「お代わりください」
「はいはい。ホントによく食べるわね凛は」
「はっはっは!男の子がよく食べることはいいことだ。凛、本当に遠慮せずにどんどん食べなさい」
「すみません奈落さん。お言葉に甘えていただきます。……ん、ありがと」
そう言って俺は黄泉から差し出されたお椀を受け取る。
ここは諌山邸。皆さんがよくご存じの、家主が惨殺されたあの諌山邸である。
そこで俺と剣輔は晩飯をごちそうになっていた。
「美味い美味い」
「……まだ食うんすか、凛さん」
「うむ。まだまだ行ける」
「ホントに凛ちゃんってご飯美味しそうに食べるよね。なんか見てて気持ちいいぐらい」
「そう?ま、二人のご飯が美味いからだよそれは。こんなに美味いのはなかなかないぞ」
料理に舌鼓を打ちながら白米をかきこんでいると、神楽からそう言われたので本当に思っていることを返す。
確かに俺はご飯を美味しそうに食べる方だとは思うが、それ以上に二人の手料理のクオリティが半端じゃないのだ。
「天ぷらはサクサクで脂っこくないからいくらでも食べれるし、生姜焼きだって焼き加減と味付けが絶妙だし、ご飯だってこれ土鍋で炊いてるんだろ?そりゃ箸が止まらなくなるって」
「何言ってるのよ凛は。褒めてくれるのは嬉しいけど、千景さんの料理には及ばないわよ」
「凛ちゃんのお母さん料理上手いもんねー」
そう言いながらも満更ではなさげな顔をする獅子王系女子と舞蹴系女子。わかりやすい。
「おかわり」
「……もう四杯目よ?相変わらずたべるわね。燃費が悪いってのは本当なのね」
「そう思うだろ?明らかに動いた以上のカロリー摂取してるはずなのに太りも何もしないんだから不思議だ」
「女子からすれば羨ましい限りだけどね。はい、凛。剣輔君も食べる?」
「……じゃあ最後一杯だけください」
嬉々として茶碗を受け取る俺と、少し青ざめながら茶碗を受け取る剣輔。
剣輔も俺達のしごきでカロリーを消費しているからか、平均よりは随分食べる方だが、俺のペースに合わせて食べるのは流石に無理があったらしい。詰め込み方を間違えれば吐きそうだなこいつ。
吐きそうになるなら食べなければいいんじゃ……?という声が聞こえてきそうだが、実はそうもいかないのだ。と、いうのも俺たちと一緒の卓に座っている奈落さんにある。
「剣輔君もいい食べっぷりだ!強くなるためには食らわねばな。さぁ、どんどん食べなさい」
そう言っておかずを俺と剣輔の方にどんどん寄せてくる奈落さん。
どうやら俺達の食べっぷりが気持ちよかったらしく、食事が始まった辺りからやけに上機嫌でどんどん食事を勧めてくるのだ。
地元に帰った時の「やたらご飯やお菓子を食べさせたがるじいちゃんばあちゃん」を思い浮かべた人が居るだろうが、まさにそれだ。
ここまで嬉しそうにご飯を勧められると正直かなり断りづらいのだ。なんというか、断ったら申し訳なくなくなってしまうというかね。
端正な顔一面に「もうやべぇ……」という言葉が表れている剣輔を見ているのは愉快だが、流石に可哀想なので先ほどから密やかに剣輔のおかずを奪って手伝いをしてやっていたりする。
実は、退魔師業界は意外と男が少ない。
正確に言うと、一人で前線を張れるような強い霊力を持った男というのは本当に稀有で、東京という大都市ですら俺と剣輔ぐらいしか居ないのだ。
そのためなのか何故なのか知らないが、結構俺と剣輔は各方面の老齢の方々から目を掛けてもらっており、正直結構良くしてもらっている。
奈落さんもその一人であり、今回も何故か突然晩御飯に誘われたという訳だ。
やっぱり昔気質な所がある退魔師の老人達としては男の子というのは扱いやすく、女の子よりは親近感があるのだろう。
