五感の感覚が戻っていくと同時にだんだんと意識が回復してゆく。
だが、瞼はびっくりするほど重い。
まりで、まぶたが縫い付けられてるみたいだ。
それでも耳から入ってくる一定のリズムを刻む機会的な音にとうとう脳が覚醒し重い瞼をゆっくり開いた。
病院特有の薬品にも似た臭いが僕の鼻を刺激する。
「気づかれましたか?」
そう言ったのは、見舞客ように用意されたパイプ椅子に座っているアルトリアだ。
僕は起き上がろうと力を入れるが体が思うように動かない。
それどころか全身を引き裂かれた時のような痛みほどではないが顔を顰めるほどの鈍痛が背中から広がり、体のあちこちの箇所の痛みが連動する。
「ぐっ……!」
慣れない痛みに体の力を抜いてしまうと、アルトリアはホッと肩の力を抜いてこう言った。
「動けないのも無理ないです。肋骨のほどすべてにヒビが入り、鎖骨に限っていえば背中の肉ごと切断されてたようです。さらに細かく言うと全身打撲に脳震盪。両肩の関節が脱臼し、内臓も圧迫されていたようで、全治一ヶ月程らしいです」
「……なんか生きてること自体奇跡に近そう怪我だな」
多分こんな重傷を負ったのは生まれて初めてじゃないか?
「ええ、私が処置をした後、病院に運んだので……って、そんなことはどうでもいいのです。それよりもシドー。何故あんな危険なところにいたのですか?」
「えっ、いや……あの」
エロ本を隠しになんて言えない。
「いえ、別に責めているわけではありません。それにあの場所を見落としていた私にも責任がありますし……」
アルトリアは、何故か申し訳なさそうに言う。
「いや、これは僕の自業自得だ。それにアルトリアには感謝しきれないほど感謝してるよ。僕、弱いから。あの時助けてくれなければ死んでたしね」
ハハハハっと、腹に響く痛みを我慢してアルトリアに笑顔を見せる。
「それはそうと、僕どれぐらい寝てた?」
「3日と8時間ちょっとと言ったところです」
マジか!
新学期始まって早々入院とか確実にぼっち確定だわ。
たぶん今頃クラスのグループ形成が終わりつつあるよ。
またも、去年と同じように「あいつ、いつも1人じゃね?」という哀れみにも似た目線が突き刺さると思うと胸が苦しくなる。
本当、あのボッチは「悪」みたいな雰囲気やめてもらいたい。
逆に言うとぼっちに対し悪というレッテルを好き勝手貼るリア充こそ悪だというのに。
正義は所詮、多数派によって決まるということだな。
そんなことを考えているとアルトリアが何か思い出したようで話しかけてきた。
「そう言えばシドー。2日前に赤い髪の女性が家に来ましたよ」
「はっ?誰?」
女性の知り合いなど母ちゃんぐらいしかいない。
まぁ、その母ちゃんもここ数年電話でしか話したことないんだけどね。
「たしか……リアス・グレモリーと名乗っていましたが」
リアス……グレモリー……あっ、鞄の先輩だ!
もしかして、あの廃墟に置いたままなんじゃ……
「ねぇ、アルトリア。……もしかしてその女性、鞄がどうとか言ってなかった?」
「よくご存知で。どうやらあの場にあった鞄は彼女のもので私が返しときましたのでご安心ください」
「そうなんだ。それはありがとね」
流石は、アルトリア。
僕を助けるだけではなく、学校の鞄も回収していたとは
惚れてしまうやろ〜〜!!
