「小野寺凛!!」
鼓膜を破壊するかのような轟音が響く中、届かないとわかりながらも私は思わず手を伸ばし、声を張り上げてしまう。
一瞬のうちに音を立てて崩れていくトンネル。かなりの質量を持った建造物が、人為的な爆発によってその形を無残にも変えていくその瞬間は、何処か感動すらも覚えるほどの光景だった。
轟音とともに入口は埋まりきってしまい、表から目視しただけではどこからどこまでが壊れてどこまでが無事なのか全くわからない。
───これでは、流石の彼も……。
損壊の程度はわからない。彼のことだ。飄々とした態度でひょっこりと現れてくるのかもしれない。
だが、明らかに人1人を殺すには十二分な量の火薬が使われていたように見える。トンネルの何m地点まで崩れているのかはわからないが、それでも入口が完全に埋まってしまうほどの崩落である。無傷で切り抜けている可能性はかなり低いと言わざるを得ないだろう。
……反対側からならば合流が可能だろうか。
そう考えるが、その可能性は低いと即座に否定する。
あの怨霊には私も直に目にした転移の術式がある。あの少年がどのような目的をもって爆破をしたのかはわからないが、もし私があの少年の立場ならばトンネルの両側を爆破するだろう。自分だけは脱出方法を確保したうえで相手には逃げられない状況を作る。そんな美味しい条件があるのならばそれをしないという選択肢は存在しないだろう。
あの一撃で小野寺凜を殺そうとしていた場合は反対側を爆破する理由はないが……。
逡巡する。明らかに目の前の土砂を撤去して彼に合うことは不可能だ。かといって反対側に回り込むのも至難の業だ。隧道が通るような山を越えていくなど、体を鍛えているとはいえかなりの負担を伴う。場合によっては物理的に不可能だし、反対側にたどり着く前に遭難する可能性だって無くはない。
三森峠の隧道は300m程だと聞く。その程度の距離ならば問題はないだろうか。
―――とりあえず別動隊に連絡を取らなければ。
ここまで事態が大きくなってしまえばもはや環境省にも出動を要請しなければならない。いや、今の崩落でトンネルに張ってあった結界は壊れたようだから、もしかするともう出動の用意をしているかもしれない。
それに、彼を助けるのならば私一人ではもうどうにもならない。
それが歯がゆくて仕方ない。今一番近くにいるのは私であるのにも関わらず、一番彼に近い私は彼を助けることが一切できないのだ。
強く唇を噛んでしまう。獅子王が、鵺が居たのならば。もし黄泉だったのならばこの状況を切り抜けられるのだろうか。黄泉ならば、この状況を覆すことが出来るのだろうか。
……いけない。こんなことを考えている場合ではないというのに。
とりあえずまずは電話だ。この旧道に入った段階で小野寺凜と携帯ならば利用可能なことを確認している。まずは別動隊に―――
振り向きざまに薙刀を横に払う。同時に舞い散る美しさを感じさせる黒と青の蝶達。
「へぇ、いい腕だ。流石は正統な諌山の一族ってところかな?」
「……何用ですか」
正眼に薙刀を構える。
現れたのは三途河カズヒロ。巫蠱術の家系であり、バチカンで殺生石を研究していた三途河教授の実の息子。一年程前にバチカンで爆発事故に巻き込まれ死亡されたものと考えられていたが、その息子であるこの少年は生き残っていたらしい。
全て小野寺凜から聞いた情報ではあるが、一部自身が持っていた知識と照らし合わせても間違いはなかった。
この少年が何故私の前に現れるのか。私に用が出来たのか、それとも……。
「小野寺凜はどうしたのです」
薙刀に込める力を強める。
まさか、ではあると思う。だが、最悪の事態が考えられる程度には今回の状況は酷い。
「彼かい?……まったく、彼はゴキブリのような男だよ。君もそう思わないかい?」
「質問には明確に答えなさい。彼をどうしたのです?」
「安心しなよ。別に何もしてないさ。残念なことに傷一つ負ってなかったみたいだからね。上手く気を引けたみたいだったし、瀕死くらいには出来るかなと思ったんだけどな」
やれやれとジェスチャー付きで首を振る目の前の少年。
