喰霊-廻-   作:しなー

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遅くなりました。
自己解釈は相変わらずてんこ盛りですので、注意してお読みください。
冥の部分思いっきり変えました。まだ家督継ぐ話されてない頃ですわこれ。指摘ありがとうございます!


第13話 -三森峠2-

 夕日が綺麗に西の窓から降り注ぎ、辺りをオレンジ色に染め上げる。

 

 どこか哀愁を漂わせ、あるはずのないノスタルジアを感じさせてくるその光。

 

 一日の終わりを告げる刹那の時間にのみ見せるその色は人の心を引き付ける不思議な魅力がある。

 

 写真や絵画の題材によく使われていることからわかるように、その光で染め上げられた景色とは非常に幻想的で、そして何より美しい。 

 

「おお、よく来た。さあ座りなさい」

 

「どうもご丁寧に。ありがとうございます」

 

 そんな景色の中、俺は大した興味もないおっさん(諌山幽)と対峙していた。 

 

 ……(諌山冥)とならばいざ知らず、なぜこんなおっさんとこんなにムードがある部屋で対峙しなきゃならんのだ。

 

 口から出てきそうだったそんな不満を差し出されたお茶を流し込むことで文字通り流し込む。

 

 普通ならば目上の人間がそれに口をつけるまで出されたものを飲んではならないものであるが、そんなのは無視だ無視。

 

 諌山幽。名目家督継承権ナンバーワンである男。実質だと最下位ではあるが、奈落には実子も配偶者も居ないために本当なら奈落亡き後に諌山を継ぐべきなのはこの男である。

 

 流し込んだお茶を目の前の盆に静かに置いて幽へと視線を向ける。

 

 仏頂面な、とてもじゃないがわざわざお近づきにはなりたくないような雰囲気を纏った男だ。喰霊-零-での黄泉への仕打ちとかを見ていたから余計そう思うのかもしれないが、とにかく俺としては極力絡みたくなかった人間である。

 

「そう固くせんでもよい。自宅と思って寛ぎなさい」 

 

「ありがとうございます」

 

 とは言え緊張してしまうものですよ、などと営業スマイルを振りまきながら返す俺。

 

 自分の精神年齢を隠すためにガキのふりをすることを13年近くもやってきた俺である。このくらいの営業スマイルは朝飯前だ。

 

 中学生にもなれば所謂「ませた」餓鬼が出始める時期だ。最近は本性を出すようにはしているが、まさかこんな所で我慢して演じてきた餓鬼の所作が役に立つとは。

 

「急に呼び出して申し訳なかったな。分家会議などではあまり話す機会がなかったからな。一度面と向かって話してみたいと思っていたのだ」

 

「光栄です。実を言うと俺も少々(・・)お話をしてみたいなと思っていましたので」 

 

 鏡で自分を見たらさぞかし気持ち悪いんだろうなーと思うような笑みを浮かべながらそんなことを返す俺。

 

 ちなみにこれは多少本心だ。出来れば絡みたくないような人種ではあったが、あの悲劇の立役者の一人であるこの男と話してみたかったのは嘘ではない。多分将来敵対する人間であるとしても、その人となりを知っておいて損はないと考えていたのである。

 

 そのまま俺たちは他愛もない会話を交わす。

 

 俺の対策室での活躍などをよいしょするような幽の発言に謙遜した態度を取ったり、その流れで冥さんをよいしょし返したり、学校でのことを聞かれてまたよいしょされたり……。そんななんの生産性もないただのお互いのご機嫌取りを延々30分以上も浮かべたくもないような笑みを浮かべながら続けさせられる。

 

 こんなくだらない会話は病院での来客対応でさんざん慣れたと言えば慣れたのでそこは問題ないのだが……。問題はこの会話の流れがまるっきり病院にやってきたやつらの会話と同じということなのだ。

 

 やはり、俺を囲い込む気なのだろうか。

 

 行きの車の中で考えていたことが現実になるかもしれない。

 

 そのまま再び雑談に移り、しばらくの間営業スマイルを浮かべながら会話を続ける。個人的にさっさと帰って明日の休みを満喫するために親に課されている宿題的なものをさっさと終わらせたいんだけどな……などと思いながらも我慢して対談に応じていた。

