喰霊-廻-   作:しなー

34 / 78
本編じゃなくて申し訳ない。まだ就活が終わらず、書き溜めを投稿。
以前の黄泉凜の続きです。
面白い意見を言ってくださった方が居たので投稿しました。

※作中に出てくるやつをこんな使い方しちゃダメですからね。彼らは特殊な訓練を受けていますから。


間話3 -オペレーションPFN-

「こちらデルタワン。配置についた。送れ」

 

『こちらデルタツー、配置完了だよ凜ちゃん』

 

『同じくこちらデルタスリー、配置オッケーだぜ』

 

『デルタフォー配置についた』

 

『デルタファイブも配置についたにょんにょん』

 

『……デルタシックスも準備完了っす。……やっぱ凜さん、これまずいんじ―――』

 

「了解。各員そのまま待機。フォックスとヘルの動向に気を配れ。オーバー」

 

 そう言って無線を切る。

 

 よし。流石は裏の人間だ。こういった些事でもしっかりと指示通りに動いてくれる。

 

 俺たちが居るのは日比谷公園。喰霊-零-を見ていた人ならば5話の黄泉と紀之のシーンを、東京住みで行ったことがある人ならばまさにそこを思い浮かべていただければ問題ない。

 

 麗らかな日の光が差す日比谷公園で、俺達環境省のメンバーはまさしく喰霊-零-の5話とほぼ同じこと(のぞき)をしていた。

 

『こちらアルファワンよ。みんな、配置についたみたいね。いい?絶対にフォックスとヘルに同時に気付かれちゃだめよ。あくまでも私達の目的は二人を別々にサポートすること。そこをしっかり忘れないで』

 

『……室長。これ本当にやるんですか?流石に無粋すぎるかと思うのですが……』

 

『桐ちゃん、これは対策室のチームワークがより一層強固になるための一つの試練なの。それを私達一同で見守っているのよ。決して無粋じゃないわ』

 

『……』

 

 無線越しに聞こえてくる室長と二階堂桐の会話。

 

 桐さんは作戦の説明時から乗り気ではなかったが、やはりと言うべきか室長は相も変わらずノリノリである。

 

 皆様もうお分かりだとは思うが、アルファワンが室長で、デルタの番号が若い順に俺、神楽、桜庭一樹、ナブー兄弟、剣輔だ。

 

 岩端さんは「男女の仲に俺らが介入すべきじゃない」といって参加してくれなかった。

 

 ちなみに剣輔は無理やり参加させた。神楽が。

 

 そしてフォックスが飯綱紀之、ヘルが諌山黄泉である。ちなみに全て命名は神楽である。

 

「……てか神楽。俺の名前無線で言ったら何の意味もないだろうに。なんのためのコードネームだよ」

 

「ごめんごめん。つい」

 

「ったく。お前が考えたコードネームなのにお前が無視するなよ」

 

 全く、などと悪態をつきながら双眼鏡をのぞき込む俺。そこに映るは黒髪の乙女。

 

 諌山黄泉。神童と呼ばれ退魔師界の期待をほぼその一身に背負う少女。

 

 大の大人でも敵わないその剣技に、卓越した法術。どんな怨霊にも一歩も引くことなく真正面から向き合って戦うその姿は正に退魔師の鏡であり、敵対させたものを恐怖させる雄々しき存在だ。

 

 この業界で彼女の横に並ぶことが出来るのは五人といないと言われる、化け物少女。

 

 しかし、俺の双眼鏡にはそんな神童の姿は映し出されてなどいなかった。

 

 綺麗にラッピングされた小包を傍らに置き、なにやらそわそわしながら、包装されたものに目をやったり座り方を細めに変えたりしている一人の少女。頬を朱に染めながら手鏡を取り出して髪を手串で梳いてみたり、最近練習中のメイクを確かめたりしている、可愛らしい女の子が俺の双眼鏡には映し出されていた。

 

―――誰だお前。

 

 大人が手を焼く怨霊を一刀両断にする雄々しき少女の姿も、俺や神楽を揶揄う悪戯っ子としての黄泉もそこには存在していなかった。

 

 そこにいるのは一人の恋する乙女。一人の男に自分のプレゼントを渡すためにベンチに座る、緊張に身体をこわばらせているただの乙女だった。

 

「凜ちゃん凜ちゃん。黄泉すごい緊張してるね」

 

「ああ。あんな黄泉俺は少なくとも見たことがないぞ。剣輔が思い止まるのも無理はないレベルだな」

 

「私も見たことないかも。……これは決戦だね、凜ちゃん」

 

