喰霊-廻-   作:しなー

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更新できない分のお茶を濁していくスタイル。
間章でございます。
喰霊-零-時点のお話です。黄泉は高2で、凜が高校1年生になっております。
いつかやると言っていた黄泉と凜のssでございます。


間話2 -そのプレゼントは誰のもの?-

Time: at GA-REI-ZERO(Three years have passed since GA-REI-MEGURI 2nd chapter)

 

 

 

「凛、ちょっと買い物付き合ってよ」

 

「ん?俺?」

 

 穏やかな昼下がり。猫なんかは喜んで軒先で眠りこける以外に何をするのだろうかと思うほどには気持ちいいそんな昼のひと時。対策室に顔を出したはいいものの今日の都内はいたって平和そのものであり、やることが何もないため神楽に勉強を教えていたりしたのだが、唐突に黄泉からそう持ち掛けられた。

 

「そう、俺。ちょっと一緒に来てもらいたい所があるのよねん」

 

「俺なのね。いーよ、どうせ暇だし喜んで付き合おうじゃないか。でも今日紀さんも暇だって言ってたけど俺でいいのか?」

 

「まーまー。ズべコベ言わずについてきなさいよ。アイスクリームくらいなら奢ったげるから」

 

「なら私も行くー!」

 

 現代文を黙々と解いていた神楽が私もと手を挙げる。今手掛けている問題が終わるまではおしゃべり禁止と言い含めてあったのだが、アイスクリームの誘惑には勝てなかったらしい。

 

「こら神楽。終わるまではしゃべるなっていっただろ?」

 

「現代文よりアイスクリームのほうが大事だよ凜ちゃん!現代文はなくても生きていけるけど、アイスクリームがなければ人は生きていけないのです!」

 

 それを言うなら逆だ、逆。などと突っ込みながら俺は立ち上がる。生きる上で中学レベルの現代文読解能力は必須だぞ、神楽。

 

 買い物というとどこら辺に行くのだろうか。俺はほとんど行かないけど、ここら辺からだと銀座が近い。とはいえ銀座なんてなかなか女子高生がいけるような雰囲気の町ではないだろう。となると虎ノ門まで歩いて銀座線に乗って渋谷あたりだろうか。渋谷も俺はあまり行かないのだけれども

 

 俺に続いて神楽も立ち上がる。もはや現代文のことなど忘却の彼方のようだ。俺の言いつけを境界の彼方へやってしまうような悪い子には、土宮殿に告げ口するというプレゼントをくれてやろうじゃないか。そんなことを考えながら環境省を出る準備をしていると、黄泉から意外な言葉がかけられた。

 

「ちょっと待って。神楽は今日はお留守番してて。凜だけ着いて来て貰えるかしら?」

 

「「え?」」

 

 俺と神楽の声がハモる。

 

「何、本当に俺だけに用事なの?」

 

「そー。だから悪いけど今回は神楽はお留守番」

 

「えー私も行きたーい!」

 

 ぶーぶーむすくれる神楽。現代文をやらない悪い子だが、その気持ちは理解できる。

 

「神楽はまだ宿題残ってるでしょ?ちゃんと今のうちにやっておかないと後々後悔するわよー」

 

「そんなぁー」

 

 ちょっと本気でむすくれる神楽。非常にかわいらしく、俺ならば一瞬で意思を変えてしまいそうではあるが、目の前のお姉さまはその程度で決定を覆す気はないらしい。

 

 なんだろ、俺だけに用事って。二人でご飯を食べたりすることは別に少なくはないが、こうやって二人で買い物に誘われるのは殆ど無い。昔多少あったかな?という程度である。

 

「とにかく神楽はお留守番ー。凛、行くわよ」

 

「ぶー」

 

 今だに文句たらたらな神楽を尻目に颯爽と対策室を出ていく黄泉。黄泉が神楽を放置していくなど非常に珍しい。後ろで俺にも恨み言を言っている神楽には悪いが、目的が気になるのでぜひともついていかせてもらおうじゃないか。

 

 

 

 

 

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「んで?何さ俺を誘った理由」

 

「んーちょっとねー」

 

 地下鉄銀座線。新橋、銀座、渋谷などの主要部を繋ぐ地下鉄であり、俺も前世では非常にお世話になった線である。夜や通勤の時間帯には非常に混むが、この昼下がりには利用客がそこまで多くないために閑散としている。

 

 そんな電車を利用して渋谷にでも行くのかと思いきや俺と黄泉は銀座を目指して東京の街を二人で歩いていた。

 

