悪魔、それは人間の欲望を糧とし永遠に近い年を生きる悪の塊のような生き物で神の敵。
夜の世界に生き、聖水、十字架、聖剣などの神聖なアイテムにはめっぽう弱く、一般的に光も嫌うまさに、ドブネズミみたいな生き物。
グレモリー先輩の話を聞いて素直にそう思った。
さらに目の前にいる先輩は、表向き北欧からの留学生ということになっているが真実は違う。本当の顔は、悪魔の中でも上位の悪魔、ソロモン72柱の序列56位のグレモリー家の次期当主。
貴族としての位は公爵らしく、つまりお金持ち。
ここからは僕の推論だが、バイト経験はなく、子供の頃からお金に囲まれ生きてきたのだろう。全身から金持ち特有のオーラや匂いが滲み出ている。
多分、バスなど乗ったこともなければ諭吉さん以外見たこともないのだろう。
つまりだ。この小娘は、僕に対して自分で稼いだこともないくせに親の七光りよろしく、偉そうな事を言ってるというわけだ。
全くもってけしからん。そのメロンが詰まってそうなおっぱいほどけしからん。
だが、悲しい事にいつの時代も弱者は強者に食い潰されるのが世の定。
遺憾なことにお金持ちに生まれたら誰しもが目の前の先輩のようになるのだろう。
「……というのが私たち悪魔よ……私たちの事は一通り話したわ。次は貴方の番」
と、聞いてもいないのに自分の事を話し終えた先輩は、『次は貴方の番』的な意味合いも含めて手を差し伸べた。
「はっ、はぁ」
コカビエル云々の事があってから、漫画のような現実を受け入れる覚悟ができていたものの、正面から悪魔のことやおっぱいやおっぱいのことを聞かせられても結果的には、頭が混乱するだけだった。
だって高校三年でバストが見た感じ102センチもあるんだぜ。そんな現実信じられるか?
少なくとも俺は信じない。あの胸が天然物だなんて。
「ねぇ、さっきから気になってたんだけど……私の話聞いてた?胸ばっかに視線が集中していたと思うのだけど……」
「べっ、別に見てないっすよ。そんな肉塊なんか!ちょ、ちょっとじじじ、自意識過剰すぎじゃないっすか?」
即座に先輩の乳袋から目を逸らすが、偶然にも逸らした場所が後ろに控える姫島先輩の胸部だったため、吸い込まれるかの如く目が釘付けになる。
「肉塊って!女性の胸を肉塊って!あなた今、全世界の女性を敵に回したわよ」
「……だ、だからどそうしたってんですか!言っときますけど僕は真の意味で男女平等を掲げる人間ですから今まで女性を重んじたこともないですし、レディーファーストも糞食らえです。それにです。そもそも、そんなでかい胸垂らすのが悪いんでしょう。目の前ででかいおっぱいが揺れていたら、男なら見ない訳ないでしょう。そんなこともわからないんですか?ビッチなんですか!誘ってんですか!まぁ、僕は見てないですけどね。視界にも入れてませんよそんな胸!」
まったく、これだから意識高い女子は嫌いなんだよ。
一体どういう教育すればこうなるんだよ。親の顔が見て見たいぜ。
「今あなた、見たって言ったわよね。自分の口で言ったわよね」
「先輩もしつこいですね。そりゃ、僕も男ですからチラッと見たかもしれませんよ。でもそれは、アルトリアのチッパイと先輩のデッパイの差を比べただけで決して自分の欲を満たす為に見た訳ではありませんよ」
「やっぱり見てたんじゃない……って、話を逸らさないで正直に話してくれる。あなた達は何者?」
「チッ!……ただの平凡な高校生です」
と、言っても信じてもらえなさそうだけどね。
言ってる自分でも、言葉に信憑性が全くないのがわかる……だが、事実だ。
「ただの高校生にコカビエルが目をつける訳ないし、コカビエルが計画の最終段階まで生かす訳がないわ」
「それは知りませんよ。僕は、学校の帰り、コカビエルとか言う奴に拉致られて、ボコボコにされ、目が覚めたら結界が張られた校庭にゴミのように捨てられてたんですよ。後は、貴方達の知ってる通りじゃないですか」
嘘は言っていない。だが、この程度の説明では納得してはくれないようだ。
グレモリー先輩は、声に少し強みを入れ言う。
「論点がずれてるわ」
「だってわざとずらしてるんだもん」
「ふざけないで!!」
とうとう、グレモリー先輩の声に怒気が含まれた。
そんな中でも僕は、グレモリー先輩には屈せず冷静に先輩と向き合う。
あと、今気づいたんだが、後ろに控えている姫島先輩の表情が恐い。
怒ってはいないんだが、僕がこの部屋に入って来てから全くと言っていいほど変わらないニコニコフェイス。
これが無言のプレッシャーというものだろうか。
面と向かって暴言を吐かれるより地味に怖いわ!