……別に何もしていなくはないだろうと思うが、どうやら彼は無事らしい。あの崩落で無傷だとは流石と言わざるを得ないだろう。
「トンネル内にカテゴリーB相当の怨霊も残してきてるんだけど、あのレベルだとあの化け物には通用しないだろうね。助けに行かずとも問題はないんじゃないかな」
「……目的はなんです?」
「今日ここにいる目的かい?それとも小野寺凛を閉じ込めた目的かな。後者なら簡単だよ。リスクヘッジってやつさ。彼を自由にしておくと何をされるかわかったもんじゃないし、ヘタを打てば直ぐに殺されちゃいそうだからね」
飄々とした態度をしてそういう目の前の少年。平然と振舞っているが、何処か嬉しげな様子が漂っているのは気のせいなのだろうか。
「ここにいる目的は貴女と会話がしてみたかったのさ。僕はね、これに相応しい人材を探しているんだよ。この石の担い手に相応しい存在をね」
そういって、少年はその白い髪をかき上げる。
殺生石。九尾の狐の魂の欠片だと伝え聞くそれ。話では何度も聞いたことがあるし、存在することも当然知っていたが、これほど近くでまじまじとそれを見るのは今回が初めてかもしれない。
油断なく薙刀を構え続ける。少年の姿をしていても、土宮のお二方に小野寺凜を退けている驚異的な存在だ。小野寺凜も、この少年には注意しろと散々車の中で述べていた。
「その担い手とやらを探し出してどうするのです?」
「話をしてみたいとは言ったけど、残念ながらそこまで答えてあげる義理はないかな」
「それではここで何をしているのです?なぜここに?」
「それに関しては僕のほうが気になるな。ねえ、共犯者さん?」
「……っ!!」
柄を握る力が強くなる。
「……本当に、厄介なことをしてくれましたね」
「それについては悪い事をしたね。謝罪するよ。それに感謝もしなきゃね。あの一瞬の硬直がなければ僕は彼に切り殺されていたかもしれないから」
小野寺凜の戦闘態勢に移行してからの振る舞いは見事の一言だった。成長した体躯をいかんなく利用し、一分の隙も見せないで歩んでいくその体捌きには見習うべき点があると素直に思わされた。
だが、それは一瞬崩れた。他でもない、私の名前を利用されたことによって。
「後ろから刺されることを警戒したのかな。一瞬だけど本当に慌ててたよね彼」
「……外道が!」
警戒は解かずに切りかかる。非常に不快だった。
「君も彼と同じでせっかちなんだね。もう少しゆっくりお話をしようという気概はないのかい?」
そう軽口を叩きながら私が切りかかるのをさらりと避けると、代わりと言わんばかりに棒手裏剣を無数に降り注いでくる。
……彼の言っていた通り厄介な相手だ。
バック転などを組み合わせながら射撃の点を絞らせないように後ろに下がる事で私もそれを回避する。こういった細かいもので襲い来る攻撃は1つ1つの威力こそ低いものの、防御する事は至難の技だ。回避する事が極力望ましい。
「流石だね。その美しい動きを見ていたくはあるけど、今日はお話をしに来ただけだから、よかったらその矛を収めてくれないかな?」
「黙りなさい。怨霊と交わす言葉などありません」
「つれないな。本当に君たちは馬鹿正直というかなんというか。もっと柔軟な思考を持ってもいいと思うよ」
意外にも品のある動きで、後ろにある岩に腰掛ける少年。
……本当に、話をしに来ただけだというのだろうか。
「貴女は小野寺凛とどういう関係なのかな?仕事上のパートナー?それとも恋人同士なのかい?」
「何故そんな事を問うのです」
「質問には明確に答えろと言ったのは貴女だろう?でもそうだね。単純な興味、かな」
「信じられるとでも?」
「信じる信じないは君の勝手さ。僕はただ君がどう思っているのかを知りたいだけだからね」
「……仕事上の付き合いというだけです」
「……へぇ。そんなんだね」
意味ありげにそう呟く白髪の少年。
……別に今の質問になど答える義理はなかった。しかし相手の話が気になってしまったのと、別に話しても問題ないと感じたためにそう答えたのだ。
「ならもう一個質問をいいかい?———もし貴女が死んだとして、彼はどんな反応をすると思う?」
