルはなぜうちの学校の制服を?
「イッセーなら今いないぞ。たぶん一緒に住んでる先輩たちも同じくいないと思うよ」
いくらインターホンを鳴らしても無反応の兵藤家に怪訝そうになっていく金髪ドリルにそう言うと、数十秒前の僕と同じように残念そうな表情を浮かべた。
「そう……でしたの。久しぶりの休みに挨拶もかねてイッセー様と交流を図ろうと思っていましたのに」
「そりゃ、残念だな。僕もせっかくの休みにイッセーと遊ぼうと思っていたんだけどね。生憎家にいなくて今日一日することがなくなったわけだ……お互い運が悪かったってことだ」
と、言い残し、僕はその場を立ち去ろうとしたのだが、足が出る前に金髪ドリルに呼び止められた。
「ちょっと待ってください」
「なに?」
「い、いえ、別に、ようってがあるわけではないのですが……その、今日、シドーは暇でして?」
「え、今日?」
思わず声に出して確認してしまった。
正直、今日は暇だ。イッセーというプランの軸が抜けた今、今日の予定は白紙に戻った。だが、それは自分にとって有意義な時間を過ごしたいということであって、いきなり現れた……ましては、自分に好意を抱いてない女の子とこれから一緒に遊びたいというわけではない。
「いや、今日はちょっと……」
とりあえず、お前と関わりたくないアピールをするために適当な言い訳をすると、金髪ドリルは。人差し指を顎にあて、小首をかしげた。
「でも、今さっき今日一日することがなくなったって」
「い、いや、まぁ、確かに暇なんだけど……」
「ですよね。では、今日一日私に付き合ってもらえませんこと」
「お、おう」
金髪ドリルはにこやかな微笑みを浮かべて、嬉しそうに僕の手を引き、強引にバス停の方へと向かい始めた。
……う、嘘だろ。
その場の空気に見えお任せた完全なる自業自得という奴でその場の流れにも完全に流された感もあるのだが考えてみれば、女の子の、それも結構可愛くて胸もデカい金持ちお嬢様の頼みだもの――やっぱり断れない。
自分の精神が拒否しても体が好みのサイズの女の子と一緒に居たい!居たい!!と叫ぶのだ。
これも男として生まれてきた呪いみたいなものだな。
と、半場諦めるように完全に流れに身を任せることにした僕は、金髪ドリルと一緒にバスに乗り、ガタガタ揺られること20分ほど、駒王町の繁華街にある最近で来たばかりの映画館完備の複合施設に到着した。
「さぁ、着きましたわ!」
「うげぇ」
キラキラした目で手を大きく広げ、全身で今の興奮を表現している金髪ドリルとは対照的に、心の奥底から反吐でも吐きたくなるような顔をする僕。
「イ○ンを前にそんな顔をするなんて無礼ですわよ。貴方には、あの中に入っておられるマグロナルドやTOUHOUの存在に気づいておられで」
「なら、逆に問うが金髪ドリルの眼には、マグロナルドの中で戯れるカップルやマックシェイクだけ買って、我が物顔で何時間もテーブル席を独占する群れた学生の存在に気付いているのか?」
答えなど聞くまでもない。僕レベルのボッチとなれば、リア充どもがだべる場所、行動、その他諸々を予測、見極めることなど造作もない。
「まぁ、温室育ちの金髪ドリルにはわかるわけないよな。見たところ高校に通うってことだけで制服着て舞い上がってるお嬢様だッ……」
ついつい、いつもの癖でディスってしまう僕だったが、真横から放たれていた女の子特有の人を殺せるんじゃねぇかってぐらいの目線に思わず言い淀んでしまった。
「つまり、何が言いたいわけで?」
「い、いや……ただ、僕は、先輩として学校生活の厳しさを……」
「それとさっきから気になっていたのですけど、その金髪ドリルって呼び方、やめてくれません?私にはちゃんとレイヴェル・フェニックスという名があるんですの」
「は、はい。フェニックス……さん」
「レイヴェルでいいですわ」
「は、はい。……レイ……レイヴィル?」
「レ・イ・ヴ・ェ・ル・!わざと?わざと間違えてるんです?」
「ごめん、素で間違えた」
なんか、今日のことがきっかけで進展があるかもと流れに任せてついてきたが、めんどくさくなってきたな。
適当に相槌を打つ僕。
まったく、こんなリア充が蔓延る街に何故これほど興奮するのだろうか。
案の定、周辺の男どもが金髪ドリルに視線を寄越し、ヒソヒソと仲間と一緒にはしゃいでいる奴までいる。
たぶん、ナンパでもしようか仲間同士で相談してるのだろうか、生憎、ここには僕がいるんでな。
僕は、彼らの視線を浴びる金髪ドリルに肩がぎりぎり触れるか触れないぐらい接近して、周りの奴らに対してどや顔で鼻を鳴らす。
「ふん!!」
これで奴らの悔しがる顔が頭に浮かぶな。ウヒョヒョヒョヒョ!
