今回は比較的早かった?と思います。
今回は物語進まないので、どちらかというと間話に近いです。
……すまん、黄泉と凛が二人で話すとこまでいかなかった。三話でこの話終わらす予定だったのに、拡張されそうだ。次は出来る限り早めに更新します。
「……わぁぁ!美味しそー!」
「黄泉、黄泉!これ凄いね!」
「……」
「……」
目の前に置かれた、視覚的にも嗅覚的にも、恐らくは味覚的にも超一流であろう数々の料理。
氷の上に飾られた、マグロを始めとする鮮やかな刺身。後ですき焼きにでもするのだろうか、人目で高いとわかる皿の上に置かれた白と赤のコントラストが美しい霜降り牛肉。名称はわからないが、各種の野菜などを使用して作られた小鉢。
一見しただけで美しい。美しく盛られた料理はそれだけで圧倒的な存在感があり、料理を食しようとする人間の食欲を激しく喚起させる。
女子高生や女子中学生にとってこれは嬉しいだろう。可愛いものや綺麗なものに目がないお年頃の女子にとってこれはクリティカルな筈だ。
例に漏れずキャッキャとはしゃぐ黄泉と神楽。
それが女子でなくて男子の場合であっても、これだけの料理を目にすれば食べ盛りなわけだから相当に喜ぶ。俺も最初この料理を見たときは感動したものだ。
だが、それとは対照的に無言で目の前に盛られた茶碗を凝視する俺と剣輔。
対岸に居る女性陣と、彼岸の俺らのテンションの差がとんでもなかった。
「それでは食前酒をお注ぎいたします。……未成年のお客様はオレンジジュースで失礼しますね」
「えー食前酒飲んでみたかったー」
「確かにねー。でも私達はまだ我慢しましょ?」
ぶーとむすくれる神楽の頭を撫でて黄泉が宥める。確かに俺も久々に飲みたかった。まともに飲むのなんて16年ご無沙汰だし、久々に飲みたいなあ。
ちなみに目の前の2人と室長、桐、いわはたさんは既に浴衣を着ており、俺と剣輔はいつでも動ける服装をしている。
女性陣の浴衣は素晴らしい。
神楽や黄泉はいつもの若々しく瑞々しい魅力が、浴衣によって少し大人びたものに変化しており、神楽の火照った顔、浴衣特有の無防備な首元が何とも扇情的であるし、黄泉は長い髪を後ろで結い上げて纏めており、そのうなじが何ともそそる。
桐も何時ものクールで近寄り難いイメージがその衣装によって一気に緩和され、ウォールマリアの如くそびえ立っていた拒絶の壁が低く薄くなり、隠されていた女性らしい柔らかさとしなやかさを惜しげもなく披露している。
スレンダーな感じに見えていたが、浴衣を着ると女らしいラインが強調されて少しドキッとしてしまう。この人とは悪友的な感じなのであまり意識したことはないが、女性なのだなと思わされる。
そして極めつけは神宮寺菖蒲である。
神楽や黄泉達にはないダイナマイトなボディ。古い表現だが、いわゆるボンキュッボンと呼ばれるボディが、小娘衆とは違って逆に浴衣で少し隠され、しかし逆に覆い隠されてもなお主張するそれが逆に蠱惑的に映るという逆説的な妖艶さを体現している。
やべぇ大人の女性だ……などと精神年齢的には40近い筈なのに思ってしまった。……何だかんだ精神は肉体の方に引っ張られている感じがあるから、精神年齢40歳とはとても言い難いんだけどね。
さて、そんな魅力的な女性陣を軽く紹介したわけだが、こんな軽い紹介になったのは現在の俺と剣輔に全くと言っていいほどに余裕が無いからである。
本当なら一人頭原稿用紙5枚以上は語れる自信があるが、今はそちらを凝視している余裕が全く無い。本当に俺らはこれを食べなければならないのだろうか。
「剣ちゃん、残したら罰ゲームだからね」
「当然凛もよ。頑張ってね?」
「ま、若い男なんだからそれくらい食えるだろ」
「そうねぇ、2人ともいっぱい食べておっきくならないと」
「同感です。貴方達は少々細過ぎます。もう少し太くなるべきかと」
俺と剣輔以外の全対策室メンバーが順々にそう言ってきやがる。他人事だからか全員軽い。
「なぁ剣輔。男だからこれくらい余裕だろって発言、セクハラとして訴えられないかな?」
