喰霊-廻-   作:しなー

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遅くなりました。
PC復活したので投稿です。


第10話 -VS 三途河-

 迫りくる蟲を切り伏せ、バックステップで大きく後退する。

 

 巫蠱術。それは蟲を操る秘術。

 

 

 目の前のガキ―とはいえ一応俺と同年代なのだが―はそれの使い手である。

 

 喰霊-零-においてはあまりそれを示す表現が成されておらず、原作を読むことでようやくこの少年が蟲使いである事を知る事ができる。

 

 蝶がその能力から来ている事を知っている人は恐らく少ないだろう。

 

 とはいえその事を知っていたからといって詳細な事が理解できるわけでもない。せいぜいこいつが蝶使いじゃなくて蟲使いなのだということがわかる程度だ。

 

 その中には三途河を乗せて空を飛べる蟲がいることや、切ると毒を放出する蟲がいることが描写されてはいるが、その他にどれだけいるのかとか、どんな能力があるかなどは窺い知ることが出来ない。

 

 要するに、三途河の実力が垣間見える程度で、それの詳細を把握できないのである。

 

 諌山黄泉の婚約者である飯綱紀之によると、かなり上位の霊力者であるとのことだが、喰霊-零-のころとは打って変わって言動に信憑性の持てない喰霊時代の彼の言であるため、信じていいのかどうか正直怪しい。ただ彼も彼でかなりの能力者であるはずなため、やはり三途河は上位に食い込む存在なのではないだろうか。

 

 飛んでくる棒手裏剣を何個か掴み取り、投げ返してから円を描くように移動する。

 

 今の良く掴み取れたな俺、なんて少々場違いな感情を抱きながらも、目線を決して三途河からは外さない。

 

 俺が投げた手裏剣を颯爽と避ける三途河。

 

 喰霊-零-において諫山黄泉や諫山冥を倒した実力は定かなのだろう。俺が評価するのもなんだが、的確に嫌なところに攻撃を配置してくる厭らしさはとても13歳とは思えない程だ。

 

 関係ないけど、黄泉の身体を殺生石で愛撫したのは忘れてないからな俺。

 

 殺生石をわざわざ口に咥えて黄泉の身体をなぞる必要はあったの?ないよね?

 

 そんなことを考えていると、顔面すれすれを飛んでいく棒手裏剣。

 

 っと、危ない。思考が変な方向にずれてしまっている。こんなことを考えてる状況じゃないんだった。

 

 お返しとばかりに霊力で練り上げた小刀を投擲する。三途河はさらっと木の陰に隠れてそれをやり過ごすと、お返しとばかりに死角から蛇のようなムカデのような蟲を放ってくる。

 

―――上手いな。

 

 右手に作り出した刀でそれを貫くと、刀身はそいつの身体に残したまま俺の手から刃を切り離し、再度新しいものを作成する。

 

 これは蟲を切った際に毒ガスが出てくるのを防ぐためにやっている行動だ。飯綱紀之は三途河戦において、蟲を切断した時の体液を身体に浴びて目をやられている。

 

 三途河との距離は3m弱。通常接近戦しかしない俺としては異例の戦法で、中距離以上のレンジが苦手な俺としてはこの距離を保ちながら戦うのはあまり得策ではない。相手にイニシアチブをとられてしまう可能性が高いからだ。

 

 だが、それでも俺はこの距離を保たざるを得ないのだ。

 

「へぇ、随分用心深いんだね。噂で聞くよりも随分大人しい戦法をとっているみたいだ。もっと勇猛果敢に攻めてくる印象だったんだけど、そんな及び腰でいいのかい?」

 

「……うるさいな。そんなに口を開いている暇があったら俺に有効打の一発でも入れてみたらどうだ、変態義眼野郎?」

 

 再度飛んでくる棒手裏剣を俺も木を盾にしながら回避する。こいつと戦うのが森の中という障害物の多い地点で非常に助かった。遠距離攻撃は天然の盾が楽に防いでくれる。敵の接近に気が付きにくいという難点もあるが、森に慣れている俺にとってはメリットの方が遥かに大きい。事実、本気をだしてはいないのだろうが、それでも三途河が若干攻めあぐねているのがわかる。