それに今度、グレモリー先輩に謝らないとね。
「いえいえ、当然のことをしただけです。それより、話が変わりますが少し宜しいでしょうか?」
「なに?」
「いえ、大した話ではないのですが、まずはっきりと言わせてください」
と、アルトリアは、真剣な目つきで僕を見据え言った。
「貴方は弱すぎますッ!」
その瞬間、グサッと胸に見えない言葉という矢が突き刺さる。
「……あっ、うん。そうだね」
一般人だから弱いのは、当然のことなのだがはっきり言われるとなんか傷付く。
「別に強くなれとは言いませんが、せめて逃げる方法ぐらいは身につけた方がいいかもしれませんね」
「……なんか、この後の展開わかるわ。つまりあれだろ」
アルトリアは、ニコッと眩しいほどの笑顔を浮かべ言った。
「……はい、お察しのとうりです。私がシドーを鍛えます」
ーーーー
2週間後、
完全に怪我が完治してないが現代医療とアルトリアの魔術のおかげでなんとか退院できた。
そのときに、異常なほど治りが早い僕の体に医者が腰を抜かしていたがそれが魔術だと言えずごまかすのに苦労したが。
そして今、僕は医者から家で絶対安静にするように言われたにもかかわらず早朝の住宅街を走り込んでいた。
「ぜーはーぜーはー、もう……無理、死ぬ」
「シドー、背筋が曲がってます。それにだんだんスピードも落ちてきてますよ」
走りすぎて心臓がバクンバクンな僕に対し並走しているジャージ姿のアルトリアが息一つ切らさずに僕に手を差し伸べ背筋を伸ばしてくる。
日が昇る前に起き、かれこれ1時間半以上一緒に走っているがアルトリアの体力には驚かされる。
というか、もう化け物だよ。
アイドルのようなその体格のどこにそんな体力があるんだよ。
本当に同じ人間か疑いたくなる。
「…ハァ、ハァ、マジで……足……動かない」
とうとう、足が痙攣し出したので足を止めようとするが後ろからアルトリアが背中を押しだす。
「……シドー。その程度ならば私が何度でも直しますので、まずは一度限界を超えてみましょう」
……お、鬼だ。
それに、アルトリアが背中を押しているためか、さっき以上に走るスピードが早い気がする。
「……あっ、ハァ、痛い痛い……ハァ、足が…潰れる」
とうとう、足が肉離れを起こし出した。
突然の痛みに足が竦み、なにもないアスファルトの上で躓きそうになったがなんとかバランスを調節し耐える。
流石にこれはまずいとアルトリアも感じたの僕を押す力を弱め、少しだが速度を落とす。
「……別にその程度、痛がるほどではないと思うのですが……わかりました。少し休憩でもしましょう」
そう言って、近くの公園に向かう僕とアルトリア。
足を止めたとたん汗でびっしょりの上着に朝の肌寒い春風が当たり少し肌寒く感じる。
公園に到着するとベンチに腰掛けアルトリアが肉離れした足をほぐしてくれる。
「今日の走り込みはここまでにしておきましょう」
この時のアルトリアはまるで女神に見えた。
前言撤回!
アルトリアは、悪魔だ。
「はい、右、左」
「……ッ!」
カンッ!カンッ!と木刀と木刀がぶつかり合う音が朝の誰もいない公園に響き渡る。
アルトリアがすご手を抜いてくれていることは、十分伝わるのだがそれでもやはりアルトリアが繰り出してくる剣筋は、鋭く重い。
一太刀受け止めるだけで残りの体力を全て持っていかれるほどだ。
というか朝開ける前から30キロ以上走らされた挙句、剣術の練習ってオリンピック選手でもこんなことしないわ。
「次は、後ろです」
僕は、後ろを振り向き即座に木刀を振るう……が空振りし、受けきれなかった木刀が僕の腕に直撃する。
「あうっ!」
「違いますシドー。目で見るのではなく。相手の動きを読むんです」
そう言って、またもや、木刀を振り下ろしてきた。
僕は反射的に目で剣先を追いかけようとしたが今言われたことを思い返し、勘だけで木刀を振るってみた。
ベシッ!
「……痛ッ!」
だが、またも空振りしアルトリアの木刀が僕の体に命中した。
思わず木刀が当たった箇所をさすり痛みを誤魔化す。
「そろそろ、日が明けてきましたね。今日はここまでです。明日からはもう少しトレーニング時間を増やしましょう」
アルトリアは苦笑しながら無茶を言う。
これ以上トレーニング時間伸ばされたら流石に死ぬって。
それに今日から学校に登校しなくちゃいけないし。
今日から学校とトレーニングで1日潰れるな。
こんなの絶対間違ってるよ。
そう思ったものの別にアルトリアは、悪意でこう言っているのではなく、僕を心配して言ってくれてるので断ることはできなかった。
その後、家に戻った僕たちは、朝食を食べ、通学路を歩いていた。
僕の隣には、私服姿のアルトリアが歩いている……なぜ?