「凛さん、もう諦めましょう……」
俺のむなしい抵抗はあっさりと剣輔によって棄却される。
目の前に置かれた、日本昔話も真っ青なご飯が盛られた茶碗。茶碗を飛び出してなお余りあるその量は、食欲ではなく恐怖すら抱かせる。
食いきれる気がしない。旅館のご飯は白米だけじゃなくておかずやメインが豊富にあるというのに、白米だけで
あの地獄の訓練のあと、旅館に戻った俺らはひと風呂浴びて、部屋に戻ったのだが、そこに黄泉と神楽が襲来。
浴衣姿に着替えていたのでドギマギしながらも招き入れると、今夜のお勤めを掛けてトランプ勝負をしようと提案されたのだ。
ぶっちゃけ本当にここの霊は弱い。正直俺らが来ずとも全く問題のないレベルであり、一般人ならば殺されてしまう可能性が往々にしてあるのは事実だが、敵対するとなったらまず間違いなく剣輔一人でもオーバーキルだ。
なので別にお勤めをする人数が少なくなっても問題はないだろうと、トランプで勝負をして負けた二人がお勤め当番をするという提案を快諾。様々なゲームを行って、トータルで負けが多かった下位2名をお勤め当番にすることになった。
結果はお察しの通り俺と剣輔の敗北。途中までは一位だったりしたのだが、トータルで見た際、黄泉に僅差で負けてしまったのだ。お分かりとは思うが剣輔は堂々の4位である。
流石に俺と言えどもこの訓練の後にお勤めをするのは肉体的にきつ過ぎる。神楽と黄泉が来る前に一時間くらい寝たので眠気は結構収まっているのだが、芯に隠れていた疲労感がどっと出てきてしまったのだ。
それは剣輔も同じらしく、避けられるものならお勤めは避けたかったらしい。
なのでお勤めをかけてリベンジマッチを挑んだのだが、タダで受けるのは無理だとのことで、対価として罰ゲームを要求されたのだ。
そして、その罰ゲームというのが
……ちなみにだが、俺と剣輔がお勤め用の服を着てここにきていることからわかるように、俺らは二回目の戦いにも敗北している。とことん運がない俺と剣輔であった。
「……なんで女将さんまで乗り気なんだよ。普通こんなのやられたら怒る側の人間だろあの人」
「……喜々として盛ってましたね」
女将さんがご飯を盛ってくれたのだが、その際に神楽が山盛りご飯のことを伝えていたらしい。どんな伝え方をしたのかはわからないが、俺と剣輔の元には平均的な男性が食べそうな量の三倍くらいのご飯が届けられた。
ふつう彼女は止める側の人間だろうに、剣輔が言う通り、喜々としてこのご飯を盛り始めたのだ。……あの笑顔、worthlessと言ってしまいたくなるような憎たらしい笑顔だった。
その後、皆の茶碗にもご飯が盛られたのだが、全員分が行き渡ってもまだ飯盒にはご飯が残っていることが判明。
すると女将さんが「あら、まだ残ってるわ」とかいいながら俺たちの日本昔話盛りご飯に米を追加。元々気が違っていらっしゃる量があったというのに、飯盒が空になるまで更に追加してくれやがったのだ。
俺と剣輔は再度絶句。料理をみて顔を綻ばせてはしゃぐ黄泉と神楽とは対照的に無表情になるのを止められなかったという訳である。
「それじゃあいい時間だし、食べちゃいましょうか。神楽ちゃん、いただきますお願いできるかしら?」
「はーい!」
相変わらずどこか妖艶な声で室長が神楽へと指令を出す。
是非とも執行されないで頂きたい。これを食べきれなかった場合の罰ゲームが恋バナだというのだから絶対に嫌だ。最近神楽の追及がしつこいし、絶対にそれは避けたい。
……更に言うと、なんで罰ゲームに罰ゲームがついているのかはお察しである。三度目の正直なんてものは無かった、それだけだ。
「それじゃあ皆!一緒に行くよー!せーの!」
「「「いただきます」」」
「りーん。そっちまだそっちにあるわよー」
「わ、わかってるよ……」
「剣輔君、太刀筋が甘くなってる。それで固いの切ったら折れちゃうよ?」
「……この状況で勘弁してくださいって」
息も絶え絶えになりながら、俺と剣輔は屋敷裏の悪霊を退治する。