「男だから」の一言で無茶をさせても大丈夫なのが男だしな。正直俺としても「神楽と剣輔のどちらをやばい状況に対応させるか」と考えた時に、実力という点を度外視すれば剣輔を推すだろう。
(強いのは本当に女ばっかだからなぁこの世界)
強い男も居るにはいるが、結構パッとしない。各支部の室長候補も強いことは強いけど、その室長候補達も女の割合が高かったりする。
一人で戦況を変えられるような、黄泉みたいなのはそれこそ俺ぐらいしか居ない訳だ。
ちなみにだが、何故俺が黄泉の家でご相伴に預かっているのか、疑問に思った方も居るだろう。
それを説明するには、話を数時間ほど前に戻さなければならない。
「―――と、いう訳で今回の臨時集会は東京の虎ノ門にて行われることになりました。予想しているかとは思いますが、対策室からは諌山黄泉、小野寺凛に代表として参加してもらいます」
16時頃、少し日が暮れて、夜を迎えようとしているぐらいの時間帯。
茜が差す対策室の仕事場に、俺達は全員で席に着き、二階堂桐の言葉を静かに聞いていた。
「各支部の室長クラスが一堂に介する今回の会議は非常に重大で、重要なものになります。そのため警備も非常に厳重になり、諌山黄泉、小野寺凛以外の全対策室メンバーにも警備役として出勤が義務付けられています」
「開催は合計で三日間なんだけど、皆には連日出勤してもらわなきゃいけないの。休みの人も居たのに、ごめんなさいね」
内容は先日黄泉と少し話していた「室長候補」が一堂に介するという会議の話。俺が参加を渋っていた一件である。
まさか本当に招集されるとは……。本当に俺あいつらみたいなの苦手なんだよ……。
「建前上、今回室長候補が召集された理由は先日より発生している異常気象についての情報収集、意見交換が目的だとされています」
「本当に建前上なのよねぇ。本当の目的は別にあるんじゃないかしら」
そういってチラリと俺を見る室長。
その視線に気が付いた黄泉も俺をチラリと見てくる。
「二人の勧誘、ですか」
「そう。可能性は凄く高いわ。現に今の段階でもかなりの数の支部からスカウトが来てるのよ。黄泉ちゃんが居るのに凛ちゃんまで在籍させておく必要があるのか、って」
悩まし気な表情をして手を頬に当てる室長。
室長が断固として突っぱねているため俺は少ししか聞いていないのだが、俺をスカウトしたいという輩は一定数存在するようなのだ。
この業界はどこも人手不足だ。剣輔のような一般人上がりの退魔師が出てくるなんて、それこそ一年に数人居るかどうかくらいで、基本は退魔師の一族からしか退魔師は誕生しない。
だと言うのに東京には非常に恵まれた人材が集結している。
諌山黄泉を筆頭として、俺、神楽、冥さんが東京には居る。そして最近だと剣輔まで対策室に加わった。
アニメとかだと全然描写されていなかったが、退魔師の世界は縄張り意識が結構あり、「その縄張りが如何に力を持っているか」みたいなことを重視する老害が少なくない。
そのため東京にそれだけの戦力が居るのは不公平だ、という言葉とともに俺や剣輔をスカウトして自分の縄張りを強化しようとしている奴らが居たりするのだ。
黄泉や神楽は家というバックがあるが、俺のような弱小退魔師一家で独身の男や、剣輔のようにそもそも退魔師一家じゃない奴は引き抜きがしやすい。
だから俺達にはよく声がかかるらしい。そして俺が三途河の一件などで名を上げ、土宮、諌山とも深い交流がある、なんてことが知られてからは酷いという。
そしてその俺が直々に指導し、最近頭角を見せてきた剣輔もその対象になりつつある。
つまるところ今回の会議の目的は、当然情報収集もあるのだろうが「俺や剣輔に唾を付けておく」のが一番の可能性なのではないかと室長は推測しているわけだ。
「可能性無くは無いんだよなぁ。三年前に俺が入院した時なんか結婚の斡旋凄かったし」