「あの、シドー。ひとりでにやつかないくれます?気持ち悪いですわよ」
「あ、うん。ごめん」
「それより、今からデートするわけですし、エスコートをお願いしますわ」
「……デート?」
聞きなれない言葉だな……。たしか荒ぶる精霊を鎮めるためにデレさせて、最後にキスして霊力を封印する儀式だったような……。で、最終的には結局バトル!みたいな。
いや、違うな。バトルはしない普通の男女が遊びに行くアレのことだな。
でもなんで金髪ドリルと一緒にデートしないといけないのだろうか?第一こいつイッセーにぞっこんのはずでは?
そんな疑問が表情に出ていたのだろうか。金髪ドリルはやれやれとばかりに腰に手をやり、小さな溜息を吐く。
「何期待してるのか想像はできますけど、これはあくまで練習、庶民のイッセー様に近づくには、まずは庶民の気持ち、庶民のデートをマスターしておかないとリアス様たちの足元にも及びませんわ。その為の練習。だから今日一日だけ、私が童貞のシドーとデートと言うことですの。感謝しなさい」
「生憎、異性に対しての勘違いなら、これまで嫌というほどしてきたからな。たったこれだけのことでお前を好きになるという勘違いは犯さんな……って、童貞は関係ねぇだろ」
ともあれ、今更、じゃあ解散と言ったところで、解放してもらえそうにないな。
僕が深く考えずに流れに流されるまま金髪ドリルについて言ったこともこの状況を招く一旦となっている。ここで投げ出すのは、愚策と言える。
であれば、さくっと終わらせて早々に帰る方が得策だ。
「わかったよ。しゃーなしだ。今日一日僕がお前に庶民のデートが何かを教えてやる。で、えー、レイヴェルだっけ?」
「えぇ、レイヴェル・フェニックスですわ]
「で、どこ行く?」
聞いた瞬間、レイヴェルの笑顔が曇った。
「流れ的にシドーが庶民のデートと言うものをエスコートしてくれるんじゃないんですの!?」
「いや、デートしたことないし。そもそも彼女なんていたことないし、最近、久しぶりに異性と会話したほどの男だぜ」
「そんなどや顔で言われても……」
「まぁ、イッセーが行きそうな場所ならわかるかもだけどな、僕とイッセーって同類の匂いするし、つまり、僕が行きたいところ=イッセーが行きたいところだからな」
「それって結局、シドーの想像ですわよね?イッセーさんが本当に気に入ってる場所ではありませんわよね?」
「………」
「もういいです。とりあえずシドーがいい思うデートコースでお願いしますわ」
と、いきなり難問をぶち込み、あきらめたかのように肩を落としたレイヴェルが右手を差し向けてくる。
「手ッ!」
「ん?」
なんだ?握手か、今からよろしくお願いしますという意味の握手なのか?
とりあえず、レイヴェルと握手しようとするも振り払われ、さらにため息一つを吐かれる始末。
すいませんね。こちとらそういう経験が皆無なんで、異性が求めてる答えがわかんねぇんだよ!