 

「時に凛。お前がこの前分家会議で話していた件なのだが……」

 

 そんなことを考えながら話していたため、話の流れが突如変わったことに気が付けず一瞬呆けてしまう。

 

「分家会議で話してたこと?」

 

 思わず聞き返す。唐突な話題変換に一瞬何のことかわからなくなったが、記憶を辿ってみて即座に思い出す。

 

 多分だけど殺生石について俺が分家会議で語った件だ。

 

 結構前、土宮舞が意識不明になったあの事件の後辺りに1回分家会議が開かれたのである。土宮舞が意識不明のため、土宮雅楽が臨時の土宮当主になり、そして諫山奈落が分家の取りまとめ役を土宮雅楽から引き継ぐことを分家に通達する会議だ。アニメ本編でも僅かながらそのシーンがあったのを覚えている人もいるのではないだろうか。

 

 その際に黄泉の義理の親父であり分家のまとめ役に就任した奈落さんがまさかの俺にスピーチを強要。立役者である俺が出席しているのに何も喋らせないで帰すわけにはいくまいという謎理論からだったが、まぁわからないでもないので親父の顔を立てるという意味で一応それを受けることにしたのだ。

 

 とはいえ俺に喋る内容があるかと言われれば特にあるわけでもなく。個人的にあれは負け戦だと思ってるしな。なのだが別に特段喋ることなどなかった俺はここぞとばかりに殺生石の存在と三途河の存在を力説。その二つの驚異を皆に知らしめるために熱弁させていただいたのである。

 

 親父のあの引き攣った顔を俺はしばらく忘れないだろう。

 

「殺生石の話だ。力説していたお前が忘れているとは何事だ」

 

「お恥ずかしながら分家会議の前後は色々ゴタゴタがあったもので忘れてました」

 

 貴方の娘さんもそのゴタゴタの1つなんですけどね、とお茶を啜りながら嫌味を心の中で吐いておくことは忘れない。

 

「それでその話がどうしましたか?」

 

「うむ。実はそれに関して面白い話を聞いたのでな」

 

 ぴく、と お茶に伸ばしていた手が止まる。

 

「それらしき物が作用しているのではないかと思われる事象を発見したとの報告が入ってな。冥に調査に向かわせようかと思っておるのだ」

 

「待ってください。対策室にも入ってきていないような情報ですよね、それ。あの石に関しては深いとこまで関わらせて貰ってますけど、そんな情報聞いたことないですよ俺は」

 

「我々独自の情報網から知りえた情報だ。お前ら対策室にそれが渡っていなくても欠片も不思議ではあるまい」

 

 悠然とした態度でそう返す幽。この表情本当なのか嘘なのか見破ることは不可能だ。

 

 室長(お偉いさん)は一体どういう了見かはわからないのだが、かなり深い所まで業務とかに俺を関わらせてくれている。中学生に知らせていいのそれ?って所まで教えてくれるので俺がヒヤヒヤしてる程に触れさせて貰ってるのだが、それでも殺生石の話なんて聞いたことは殆どない。触れるにしても伝承が出てくるくらいだ。

 

 当然俺みたいな下っ端には知らせていない情報など山のようにある筈だが、殺生石に関して下手したら対策室で最も詳しい男である俺に関連情報を知らせないとは考えにくい。

 

 喰霊本編に出てきた天狗レベルのような下手につつくと国家機密に触れるレベルの危ない話なら知らされない可能性が大いにあるが、それはそれでそんな情報を正当な諫山でもないこの人が持っているとは考えにくいのである。

 

 ぶっちゃけ怪しい。

 

 正直に言ってしまって信じるに全く値しない程だ。俺を懐柔するための何らかの策なのではないかと疑ってしまう程には信じられない。

 

「いえ。はっきり申し上げますがかなり不思議です。その情報源を是非教えてもらいたいものですね」

 

 正直に述べる。対策室の内部に入ると分かることだが、対策室の情報網は本当に広い。残酷な話だが対策室に頼らずして心霊業界の最新情報を得ることは不可能に近いのが現状である。

 