「まぁ、別にふざけてる訳では、ないんですけど……」
と、自分でも考える。
グレモリー先輩が聞きたがっている事は、つまるところコカビエルが僕の事を教会の上層部だと大々的に宣言してくれた事や僕が聖杯の機能を持った人間だという事だろう。
ただ、前者については、誤解を是非とも解きたいのだが後者については、自分自身でもよく把握してない。
「ただ、安心してください。僕はコカビエルが言ったような教会側の人間ではないですし、正直なところ悪魔が存在するなんて今日、先輩の口から初めて知った事なんですよ。つまりですね……」
グレモリー先輩の顔色を伺いながら慎重に言葉を選び言う。
「……僕は最近、夜の世界に足を踏み入れた、ただの高校生という事にしておきましょう」
これが今の僕が話せる全てだ。
僕の目、真剣さが届いたのか先輩は2、3秒考えた素振りをした後、口を開いた。
「……ただの高校生では、ないとは思うけどこの話、キリがなさそうだからもういいわ。今の所、貴方が私達の敵という証拠もないのだし、とりあえず貴方の言い分は信じるわ」
嘘つけ!絶対信じてない。だってその言い方じゃ、僕がただの一般人でグレモリー先輩の敵だという証拠もないと言ってるようなものじゃんか。
でも僕のことを相手がどう思おうが相手の勝手だし、今後、僕に直接的な被害が及ばなかったらそれでいい。
………帰るか
「いやぁ、やっと信じてくれましたか。ありがとうございます。では、これで用が済んだことですし、先輩方も多忙そうなので僕は、これで帰らせて頂きます」
立ち上がり、グレモリー先輩と姫島先輩に軽く会釈した後、速やかに部室から退出しようとするもドアノブに手をかけようとした時に背後から制止の声がかかる。
「ちょっと待ちなさい。まだ、コカビエルが言った『聖杯』のことについて聞いてないわ」
……チッ!やはり聞いてきたか⁉︎
「あぁ、聖杯ですか?そのことに関しては、マジで何のことなのか自分でもわからないんです。イエス・キリストのの血を汲んだモノや最後の晩餐に使用されたモノとか聖杯の逸話ぐらいなら知っているんですがね〜。逆に僕が聞きたいぐらいですよ。ハハハ」
振り返りざまに自虐的に言い放つ。
「そ、そう。なら最後に貴方、今日からオカルト研究部に入ってもらうわ。もちろん貴方の彼女も一緒にね」
「は⁉︎」
なんて強引な手段。ようは僕たちを監視しやすいように都合のいい環境を創り出したいだけか。
しかし、別に僕らはやましい事をしている訳でもなく、これから監視されるにあたって不味い理由などない。
でも悪魔と関わるということは、今後厄介ごとに巻き込まれそうな気もしないわけではないが……
まぁ、大丈夫だろう。この前みたいな非日常に巻き込まれることなど一生に一度あるかないかの体験だと思うし。
それに断ると逆に怪しまれそうなので……
「わかりました。オカルト研究部に入部しましょう。でも一つ条件があります。オカルト研究部以外の場所では僕らに関わらないことです。これから日常的に関わられるのは、ぶっちゃけウザいんで、貴方たちの要望を飲んだんですからこれぐらいのお願い、許してくれますよね、先輩」
「えっ、ええわかったわ。金輪際、部活関係以外では、貴方たちに一切関わらない……」
と、言い切った後、今までのシリアスはなかったかのようなニコニコな表情に変え言った。
「……歓迎するわ乙坂士道君。ようこそオカルト研究部へ」
ーーー◯△◯ーーー
「あぁ、疲れたぁ。あの女マジで何様だよぉ……アルトリアは、大丈夫だった?」