「だな、神楽。……ってかアイツってこんなに初心だったっけ?」

 

 喰霊-零-とかだと夜中に和服を着て抜け出して普通にキスとかしてた気がしたんだけど。若干喰霊-零-の記憶が欠落してきてるとはいえそこははっきり覚えてるんだが……。

 

 とても公園で夕方に彼氏とキスしてたような少女には見えない。

 

 これも俺が介入した影響とかだったり?精神年齢が高めの男子が近くにいるから少々原作(喰霊-零-)黄泉よりも少女らしく育ってるとか。

 

 ……もしそうなら、少し嬉しいかもしれない。

 

『こちらデルタスリー(桜庭一樹)。フォックスのお出ましだ。デルタワン()、ヘルの様子はどうだ?オーバー』

 

「……おでましか。ヘルの様子に異常なし。そのまま気づかれずに誘導されたし。デルタシックス(弐村剣輔)。さっき渡したやつ、ちゃんと譲渡できたか?オーバー」

 

『……言われた通りやりましたけど、あれあの子には危ないんじゃ……?』

 

「大丈夫。言ってなかったけど、あの子もサクラだから。ちゃんと躾けてある」

 

 ……よし、なかなかいい調子だ。

 

 俺たちは現在、日比谷公園にてそれぞれ待機している。

 

 黄泉の正面には俺と神楽。その付近に弐村剣輔。

 

 そして外の俺の家の車にナブーさん2人。そしてちょっとした高台に桜庭一樹だ。

 

 俺と神楽は、喰霊-零-5話時点で神楽と桜庭一樹が居るところに居る。

 

『こちらアルファワン(室長)よ。……みんな、準備はいいわね?―――それじゃあオペレーションPFN(Present for Noriyuki)開始よ』

 

 その掛け声で俺たちの作戦が開始した。

 

 それにしてももっといい作戦名はなかったのだろうか。

 

------------------------------------------------------------

 

「よ。お前から呼び出しがかかるなんて珍しいな」

 

「の、紀之」

 

 自然な動作で、飯綱紀之は諌山黄泉の横に腰掛ける。

 

 プレゼントに気が付いた様子もなく、ただただ黄泉の呼び出しに対して珍しいと思っているだけな様子である。

 

「今日は天気がいいな。こんな天気だとついつい仕事中に寝たくなる」

 

「そう、ね」

 

 ファーなんて言いながら欠伸をする紀さんに対して、黄泉は非常に硬い。本当に俺の椅子にいがぐりを仕込んでくれたりするいつものアイツは何処に行ったのだと小一時間くらい問い詰めたいものだ。

 

『こちらデルタスリー(桜庭)。一般人の誘導に成功。エリアにはあの二人と彼らだけだ、安心してやれるぜデルタワン』

 

「デルタワン了解!ナイスです!」 

 

 流石桜庭さん!仕事が出来すぎる。

 

 喰霊-零-だとさっくり死んだし、中の人のせいかあまり優秀には見えなかった桜庭さんだが、その実多方面に優秀である。戦闘に関してはあまり目立たないが、指示を出したりなどの能力は光るものがある。

 

 スコープ越しに二人を見ながら、ベンチにつけてある盗聴器から会話を盗聴する。

 

 ちなみに、あのベンチは室長に掛け合って日比谷公園の管理団体に許可を取ってもらい、俺が一晩で取り付けた。なので二人が座っているベンチは昨日まであそこになかったりする。

 

 ちなみに日比谷公園にはとある存在が眠っているため環境省が裏の権限を持っており、意見を通すことはたやすかった。詳しくは原作(喰霊)の二巻を参照するといいだろう。

 

 その後二分ほど黄泉がぎこちなく返し、紀さんが困惑するという代り映えの無い会話が続いていたのだが、突如として黄泉が動いた。

 

「なぁ黄泉。お前どうしたんだ?調子悪いなら今日はもう―――」

 

「の、紀之!」

 

 ズバッという効果音が適切なのではないかと思うほどの勢いで立ち上がる黄泉。

 

 スコープ越しに除いている俺が驚く程の勢いだったため、隣に座っていた紀さんはそれ以上だったらしく、若干のけぞっている。

 

 顔を赤くして、若干下を向きながら、ツンデレ特有のあの「正直になりたいけどなれなくて言葉が出てこない状態の、何処か何故か悔しそうに見える表情」をする黄泉。

 

 そこまで来て初めて紀さんも黄泉がなにやら包装しているものを持っていることに気が付いたらしい。

 

「……はい、これ、プレゼント。その、誕生日、おめでとう」

 