 もっとITの発達した、例えばSNSだとかが全盛期の時代ならばいざ知らず、現在は中学生で携帯を所持しているのはクラスでも1人や2人いるかどうかといった時代だ。そんな時代に個人が情報戦で国の組織に勝てるわけがない。

 

 それこそ、内偵でもいない限りは。

 

「いくらお前にであってもそれは無理な相談というやつだ。単純に考えて教えられるわけがあるまい」

 

「そこは死守なさると。これから仕事を依頼する(・・・・・・・・・・・)相手にも教えられないネットワークですか。これはまた興味がそそられますね」 

 

 俺の言葉に本当に僅かながらギクリとする諫山幽。

 

「流石、勘がいいな。だがそれでもだ。情報の秘匿の大切さは大人になればお前もそのうちわかるだろう。パートナー契約を結ぼうともおいそれと渡すわけにはいかんな」

 

 そのまま流れをつかめるかと思ったが流石は老獪というべきか。すぐに動揺などなかったかのように通常運転に戻ってくる。

 

 ここらはやはり年の功なのだろうか。安達のような対人交渉術の素質を持った奴ならこの老獪以上に上手く隠すのだろうが、俺は核心を突かれた時とかにポーカーフェイスを保っていられる自信はない。

 

 最近常々思うが、俺の領域は腹芸とかじゃなくて戦闘だ。直接的な戦闘、その中でも徒手空拳は非常に自信のある分野ではあるが、それ以上にアサシン的なスキルは対策室のだれを選んでも大差で勝利できる自信がある。

 

 俺としては暗殺的な戦い方よりも武士的なというか、直接正面から堂々と戦う方が好みなのであまりやりたくはないのだが……。他の退魔師と比べて優れている部分なら強化せざるを得まい。

 

 さて、脱線してしまった。話を戻そう。

 

 要するにこのおっさんはこの殺生石のヤマで俺を利用したいのだ。今後、俺自身を利用したいのか、俺の背後にいる何か(小野寺や環境省)を利用したいのかはわからないが、とにかく今回の件は俺を使いたいのである。

 

 今回はその打診だろうと思ってちょっとカマをかけてみたらポロリしてくれたというわけだ。

 

「ちなみにその確度はどうなんです?対策室の犬(お役所仕事人)に副業を依頼するほど信頼度の高い情報であるとは思えませんけど」

 

「信頼のおける情報筋だ。怠りある報告はしてこないと確信している」

 

「……ずいぶん信頼してるんですね。まあそこはどうでもいいです。情報の確度はともかく、対策室の外(フリー)で仕事を受ける以上報酬はいただきますが?」

 

「そんなことわかっておる。難度に応じた報酬を渡そう」

 

 別に報酬もどうでもいいのだが、ふっかけた額請求してやろうかなどと思ってしまう俺はきっと性格が悪いのだろう。

 

……成功報酬として冥さんを嫁にくださいとか言ったらさぞかし愉快なことになるかもな、とか考えながら表情は崩さず諌山幽と相対する。

 

 受けるべきか、受けないべきか。普通ならこんな怪しい話即座に断るべきだと思うのだが、今回に限ってはそうとも限らないから困るのだ。

 

「なるほど。その情報を得たのはいつ頃なんです?」

 

「昨日の晩だ。だから今日お前を呼んだのだ」

 

 昨日の晩に報告があって今日俺を呼ぶのはまあ妥当か。ここはあまり考える必要はないだろう。

 

「ではなぜその情報を俺に?対策室に直接伝えたほうが良かったのでは?」

 

「対策室でも得ていないような情報をなぜ得ていると懐疑的なお前がそれを言うのか?あの新米室長に届けたとしてお前と同じかそれ以下の反応しか帰って来ないのは目に見えている」

 

 ブーメランとはまさしくこれを言うのだろう。……確かにその通りだ。環境省の末端の俺ですらこれだけ懐疑的なのだ。新米とはいえあの敏腕な室長がそれをやすやすと信じるとは思えない。

 

「では最後に一つ。なぜ俺に依頼を?」

 

「腕の立つ使いやすい人材だったからだ。それに冥の希望でもある」

 

 冥さんの名前が出てくるとは。てっきりこのおっさんの独断とかなのかと思っていたのだが、冥さんも一枚噛んでいるらしい。諫山幽も諫山冥もお互いがお互いの思惑を知りえているのかどうかわからないが、ともかく俺は親子二代に渡り利用されそうになっているらしい。