その言葉を聞いた瞬間に、私は彼からさらに距離をとる。
声は普通に届くけれど、攻撃はほぼ間違いなく届かない距離まで迷うことなく即座に後退する。
そんな私を見てクスリと微笑む
「誤解しないでほしいな。貴女を殺すって意味で言ったわけじゃなくて、ただの興味さ。言っただろう?僕は君と話したいだけなのさ」
相変わらず飄々としてそう言うカテゴリーA。……信じられるとでも思っているのだろうか。殺気こそ感じられなかったものの、その台詞は「私を殺す」と言っているようなものだ。私が死んだ後の、小野寺凛の様子に興味があるのだと。
周りの異常なまでの圧迫感も相まって背中を冷や汗が伝う。この少年の目的がわからない。何を思い、何を目指しているのか。
小野寺凛も何を考えているか読みにくい男ではあるが、この少年はそれ以上だ。比較的扱いやすい小野寺凛とは違って、ただただ不気味で、意味がわからない。
「……私が死んだ後の小野寺凛の心情など知りませんし、元より死ぬつもりもありません」
「答えになっていないという意味で模範的な回答だね。僕も見習うべきかな」
いちいち癪にさわる言い方をするのを好む男だ。彼には失礼に当たるかもしれないが、肝心なことは徹底的にはぐらかす所とかこういった所は小野寺凛と多少に通っているかもしれないと思ってしまう。
……いや、間違いなく彼とこの少年はどこか似通っている。具体的にそれを上げることが出来ないが、本当に感覚の話ではあるのだが、共通点があるのは間違いない。
善性という点では明らかにかけ離れているはずなのに。
「彼なら悲しむのかな。―――いや、間違いなく悲しむだろうね。貴女かどうかに関わらず人の死には思うところのある人間だろう」
「……本当に、何が目的なのです」
人間は理解できないものに恐怖を覚えるという。この場合、私にとってそれは目の前の得体のしれない何かだった。
彼は私と会話をしていない。当然、彼が語り掛けてきているのは私だ。言葉が向いている先は諌山冥で間違いないだろう。
だが、その意識は私に向いていない。彼の興味は私ではなく、私を通した誰か。私を通して誰かを見ているかのように感じる。そしてそれは恐らく―――
「―――諫山冥。諫山幽の娘であり、諫山の正統な血筋を引く存在。現在高等学校の第一学年に所属し、優秀な学業成績、落ち着いた物腰から周囲に一目置かれる存在。退魔師としての実力も折り紙付きであり、同年代で並ぶものは殆どいない程の武を誇る」
私を映していなかったカテゴリーAの目に私が映る。
瞬時に理解する。今、この化け物の興味は私に移行したのだと。
「しかしながら現在獅子王を継続しているのは諫山奈落の義理の娘である諫山黄泉であり、諫山を継承できる可能性は低い……。
ーーー可哀想に。正当な血筋なのにそれを継承できないなんて悔しいよね。不公平だと、そう思わないかい?」
手に力が入る。
明らかな挑発。安い挑発だ。
だが、安かろうがそれは効果的だ。
諌山を私が継ぐのか、黄泉が継ぐのかはまだ分からない。でも、獅子王を持っているのは私ではない。
本当に嫌な男だ、いや、最低な男だ。こうして私がどう反応するのか、私の程度を観察しているのだろう。
安い挑発に反応することなく、泰然として、目の前の化け物を睨みつける。あくまでも退魔師として、カテゴリーAと相対する。
正直、今すぐに飛び出して行って切り裂いてしまいたいと思う気持ちはある。強い憤りもある。だが、この程度の挑発に乗るのは絶対に嫌だ。そんなもので取り乱す自分こそ嫌だ。
私は断固として平然とした、退魔師としての視線を。三途河カズヒロは今までと変わらない、こちらを試すかのような視線をぶつけ合う。
どれくらい睨み合っていたのだろうか。実質的には1分と経過していないのだろう。しかしながら体感的には非常に長いその視線の交差。
「……なるほどね。うん、わかったよ。全く、彼は本当に厄介な男だな」
それを破ったのは少年だった。
「少し予想外だ。……試してみる価値はあるけど、リスクが大きいかな。また会おう、諌山冥。今日は話せて楽しかったよ」
「……逃げるのですか?」