時刻は午後8時くらい。あのご飯をなんとか食べきって、吐き気が収まったあたりでとうとうお勤めに駆り出されたのである。本心としては行きたくなかったのだが、仕事である以上仕方ない。
ちなみに黄泉は暇だからと言って着いてきた。
まあ木に腰かけているだけで何もしてくれていないので全く役に立っていないんだが。
「黄泉、いるなら手伝ってくれよ……。流石に俺もきついんだけど」
「あら?小野寺さん家の凛君は約束を違える男の子だったのかしら?そういうのお姉さん感心しなーい」
「……うざすぎる」
悲鳴を上げる体に鞭打って、大人一人以上の重さがある岩をどかす。
岩は持ちやすいように加工されているはずもないから、普通に同じ重さの何かを持ち上げるよりもかなり重く感じる。この体では辛すぎて涙が出そうだ。
ずん、と地面が揺れたと錯覚するような音が響く。ほんとによく持てるよな俺。筋トレ系統は殆どしていないというのに。クンフーというやつが溜まってるのか。
「良く持てるわねそれ。やっぱ凛と剣輔君のペアで正解じゃないの?」
「黄泉と神楽が悪霊を一手に引き受けてくれればもっと楽になるよ。……さて。どうやら五つ目にしてようやく当たりみたいだぞ、黄泉」
ため息をつきながら岩の下を見る。
そこにあったのは何者かの遺骨。骨に詳しい訳ではないからあまり語ることはできないが、これが人のものであることは間違いようがなかった。
「……っつ!骨っすか」
「……ああ。これか原因は。思ったより凄いのに当たっちまったな。精々が付喪神か動物の死霊あたりだと踏んでたんだけど」
「まさか人骨とはね。……この旅館には悪いけど、大事になっちゃうかもね。報道である程度誤魔化してもらえるように頼んでみるしかないわね」
ふう、と黄泉も息を吐く。
まさかの人骨。白骨化しているということは、相当長い時間が経過しているはずだが、幽霊事件が始まったのはここ最近だという。
つまりこの白骨はここに埋められてから数年しかたっていないはずなのに、白骨化している。
ここの土には微生物が多いのか、他の所で白骨化させられてここに埋めなおされたのかはわからないが、この人骨が幽霊事件の引き金であることはまず間違いがない。
「強い残留思念だな。いつぞやの三森峠みたいだ」
「三森峠?……それはわかんないっすけど、なんていうか、立ってるだけでクラクラしてきます」
「中てられるなよ。これは並じゃないぞ」
剣輔が頭を押さえている。霊感の強い人間にこれは結構辛い。俺でさえこの強さに驚いているくらいなのだ。
「この人、相当酷い目に遭ったのか?あの岩って何気に霊石だろ?それでも抑えられてなかったってことだもんな」
「……霊石、ああ、あの良く札とかが貼ってある」
「そ。埋めたやつが狙ったのかたまたまなのか知らないけど、ともかくあれは霊の成仏に効果がある代物ではあったんだよね。全く効いてなかったみたいだけど」
死後、人の怨念がこの世に残るということがたまにある。
それがカテゴリーDだったり、Cだったり、時にはA、Bにもなったりするわけだが、人の怨念が残るということは良くないことであり、怪奇現象の引き金になったりする。
そしてその怨念は一度その土地にしがみ付くと時間経過では消えることがなくなり、その地に根付いた強力な霊となって生きている人間を襲い始める。
これを一般に地縛霊といい、俺たちが浄化すべき対象だ。
今回はあの石に霊的な要素が含まれていたためそこまでの悪化はしないで済んでいるが、これがとんでもなく危険な逸品であることには間違いがない。さっさと浄化してしまおう。
「サクッと浄化しますか。……こういう思念系は苦手なんだよな浄化するの」
小野寺の術はなんというか、結構脳筋よりの術が多い。
霊力を物質化してそれで怨霊をぶった切るわけであり、なんといえばいいのだろうか、相手の心を癒して成仏させるのを促す系統の術式は一切ない。
というより霊力を物質化することと、その応用くらいしか術が使えないポンコツ一家なので今まで退魔師の中で序列が非常に低かったのだが。