「手をつなぎましょうということですわ。まったく、こんなこともわからないなんて、あなた本当に男ですの?童貞すらも疑わしくなってきましたわ」
「ご、ごめん」
そう言いながら、震える手で恐る恐るレイヴェルの手を握りにかかる僕。
手汗とか大丈夫だよな? サラサラって程でもないけどそこまでべとべとでもない……でも女の子ってそういうこと気にするって聞いたことあるし。
現に中学の頃、林間学校でキャンプファイヤーというイベントで男女一組のペアになってフォークソングを踊るという何ともえげつない行事があったのだがその際、中学に入って初めて異性と触れ合えることに緊張し、手がべとべとになっていたということもあってペアになった女子に終始、嫌な顔をされた経験がある。
「シドー。あなた女の子と手をつないだのもしかして初めて……ということはないでしょうね?」
「……」
繋いだこと……あるよね?うん、記憶にないけどきっとあるはず。
「わかりました。完全に人選ミスでしたわ。まぁ、でも誘ってしまったのは私ですし、今日一日ぐらいは、貴方の初めての恋人になって差し上げます。感謝なさい」
「恋人料金とか請求してこないよね?」
「私のことを何だと思っているんです!!」
と、僕の手を引き、かつかつ学校指定の革靴を鳴らして歩きはじめるレイヴェル。
うんうん、なんで僕に係わる女の子ってこんなに強気なんですかね。
アルトリアしかり、モードレッドしかり、グレモリー眷属しかり……もっとおしとやかな女の子とお近づきになりたいぜ。
アザゼル曰く英霊は、3人まで呼び出し可能らしいから、今度は、天界のミカエルさんに頼んで、聖女の縁になるようなものでも貸してもらって、優しくて母性溢れてそうな聖女でも召喚すっか。
有名どころで召喚するとなるとフランス革命の英雄ジャンヌダルクになるが……個人的に聖女マルタも捨てがたい。歴史では姉妹がいたって話だし、きっと面倒見がよく母性があふれてるに違いない。
母性があふれてるってことは、おっぱいも大きいってころだし、おっぱいが大きいってことは、優しそうで僕を第一に考えてくれるってことだし、つまり今度こそおっぱいが大きい英霊を召喚したい……と、そんなことを思いながら、僕は彼女の後ろをついていった。
まぁ、これも人生経験だ。せいぜい頑張るとしよう。
「で、シドーはどこに行きたいのでして?一応、私、人間界に来たのは、何気に二回目でしてどこに何があるのかもわからないのですが」
だったら何故に僕の腕を引っ張って歩いているのは、もしかしてただ歩いてるだけ?
僕は、その場で足を止め、つられてレイヴェルの足も止まる。
「行き先もないのに歩くんじゃねぇ。疲れるだろ。それに無計画にイオンの中をウロチョロしすぎたらクラスの奴とばったり鉢合わせちゃうかもしれないだろ」
「……い、言われてみれば……そうですの?」
「なんで疑問形?」
「いや、これまで通信教育だったのであまり偉そうなことは言えないのですけど、クラスメイトと偶然出会って、何がいけないのですの?逆にチャンスじゃありませんか友達になる絶好のチャンスじゃありませんの」
「あまいな!甘々だぜ。そんな偶然顔見知りに出会って、友達へクラスチェンジすることなんて彗星が地球に落ちる確率より低いぞ。いいか?偶然会った奴がカースト底辺の奴ならお互い、見て見ぬふりして、現状維持。カーストトップの奴らの場合、僕の写メを勝手に取った上にSNSに投稿、奴らの会話のエサにされた上、翌日学校で笑いものだ」
「………」
ふん、言葉も出ないって口だな。
「いいかレイヴェル。さっき通信制と言っていたが、その際だから言っといてやる。学校というところは、マジヤバい。閉鎖空間での限られた人間関係。敵とみなされたものは、見境なく排除される世界だ。一応、トップカーストから中堅ぐらいまでは、排除される可能性は低いが、それでも登校から下校まで常に周りに目を向け同調しなければならんし、少しでもトップカーストに意見すると、底辺まで落とされる。僕はこれまでそんな人間を幾人も見てきた」
「……そ、そんなことありませんわ。リアス様が学校は楽しいところだと言ってましたもの」
「それは先輩がトップカーストだからだよ。どこの世界に奴隷を使役するのに苦痛を感じている独裁者がいる?学校が楽しいと感じる奴は、周りに気を使われていることも知らずに好き放題喚き散らしているトップの奴らだけだ。それ以外は、ただの家来、もしくは奴隷にすぎん」
「で、でも、先週駒王学園を見学させてもらった時、皆さん笑顔の絶えないいじめなど一切無さそうな雰囲気を感じまし……」
「どこの世界に正々堂々いじめを行う学校が存在する?いじめは、陰で隠れるように陰湿に行われるものだ。それに見学は、学校の関係者も同伴だろ。なら仲がよさそうに振る舞うのは当然だろが。特にレイヴェル。お前ヤバいぞ。見た目可愛いし、お嬢様だし、西洋人のような顔。モデルのようなルックス。さぞかし男にモテるだろうな」
「な、なにが言いたいので?」
「お前、女子からイジメられるぞ。そうだな。最初は、お前に好きな男子を取られたと勘違いした女子たちに校舎裏に呼び出されといての、ビッチだのヤリマンだの根の葉もない噂拡散。机に落書き、体操服隠されたり等の陰湿なイジメを受けたのち、最後は性的ないじめに発展してENDだ。途中先輩に助けを求めるっていう手もあるが、きっとお前は、誰にも迷惑なんてかけれない、とかで一人抱え込むのがオチだろ」
「……」
レイヴェルをみると、深刻な表情でじっと僕を見つめていた。
これはちょっくらいいすぎたかな?