 

 それに、俺はある理由から極力こいつには触れたくないのだ。だから接近戦に持ち込むのなら手数を少なく、一撃一撃を致命的なものに絞りたい。

 

「おや、初めて口を開いてくれたと思ったら安い挑発かい?逃げ回って挑発なんて芸がないよ、小野寺凛」

 

「蟲使ってこそこそやってる野郎に言われたくはないね。そんな気持ち悪いもの使ってないで男なら正々堂々と自分の肉体を使って勝負挑んで来たらどうだ?」

 

「それこそ君が言えた義理じゃないんじゃないかな?こそこそ逃げながら戦ってるのはどっちだい?」

 

「黙れ国木田。お前は良家の令嬢を追いかけて北高にでも入学しやがれ」

 

 国木田?と不思議な顔でつぶやきながら首を傾げる三途河を尻目に俺は木々の間に紛れる。あいつがどうやって俺を補足しているのかは知らない。たぶん蟲とか使って俺を補足しているんだろうし、それなら正直撒きようがないが、もし視覚情報に頼って俺を補足しているのならば今ので俺を見失ったはずだ。

 

 木に足場を作って上へ駆け上がる。

 

 親父にハワイで、ではないが、親父に森での動き方や戦い方は嫌というほどに教わった。訓練はマジで大変だった。文字通り骨が折れるような訓練をしたことだってある。

 

 いかに三途河が強かろうが、地の利という点では負けるつもりはない。

 

  

「鬼ごっこの次はかくれんぼかい?テンプレート過ぎて本当に芸がないよ。君は―――」

 

 余裕の表情で俺を探していた三途河は、はっとした顔で後ろを振り向く。

 

 恐らく、その目に映るのは右手の刀を左腰の辺りで居合のように構えている俺の姿。俺の目に映るのは単純に驚愕している三途河の表情。

 

 これをできるのは一度きり。だから、ここで決める。

 

 居合抜き。俺は土宮神楽や諌山黄泉のような純粋な日本刀を使用している訳ではないため、鞘走りを利用した一撃をお見舞いできるわけではないのだが、それに近しいことは出来る。

 

 流石の反応速度というべきか、三途河は両手をもってしてガードに移ろうとする。

 

 俺の行動に気がついてから、その防御までの反応は賞賛すべきものだ。

 

 だが、遅い。

 

 殺す気で繰り出した一閃が三途河の顔面を切り裂く。

 

 カテゴリーBの足ですら両断する威力をもった斬撃よりも力を込めた一撃が、三途河の顔面へと降り注いだ。

 

 

 舞い散る血飛沫。

 

 気の弱い一般人がこれをみたら確実に気を失うであろう量のそれ。

 

 普通ならば致命傷クラスのその一撃。

 

 だが、

 

 

 

「―――糞が!」

 

 俺は急いでその場から飛び退いた。

 

 それの一瞬後にその場所を襲う攻撃力の高そうな多量の蟲。

 

 そして一瞬遅れて飛んでくる。棒手裏剣。蟲は躱せても棒手裏剣を回避するのは困難だった。

 

 左手の二の腕に突き刺さり、右の脇腹をそれは掠めていった。

 

 

 

 

 

 

 外した。見事に外してしまった。

 

 思わず感情を表に出してしまう。完全に失敗した。

 

 

「これは一本取られたな。見事だよ小野寺凛。何度も言った言葉かもしれないけど、まさかここまでだとは想像もしてなかった」

 

 顔面を抑えながらそう呟く三途河。

 

 普通なら顔面を抑えている手からはとめどなく血が溢れている筈だ。当然だ。俺の今の一撃は確実に骨まで断ち切ったのだから。

 

 だが、そんなことは微塵もない。

 

 それどころか、飛び散ったはずの血すらどこかに消えている。

 

―――糞が。

 