なのでこういった、明確にぶった切れるだとかぶっ壊せるといった形の無いものを相手取るときに非常に苦労する。
思念の一部に霊力を流して、無理やり成仏させるというか、言葉では少々説明しにくい方法をとって除霊するしかない。ほかの退魔師みたいに陣を張って成仏の念仏を唱えるとかは出来ないのだ。
「剣輔、お前やってみる?俺がやってもいいんだけど、多分剣輔のほうがこういうのは適任なんだよね」
「……俺っすか?俺もどちらかというと思念系は苦手というか……」
「まだ術は練習中だもんな。でも何事も経験だし、俺よりはましだからやってみようか」
「……了解っす」
そういって剣輔は印を組む。
神楽や黄泉達から術については結構教わっているみたいだが、いかんせんメインはやはり刀の特訓になっているため、剣輔もあまり術は得意ではない。
正直神楽も術に関しては黄泉に大幅に劣るし、なんだかんだ術をしっかり使いこなせるメンバーというと黄泉と紀さんくらいであったりはするのだが。
だが練習にはちょうどいいかと思い、剣輔に除霊の役を譲ろうとすると、何故か黄泉から待ったの声が掛かった。
「待って。それ、私がやるわ」
「黄泉が?俺らとしては助かるけど、どうして?」
今まで気に腰かけて適当な指示しかしてこなかった黄泉が、急に真面目な顔になって俺らを制止する。
そんな突然の行動に俺も剣輔も疑問を持つ。突然どうしたというのだろうか。
「……やっぱりわからない?」
「わからない?わからないって何が?これが危ない物だってことはひしひしと伝わってくるけど」
つまりはわかりませんという回答をする。正直何を言いたいのかがわからない。
すると、俺が黄泉の言いたいことに気が付いていないことに心底驚いた顔をする黄泉。驚いた顔も可愛いが、なしてそんな驚いた顔をするのだろうか。
「剣輔君も凛と同じ?」
「そうですね。黄泉さんが何にわからないかって言ってるのかがわからないです」
「そっかー。二人ともってなると、やっぱりそうなんだ」
剣輔にも尋ねて、再度訳の分からないことをいう黄泉。
……こいつがこの場面で意味のないことを言うとは思えないから、ちょっと整理してみよう。
よくよく考えれば黄泉の行動は実際何かに気が付いて行動していたようなところがある。
罰ゲームで俺らがお勤めに行くことになったと思ったらわざわざ着いてきたし、着いてくる黄泉を見て着いてくるといった神楽を何故か置いてくるし、少々行動としては不可解だ。
そして黄泉の指示通りに探すと地中から見つかった骨。わからないのという発言。
ふむ。改めて考えてもよくわからんな。
「何?これ黄泉が地中に隠した骨だったりするのか?」
「ちがうわよ馬鹿。……これ、女の子の骨よ。それも、神楽に近いくらいの」
「「!?」」
俺と剣輔が同時に驚愕の表情を浮かべる。
体格的に結構小柄だなというのはわかる。でもそんな骨博士でもあるまい俺たちが、この暗い中で見えているだけの骨からその情報を推理できるとはなかなか思えない。
しかし、黄泉の口調はかなり断定的で、結構な確証を持っているように聞こえる。
「間違いないのかそれ?確かに骨の形を見る限り女性かなとは思うけど、俺に確証はないな」
「間違いないわ。……それも、男に対して凄い恨みを持ってる。多分、
そういうこと。つまりはそういうことだろう。
当然断言はしないが、若い女性でそういうことと言えば大体解答は一つだ。そして、女性が最も怨霊と化しやすい原因でもある。
「……わかるんですか?」
「うん。何ていうか、凄い胸が痛いのよ。それに、男に対する憎悪みたいなのが感染してきそうになるくらい強くて、心が弱い子なら中てられて凛達に襲い掛かってるかもしれないくらい」
そんなにか、と俺は驚く。
黄泉がこういうくらいだ。相当に中てられる程の怨念なんだろう。
「だから神楽は置いてきたの。あの子が中てられるなんて想像できないけど、一応ね。……なんとなくこんな感じの子が埋まってるんじゃないかって来た時から思ってたけど、悪い予想が当たっちゃった」