 

 面白い。いいだろう、それに乗ってやろうじゃないか。

 

「わかりました。その依頼、お受けしましょう」

 

 おお、受けてくれるかなどと言いながら一見人のよさそうな笑みを浮かべる諌山幽。求められた握手に俺は快く応じることで改めて承諾の意を示す。この人の笑みの向こう側には一体どんな思惑があるかは読み取れない。

 

「ただし、条件があります」

 

「何?」

 

 握手の力を弱め放そうとした諌山幽の手を力強く握りしめ、流石にぎょっとした顔をする目の前の男と強制的に握手をしている状態へと持っていく。

 

 強い力で握られ、白くなる諌山幽の右手。お勤めから逃げたとはいえ成人男性であるためになかなか力は強い。が、黄泉や岩端さんをして筋力お化けと言わしめる俺の力には遠く及ばない。

 

 いきなりの俺の行動に戸惑った顔をしている諌山幽へとにっこりと微笑みかける。

 

「調査には明日の早朝より向かいます。そして冥さん以外にも何人か同伴させるんでしょうから、その人たちの指揮権はすべて俺にください」

 

 さりげなく握手をやめようとする諌山幽を逃すまいと更に力を籠める。痛くはない程度に、しかし絶対に逃げられない程度にその手を固定する。

 

人間は圧倒的な力だとか、圧倒的なカリスマだとか、そういったものに弱い傾向にある。いや、傾向という言葉では語感がかなり弱いかもしれない。

 

 人間は自分をはるか超えた暴力や、予想できないような行動などには弱く出来ている。それらは思考という枠組みから外れているために思考が通用しない理不尽なものであるが故に人はそれにさらされた時、非常に脆くなるのである。

 

「俺に与える指揮権は一つだけでいいです。俺が”逃げろ”と指示をしたら、冥さんを含めて俺以外の全員が即座にその場を離れること。これを徹底させてください。よろしいですね?」

 

 有無を言わさぬ調子でそう言い切る。

 

 諌山幽が縦に頷いたのを確認すると、俺は最大級の微笑みを浮かべたままその手を離す。

 

 今回はこのような荒っぽい形を取ったが、ガキだとなめてかかってくるような大人には武力に限らず実力の違いを見せてやることが実は重要だ。相手が小物であるならば、例えば学歴だとかなんらかの資格だとかのような肩書きでも有効だったりする。

 

 ちなみに握手で印象付けようとするアメリカの政治家のようなこの握手のやり方を教えてくれたのは親父である。小野寺は裏の世界で地位が高くないので結構この方法が重宝するのだそうだ。

 

 そして諫山幽は小悪党のレベルだ。警戒はしていたが、実の所警戒すべきなのはこの人の娘であってこの人自身ではない。残酷だが、それが殺し合いの世界(お勤め)から逃げた人間と、前線で命を張っている人間の差だ。

 

 それはこの程度の脅しで多少ビビッていることからも確かだろう。欲望と人の器とは必ずしも相関するものではない。

 

「では、そのようにお願いします。……ああ、親と対策室には俺から話をつけておきますのでご心配なく。連絡がありましたら冥さんを経由してお願いします」

 

「あ、ああ。わかった」

 

 俺の意図がわからないらしく、戸惑いを隠せていない諫山幽を尻目に俺はすっと立ち上がる。面白いくらいに上手く決まった。若干拍子抜けな間は否めないが、ちょっとすっきりした。

 

 さて、本題も終わったんだろうしこれ以上ここにいるインセンティブは皆無だ。この人が小悪党のレベルであるとはいえ正直腹芸を続けるのは面倒だ。

 

 苦手分野にわざわざ立ち入っていく必要は毛頭ない。さっさと立ち去ることにしよう。

 

「お茶ご馳走様でした。それでは失礼しますね」

 

 一言だけそうかけて、後ろの襖に一暼くれてから俺は諫山幽のいる部屋を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりそうでなくては」

 

 凜が目線を向けたその先の襖の奥に諌山冥は控えていた。

 