「有体に言えばそうだね。無いとは思うけど、彼に脱出されて襲われたら面倒だ。もともと戦闘の意思はなかったわけだし、もうやるべきことは済ませたからね」
その言葉と共に少年の身体を蝶が覆い始める。
「おや?止めないのかい?てっきりやすやすとは逃げさせてくれないものかと思ってたんだけど」
「……癪ですが、それよりも優先すべきことがありますので」
「正しい判断だね。流石だよ」
「皮肉にしか聞こえませんね。それ以上減らず口をたたくようならば優先順位を変えますが?」
「それは面倒だ。矛先が変わる前にさっさと退散することにしようかな」
蝶が空に流れていく。木々の合間を縫って羽ばたいていく蝶に目を取られているうちに、いつの間にか三途河カズヒロは姿を消してしまっていた。
……相変わらず末恐ろしい術の腕だ。以前見た時も思ったが、到底13、14あたりの少年が行使できるような難度ではないように思える。
これが、殺生石の力なのだろうか。
それと共に三森峠事態を覆っていた巨大な結界も霧散する。伴って、異常なまでの緊張感と圧迫感を生んでいた霊たちの気配が本当に少しだが薄れた気がする。
三途河カズヒロが消失したのを確認して、思わず肩に入っていた力が抜けていく。土宮殿をも撃退したカテゴリーAと相対していたのだから不思議ではないが、思っていた以上に自分は緊張状態にあったらしい。ほっと人心地がついた。
……とは言えここは今なお災害クラスのスポットであり、カテゴリーAが消えたからと言って気を抜くことなどできやしないのがつらいところなのだが。
おそらく、今頃対策室は大騒ぎだろう。人払いの結界が消滅して、この特異点が向こうに感知された筈だ。そのうち対策室も出張ってくるであろう。
「……ともかく連絡をしなければ」
携帯で別動隊の人間に連絡を取る。彼らがここに入ってきてしまうと霊に中てられる可能性が高いので待機を命じ、父上にも連絡を入れるように指示を出す。
まさか本当にこんな大事に巻き込まれるとは。父上から命を下された時にはこれほどの事態が起きるとは想像すらしていなかった。
「……はぁ」
思わず溜息を一つ。優雅に振舞うよう常日頃から心がけてはいるが、異常なまでも霊の圧力に今なおさらされ続け、カテゴリーAには遭遇かつ相対し、果てには共犯者の設定を植え付けられてしまったのだ。流石にこのくらいは許されるであろう。
電話が来ていることを知らせるために震え始める携帯。
応答しようと思い表示された名前を見ると、そこに表示されていたのは小野寺凜の四文字。
再度心の中で溜息を一つはいて応答する。
―――さて、どう説明したものだろうか。
「……もしもし」
『もしもし、冥さんですか?俺です、小野寺です』
裏切り者だと疑われた彼が裏切り者じゃなくて、裏切り者じゃないかと疑った私こそが裏切り者。いったいどんな皮肉だろうか。
そんな過去の自分の言動に皮肉を覚えながら、私は説明を始めるのだった。
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「さて、と」
地面に落ちた殺生石を拾い上げる。
相変わらず憎たらしいほどに紅い輝きを放つ石だ。綺麗ではあるのだが、触れるのも躊躇われる程にどうしようもない嫌悪感を感じてしまう。
首なしライダーとの戦闘は本当にあっけなく終了した。
バイクで向かって来て大鉈を振るうだけの脳筋タイプの相手だったので、見えないように霊力でスロープを作ってあげて空に浮かせた後、本体を切り裂いて終了だった。
まだ現時点の神楽と戦ったほうが面白味を感じるぞと敵の弱さに愚痴を言いたくなる程度にはつまらなかった。敵が弱いことに越したことはないのだが、もう少し手ごたえが欲しかったというか。
殺生石を得たからと言ってカテゴリーBの下位の存在が劇的に強くなるなんてことはあまり無いみたいである。
そもそも原作では弍村剣介が一刀両断の下に片づけていたりしたのだ。流石に岩端さんとかカズさんとか今の神楽だと単独撃破は不可能だろうが、俺や黄泉クラスならさしたる問題では無いことがはっきりわかった。