結局、丸一日時間を潰された僕たちは放課後の帰り道を疲れた形相で歩いていた。
なんか、早くあの部室から今すぐに逃げ出したい一心だったため仕方なく、オカルト研究部に入部してしまったが、今になって入部してしまったことに対する後悔が肩に重くのしかかる。
「えぇ、私の方もなんとかこの世界の常識をはみ出さない程度に先日のことを説明しましたが、まさかこの世に日常的に神や悪魔が存在するとは思ってもいませんでした」
「それに関しちゃ同感だね。悪魔、堕天使、神、が存在することも驚きだが、俺たちの家の大家さんがグレモリー先輩だったっていうことの方が驚きだよ。しかもあれだろ。アルトリア。僕が聖杯ってこと、もう知れ渡るのも時間の問題だろ……」
「「ハァ〜」」
2人してため息が出る。
僕が聖杯だろうとこの世に人外が蔓延っていようと僕自身どうでもいいのだが、向こうはどうでもよくないのだろう。
オカルト研究部に入部した結果一応、面目上は悪魔の庇護下に入ったというわけだが……僕らを守る悪魔ってのは、コカビエル相手ボコボコにされていたグレモリー先輩達だろ。
……ぜんぜん安心できないよ。逆に不安しかないよ。
「そういえば、アルトリアってさ。聖杯が願望機だってこと知ってたわけだけど……なんで僕に黙ってたの?」
アルトリアの話では、サーヴァントは聖杯をかえして出てくる。
つまり、聖杯であるが今、アルトリアをこの世に縛り付けているのは、なにお言おう僕自身なのだ。
無意識だけど。
いくらサーヴァントでもそれぐらい気づくものだろう。
つまり、アルトリアは、僕の前に現れた時から僕が聖杯だと知らなくても聖杯の気配は、近くから察していたはずだ。
そう思いながらマンションの階段を登り、部屋の前までさしかかった時だった。
「お前が乙坂士道で間違いないな」
突然、背後から僕の名前を呼ぶ中年のおっさんの声が聞こえ……振りかえろうとするも、横に立っていたアルトリアが一瞬にして中年のおっさんとの距離を詰め、いつの間に取り出したのか透明な剣を一閃した。
……だが、剣は、中年のおっさんの首をはねる事はなく、首すれすれの場所で横から伸びた腕に見えない刀身を掴まれていた。
「おいおい、声かけただけで斬りつけるってエラい歓迎の仕方だな嬢ちゃん」
「いきなり背後を取られたものでな。反射的に動いてしまった許せ」
見るとそこには、和服姿のワイルドなオヤジと今風の服を着こなした銀髪が特徴のイケメン。
そして、アルトリアの反射スピード以上に何よりも驚いたのは、見えない刀身を腕一本で止めている銀髪のイケメンだ。
「アザゼル。やはり俺の目に狂いはなかったようだぞ。俺好みの強者だ」
「今回お前がやけに乗り気だと思ったらやっぱりそういうことか……」
そう笑みを浮かべる銀髪のイケメンの手はアルトリアの攻撃を受けた所為だろうか、手のひらからは、決して少なくはない血が滴っている。
「……ヴァーリ、頼むからその身体中から湧き出ている攻撃的なオーラを止めてくれ。今日のお前はあくまで俺の護衛だ」
「アルトリアも一旦剣をおろそうか。僕的にもここは話し合いの方がいいと思う」
それにこんな所で戦闘なんかしてもただの近所迷惑なだけだし。怒られんのは僕なんだよ。
アザゼルと呼ばれたおっさんの苦言に銀髪のイケメンは、渋々といった感じで見えない剣を離し、殺気を控え、アルトリアも剣を下す。
「まぁ、とりあえず立ち話もなんだから……ね」
と玄関の扉を開け、アルトリアには先に中へ入ってもらって僕も2人と一緒に中に入る。
取り敢えず、2人分の座布団を用意してお茶を出す。