 静かで落ち着いたはずなのに、どこか獰猛な笑み。そんな笑みを諫山冥は浮かべる。おもしろい、とその目が雄弁に語っている。

 

 この話を持ち掛けてきたのは父であった。

 

 カテゴリーBにしては異常に活性化した、通常とは異なる反応があると報告をしてきた情報提供者が居るから、それを利用して対策室に貸しを作れないかという提案だった。

 

 だから諌山冥は小野寺凛を推した。

 

 小野寺凛の実力は評価に値する。それが諌山冥の凜に対する感想だ。小野寺凜が諌山冥を認めているのと同じように、諌山冥も凜を認めていた。

 

 この案件が本当に殺生石が絡んだものであったとしても彼がいれば問題がないだろうとの判断である。もとより諌山幽も声をかけようとしていたようだし、冥としても小野寺凜と行動しておきたい理由があったので都合がよかったのだ。

 

 

 

 この業界において「神童」の名を授かっているのは現時点では二人しかいない。

 

 諌山黄泉と小野寺凛。

 

 共に環境省超自然災害対策室に勤める期待のルーキー二人組である。この二人の言動はこの二人が想像している以上に周囲から注目されている。

 

 その二人でも「神童」と言われれば名が挙がるのはまず諌山黄泉のほうだ。平安時代から伝わる朽ちぬ名刀である宝刀獅子王を扱い、養子でありながら諌山の宝刀を継いだ彼女の話題は尽きることがない。

 

 だが、本当に話題性があるのは実の所小野寺凛のほうだ。

 

 無名の一家から生まれた期待の星。トンビが鷹を生むより偉大なことだと騒がれていたのが記憶に新しい。

 

 退魔師業界は人員不足であるが、それでも、いやむしろそれだからこそだろうか。伝統や経歴を重んじるところがあり、そう簡単には新参者が認められるような業界ではない。確かに人員不足であるために歓迎される部分はあるが、由緒正しい血筋が優先されてしまうのは否定できない。

 

 でも、小野寺凛は違った。有名な一家でもないのに、一代で退魔師の中心人物にまで到達してみせた。あの小さな体で、話題の全てをさらって行ったのだ。

 

―――自分は、そんな風に噂されることは無かった。

 

 努力をした。家名もある。でも、自分はそこまで話題にならなかった。

 

 

 嫉妬をしたのを覚えている。その才覚に、その境遇に。

 

 そして同時に憧れたのも覚えている。その実力に、その環境に。

 

 

───家督を継ぐのは恐らく黄泉だ。

 

そう冥は確信していた。直接断言をされたことはないが、諫山奈落がそう匂わせたことは何度かある。

 

それに、家督を譲る気もないただの少女に宝刀獅子王など継がせるわけがないだろう。

 

多分黄泉が家督を継ぐと確信に近いものを抱いても、別に感慨は湧かなかった。諌山黄泉が死ねば家督は自分のものなのだから、所詮順番の問題。早いか遅いかでしかないとそう考えていた。だから、別にわざわざ急ぐ必要などないだろうと。

 

 だけど、あの奇跡(小野寺凛)に憧れてしまった。何も無いところから這い上がって、それでいてトップに降臨する彼に。

 

 このステレオタイプな思考に固まった世界で、それをぶち壊す存在が現れたのだ。それに、不思議にも惹かれてしまった。

 

 正直に言って、諌山冥は小野寺凛を尊敬している。年下であり退魔師としても後輩ではあるがそれでも小野寺凛に憧れを抱いている。

 

当主の座を奪い取りたいと考えるなど、叔父様の決めたであろう考えに、自分のような小娘が異を唱えるなど許されないことだ。でも、憧れてしまったのだ。そして思ってしまったのだ。自分も、と。

 

 高慢な考えであることはわかっている。だけど自分にとって価値のある存在か、それを今回で精査してやる。自分の為に利用できるものは全て利用してやる。例えそれがリスペクトの対象であったとしても例外ではない。

 

―――期待しています。

 

 そう心の中で唱え、諌山冥は小野寺凜を見送る為に立ち上がったのであった。

 

 

 




凜が依頼を受けた理由については次話にて。
改稿入れるので、暇な方は二日に一遍くらいみてやってください。
幽との会話がむずくて。

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