問題なのは俺とか黄泉が殺生石で堕ちてしまった時なのだろう。当然一概には言えないので注意が必要だが。
「さて、後はどうやって出るかだな……」
ぐるりと周囲を見渡す。
反対側も完全に崩落。入り口も当然崩落。こんな小さなトンネルに抜け道だとかそんなものがあるわけもなく。
八方ふさがりとはまさにこのことだ。
……このくらいの瓦礫なら
俺には繊細さというものがないからどちらにしてもやめておいたほうがいい。
はぁーと溜息をつく。異常なまでも霊の圧力に今もさらされ続け、
「……冥さんに電話するか」
ポケットの中から電話を取り出す。俺が無傷なので当然ではあるのだが、何らかの拍子に壊れたりはしていないようで安心した。
「もしもし、冥さんですか?俺です、小野寺です」
少々長いコールの後冥さんにつながる。
「はい。俺も無事です。ええ。ケガ一つ無く。……先程の件?」
先ほどの件。三途河と冥さんが共犯であるということを三途河が示唆した件のことだろう。
「あぁ、三途河が言ってたやつですね。それに関しては後で話しましょう。それよりもこれからですが―――」
ひとまずその件は置いておいて話を進める。
ぶっちゃけると俺は冥さんが共犯だとは思っていないのだ。
理由としては二つある。
一つ目はもし共犯だったとして、この一連の流れが何を目的としているのか全くわからないし、俺を殺すことが目的なのだとしたら、いくらなんでも俺を殺せるチャンスを無駄にしすぎである。
そしてもう一個の理由だが、あの崩落の際、俺が一瞬後ろを振り向いたときに冥さんの姿も俺には見えていたのだ。
あの瓦礫が降る中、必死の形相で俺に向かって手を伸ばし、何かを叫んでいる姿が。
少なくともあれは演技だとは思いにくい。少なくとも俺は一度も見たことのない表情と焦りようだった。共犯者だったのなら動じずに、むしろ得物を向けていたりしてもおかしくはないだろう。
あれが演技だとは考えられない。と、いうよりは
まんまと引っかかって硬直してしまった自分が情けないが、今更後悔しても後の祭りだ。流石にあのタイミングで言われたらその可能性に頭が支配されてしまったとしても仕方ないだろうと考えて割り切ることにする。
「はい、とりあえず俺は対策室に連絡しようと思います。……外の結界はもう剥がれてるんですか?説明が省けますし、好都合ですね」
ちょっと安心する。もし結界があったままなら、環境省にとっては異常だとみなされてないところに来てくれと言い続けなければないのだ。何かしらの環境省にとって不都合なことを俺が手引きしていると思われても仕方がないシチュエーションが爆誕してしまう。
「ええ。そうですね、申し訳ないんですが近くで待機しておいてもらったほうがいいですね。気が滅入る環境だとは思いますがよろしくお願いします」
そういって電話を切る。
冥さんはどうやら無事らしい。三途河がなにかちょっかいを出していたらかなりまずい状況なのではと考えていたのだが、どうやらその心配はないらしい。三途河の目的がなんだかは知らないが、とりあえずはこれで問題ない。
「―――もしもし。環境省超自然対策室の小野寺です。室長にお取次ぎ願えますか?」
続いて対策室にも電話を掛ける。今日は休日だが、仕事があるとかで室長が出勤しているはずだ。昨日電話した時に確認したから間違いないし、それに
「室長ですか?小野寺です。……はい。その件です。それでご相談があるんですが―――」
全く、三途河の野郎も面倒くさいことをしやがる。
このトンネルを出るまでにどれほどかかるのだろうか。
先ほど電気も止まってしまい、今俺にある明かりは携帯電話だけだ。
……暗いところ苦手なんだよなぁ、俺。
霊の圧迫感はまだ緩まっていない。元凶だと思われる三途河が消えたとはいえ、もう一つの元凶である殺生石が俺の手元にはある。
それにつられて俺にさっきから低級の霊が近づいてきているのがわかるし、この状況は対策室が来てくれるまで好転しないだろう。
―――頼みますから早く来てください対策室の皆様。
電話をしながらそう願い続ける俺であった。
この下りはあと一話続きます。
凜の戦闘シーンは次話をお待ちください。