「私が千景さんに押し倒されたときね。あの時は面白かったわー」
「当事者としては結構笑いごとじゃないんだけどね……。それで室長。”室長候補”って名前で表に出すのはどっちにするんですか?」
「凛ちゃんね。ウチとしても引き抜かれるのはごめんだから、売約済みって示しておこうかしらね」
「いい考えですけど、諌山家としては大丈夫なんですか?順当に行けば黄泉が室長になるのが妥当ですし、周りの反発とかもあるんじゃ?」
室長の考えとしては俺を室長候補として前面に出すことで、「小野寺凛は渡す気が無い」と雄弁に主張するということなのだ。
室長候補とまで名乗らせた奴を引き抜く、というのは少し考えにくい。例えるならば「婚約予定です!」と言っているカップルの一人を奪うみたいなもんだからだ。
正直良い考えだけど、この古臭い業界では問題が生じる。
将来の室長候補として挙げられているのは俺と黄泉であり、俺達内輪の間では俺だろうと言われているのだが、対外的にはそうではない。
家柄のある奴が継ぐべき、という考えに基づいて行動してる輩が多いこの世界では「諌山がトップに立つべき」と考える奴が非常に多いわけだ。
土宮は表に立つことの無い家系だから室長には据えられることがないが、諌山はその点問題ない。
実力もあり、家柄もある。おまけに頭も切れて容姿まで整ってるから、上に据えておくのには最高の物件であり、周囲もそれを望んでいるらしい。
「大人の世界って面倒くさいんだね」
「”名称一つ”で揉めるのが大人の世界ってもんだ。神楽もこの先そういうのに巻き込まれてくだろうよ」
「一樹の言う通りだ。神楽も次第に慣れてかなきゃな。それで黄泉。この話、奈落さんには当然まだなんだろ?」
「うん、まだね。少し話したことぐらいはあるんだけど……。出来るだけ早く話さないといけないわね」
うーんと唸る黄泉。
「凛、今日って時間ある?早い方がいいと思うし、今日話せないかお義父さんに聞いてみる」
「おーけー。問題ないよ」
特に問題は無かったので、了承の意を伝えると、廊下に出て通話を始める黄泉。
黄泉も俺も、たぶん奈落さんも”室長候補”なんて名前に拘りは無いのだが、神楽や一樹さん達が言う通り、大人の世界は面倒くさいのだ。
「しかし退魔師界隈もきな臭くなってきたな。嫌な予感がするぜ」
「そーですよね。何か最近おかしいっていうか……。俺も感じてたんですけど、岩端さんも感じてたんですね」
「ああ。霊力分布の異常といい、三年前からおかしくなってきてるな。何か大きいことが起きなきゃいいんだが」
三年前。喰霊-零-の開始の時間帯だ。
やばいことが起こるのは記憶で知っているが、何となくそれ以外の不安感がぬぐえない。
あまりに喰霊-零-の流れから外れすぎてて正直もうよくわからん。三途河も喰霊-零-以上に暗躍してるし、本当に何が起こっても不思議じゃない世界になってきやがった。
「とにかく諌山黄泉、小野寺凛のお二人は身の振り方に注意してください。良くも悪くも、最近の退魔師界隈は貴方方二人を中心に回りすぎています」
「誰かの思惑ならあっぱれよね。何をするにしても異常なほど貴方達の名前が出るんだもの。仕組んでやっているとしたら天才だわ」
おっとりとした声で室長が言ったその言葉。その言葉に俺は頭をハンマーでぶち抜かれたような衝撃を受ける。
……その通りだ。これがもし三途河辺りが仕組んでいるとしたら恐ろしい。
本当に最近、俺と黄泉の名前が挙がる率が異常になっている。何をするにしても俺と黄泉の名前が各地で出ており、明らかに以前よりも俺たちの名前が広く知られるようになっている。
俺達の功績を褒めたたえるような内容が大半であったために全く気に留めていなかったが―――寧ろ俺に関しては喜んでいた節があるが――― もしかすると少しまずい状況かもしれない。
