不要な方は読み飛ばしてください。
超強いカテゴリーBが4対出現。
そいつらが一体でも封印石に達してしまうと、髑髏が無限に湧いてくる「カテゴリーA無限髑髏」が出てきてしまうため、その現場に急行する凛達。
その現場において剣輔が一人前の退魔師として成長したり、神楽がその圧倒的な才能で、高みの領域に踏み入れる中、ベースキャンプにいる黄泉が新たに出現した5体目のカテゴリーBにより負傷させられてしまう。
黄泉が負傷したベースキャンプに到着する凛。
黄泉とこの場を何とかするという約束を交わすと、桜庭と岩端が抑えてくれていたカテゴリーBとの戦闘を引き受けるのであった。
初手を切ったのは小野寺凛だった。
強く踏み込んだ一撃。躊躇いも迷いも一切なく餓者髑髏の懐に潜り込むと、戦闘服に仕込んであった退魔ナイフを取り出して餓者髑髏に接近戦を申し込む。
踏み込んで来た凛に対して、獅子王よりも長い日本刀を振り下ろしてくる餓者髑髏。
鋭く、恐怖すら感じさせる鮮やかな太刀筋だが、そんなものは姉と妹のそれで見飽きている。
折れなければ良いの精神で、ナイフ2本をつかってその太刀筋を受け流す。重い一撃だが、想定の範囲内だ。
器用に2本のナイフを操りながら、太刀の圏内へ圏内へと接近を試みる。
今回凛は、いつもの霊力を使った斬撃ではなく、退魔武器を用いたCQCに似た戦い方を選んだ。
その選択をした理由はいくつかあるが、最も大きい理由としてはこちらの方が「斬撃に対処しながら、打撃攻撃がスムーズに行いやすい」というものがある。
今日だけでも幾度となくこの骸骨共と鎬を削り合ってきたが、こいつらを確実に粉砕するのならば、間違いなく凛は打撃のほうがやりやすい。
というのも、凛の作り出す刃は、黄泉や神楽が使う日本刀等とは刃の出来が当然ながら全く異なる。
例えば黄泉が使う獅子王は、1000年経ても尚使える強靭な玉鋼を、名匠が「切る」ことを追求して鍛え上げ、さらにその刃を徹底的に磨き上げたものだ。
神楽が持つ舞蹴12号も、流石に獅子王ほどの年季は無いにせよ、恐ろしく強靭な玉鋼を舞蹴師匠が鍛え上げ、そして研磨した「切る」為にある一振である。
対して凛が使う刃は、その場その場で凛が即興で作り出している霊力の刃だ。ただただ「刃の如く」霊力を鋭く練り上げた、刃物の贋作に過ぎない。
切れることには切れるが、「切れるように鍛え上げられた玉鋼」の切れ味には勝てるわけもない。
セラミックの包丁が切れるとは言っても、名匠が打ち上げた鋼に敵わないのと同じようなものだ。
骸骨のサイズが通常の人間サイズであれば、叩き切ってしまうのも、打撃で砕くのもそう差異はないが、神楽と共闘したときのような大型の骸骨となると話は別だ。間違いなく打撃の方が良い。
そしてこいつは神楽と共闘した髑髏よりも大分小さいサイズではあるが、斬撃で対応するよりは打撃のほうが有利。そう凛は判断した。
―――手始めに。
一瞬だけ、速度のギアを上げる。踏み込みのタイミングと、その強さを上げ、1テンポ速く深いところまで踏み込んで行く。
凛が戦闘中によく行う歩法。凡な相手であればこれでその懐まで潜り込ませてくれるものだが、残念ながらこの相手は凡ではない。
あっさりとその緩急に対応してくると凛を懐に入れまいと体勢を切り替え、刀で反撃さえ行ってくる。
(反応が早い。思ったとおり、あっちのよりか大分強いか―――?)