ただ、ここでフォローする優しさがあるのが僕の長所。
「だが、安心しろ。僕も長いことカースト最底辺の人間だが、今ではイジメも影口も叩かれてない自信があるぞ。顔はイケメンなのにだ。つまり、お前も僕のように振る舞えば、学校生活をお望み通り堪能できるぞ。まっ、その辺のことは後日話すとして、どこ行く?一応、映画とか鉄板だけど?」
「そ、そうですわね。そこんところの話は、今度詳しく聞かせていただくとして、ぜひ映画、見て見たいですわ。人間界の映画は奥が深くて作品一つ一つに製作者の思いを感じられますもの」
「……あっそう。庶民と金持ちでは見るところが違うんだね。基本僕は安定重視のシリーズ系かアニメ劇場版しかみないから……とりあえず映画館に着いてから決めるか」
おそらくレイヴェルは、イオン初だと思うので僕が彼女を先導して複合施設の最上階に移動する。
今日は土曜日、更に夏休み最後の週と言うこともあって学生が多い……
中学、高校のカップル、チャラ系などビックリするほど豊富なジャンルの学生がうじゃうじゃ。
映画館について早々、帰るたくなった。
なんでチケット買うのに団体で並ぶの?
2人グループだけならまだわかる。離れ離れになったら寂しいもんな。
でも、なんで4人以上の団体が4人そろって並んでんの!?あんなの代表の一人だけでいいじゃん。
ここはひとつ、一人に慣れてる僕が世のリア充たちに見本を見せるとするか
「レイヴェル、僕がチケット買って来るけど何見たい?」
「え、えっと……特に見たいものがあるってわけじゃないので……シドーが見たいものでいいですわ」
「あっそう。なら適当に買ってくるわ」
レイヴェルを映画館の壁際に置いて、チケット売り場へと向かう。
運が悪いことに最後尾にいるのは茶髪にピアスを開けたチャラ男3人。
見た目が完全に海水浴シーズンになると浜辺に現れるナンパ男。
あの列に並ぶのは、少々気が引けるけど並ぶしかないよな。
ガヤガヤワイワイ雑音が特に飛び交うチケット売り場の最後尾で足を止める。
いつものように空気に溶けるように何気なく。
絡んできそうなチャラ男グループにバレぬように。
……良いぞ。チャラ男は僕が後ろに並んでることなど気にもしてない。
いいぞ。そのまま僕にきずくな……
そう思っていたのもつかの間、チャラ男の一人がふと後ろを振り向いた時、視線が僕の方を向いたまま固まった。
あの視線は何か獲物を見つけた時の目。ロックオンした時の視線だ。
僕、なんか目立つことしたっけ?