 霞が関にある環境省はアクセスが中々悪くなく、電車を使わずとも銀座や日比谷、新橋などリッチな層が行くゾーンに歩いていくことが出来るため、歩いて向かうことにしたのである。

 

「言いにくいんだけどさ、また女の子紹介とかじゃないだろうな?それなら俺帰りたいんだけども。……あれ嬉しいか嬉しくないかで問われれば嬉しいんだけどさ、ぶっちゃけ君が連れてくる子ってオラオラ系と言いますか、俺あまり好みじゃないんですよ」

 

「凜を紹介してくれって子多いんだから仕方ないじゃない。それに紹介してくれっていう女の子ってそういう子が必然的に多いし、私の友好関係を保つためにも犠牲になってちょうだいな」

 

 ケラケラ笑いながらそう言う黄泉。……美人の周りには美人が集まりやすい傾向にあるのは誰もが経験して理解していることだろう。黄泉もその例に漏れず、紹介してくる子は中々お顔立ちの整った子が多いのだが、これまた経験上理解していることだとは思うが、そういう子って結構我が強いのだ。

 

 女子のコミュニティというのは男子のコミュニティなんて比べ物にならないほどに複雑で残酷であると聞く。俺が誘いを断ってばかりだと黄泉に響くかなーと思って極力断らないようにしているのだが、正直面倒なのである。

 

「今回は違うわよ。本当に買い物に付き合ってもらうだけ」

 

「それなら別にいいんだけどさ」

 

 なんとなく理由の部分をはぐらかされたような気がしないでもないが、はぐらかせる話題を提供してしまったのはこちらなので何とも言えない。

 

「凛はお淑やかな女性が好きだものねー。大和撫子的というよりかは理知的というか」

 

「自信持ちすぎ系美人があまり好きではないというだけなんだけど……まぁそれは否定しない。どちらかというとクールな人が好みかな、多分」

 

「冥姉さんみたいな?」

 

 ドキリとする。

 

「……なんでその名前出てくるんだよ。安達といいお前といい、なんで俺があの人に惚れてる設定なわけ?」

 

「あら、違うの?」

 

 明らかに確証を持って話しているとわかる顔色の黄泉。この状態の彼女に何を言っても無駄だと経験上わかってはいるが、それでも一応否定はしておこう。

 

「違います」

 

「ふーん。なかなか満更でもなさ気な反応だったのは突っ込まないほうがいいのかしら?」

 

 悪戯小僧のような、そんな笑みを浮かべる黄泉。俺をからかう時の安達と同じ表情で、確かにかわいらしい表情なのだがアイアンクローを決めてしまいたくなった。殺されかねないからやらないけれども。

 

「よく一緒に出掛けてるって話も安達君から聞いてるわよん。怪しいなあ」

 

「安達……。てかそれよりもお前と神楽は安達と連絡とるのまじやめてくれよ」

 

 安達と神楽、黄泉はまさかのメル友だ。少し前に冥さんと夏祭りに参加したのだが、その際にメル友である事実が発覚した。

 

 ガラの悪い輩に絡まれたと思ったらそれは悪ふざけした安達率いる不良集団であり、少し教育をしてあげた後に何故俺たちがここにいることを知っているのかを問い詰めた所、神楽から聞いたと安達はポロリ。

 

 更に問い詰めた所、偶然街で美少女二人組に話しかけられたと思ったらそれが黄泉と神楽であり、何やらわけのわからないことを言っていたがせっかくだからとそこでアドレスを聞いたのだという。

 

 後日二人に確認したところ「悪霊を肩に乗せたまま漫画を読んで笑い転げている少年がいたから心配になって声をかけた」との事だった。安達には神楽と黄泉の写真を見せたことがあるし、俺も安達の話はよくしていたのでそれを足掛かりに仲良くなったのであろう。

 

「えー安達君いい子だし、紀之も気に入ってるみたいだから別にいいじゃない。凜の面白い情報もいっぱいくれるし」

 

「げ、あいつ紀さんとも仲良くしてんの?本当にコネづくりに余念のない奴だな」

 

 流石は外交官志望。省庁間でも横のつながりを持っておこうという腹積もりか。

 

「ってそうだ。結局なんで銀座行くわけ?」

 

「ちょっとね。選ぶの手伝ってほしいのよ」

 

 ふいっと俺とは逆の方向を向いてそっけなくそう答える黄泉。

 

「選ぶ?何、お前の服か何か?俺にファッションのセンス無いのは黄泉のよく知るところだと思うんだけど」

 

「半分正解。服を選ぶっていうのは間違ってないわ。私のじゃないけどね」

 

「あー神楽にプレゼントか何かか。だから神楽を置いてきたのか」

 

 納得する。それなら神楽を置いてきたのは納得だ。本人の前でプレゼントを選ぶのも案外楽しかったりするが、やっぱりプレゼントは本人にはサプライズで選んでそして送るのが一番楽しい。

 

 神楽にプレゼントなら俺も張り切って……って、ん?今半分って言ったよな?