思った以上に懐に入ることが叶わず、何度もナイフと刀の応戦が続く。より速度を上げて手数を増やすが、相手もその速度を上げて巧みに対応してくる。
神楽と共闘した髑髏のほうは(二人がかりということもあるが)攻撃を当てることには成功していたのだが、この髑髏には最初の飛び蹴り以降攻撃が当たっていない。
桜庭、岩端との戦闘も凛は少し見ていたが、全体的にこちらの怨霊のほうがこちらの攻撃に対する反応が良い気がするのだ。
神楽と戦った際のカテゴリーBは、その巨体と妙な巧さもあって苦戦した所ではあるが、
なるほど。こいつによる被害報告が多々出るわけだ、と凛は納得する。このレベルに対応できるのはやはり室長候補レベルじゃなければ難しいだろう。
厳しい言い方にはなるが、このレベルになってくると対策室の面々では役者が不足してしまうだろう。
ただ―――。
「よかった。俺は役不足だった」
凛はしようとしていた攻撃の、踏み込みの速度を目では判別できないレベルで緩める。しばらく相対していれば疑問を感じるかもしれない、程度の軽度な速度の変更。
相手に感じさせない僅かな変化。しかしその変化こそ、戦局を左右する一石となる。
そして、
凛が飛び込んでいたであろうタイミングに完全に合わせて振るわれる、獅子王よりも巨大な刀。
恐るべき速度と練度だが、それが切るのが空間だけでは、小野寺凛にとって何も脅威になりはしない。
そしてその刀が振り抜かれた瞬間に踏み込みを終えた小野寺凛が、餓者髑髏の目の前で悠然と構えを取る。
「―――ここ」
刀を振り切った状態の下がった相手の顔面に、凛は風も唸るような威力の貫手を繰り出す。
速度も威力も全く申し分の無い一撃。まるで体調不良の身体から繰り出されたとは思えない、文字通り殺人級のそれ。
しかもおまけに貫手が伸び切る寸前に霊力で作られた刃が相手の頭蓋を貫通させるべく指先から鋭く伸びるオプション付き。
ただでさえタイミングをずらされている上に、この餓者髑髏との戦闘では初となる凛の霊力行使。
貫手を避けようと思った瞬間に、一度も見たことのない数センチの誤差が発生し、自分の頭蓋を割りに来る。そんなもの、避けられるわけがない。
この技は、殺してはいけない相手には使えない搦め手の一つ。だが、小野寺凛はこの手の
殺しても良い対人戦など、小野寺凛は今の所経験したことは一度もない。退魔師としてその手の経験を積むということは、仲間うちに怨霊に落ちた人間が発生したという事だからだ。
幸いにも、小野寺凛にはその経験がない。そして、願わくばこれからも、と、常に願いながら凛は戦い続けている。
元より下手な格闘家ならば反応すらさせずに葬れる程の威力と速度を持ったその一撃。
驚異的な強さを誇るカテゴリーBであっても、完全に設計されたタイミングで放たれた一撃など、避けられる筈もない。果たして、その一撃は避けられず、小野寺凛の狙い通りにその霊力は頭蓋を貫通した。
頭蓋を霊力が貫く鈍い音が、指先の骨を通して身体に響いてくる。
そしてほぼ同時に凛の腕に伝わる横方向への力のベクトル。餓者髑髏が回避行動を行おうとしたところに霊力を突き刺したため、その力が伝わってきたのだろう。
だが、捕まえたのだ。―――離さない。
凛はそれの抵抗を許さず、貫手の体勢のままガッチリと繋ぎ止める。
頭蓋にはっきりと霊力が貫通した状態。人間ならばこれで終わっていた。だが、相手は脳味噌など疾うに腐り落ちている
それを証明するかの如く、凛を排除すべくもがき始める餓者髑髏。この髑髏を倒すには粉砕するか、魂のレベルで除霊してやるしか方法はない。
恐らくは2m超えの巨体。前傾姿勢がかなり深いタイプの相手のため、パッと見ではさほど大きくは見えないが、概算で凛よりも軽く30cmも大きいその身体は、ただ振り回すだけでも圧倒的な力を生み出す。
パワーという観点において、大きさは何よりのアドバンテージだ。大きさがあるだけで小さいものよりも優位に立つことができる。
つまるところ、餓者髑髏はただ頭を振り回すだけで目の前の小さな退魔師ごとき吹き飛ばすことが可能であるということだ。
それが大きさ。力。自然の摂理。人間では越えられないそのライン。
それを存分に使い切り、小さな男を吹き飛ばす。
……つもりだった。
「膂力任せは神楽との奴で見飽きたよ」
どころか、振り回されたのは餓者髑髏のほうだった。
より圧倒的な力で引きつけられ、地面に向かって頭が引き寄せられる。
当然ながらそれを成した下手人は小野寺凛だ。
突き刺した針状の霊力を、鉤爪状に変化させて頭蓋に食い込ませ、相手の力が完全に乗り切る前に思いっきり凛が攻撃しやすい位置へと誘導したのだ。
ちょうど蹴りやすいところに頭が下がってきた所へ本気の膝を打ち込む。しかも、膝蹴りの威力が逃げないよう、蹴りのインパクトが抜ける先に霊力で壁を設置し、足と壁でプレスするようにして蹴りを放つ。
ゴキッという骨が折れるどころではない、硬いものが砕け散る音が静かな夜の森に響き渡る。
まるで粉砕機で圧倒的な強度の物体を砕き潰したかのような、そんな圧倒的な轟音。
―――クリーンヒット。
本日ナンバーワンの一撃が餓者髑髏の頭蓋を粉砕する。
文字通り、粉砕。バラバラに、一部は粉のごとく破壊することに成功する。
人間相手にやったとしたならば、頭部がミンチにでもなっていただろうか。
これも模擬戦では絶対に使えない技だ。初めて実戦で試みた技ではあるが、人に使うにはあまりに危険すぎる。
あまりに鮮やかで、スピーディーな一連の動作。餓者髑髏は自分がされた一連の流れを理解できているのだろうか。
そう思い砕けゆく骨たちを眺めながらも、凛は油断しない。もう一度このまま追撃を加えるべく、体勢を整え、力を入れる。
だがその瞬間、右手にかかる負荷が変わったことに、頭よりも先に身体が違和感を覚える。
指先から伝わる感覚。膝で砕いた後と砕く前のその違い。それを瞬時に分析し、身体からの異変を一瞬以上の時間を要して、凛は理解する。
―――なるほど、軽いのか。
軽すぎるのだ、右手にかかる負荷が。
自分は確実に敵の頭蓋を霊力で捕まえていた。頭蓋に打った楔を、自分が頭蓋を破壊した瞬間に誤って外してしまっていただとか、そんな阿呆な真似は一切していない。
だが、事実として右手にかかる負荷は軽くなっている。一体それは何故か。
その原因に思い至り、髑髏の身体を見る。すると、自分が保有する頭蓋部分と、胴体部分の位置関係が
―――そんなのもありなのかよ……!