男は視線を僕から外すと、仲間だけに聞こえるようにヒソヒソと話した後、バレないと思っているのか、一人、また一人と隠れながらチラ見し全員一度僕を確認した後、またヒソヒソ話。
チャラ男に対し何か不備をやらかした覚えもないし、なんだなんだと自分の身なりをチャックしていると、不意に後ろから声を掛けられた。
この場この状況で僕に話しかけてくる人物など一人しかいない。反射的に振り向くとやはりレイヴェルだった。
「どした?なんか急用か?」
こういう長時間立ち止まってる時とか目立つからあまりここに来てほしくなかったんだけど……。
そう思っているうちから前に並んでるチャラ男の一人がレイヴェルに絡みだした。
「ねぇ、彼女。もしかして今一人?」
うなわけあるか!!レイヴェルの横に僕がいるだろうが!!ぶっ殺すぞ
こいつワザとだな。まずは切っ掛け、そんなとこだろう。
しかし、レイヴェルは、何故かチャラをの言葉を無視する。
いや、違う。口を開けたまま固まってる。
「あれ?ねぇ聞いてる?」
チャラ男も固まったレイヴェルを心配したのか再度声をかける。瞬間、レイヴェルが再起動した。
「は、はい!え、えっと……し、シドー」
チャラをの声に応答したのだろうか、いや違う。ただテンパってるだけか。
きっと温室育ちな彼女は、こういう経験をしたことがないのだろう。
レイヴェルは、しどろもどろになりながら僕の背後に隠れ、そっと僕の耳元で語りかけた
「シドー。なんとかしてください」
おいおい、僕任せかよ。
「えっ!?なにその目が腐った男ってもしかして彼氏?そんな根性腐ってそうな奴と映画見るより俺らとみる方が絶対楽しいよ」
その根性腐ってそうな奴に負けてるお前たちってどうなんだ
「この男、一目でシドーの性質を看破するなんて」
後ろで大きく目を見開いてるレイヴェル。
忘れてたけどこの女、初対面で年上の僕を呼び捨てする奴だったな。
このまま僕だけ立ち去ろう と思ったもののここで僕が本当に立ち去ったら後日、部長にチクられてそこから部員に広がり、皆から冷たい目で見られそう。
大きなため息をつき、自分に喝を入れたのち、僕は前に並ぶ男どもにはっきり言う。
レイヴェルを僕の胸元に引き寄せる。
「なに俺の目の前で俺の女を口説いちゃってんの?悪いけど彼女の足から頭の先まで全部俺のもんだ。あんたらの立ち入るスキなんてないよ。な、レイヴェル!?」
「えっ!は、はい。そういうことですわ。ラブラブな私たちの間を壊そうなど神様仏さまが許そうと私が許しませんわ!!」
「そういうことだ。ねぇレイたん」
相手に見せびらかすようにレイたんの頭をなでなで。思っていたより髪の毛やわらけー。金髪の髪の毛一本一本が超高級なシルクみたいな感触。一生触ってられる。
「もぅ、しーちゃんったらこんなとこで恥ずかしいですわ」
その後、チケットを買うまでの時間、ずっとチャラ男たちの前でラブラブカップルを演じなければならなかった。
―――〇▼〇―――
無事に映画を見終えたころには、すでに時計の針はお昼を過ぎていた。
あまり話したことのない異性と映画と言う僕の性格上考えられない一大イベントを終え、映画館を出て帰ろうとしたところで、隣を歩いていたレイヴェルが肩をトントンと叩いてきた。
「ちょっとお腹すきません?」
「そうだな。そろそろ帰るか」
「いや、そうではなくお昼をご一緒しませんってことです」
「えっ、マジで?」
振り向いて答えると、レイヴェルがにっこり笑って返事する。が、それきりにこにこしたまま何も言わない。
もしや、これが噂に聞く無言の圧力という物だろうか
まさか社会に出て働く前に無言の圧力を経験するとは
「ハァ、わかったよ。で、何食べたい?」
「なんでもいいですわ。シドーに任せます」
で、でた!!何食べたいかと聞くと何でもいいって答える奴。
この言葉を鵜呑みにしてホントに適当なお店に連れていくと文句言われるからな。