もしここで俺達が、何かとんでもない失敗でもやらかしたとしたら。それこそ、対策室で人死にでも出したとするならどうなるだろうか。
バブルとは、弾けるからこそバブルなのだ。上がって上がって上がり続けた評判なんて、落ちるのは一瞬だ。
もしそれを狙って誰かが色々流布しているとしたら結構厄介な――――
「凛、お義父さん今日は大丈夫だって。話ついでにご飯でもどうかだって」
黄泉の登場と、話しかけられたことで俺の思考が中断される。
いけないいけない。また考え込んでしまっていた。
こんなの考えても仕方ないことだし、俺らが失敗しなければ何の問題もない。考えすぎだろうと思考を纏める。
どうも最近色々と考え込みすぎてパンクしそうになってしまう嫌いがある。神様とやらに会った一件以来、神経質になりすぎているようだ。
「決まりね。ちなみに剣輔君も誘われてるんだけど、来ない?お義父さんが一回じっくり話してみたいんだって」
「俺もっすか?いや、俺は別に誘われる理由もないですし……」
「いーじゃん!剣ちゃんも来ようよ!」
黄泉の家に行くことを快諾すると、どうやら剣輔も誘われたらしい。
女の子の家に、しかも退魔師界隈でも有名なおっさんからの誘いとあって渋る剣輔の肩を、神楽が勢いよく揺さぶる。
剣輔を色々と気にかけている神楽のことだ。剣輔には是非来てほしいことだろう。
「いーじゃん剣輔。俺も行くんだし一緒に行こうぜ。どうせ家帰っても飯作るの剣輔なんだろ?」
「……まぁそうなんすけど。なんつーか、奈落さんって俺あんま接点ないですし、緊張するっていうか」
「気にすることはないわよ。怒ると凄い怖いけど、基本好々爺然とした人だから」
「……怒ると怖いんすね」
何となく気乗りがしていない剣輔を、俺と黄泉も援護射撃をして来るように促す。
奈落さんとしてはその「室長候補」の名前程度の話し合いが目的ではなく、単に俺らと話したかったのだろう。結果として俺と剣輔は奈落さんの誘いに乗って黄泉の家に行くことになったという訳だ。
「お主がその名を名乗ることは別に問題なかろう。何かあれば私の名前を出せばよい。私も少し動いておこう」
「ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えさせてもらいますね」
夕食後。五人で例の件について話していたのだが、あっさりと結論が出てしまった。
「ちょっとお義父さん。そんな簡単に決めていいことなの?」
「問題は無かろう。それに、黄泉、お前も凛が室長になることに反対してはいないのだろう?」
「うん。それはそうなんだけど……」
「黄泉。お前の心配はよくわかる。だが、ここはお義父さんに任せておきなさい。既にこの身はお前のように前線に立つことは叶わないが、矢除けぐらいになることは出来る」
「お義父さん……」
貫録をもって言い切る奈落さん。
「今回ぐらいは私に甘えなさい。最近の黄泉は立派すぎて私の仕事が無かったからな。私としても張り切りがいがあるというものだ」
はっはっはと高らかに笑う。
……安心感が違うなぁ。流石は死線を潜り抜けた大人、といったところか。この人なら任せても全く問題は無いだろうという安心感が半端じゃない。
喰霊-零-もこの人が死んでからだからなぁ、一気に物語が動いたのって。
逆に言えばこの人が存命だったら、あそこまで物語がこじれにこじれることはなかっただろう。
「どうぞもう一杯」
「おお、すまんな。頂こう」
空になったお猪口に徳利から日本酒を注ぐ。
俺も一口頂きたい衝動に駆られまくっているが、我慢だ我慢。
「時に凛。蓮司殿は元気か?」