 再度、同じ言葉を今度は胸中で呟く。

 

 ふざけている。あの野郎、あのタイミングで躱しやがった。

 

 先ほどの俺の一撃は、あいつの顔面の殺生石を狙ったもの。

 

 それどころか殺生石ごと三途河の頭をぶった切るつもりだった。

 

 だが、躱された。

 

 せめて殺生石に当たって、それが砕けるか俺が回収できさえすればそれはそれでよかった。あとはそれを俺が持って逃げて、こいつを土宮さん達とフルボッコにすればいいのだから。

 

 だが、当たらなかった。直前でやつが首をひねったのだ。

 

 その結果俺の刃は三途河の左の頬骨と多少の前髪を切り落としただけに終わってしまった。

 

 普通なら、それは致命的な一撃といっていいのかもしれない。顔面の頬骨を切断されるような一撃を受けて平然としていられる奴なんかいるわけないし、そこから流れる血は膨大だ。必ず行動に支障が出る。

 

 だけど、こいつらは別なのだ。殺生石持ちは、普通の人間と同類として考えてはならない。

 

「もしかして今の一撃は殺生石を狙ったのかい?惜しかったね、あと一歩足りなかったみたいだ」

 

 そういいながら顔面から手を外す。そこにあったのは元の端正な顔立ち。そこには一切血の跡などなく、切ったはずの髪までもが修復されている。 

 

「君はこれのいい担い手になりそうだ。さっきは芸がないなんていったけど、その人を傷つける事に迷いのない精神に、その実力。これを扱うに十分だ」

 

 そういって三途河は不敵に笑う。嗤う。

 

「だけど、まだこれを扱うには早いみたいだ。君には憎悪が足りない。今ので分かったけど、君にはこの石に対する嫌悪はあっても、この世の何かに対する憎悪や明確な欲望がない。やっぱりまだ子供だからなのかな、これを扱うに値する技量はあってもそれを扱うエネルギーが足りない」

 

 

 青い蝶が舞う。 

 

「だから残念だけどまだこれは君には渡せない。君がもっと自分の欲望を育てて、本当の憎しみに気が付いたとき、僕はこれを君に渡そう」

 

 ひらひらと三途河に撒き付いていく青い蝶。

 

 蝶は喰霊-零-において絶望の象徴だった。それが現れるときは必ず誰かが不幸になる。必ずそこには三途河が現れる。

 

 つまり、今こいつは、

 

「てめぇ、逃げんのか!」

 

「逃げるなんて心外だな。ただ僕と君は今会うべき時ではなかった、それだけのことだよ」

 

「訳わかんねえ臭いセリフ吐いてんじゃねえよ!」

 

 二の腕に突き刺さった棒手裏剣を投げつける。青い蝶の出現と共にこいつは現れて消えていく。

 

 つまりこいつは今この場から離れるつもりだ。

 

 逃がすわけにはいかない。

 

 棒手裏剣は蟲で防がれた。痛みを主張する脇腹や二の腕を精神力で諫め、俺は全力で走り出す。

 

 先ほどの後退でかなり距離をとってしまった。10m以上は離れてしまっただろう。

 

「君が憎しみをその身に背負ったとき、また僕は来ることにするよ。どんなことをすれば君は憎しみを背負ってくれるかな?」

 

 迫りくる蟲をなぎ倒す。返り血に毒を含む蟲がいるかもしれないので、刃をつぶした刀で殴打しながら三途河への距離を縮める。

 

 5m、4m、3m。距離が縮まっていく。

 

「この戦場にいる人間にこれを渡してみようか。君は何もできずに、その人間はこの石(殺生石)に呑まれる」

 

「―――三途河ァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 左の刃で三途河を切り裂く。

 

 だが、返ってきた手ごたえは空気の抵抗と、数匹の羽虫が切れる感覚だけ。

 

 そこに居たはずの三途河はいつの間にか消え去り、残ったのは人型の蝶の群れだけだった。

 

 

 