しかもレイヴェルは上流階級のお方。きっと舌も肥えていて、その辺の女の子よりもかなりハードルが上がる。
つまり、これは試されているのだ。僕の提案内容次第で男のレベルを測っている。
慎重に言葉を選ばなければ……。
「じゃ、カプリチョーザ?プロシュート?クアトロ?」
「なんで全部ピザなんですか……」
「えっ!?ピッツァって言わないの?」
金持ち連中はみんなピザのことピッツァって言うんだと思ってた。
僕の物言いにカチンときたのか、レイヴェルの眉根が一瞬ピクリと動いた。
それでもかろうじて笑顔を維持しているのはやはり上流階級だからだろうか。
部長や生徒会長ももたまにそう言うところがある。
駅前から出たすぐのところにあるスクランブル交差点を渡り、若者が行き交うエリアを歩く。
この辺りは、娯楽施設、商業施設が立ち並ぶ渋谷のメインストリームともいえる部分なのだろう。多くの人が行き交い、時には道路わきに並ぶ店舗の前でだべったりしている。
僕にとってまったくなじみがない場所と言える
てくてく複合施設内を歩きながら食事できるところをあれこれ思考する
「一つ確認だけど、トリュフとかアボカドとか、三ツ星じゃないとダメとかそう言うのって無いよね?」
「私のこと一体何だと思っているんですの……」
レイヴェルがちょっとむっとしてこちらを睨む。
いや、レイヴェルって女の子かつお金持ちだから……。あとコラーゲンね。スズメの巣とかチョー好きそう。
僕の行きたい場所でいいと言ってくれているが、念のためもう一度念押しで確認しておく。
「ほんとに何でもいいの? 僕を試したりとかしてないよね?」
「さすがにシドーの家でお昼とかそう言う類ではないのならどこでもいいです……」
だから、そのどこでもいいが怖いんだよ。
「そんなに思いつかないのなら、シドーがいつも食べているモノとかでもいいですわ」
……よかった。僕の知ってる高級店ってホテルのディナーバイキングぐらいしか知らなかったんだよね
この付近、ビジネスホテルぐらいしかないけど
となると、本当に僕の行きつけのお店に連れていくべきなのだろう。
しかし、高校生の分際でよく行くお店など指してあるはずもなく、自然とその候補も絞られてしまう。
最近は、アルトリアやモードレッドと一緒に外食する日もあるが、基本、僕一人。
オサレなカフェやレストランなど行くはずもない。
であれば答えは一つ。
「なんでもいいなら……あそこ行くか」
言ってレイヴェルを案内できるように一歩先行して歩きだし、イオンを抜けて街の中心街へと歩き出す。
駒王町は、大型商業施設と駅を中心としたエリアを中心に飲食店が集中している。
しばらく歩いているうちに目指すお店のオレンジ色の看板が見えてきた。
外観は、全面ガラス張りで中の様子がうかがえので、レイヴェルもカウンターに申し分程度のテーブル席と言うシンプルで清潔感溢れる店の外装に目を輝かせる。
「シドーここは何屋さんですか?もしかして日本のお寿司屋さん?」
食い喰い僕の袖を引き、期待感をあらわにするレイヴェル。
「いや違う。牛丼だ」
そうして辿り着いたのは全国的にもかなり有名な牛丼屋、吉〇家である。
「えっ、ぎゅ、ギュウドゥン!?」
「もしかして食ったことないのか?庶民フーズ代表の牛丼」
もし食べたことがないのならぜひ食べてほしい。というか牛丼食べたことない奴初めて見たわ。
別に僕が造るわけじゃないけど、嬉しくなってきた僕は、彼女の腕を引いて店内へと入った。
すると、「はい、らっしゃいませ」と威勢のいい声がかかる。
お昼時とあってカウンターはほとんど埋まっていたが幸運なことに一番奥の席が2席だけ空いていた。
狭い店内で他のお客さんの背後を這うように開いているカウンターへと向かう。席へ着き、お茶を出しにやってきた店員さんに告げる。
「牛丼並みのだくだくとレイヴェルも同じでいいよね?」
「は、はい、私も牛丼並みのだくだくでお願いします」
たぶん、咄嗟に僕と同じこと言った感じハンパないけど大丈夫かな?