僕と同じ学校へ通う奴らの視線が凄まじい。
「……おい、うちに学校にあんな奴いたか?」
「……それになんだ。あの金髪美少女は⁉︎」
「……チッ!リア充が!死ねばいいのに」
観衆の声が嫌でも耳に入って来る。
「……あのアルトリアさん?」
「なんですかシドー。そんな顔を引きつらせながら。気分でも悪いのですか?」
「いや、そうじゃなくて……なんですか一緒にいんの?」
「シドーの護衛です」
「別にそんな頻繁にあの時のようなことは起こらないと思うんだけど……」
最後の方はなぜか自分でも声が小さくなってしまった。
「甘いですよ。私の経験から言わせてもらいますけど一度、非現実に巻き込まれたらもう、向け出すことは困難ですよ。それにこの街は、不気味だ」
「それは女の勘という奴?」
「いえ、騎士の勘です」
そうですか。
学校に着くとアルトリアとは、校門で別れ僕はそのまま教室へ向かう。
「乙坂くん。おはよう」
教室へ着くなり木場がリア充の余裕なのか、女子に囲まれているにもかかわらずボッチの僕に対し挨拶してくる。
だが、別に僕だけに対して挨拶してるわけではないので、なんかむかつく。
かといって、仲良くはないし、これからも話さないと思うので、軽く相手の印象に残らない程度に会釈する。
「……おぅ」
そう言って窓側にある自分の席へ着くなり、さっき挨拶をしたというのに女子をかいくぐり木場が近づいてきた。
「…乙坂クン、君、いい体つきしてるね。剣術か何かしてるのかい?」
そう言って木場は、僕のボディにそっと触れてきた。
「ひっ」
咄嗟に木場の手を払う。
「ごめんね。ちょっと気になって。最近の君、なんか剣士のようなイイ体してるから」
「悪いが僕にそんな趣味はない。それにいきなり他人の体を触るなんてモラルが欠けてるぞ」
僕は、最小限怒気を含めて相手の気を悪くさせない程度に言うが、木場はニコニコフェイスを止めない。
「だから謝ったじゃないか。でも僕としても友達同士のじゃれあいのつもりだったんだけどそこまで嫌がらなくてもいいのに」
全身鳥肌だよ。
それにしても僕たち友達だったんですね。
初耳です。
木場は続ける。
「けど、君にも罪はあるよ。そんな体してたら僕は気になってしょうがないじゃないか」
たしかに、ここ最近アルトリアの特訓メニューのおかげで以前よりは引き締まった体にはなったが、服ごしからそれを見極めた木場に僕は、驚きを隠せない。
後、普通に気持ち悪い。
こいつガチだ。
いつも女の子に囲まれいるからプレイボーイかと思っていたがまさか対男限定プレイボーイだったとは……戦慄するぜ。
木場が話しかけてくる中『早くチャイムなれ』と心の中で祈っていると、教室の扉が開き、いつもよりもちょっと早めに担任の先生が入ってきた。
先生は、入ってくるなりみんなを席に座らせる。
「え〜、急遽このクラスに編入生が入ってくることになりました……」
心の中で担任の先生に感謝の弁を述べている僕は、全く話を聞いてなかった。
すると教室のドアが開き中に1人入ってきた。
「「「金髪美少女キターーーー」」」
途端、教室に4分の1しかいない男子が騒ぎ出す。
クラスに1人人間が増えるだけなのにこの騒ぎ。
鬱陶しいことこのうえない。
僕は、どうせ関係ないと顔を伏せ寝たふりを決め込む。
だが、次に編入生が発した声に耳を疑った。
「今日からこの学校に編入することになったアルトリア・P・乙坂です。よろしくお願いします」
多分僕の耳が誤作動を起こしたのだろう。
耳は古来から信用できないという。
顔を上げ、教卓を見る。
そこには、駒王学園の制服を着たすごく見知った人物がいた。
「そこにいたのですかシドー」
アルトリアが僕の名前を親しげに呼んだ瞬間、教室が静まり返った。
さっきまで騒いでた男子は、僕に驚きと困惑の視線を浴びせ、女子も同じような視線を向けてきた。
「………」
どうしろっちゅうねん。
僕も頭がこんがらがっている。
とりあえず一言
「……なんでさ」
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