 そう言って黄泉は綺麗に、しかし不器用に包装されたプレゼントを差し出す。

 

 本当に真っ赤な顔で、少しプルプル震えながら、包装紙をわざわざ買って自分でラッピングまでしているそれを飯綱紀之へとプレゼントする。

 

 誰が見ても一瞬で本気のプレゼントだと理解できる光景。これを義理だと思えるのならば、そいつは俺直々にサイコパス認定してやろうと思える程にはマジな雰囲気だった。

 

 いやプレゼント一つでそんな必死になるなよと言いたくなるが、それは飲み込んでおこう。

 

 それはさておき、あんなものを渡されては男冥利に尽きるというものだが、―――さあ、どう出る飯綱紀之。

 

『デルタスリーよりデルタワンへ。トリガーをアンロックしろ。これは親友としての勘だが、あいつ、お前が想定している行動起こすぞ』

 

「了解。トリガーをアンロックする」

 

 ついていた安全装置を外す。

 

それに伴って俺もスコープをのぞき込む。 

 

 そこにはどう返せばいいか分からなくなって困惑している飯綱紀之が映っている。

 

 現在の俺と同様にあまりにも殊勝な黄泉に対する対応をしかねているのだろう。

 

 だが、その困惑も長くは続かない。

 

「凜ちゃん。紀ちゃん確実に照れてるねあれ」

 

「ああ。確実に照れて、あ、顔紅くなった」

 

「……二人とも初心だねえ。あ!」

 

 双眼鏡を覗いた神楽が声を上げる。

 

 そして困ったあの男が次にすることは何かというと、経験上それは茶化すことだ。

 

 案の定その表情は照れの表情から悪だくみをするガキのような表情へと変化する。

 

 ……さればよ。

 

 あの男はこういったことに慣れているかと思いきや、以外にも本気で来られた時にどうしていいかわからなくなるタイプの人間なのだ。

 

 だからこういった人目を気にしてしまいそうな場所でプレゼントを渡すのはやめておけと黄泉に行ったのだが、見守ってて欲しいと言われたために仕方なく俺たちはこうしているという訳なのだが……。

 

『デルタワン、やれ』

 

『了解』

 

 飯綱紀之が口を開こうとする。たぶんその口から出てくるのは茶化しの一言だ。

 

 だから俺はそれを阻止する。

 

 スコープの中心に飯綱紀之を捉える。風は問題ない。誤射の心配もない。よし、行ける。

 

発射(ファイア)

 

「いだぁ!!」

 

 飯綱紀之のこめかみに俺がスナイパーライフルのモデルガンから放ったBB弾が炸裂する。

 

 こいつは最近買った、お気に入りの一品だ。精神年齢で言えば30なんぞ優に超えているはずなのだが、やはりこういったものに対する憧れだとか、そういった感情は男である以上拭うことはできないらしい。

 

 そしてこの相棒で狙撃した後は直ぐに後退し、二人の視界から入らない位置へと移動する。

 

「おい誰だ今の!」

 

 飯綱紀之が大声を出しながらあたりを見回す。その反応速度は流石というべきだが、残念ながら遅い。俺と神楽は既に死角に入っている。

 

 そしてその代わりに彼の視界に入るのは―――

 

「逃げろー!」

 

「逃げろぉー!」

 

「このガキども!待ちやがれ!」

 

 エアガンを持っている小学校三年生のお子様二人だ。先程剣輔に渡させた物がこれ(エアガン)である。この子たちも先ほど言った通りサクラである。

 

 俺と神楽に速攻で目がいかないようにそれっぽいデコイを配置したという訳だ。この子たちには目の前のお兄さんが怒り始めたら本気で外に止めてある車にダッシュするように言いつけてある。

 

 もともと仲がいい子たちだし、頭も悪くないのでしっかりやってくれるだろう。成功報酬としてエアガンとチョコレートを約束してるし。

 

 相当に痛かったのか走って追いかけようとする紀さんではあるが、お互いの距離は50メートル以上空いている。

 

 それに彼らは昔俺が直々に短距離走を教えてあげていた短距離で学年上位の子達だし、人の目を撒くための逃走ルートは作って(・・・)おいた。そう簡単には距離は詰められない。

 

「こちらデルタワン。チルドレンが手筈通りに退避した。回収を頼む」

 

デルタフォー(ナブー)了解』

 

『了解なのんのん』

 

 相変わらず訳の分からない男なナブーさんであるが、回収はこれで問題ないだろう。

 

 あとはこの子たちを金輪際紀さんに会わせなければ問題ない。

 

「くそ!足の速いガキ共だ!」

 