牛丼大手3社では「つゆだく」と言うルールが存在する。つまり牛肉を煮込んだ際の煮汁を通常の規定よりも多く入れてくれるというサービスなのだが、だくだくは、その中でも煮汁をご飯が浸るまで入れてくれるといういわば常連の中の常連が使う極意。
最初は、やはり、変な冒険などせず通常の牛丼を推奨。
「……慣れてますね」
「まぁな」
常連ぽ差が評価されたのかと思い、すこしに笑みがこぼれてしまった。
ちらっと視線をやると、レイヴェルは僕とは反対側に若干体の重心を傾けて、冷たい目つきで僕を見ている。
「もしかして、引いてる?」
「いや、シドーの笑う表情が一瞬、気持ち悪かったんで」
昔からよく言われるけど、こうして面と向かって言われると傷つくな。
咄嗟に笑みを消し、通常の表情に戻っているうちに、牛丼がやってくる。
2つともどんぶりの上からでも肉眼で確認できる茶色い煮汁。ほとんど油が溶け込んだものでギダギダ。僕に取っては、そのギダギダはてらてら煌めきを返し、立ち上る湯気が僕の食欲を刺激してくるけど、レイヴェルはどんぶりを見て驚愕の声を上げていた。
「え、なんですかこれほとんど油じゃないですか」
「油っていうんじゃねぇ。肉から染み出たうまみ成分と言え……いただきます」
レイヴェルの湿原を注意してから、箸を手にしてひたすら食す。啜る。貪る。飲み下す。病みつきになる味である。
一方、隣の座るレイヴェルと言えば、夢中になって食べている僕を少し引き気味に見ていたが、覚悟を決めたのか、小さく息をのむとおそるおそる箸ではなくスプーンをつけた。
スプーンを口元に運び、顔を少し上げると首が小さく動く。
そして、すぐ思い出したかのようにスプーンでギタギタでテカテカの米をすくうとテカテカな唇を尖らせてふぅーと息を吐き、はふはふ食べ始めた。
どうやら、悪い印象は持たなかったらしい。その反応にちょっと安心して僕も食事を再開する。
お互い会話を一切しないまま、食事を続け気づけば完食である。
「……おもい」
ポツリとした呟き声。
ちらりと横眼で見ると口元を拭っていたレイヴェルが顔を上げてこっちを見た。
「けどおいしかったです。ギュウドゥン。名前の響きだけの価値はあります」
「それは良かった。あっ、これ僕の奢りだから。借り一つな」
さて、食事も済ませたことだし帰りますか!
会計をすまし、店の外へ出ると、外は午前中と比べさらに賑わっていた。
さすが休日。夏休み最後の休み!通りを歩くほとんどがカップル。見せつけているのか街を歩くほとんどのカップルが肩を組んだり、腰に手を回したり……うらやまけしからん!!ホント、カップルなんて滅べばいいのに。
彼らの不幸が僕の幸せだ。
「んじゃ、取り敢えず駅のほう行くか」
「どこかいくんですの?」
「はい?」
え、帰らないんでせうか?
「駅だよ。今日、冥界からわざわざイッセーに会いに来たんでしょ?」
「いえ、私の部屋から直接、転移してきましたわ」
「……悪魔って便利だな。僕も悪魔にでも転生しようかな」
てっきり冥界と人間界を繋ぐ玄関って電車のホームかと思ってたよ。
「なら、どうする?さすがに外で転移するわけにはいかんだろ。僕の家でも使えよ」
「ならお言葉に甘えてシドーの家貸してもらうことにしますわ」
その返事に頷きを返すと、どちらともなく歩きはじめる。
まださして起きてから半日しか経過してないが、くあとあくびが漏れる。
知らぬ間に疲れがたまっていたようだ。
そのあくびはレイヴィルにもうつったようだ。
そして、とりつくように咳払いすると、僕との距離を詰める。
「まぁ、今日は意外に楽しかったです。相手がイッセー様じゃないってのが欠点でしたけど……」
最後に今日の僕の努力を全否定してきた。僕は僕なりに頑張ってみたんですけど。ちょっと理不尽じゃない?
と視線に不満をこめてレイヴィルをみると、言葉の割に案外、嬉しそう。
「シドーはどうでしたか?」
「まぁ、暇つぶしに放ったかな。疲れたけど。どうせ家にいてもペンドラゴン親子に使いつぶされるだけだったし……」
お互い、何気ない言葉を交わしながら僕の家に着いた後、別れのあいさつを交わすとレイヴィルは、魔方陣の中へと消えていった。
そう言えばこれが人生初のデートだったな。