「君は守れなかった。君ならば守れたはずなのに、さっき僕を殺せなかったせいで誰かが犠牲になってしまった。こんなシナリオはどうだろう?君はどんな感情に染まってくれるかな」

 

 サラウンド的に、どこからか声が響く。

 

 幻想的に蝶が空へと上がって行く。それはつまり、俺は三途河に逃げられたということ。

 

「待てよ!まだてめぇを殺してねえぞ!」

 

「殺すと言われて待つ人間も珍しいんじゃないかい?それにさっき言っただろう、僕は逃げるんじゃないさ」

 

 どこから音が響いているのか。

 

 そして、あいつはどうやって蝶に化けて逃げたのか。

 

 喰霊-零-でも土宮雅楽に独鈷を投げられたときに同じ逃げ方をしていた。あの時も今回も、そんな時間はなかったはずなのに。

 

「――さっきの一撃は貸しにしておくよ。いつか利子をつけて返して貰おうかな。その時を楽しみにしているよ」

 

 

 そう残して、三途河は完全にこの付近から姿を消した。

 

 間違いない。少なくともこの場からは消失した。

 

 なぜわかるか。それは、戦闘中もずっと付随していたあの感覚がさっぱり消え去ったから。原因がわかったために多少すっきりしてはいたが、それでもやはり不気味だったそれが完全に消え去ったのだ。

 

「ちっくしょう!!」

 

 思い切り木を殴りつける。

 

 殺す気はあった。いや、むしろ防戦に出るつもりは正直あまり無かった。

 

 あそこでとるべきだったベストの戦略は土宮家、もしくは諌山黄泉の合流を待つまで耐えきることではあるが、俺が狙われていた以上、攻めに出てもあまり問題はなかった。

 

 結局は俺が殺されなければいいわけであるし、攻めに出ていれば俺にだけ意識を割いてくれる。俺を狙っているというのならば尚更だ。ほかの存在に気をとられる理由が薄くなる。

 

 だが、攻めに出るのなら極力攻撃を受けずに、一太刀で決めなければならなかった。

 

 諌山冥戦で、あいつは他人の欲望を見透かす能力を持っていた。

 

 多分その条件は蝶に触れるか、あいつに直接触れられること。だから極力接近はしたくなかった。

 

 もしかして俺がそれに適切じゃないとか言われたら、援軍が来る前に殺される可能性があると踏んだからである。

 

―――殺そうとしてくれた方が、どれだけマシだったことか。

 

 ガサリと、木の葉に何かが触れる音がする。

 

 それは蟲が俺を包囲する音。

 

「……最悪だ。攻撃をもらった上に逃げられて、尚且つここから動けないだって?」

 

―――最低だ。最低の結果だ。

 

 今なら、三途河も俺に殺生石がまだ早いなんて言わないのではないのだろうか。

 

 そこに見えるのは先ほど戦ったよりも少ないが、それでも異常な量の蟲たち。

 

 恐らく三途河の蟲もいるだろうが、殺生石に惹かれて野生の怨霊も混ざってきたのだろう。

 

 30分。いや、もっとか?

 

 これを処理しきるのに俺の力でかかる時間。早めに見積もってこんなもんだろう。

 

 

 ifにはなんの意味もないが、もし俺に与えられた特典が喰霊白叡だったのなら。

 

 こんな雑魚共、片付けるのに数分とかからなかったのに。

 

 歴史にも、現実世界にもifは存在しないが、もし俺に広域殲滅型の能力が与えられていたのなら。

 

 この状況を覆すのに、なんの障害も無かったのに。

 

 

 俺は失敗した。脇腹の傷はあまり深くないが、二の腕の傷は決して浅くない。

 

 それに体力もかなり消耗している。

 

 これでは三途河と戦りあう前のようなパフォーマンスは出来そうにない。

 

 ただでさえ頭で思う動きに身体がついてきていないのだ。それに加えてケガをしている?