「紀之!大丈夫?」

 

「あぁ。問題ないよ。人に向けて銃を撃つなんてどんな教育をされてるんだあいつらは!」

 

 さーせん、と心の中で謝罪をしながらも、ライフルを所定の位置へと戻して二人を観察しなおす。

 

 冤罪を被ったあの二人にも心の中で謝罪しておく。まあそれ以上のリターンは与えているので問題はないでしょう。

 

「あー赤くなってるじゃない。今度会ったらちゃんとお説教しないと」

 

「親も呼び出して説教してやりたいくらいだ」

 

「そうね。しっかり怒ってあげないと。……ハンカチ濡らしてくる。ちょっと待ってて」

 

 そう言って立ち上がる黄泉。流石の女子力である。現代の女性に見習わせた……いや、なんでもない。現代は直ぐに炎上する世知辛い時代だ。あまり迂闊なことは言うまい。

 

「いや、いいよ黄泉。大したことないから」

 

 それを手で制する紀さん。もっと激高しているかと思いきや意外と冷静だ。

 

 ……これは、ちょっとプランから外れてきてるな。

 

「こちらデルタワンより本部へ。対象に想定通りの反応なし。しかしプランはこのまま続行する。送れ」

 

『本部アルファワン了解よ。気を付けて』

 

 ……なんとまあ。プランから若干外れてきた。

 

 

 

 実は今回の一件、黄泉に「ちょっと、協力してほしいかも」と言われたために俺は手を貸していたりする。

 

 そう、元々は黄泉の依頼なのである。どこまで初心なのやらこの少女は。二人でデートとか今でもしてるくせに何が恥ずかしいんだとかいう突っ込みは無粋だからやめておこう。

 

 だが、()()()()()()()()。断ったのである。

 

『デルタワン、どうする?お前がヘルにだけ姿を見せるのは難しそうだぞこれ』

 

「……そうですね。剣輔、あの子供たちをこっちに戻してくれるか?ハーゲンダッツが付くとでも言っておいてくれ」

 

『……了解。連れて来ます』

 

 本来の筋書きだとこうだった。

 

 俺が紀さんをショットして、紀さんが本気でガキどもを追いかける。そして紀さんだけ居なくなった所で俺が姿を現し、黄泉を落ち着かせて再度チャレンジさせる、という流れだったのだ。

 

 サプライズでやろうかなーとなんとなく考えていたのと、一旦断っておきながらやっぱり心配で来てしまった、という設定のほうが黄泉の安心度が上がるのではないかと考えたのだ。

 

 そして紀さんが追いかけて走っていった子供の先には素振りをする剣輔が待機。

 

 この公園でこいつ(弐村剣輔)はいつも素振りをしているのでほぼ間違いなく怪しまれないだろうとの算段だ。

 

 ……怪しまれたら剣輔に犠牲になってもらおう。アーメン。

 

 そして剣輔と合流すれば絶対に剣輔と紀さんは間違いなく話すことになる。そこでの会話から黄泉が如何にそのプレゼントに力を入れて選んでいたかを上手い感じで伝える算段であった。

 

 流石にそれが伝われば茶化すことなどないだろうとの室長の言である。

 

 そのために室長にも協力を仰ぎ、無線を通して不自然にならないような会話を剣輔に指示させる予定だったのだが、その予定が崩れてしまった。

 

 元々俺が神楽にエアガンの自慢をしていた時に思いついた糞みたいなアイディアだったので、まさか採用されるとは思ってもいなかったのだが……。まぁそんなおふざけ90%でできた糞みたいな作戦なので破綻は仕方あるまい。

 

「いや、でも赤くなってるし……」

 

「本当にいいよ。それよりも。……黄泉、これ、ありがとな。嬉しいよ」

 

「!?」

 

 ベンチに置かれたプレゼントを手に取り、微笑む紀さん。そしてそれをみてまた顔を赤くする黄泉。

 

 とはいえ、やることになった以上は全力で元の流れに戻して作戦を続行するしかあるまい。

 

 さて、また射撃の体制に……ん?んん!?