自分が保有する頭蓋から、頚椎から下が切り離されていく。
餓者髑髏がやった行動は簡単だ。頭蓋を胴体を切り離して、
人間には到底不可能な離れ業。だが、その離れ業は見事に成功し、小野寺凛の強制的なホールドから離脱することに成功する。
関節を外して拘束を脱するという手法は古来より存在するのは存在するが、まさかここまで文字通りに関節を外す存在を見るのは流石に初めてだ、と凛はある意味で感心する。
そして同時に、頭蓋を破壊されてなお自分を攻撃しようとしている怨霊をみて、一体コイツラは何を以てこちらを視認しているのかと疑問に思うが、怨霊相手にそんなことを考えても無駄だと思い直す。
そもそも脳科学が進んでいるこの現代においてさえ、人間の意識がどうやって成り立っているのかを完璧に解明している人間など居やしないのだ。況や、その意識の集合体たる怨霊をや、というやつである。
そして凛は身体と頭を守るようにして霊力を展開した腕を下げる。
凛が疑義と感心を抱いている間に、相手は苦し紛れではあるが、その巨腕を薙ぎ払うが如く振るう体勢が出来ていたのだ。
繰り出されたのは所詮体勢の崩れた一撃。さほどのダメージは無いだろうが、完璧に避けるにはやや時間が足りない。ならば衝撃を逃がしつつ受けるのが1番だろう。
そう思い防御を行う小野寺凛。そして狙った通りのタイミングで襲い来る衝撃。タイミングを合わせてジャストガードすることにより、反撃の時間を一瞬でも多く作り出す。
間違いなくとっさに放った一撃なのだ。荒く、重心も適切に乗っていない。
だが、重い。
これだけ体勢が崩れていながらも、まるで軽い重機に襲われたかのような一撃。ガードした腕がビリビリと震えるのはわかるとして、そのガードの余波が肺にまで衝撃が伝わってくる重いものだ。骨だけだと言うのにこれだけの膂力とは、あまりにも反則過ぎる。
黄泉が凛に抱いているような感想を抱きながらも、視線は相手から決して外さない。
―――今の所は順調も順調。このままこの調子で行くとは思わないが、出来ればここで決めたい。
先程頭蓋は潰した。潰したところで普通に稼働していたので、大したダメージになっているのか怪しいが、塵も積もればなんとやら、である。
今の所この骸骨共は人間の限界を超えたことはそこまでやってきていない。足が取れれば地面を這いつくばるし、手をなくせばバランスが取れなくなったり、足でなんとかして攻撃しようとしてくる。
つまるところ、多少例外はあるが、基本的にこの骸骨達の動きは物理法則に則っているのだ。
細かいパーツだろうが一つ一つ潰していけば、次第に動きは鈍っていくはず。特に体幹に近い部分のパーツが潰せれば、相手は動けなくなる可能性が非常に高い。
そしてそれは逆を返せば体幹に近い骨なら、一度捕まえれば先程までみたいにパージして逃げられる可能性は低い、ということだ。
そう思い鉤爪を繰り出す。この位置ならば、間違いなく胸骨に抉りこませ、引っ掛けることが出来る。そうおもい、繰り出した一撃だったが、
その攻撃は空を切る。
「―――んな、っは?」
華麗に空を切ったその一撃。流石に当たらなかった時に備えて残心はとってあるが、それでもそのまま残心など忘れてつんのめってしまいたくなる程には、美しいにも程がある空振りだった。
そしてそれは単純に凛が見当違いの攻撃をしたとか、相手が神がかった回避を見せたとか、そういった理由では決してない。
いや、神がかった回避、というのはもしかしたら近しい表現なのかもしれない。
何故なら。
「……消えやがった?」
まるでそこには最初から誰も居なかったと錯覚させるほど突然と。凛が戦っていたのがまるで幻であったかのように。
神隠しにあったかの如く、一瞬で凛の目の前から消えてしまったのだから。
次回、冥さん登場。
よろこべ、おまいら。
※補足
ちなみにですが、本編で触れるのを忘れていたのですが、黄泉のいるベースキャンプを抜けられると封印石みたいなものがあって、それと4体のカテゴリーBが接触すると無限髑髏が発生します。
なので実は黄泉がベースキャンプで負傷して、しかもしらない5体目が発生してたっていうのは密かにやばかったという。