「ええ、変わりありませんよ。最近は表の仕事が忙しくてあまり一緒に稽古は出来ていませんが」
最近はめっきり親父と訓練をする機会が減ってしまった。この頃はもっぱら剣輔や黄泉達と訓練をしている。この後も道場を借りて一緒に鍛錬する予定だ。
「そうかそうか。最近顔を見ていなかったものでな。元気なら何よりだ。華蓮ちゃんはいくつになったのだ?」
「今年で2歳になります。元気いっぱいで大変ですよ」
昨日も朝の5時にたたき起こされて遊びに付き合わされてしまった。おかげで寝不足だが、怒ったり断ったり出来ない俺はきっとシスコンなのだろう。
「それは良いことだ。小さな子が元気だと我々年寄りも元気になる」
そう言って親戚のおじいちゃんが孫を見つめるときのような表情を浮かべる奈落さん。
……この人子供居ないし、華蓮とか凄く可愛く見えるんだろうなぁ。なんて思ってしまう。
実際に非常にこの人には良くしてもらっている。誕生日にはプレゼントをくれたりもするし、各方面から甘やかされている俺の妹は幸せ者だ。
「私も生きているうちに孫の顔を是非拝みたいものだ。……黄泉、紀之君との子供はいつ見れるのだ?」
「ちょ、お義父さん!?」
なんて思っていたら奈落さんがいきなり黄泉に爆弾をぶちかます。
普段はこんなぶっこみ方をしない奈落さんだが、今日は酔っているのだろう。「お父さんが娘にしてはならない質問ランキング」のトップクラスに入るようなことを満面の笑みで聞き始めた。
普段はしないような質問をされたためか、顔を真っ赤にして叫ぶ黄泉。
「それは俺も気になるな」
「私も気になる」
顔を真っ赤にしている黄泉が面白かったため、俺がからかいのために追撃をかますと、神楽も即座に乗ってきた。
流石我が妹分。素晴らしい追随だ。
「はっはっは!そう恥ずかしがるな黄泉よ。子供はいずれ出来るものなのだ。老い先が短い身として、楽しみにしてしまうのも仕方がないだろう」
「そういう問題じゃないわよ!」
「どうぞ奈落さんもう一杯」
「凛!悪乗りして飲ませない!」
結構娘にする発言としてはアウト中のアウトだろうが、黄泉なら問題ないだろう。
これは面白いと思って追加で飲ませて口の回りを良くしようと考えたのだが、残念ながら黄泉に怒られてしまった。
「おお、そう言えば聞くのを忘れていた。剣輔君、お主は神楽は付き合っているのか?」
「……っぶ!!」
「ちょっと奈落さん!?」
飲んでいたお茶を吹き出す剣輔と、対象が移り変わって焦り始める神楽。
「良く剣輔君の話題を耳にするものでな。もしかしたらそうなのかと思っていたのだ」
「夕飯の時とかよく話してるものねー。あれ?この前一緒に買い物にも行ったんだっけ?」
「飛び火してきた!ちょっと、黄泉もやめてよね!」
ここぞとばかりに一転攻勢に出る黄泉と、責められる側に回ってしまい、わちゃわちゃし始める神楽。
「そう言えばこの前も―――」
「わー!わー!もういいから!もういいから!!」
そんな感じで、奈落さんの暴走は続き、果てには俺にまで飛び火して全員が全員火傷を負ってこの夜は終了した。
とは言え皆楽しそうにしており、笑いが絶えない夜であったが。
さてさて。そんな一幕があったせいで先ほどの「誰かが意図的に俺らの名声を高めているのでは?」という思考は意識の片隅へと追いやられてしまった。
楽しい時間に違和感は駆逐されてしまったわけだ。
どこか違和感を感じていたにもかかわらず、俺はその違和感を完全に気のせいと割り切って処理し、それ以上考えることはなかった。
―――数週間後、この時考えた内容を徹底して突き詰めておけばよかったと、絶望の淵で後悔することになるとも知らずに。
なんか毎回意味深な回になってしまって申し訳ないですね。
しばらくは肩ひじ張って読んでいただく回が多いかも。