「……成程。その黄泉の勘は多分あたってるんだろうな。それを考えると辻褄が合うことがある」
「……辻褄っすか?」
「ああ」
例えば、と切り出す。
「この旅館、出るときと出ない時があるって言ってたよな?だから俺らは4泊もすることになったわけだが、なぜ波があるんだろう」
「この子?の気分次第ってことじゃないんすか?それか霊感がある客が騒いだだけとか」
「それ適当に言った?実は多分だけど、前半こそが正解なんだよね。……ここのメインの客層は家族連れとかの、しかもある程度余裕のある層だったりする。そうなると年齢層は必然的に高くなってくるし、若いのが来るといっても親子連れだろ?間違っても学生みたいな輩は殆ど来ないような所だ」
旅行サイトだとか、料理の質や、女将の質を見て分かったが、ここはやはりそこそこいいお値段がしてしまう宿だ。
金欠の馬鹿大学生(俺もその層だったが)などが来れるような所では決してない。
だが、たまーにだが、かきいれ時に突然のキャンセルが発生した際などに、素泊まり(ご飯無しで宿泊のみ)のプランを掲載したりすることがあったりする。
ここも、一週間のうちで一日あるか無いかぐらいだとは思うが、それをやっていたことがあるみたいだ。
女将さん曰く若い人が来ると賑やかでいいとのことだったのだが……。
「だから普通は何も起こらない。親子やおじいさんなんかこの子の対象じゃないからな。でも、たまに来る大学生みたいな男だけの若い層はどうだ?素泊まりなんかのプランでたまたま泊れたその年齢層なんてこの子に加害を加えた層にピッタリ当てはまるんじゃないか?」
今まで被害が限定されていたのは、霊石の下に封じられていたことがでかいはずだ。
だが、それ以上にこの子の憎悪の対象は、若い男。
今屋敷にいる面々なら間違いなく俺が対象だし、若い男が数人で来ていたらそれこそ絶好のカモなんじゃないだろう。
「だから被害にばらつきがあったって考えるのが自然だろうな。霊感がある客がいたという可能性もあるけど、それは正直どうでもいいことだ。……んで多分だけど、殺されたのも夏なんだろうな。夏の時期にだけ活性化するみたいだし」
「そうね。一番思いが強くなる夏の時期だけ、この岩じゃ封じきれなかったんでしょうね。だから表に出てきて被害を出していた」
「そしてそんな被害を出しているうちに地縛霊もどきになってしまって、一種の心霊スポットを作り上げてしまったわけだ。……この旅館からすればとんだとばっちりだな」
「なんで発生源がここにあるのに海のほうにまで霊が出るって話があるのか不思議だったんだけど、この子とは直接的には無関係だったわけね。この子が霊力場を作り出しちゃって、それで住みついた違う霊が二次災害的に被害を起こしてたのね」
「……はぁ。原因を潰せば一発かと思ってたんだが、これは残念ながらそうはならないらしい。剣輔、あと一時間半くらいは延長戦覚悟しておけよ」
「……うす。てか良くそんな推理がぱっと浮かびますね」
「こんなの推理とも何とも呼べないよ。ただの予測だし、今回に関しては俺でも全く分からなかったからな」
遺骨に目を落とす。
正直地縛霊になった存在に感慨を抱くことは殆どない。いつも作業のように除霊しているし、いちいち共感していたらこんな家業やってられないからだ。
でも、もし黄泉の言うことが本当なら。神楽くらいの女の子がこんな目にあうというのには少し心が痛む。
「それじゃあ黄泉、この子は任せてもいいか?」
「うん。というよりも任せてくれないと困るわね」
「了解。頼んだ。……よし、行くぞ剣輔。楽しい楽しい海水浴だ」
遺骨の前に膝をついた黄泉を見届けて、俺と剣輔は砂浜のほうにへと歩いていく。
根本は黄泉に任せれば問題ないだろう。
ああいった霊を鎮めることに関しては黄泉の右に出る者を俺は一人も知らない。俺があいつに絶対に勝てないと思わされることの一つだ。あれだけはどうやっても敵う気がしない。
……さて、ぶった切ることしか能のない男どもは残党狩りといきますか。
次回!
温泉!枕投げ!凛黄泉トーク回!になります。