「そ、粗茶でございます」
「おぉ、気が効くじゃないか。やっぱ日本に来たら日本茶だよな」
「はぁ」
アザゼルは、グイグイと熱湯にもかかわらずお茶を飲みおかわりを要求してくる。
………なにこのアットホーム感⁉︎
アザゼルは、僕の出すお茶をひたすら飲んでるし、アルトリアはさっきからずっと2人を睨んでいる。銀髪に関しては、アルトリアから睨まれることが嬉しいのか笑っている。
「で、僕に何のようですか?ひょっとしてグレモリー関係?」
明らかに人の形をしているが人ではない2人。
すると、僕の中では自然な形でグレモリー先輩が出イメージされるのだが……
「グレモリー?あぁ、そう言えばこの土地ってグレモリー家の管轄だったな。言っとくが俺たちはグレモリーとは関係ないぞ。というか、俺たちはグレモリーら悪魔達の敵の堕天使様だぜ」
「なにっ⁉︎」
アザゼルがそう宣言するとアルトリアが見えない剣を引き抜き、銀髪のイケメンも嬉しそうに背中から青い変な翼を出現させた。
「白い龍よ。私の前に立ちはだかるなら容赦しないぞ」
「ほう、初手で俺の正体を見切ったか。これはますます、お前と戦いたいな」
「はい、ストォーップ!2人とも落ち着いて、ね」
ピリピリしているところに割り込みたくはないが、ここで戦闘になるのはまずい。
アルトリアもピリピリするのはわかるけどせめて時と場所を考えようぜ。
「よせ、ヴァーリ。俺の前でこの2人に危害を加えるんじゃねぇーよ」
アザゼルもイケメン君に落ち着くように促す。
まったく、最後に掃除するのは僕なんだからね。
アザゼルは、闘気に満ちた目のイケメン君を無理やり座らせると再び僕に目を向けた。
「ツレが悪りぃな。今度、俺に出来る範囲でなら何でもしてやるから俺に免じて許してくれ」
「いえいえ、そんないいですよ。先に剣を向けたのは、アルトリアですし」
「ですが、シドー。そいつは堕天使ですよ!」
話していると横から割り込んでくるアルトリア。
「うん知ってるよ。さっき本人がそう言ってたしね」
「なら⁉︎……」
「なら戦争はしないよ。だってアルトリアはどうにかできるかもしれないけど僕には、堕天使を力でねじ伏せるなんて芸当できないもん。自慢じゃないけどそこのイケメン君とアルトリアの戦闘の余波だけで重賞負える自信がある」
アルトリアの言葉を遮り、最後はカッコよくドヤ顔で決めてやったぜ。
それに僕的には、悪魔より堕天使の方がイメージがいい。
「……だそうだ嬢ちゃん。俺も同感だ。一方的に押し掛けた立場としては言いにくいんだが、今は、わざわざ話し合いから戦争へとステップアップさせる場面じゃねぇ」
その言葉に横に座るイケメン君は、ムスッとした表情になったがアザゼルも僕も無視する。
なんだかさっきから薄々と気になっていたんだが、目の前の銀髪のイケメン君、もしや戦闘狂なのではないか。
アルトリアが相当の実力者だと気付いているのか、さっきからアルトリアを見る目が完全に輝いている。
逆に言うと僕など完全に眼中になさそうだ。
今後永遠にその目が僕に向かないことを祈る。
「で、堕天使が何でしたっけ?」
「お、おう。まぁ、お前らの聞きたいことは結構あるんだがな。まずは先日俺の部下のコカビエルが世話をかけたな。この埋め合わせは、俺なりの方法で返す。次に聞きたいことというか、今から聞くことが俺がお前に会いに来た一番の目的なんだが……」
と、頭をぽりぽりかきながらぜんぜん悪びれた素振りも見せず、アザゼルは、僕ら2人に向かって言った。
「お前ら、俺ら堕天使の側に来い!」