 

「……違うわよ」

 

 再度ふいっとそっぽを向く黄泉。先ほどとは違って今度は頬に朱がさしており、照れていますよと表情が雄弁に語っている。

 

 神楽を置いていく。服を選ぶ。紀さんには声をかけない。

 

 ……ははぁ。成程成程。

 

「紀さんにプレゼントか」

 

 ぼそっと呟くと更に頬の朱色が増す黄泉。

 

「あらあら?頬が赤いですよ黄泉さん。もしかして照れてます?」

 

「うるさいわね。あいつにプレゼントとか贈るの初めてなのよ!」

 

 夜にわざわざ着物に着替えて男の前に現れたり、公園で堂々とキスをしたりするほうが俺的にはハードルが高い気がするんだが、随分とまあ初心な反応である。

 

「確かに黄泉が紀さんにプレゼント渡していた記憶ってないな。今回はなんで?」

 

「ほら、アイツ誕生日近いじゃない?だからせっかくだからと思って」

 

 誕生日、そういえばそうだった。去年のこの時期に神楽が対策室を飾り付けてお祝いしてた記憶がふと浮かんでくる。後始末をしたのがほとんど俺だったのでよく覚えている。

 

 神楽の奴が張り切りすぎたせいで片づけは中々に大変だった。これを本当に一人でやったのか?ってくらいには力の入った飾り付けだったし、おまけに両面テープで壁に色んなものを固定してくれたため壁紙を傷つけないように剥がすのがとてつもなく大変だったのだ。それを一人でやってあげてしまう俺は本当に愚かというかなんというか。

 

「そういえば紀さんそろそろだっけか。でも今まで上げてなかったのになんで今更?」

 

 ふと疑問に思ったので正直にぶつけてみる。諌山黄泉から飯綱紀之へのプレゼント選びに手伝えるなんて原作ファンの俺からしてみれば感無量だし、その行為自体素晴らしいものだとは思うが、今まであげてなかったというのに突如プレゼントするというのには少々違和感がある。

 

 確かに18歳の誕生日ではあるけど、そこまで記念すべき歳でもないだろう。

 

 というよりも今までプレゼントとかをしてなかったことのほうが俺的には驚きではあるが。

 

「……凜も知ってると思うけど、婚約が正式に決まったのって今年じゃない?」

 

 その俺の言葉に頬は少々赤いままながらも多少真面目な顔になって言葉を紡ぎ始める。

 

「私と紀之は結構喧嘩もするしそりが合わない部分もあるんだけど、それでもやっぱり婚約って形で正式にアイツと将来を共にすることになったのは事実だし、やっぱり正直嬉しいことだから」

 

 だから、その記念にね。と微笑みながらそう述べる。

 

 その時黄泉が浮かべていた表情は完全に恋する少女のそれで。ああ、この笑顔を向けられる男はなんて幸せなのだろうと本気で嫉妬をしてしまいそうになるくらいには可憐で、思わず見とれてしまう程に綺麗だった。

 

―――これは、妬ましいね。

 

 その幸せ者(飯綱紀之)の顔を思い浮かべて苦笑する。綺麗な女性というのはげに恐ろしきものだ。あんな笑顔見せられたら人の(もの)だとわかってても魅せられてしまうじゃないか。

 

「……もしこのプレゼントを茶化して受けとったら紀さんぶっ飛ばす」

 

「え?」

 

「なんでもないよ。それじゃあどこで買い物するのかわからないけど、お望み通り着せ替え人形になってやろうじゃないですか」

 

 俺と紀さんの体格はよく似ているから、多分俺はそのために連れてこられたのだろう。スーツを着用させられたことから、もしかしたらネクタイとかも買ってあげるのかもしれない。

 

―――ほんと、羨ましいね。

 

 そんなことを思いながら黄泉と俺は目的の店まで歩いていくのだった。




ちなみに続編というか買い物シーンも需要があればやりますので、報告くださいませ。

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