喰霊-廻-   作:しなー

79 / 87
一年越しの更新であることに驚いた自分に驚いたんだよね。


第2話 -Who is the next ...-

「これより分家会議を始めさせていただきたい。まずは皆、遠路はるばるお集まりいただき、感謝する」

 

 そう行って頭を下げる諫山奈落。

 

 それに伴い。俺や黄泉、そして他の参加者の面々が同時に頭を下げる。

 

 分家会議。それがスタートする。

 

 顔を上げると同時に皆が座っている位置を改めて確認する。

 

 まず主催である奈落さんが部屋の上座の位置に陣取っており、その右隣に黄泉が座っている。

 

 奈落さんの左隣には諫山冥の父親である諫山幽が、さらにその左隣には諫山冥が座っている。

 

 その面々の対面にある長方形の縦長のテーブルに、俺の親父を含む分家の当主達がコの字を描くように座っている状態だ。これだけの人数を集めているが手狭感がないのは、流石諫山家といった所だろう。名家なだけあり、保有している資金は大分潤沢だ。

 

 ちなみに俺がどこに座っているかというと、分家当主の皆様が座っているテーブル……ではなく、なんと()()()()()に陣取っている状態である。小野寺当主が参加者側に座っているというのに、その息子が主催者側に座っているのはなんとも奇妙な光景だ。

 

 その証拠に俺が小野寺蓮司(親父の名前である)の隣に座らず、主催者側に座るのを見て、驚いた表情をしたのは一人や二人ではない。多分親父以外のほぼ全員が同じような反応をしていた。

 

(そらその反応するよなぁ)

 

 心の中で苦笑する俺。実はさっきチラッと聞いたんだけど、俺が諫山に婿入りするんじゃないか?って噂が立ってるらしい。その相手が黄泉なのか冥さんなのか知らないが、「小野寺、諫山に下る説」はそこそこ確度が高い噂っぽくて、中々ホットな話題なんだとか。

 

 当事者である俺が欠片も知らない話なのに確度が高いってなんなんだよとか思うけど、このタイミングで俺がこっち側に居たらその噂の信憑度あがっちゃうじゃんとは思う。

 

 ちらりと親父を見る。

 

 どうやら親父も俺を見ていたらしく、強面フェイスに何処か誇らしげな色を浮かべて、俺の顔を見たまま鷹揚に頷く。なんの意思表示かわからないし、なんでこっちに座ること断ったんだあいつって感じではあるが、どうやら俺がこっち側に立っていること自体は誇らしいらしい。

 

 ……多分親父はその噂自体は知ってるんだろうな。浮かべている笑みはそういう意味の笑みでは無いだろうけど。

 

「不定期で開催しているこの分家会議ではあるが、皆に報告したいことが3つほどあり、今回開催させて頂いた」

 

 皆が顔を上げたことを確認すると、奈落さんが進行を始める。

 

 元一流の退魔師であり現当主である奈落さんは、流石というべきか常人には放てない貫禄がある。こうして人前で堂々と話す姿には自然と皆が黙って話を聞くような迫力と威厳があり、思わず俺でもかしこまってしまう程だ。なんというか、安心感がある。

 

 その安心感ある奈落さんの進行に身を任せていた俺であるが、引っかかる点がありチラリと奈落さんを横目で見る。

 

 報告したいことが3つか。俺は2つと聞いていたんだが、何かプラスで話すことがあるのだろうか。

 

「まずは皆が聞きたいと思っているであろうことを先に話しておきたい。……聞き及んでいる者もいると思うが、関東の室長候補として、諫山は正式に小野寺凛を推すことにした。それをお伝えしたく、小野寺凛にはこちらに座ってもらっている」

 

 その言葉を受けて、俺は頭を下げる。また、同時に父親も分家の人達があつまるテーブルの中で頭を下げる。これは前もって奈落さんから聞いていた通りだ。それに室長候補として先の会議に俺が出ているわけなので、もはやこれは周知の事実ではある。

 

 ただ実際に諫山奈落からそれを伝えられるというのはインパクトが違う。分家筆頭である奈落が推すということは、この分家全体として俺を推すということに等しい。つまりこの宣言は「俺はこいつを推すからお前らもよろしくね」という意味にも等しくなるわけである。

 

「凛、皆様に一言挨拶を」

 

「はい。……若輩者ではございますが、拝命した役を全うできるよう尽力致しますので、分家の皆様からもお力添えいただけますよう、何卒よろしくお願い致します」

 

 改めてすっと頭を下げる。

 

 通常なら不満が出てもおかしくはない人選。神宮寺菖蒲も若くして室長という責任ある立場についているが、神宮寺は帝の家系であり、あそこもかなり由緒正しい一家だ。

 