 

『おおおおお!作戦は成功!繰り返す、作戦は成功!』

 

「ええ!?ここで成功すんの!?」

 

「凜ちゃん、なんか成功してるけどこの後どうするの!?」

 

『え、成功したんスか?だってまだ―――』

 

 本気で驚いて騒ぎまくる俺達。

 

 今は計画がフェイズスリーまであるとすればフェイズワンの段階。残りのフェイズを経ることなく作戦が終了することになってしまいパニックに陥っているのだ。

 

 なんだよこめかみを撃ち抜かれて解決するって。いや、まじでなんだよ。ここで終わるのかよ。 

 

『こちらアルファツー(二階堂桐)。まずは落ち着いてください。デルタワン、状況の報告を』

 

「こちらデルタワン。その、エアガンでこめかみを正確に撃ち抜いた所、作戦の目的が全て終了いたしました。作戦成功です。オーバー」

 

『……はい?』

 

 流石の二階堂桐も困惑しているようだ。それはそうだろう。今回のこれこそ、現実は小説より奇なりというやつなのだから。

 

 再度スコープを除く。

 

 映るのは恥ずかしさ半分、嬉しさ半分の何とも言えない顔を浮かべた神童と呼ばれているはずの少女。思い人にプレゼントをしっかり渡せて、尚且つありがとうと言ってもらえたのはいいが、どんな表情を浮かべていいのかわからなくなっているのだろう。

 

 うむ。控えめに言って可愛らしい。

 

 控えることなくいうのならばN○Rというジャンルを開拓したくなってしまう程である。……いや、流石に控えなさすぎか。

 

「ああ!凜ちゃん!あれ!」

 

 一瞬彼方に行きそうになってしまった思考を戻す。

 

 何故か知らないが異常な程にキラキラと目を輝かせながら神楽が黄泉たちを指さす。

 

 つられてみるとそこに映っていたのは非常にかわいらしい表情を浮かべる黄泉の頬に触れる男の手。

 

 何を隠そう飯綱紀之の手だ。その無骨ながらも綺麗な手が、黄泉の顔を上へ上へと誘っていく。

 

「あっ」

 

 優しく黄泉の顔が誘われ、自然と黄泉の顔が紀さんの方向を向く。

 

 そして近づいていく黄泉の唇と男の唇の距離。

 

 黄泉も抵抗を見せる気配などなく、むしろその顔は今まで以上に魅力的でそして扇情的で―――

 

「……剣輔」

 

 確かに女の子にはロマンティックな状況なのかもしれない。イケメンな恋人の手に誘われて、身を任せてキスをする。

 

 ……成程。確かに神楽が目を輝かせるのはわかる。

 

『……ガキたちはもう配置につけてます。いつでもどうぞ』

 

「……カズさん」

 

『……やれ。許す』

 

 だが、残念ながら俺達男にとっては全くそんなことはなかった。

 

 むしろ、その逆だ。

 

「ちょっと、凜ちゃん?何を―――」

 

発射(ファイア)

 

 その日、二発目の弾丸が飯綱紀之のこめかみへと見事直撃した。

 

------------------------------------------------------------

 

 

「全く、凜ちゃんには困ったものね。しっかりお灸を据えてあげないと。いいところを邪魔しちゃ駄目じゃない。ねえ桐ちゃん」

 

「……いえ、それを言うならばまずおもちゃのエアガンで狙撃をする作戦を許可すること自体問題だと思うのですが」

 

 それもそうねーと二階堂桐の言葉を受け流す神宮寺菖蒲。

 

あれ(エアガン)が原因でより仲に亀裂が入ったらどうするつもりだったのですか?」

 

「それは無いと思うわよ。桐ちゃんも気付いているでしょう?」

 

「……それは、そうですが」

 

 確かに、その通りではあるかもしれないと二階堂桐は思考する。

 

 事実、あの二人の仲はもう―――

 

「それに、今回のプレゼントもあんなに神経質になる必要なんて無かったのよ。一旦雰囲気が悪くなったように見えても、あの二人は自力ですぐ元に戻るんだから」

 

 そうつぶやく神宮寺菖蒲。何処か憂いを浮かべたその表情は何を思っているのだろうか。

 

「……だからといってエアガンで射撃する理由づけにはならないと思いますが」

 

「相変わらず手厳しいわね桐ちゃんは。そうね、楽しんでたことは否定しないわ」

 

「室長……」

 

 はあ、と溜息をつく二階堂桐。絶対的な指揮能力を発揮する傍らで、こういったおふざけもする。そういう人間なのである、この神宮司菖蒲という人間は。

 

「それじゃあ凜ちゃんにはしっかりとお灸を据えてあげないと。桐ちゃん、ここに凜ちゃんを呼んでもらえるかしら?」

 

「了解しました。無線を聞く限り桜庭一樹と弐村剣輔も賛同していたように見えますが、いかがいたしますか」

 

「そうね。まとめてお説教しちゃいましょうか」

 

 

 その後、その部屋に入っていった男達三人は口々に「反省はしている。後悔はしていない」と述べたとの事である。

 




※プレゼントは革靴とネクタイの設定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。