 

 馬鹿か。不可能に決まっている。

 

 

 きっと。ガキが調子に乗った結果なのだろう。

 

 自分が持つ物以上の幸福を望んで、自分がしてきた努力以上のことを望んで。

 

 何が「君には憎悪がない」だよ。

 

 何が「君には明確な欲望がない」だよ。

 

 

―――あるじゃないか。こんなに明確な欲望が。喰霊-零-を壊した、お前(三途河)に対する憎しみが。

 

 

 空を舞うタイプのカテゴリーCが俺にタックルをかましてきた。

 

 なんてことのないその攻撃だが、俺は躱しきれずに尻餅をついてしまった。

 

「しまっ!!」

 

 木の幹に強かに打ち付けられる。

 

 肺の空気が逆流し、一瞬息ができなくなってしまう。

 

  

 身構えていなかったためになかなかダメージが通ってしまった。

 

 一瞬ぼやける視界。

 

 そして、戦場において一瞬とは無限に等しい。

 

 逆説的な話だが、その一瞬を制したものが、相手の隙という一瞬の無限を得る。

 

 その瞬間は確かに刹那ではあるが、その刹那を求めて、その一瞬のために技を繰り出す戦場においてはその一瞬の長さは無限と同義なのだ。

 

 その間はなんの抵抗すらなくこちらには無数の行動の選択肢がある。

 

 それに対して相手には殆どなんの選択肢もない。とれるとしても苦し紛れの回避か、なけなしの行動だけだ。

 

 

 今この瞬間、その相手(・・)というのは俺だった。

 

 

 カテゴリーCは好機とばかりにその鋭利な牙を俺に晒しながら飛びついてくる。

 

 そしてその相手(・・)に出来るのは些細な抵抗のみ。

 

 

 その刹那の間に、俺は何とか刃を構える。

 

 だが引き伸ばされたその一瞬の中で俺は悟る。遅い。遅すぎる。

 

 この一撃では、こいつ(カテゴリーC)の一撃を完璧に防げない。

 

 

 

 

―――戦場における一瞬とは悠久だ。

 

 

 

 

 その中で俺たちは自分の敗北と勝利を確信し、その瞬間を予見し、経験する。

 

―――畜生。

 

 俺は自分の敗北を確信する。

 

 俺はこんな何でもないようなカテゴリーCに殺されて死ぬのだ。 

 

 そして予見する。

 

 あの大したことのない牙で、この一生を噛み砕かれるのだ。

 

 そして経験する。

 

 その一撃を、俺の生が儚く消えゆくその瞬間を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――遅くなりました」

 

 

 サンッと不思議な音を立ててカテゴリーCは斬り裂かれる。

 

 圧倒的に鋭利な刃物で、流れるような華麗さで一瞬にして切り裂かれる。

 

 

 

 

 

 

―――戦場における一瞬とは永遠だ。

 

 

 

 俺は生涯その光景を忘れることは無いだろう。

 

 桜色の着物に、紺の袴。

 

 そして、暗闇に映える、輝く銀の髪。

 

 美麗な銀が、周りの魑魅魍魎を薙ぎ払っていく。

 

 美しかった。ただただ美麗で、優雅だった。

 

 

 

 

 

「これは貸しにしておきます。さあ、お立ちなさい小野寺凛。貴方はこのような所で倒れるような男ではないでしょう?」

 

 そういって手を差し出してくる。

 

 担当箇所の殲滅は終わったのだろうか。

 

 

「……ええ。でっかくツケといてください。倍なんてもんじゃないくらいにしてお返ししますよ」

 

 今日はよく借りを作ってしまう日だ。一日で2人に借りを作ってしまった。

 

 俺は差し出された手を取って立ち上がる。

 

「ありがとうございます。ここに来てくれたことも含めれば借り2つですかね?」

 

「ええ。それを倍にして返してくれるのでしょう?」

 

「それ以上で、お返ししますよ」

 

 

 暗闇にも映える銀の髪を持つ美少女。

 

 仕込み傘ともなっている薙刀を自由自在に操るフリーの退魔士。

 

 

 

 

 

「―――諌山冥さん」

 

 

 

 諌山冥が、そこにはいた。

 

 

 

 


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