 帝の家系が室長になるのであればわかるが、小野寺はまじで力のない家系だ。それが環境省の対策室部隊のトップに行くとなれば不満も出てきそうなものだが……。

 

(……案外わるくない感触だな)

 

 特段不満に思っていそうな者がいる気配はあまりない。下の家系が成り上がった、というよりは分家の一派が上に食い込んだという意識のほうが強いのだろうか。はたまた小野寺なら取り込めるという余裕か。もしかしたら先程の噂も影響している可能性もある。もしくは帝に認められたという大義名分があるからだろうか。

 

 室長の任を拝命しているのは帝の家系であるため、俺が室長に就くとなったら一番反対する可能性が高かったのは帝だった。というより普通に拒否られると思ってた。東京の室長なんてポジションとしては相当上というか、というより普通にTOPクラスのポジションなわけで、帝が手放すわけなかろうと思っていた。

 

 だが、このポジションを一番推していたのが帝の家系である神宮寺菖蒲であったのと、なんか気に入られているのかあまり反対は出なかったと聞く。ここら辺の力学はあまり詳しくないのだが、俺を据えたほうが帝としては美味しいのだろうか。原作では帝綜左衛門(帝家の跡取り)がこのポジションに就いていたので、間違いなく重要なポジションではあるのは間違いないのだが……。

 

 ちなみに帝とは退魔師の中でも一番に権力を持つ家系であり、土宮・諫山以上に格のある家系だ。小野寺なんかとは比べ物にすらならない。その帝が行えないような荒事・裏の任務をこなしてきたのが分家の土宮であり、その末裔が土宮神楽であるわけだ。

 

 喰霊−零−では土宮がガンガンに先頭に立って活躍していたのであまり馴染みが無いかもしれないが、実は神楽は帝の分家でその裏を担当してきた家系なのだ。なので対策室に神楽が所属していると言えど、神楽が将来表立った役職につく可能性はかなり低い。

 

 今後事情が変わっていけばその限りでは無いだろうが、現時点ではその可能性は限りなく0と言っても問題はないだろう。

 

(それはともかく、悪くない反応で良かった)

 

 室長になってから何をするか?は正直あんま考えていない。 

 

 やるとするなら、喰霊−零−の後にやってくる喰霊世界線の敵へのメタ的な対処だろうか。まぁ二階堂桐も神宮寺菖蒲もまだまだ引退しないだろうし、喰霊-零-のように引退させるつもりもないので、少なくも10年以上は室長に就く可能性はないわけだが。俺が室長になるのは、お務めが一人でこなせなくなってきた時とかがちょうどよい。

 

「次に、先にあった大規模な掃討作戦についてお話したい。一ヶ月前のことになるが―――」

 

 そんなことを考えているうちに、奈落さんが先日行われた餓者髑髏戦についての報告を始める。

 

 これが俺も事前に聞いていた「本日の議題」の2つ目だ。俺達のように環境省直轄の部隊であれば仔細な情報が共有されているが、フリーで働く人間が多いこの業界では、あの異常な霊災についての詳細な情報を知る機会がすくない。

 

 特に今は2000年の一桁年代である。現代っ子からすると信じられないかもしれないが、この時代にはz◯◯mも無ければL◯NEもない。SNSなんて当然無いし、Y◯uTubeがまだ大衆に知られていないぐらいの時代なのだ。鮮度の高い情報を仔細に知る機会は、ほぼ人伝いのみであると言ってしまって問題ない。

 

 不便な時代だ……とはもう思わなくなってきたあたり、俺もこの世界・時代の住人になったものだ。

 

「―――と、言うわけだ。この詳細に関しては凛、お前から話しなさい」

 

「はい。これに関しては―――」

 

 俺はだいたい知っている内容なので話半分で聞きながらも、奈落さんから振られた話題にテキパキと答えていく。書面でまとめるからそれを読んでくれと言いたくはなるが、流石に今回のような事態は俺が説明するのが一番早くはあるだろう。

 

 しかしもう一ヶ月も前の出来事なのかあれ。体感的には先週ぐらいの出来事の感覚なんだが、それは最近俺の仕事が多忙を極めていることも原因かもしれない。

 

 話し終えた後、ちらりと黄泉の顔を盗み見る。

 

 相変わらず美しい少女だとそう思う。勿論顔面の造形美もさることながら、座布団の上に正座で座っているその姿。一本鉄の芯が入ったか如くビシッと伸びた背筋。普通の人間なら座っていても座り直しなどでブレが発生するものだが、その揺らぎも殆ど無く、凪いだ水面を思わせる程に落ち着いている。日々の鍛錬に裏打ちされているのだろう。黄泉は特に所作が綺麗だ。

 

(けど表情はやっぱどこか暗いんだよなぁ)

 

 目を伏せて奈落の言葉を聞く黄泉。その姿自体は分家会議だとあまり珍しい姿ではない。喰霊-零-の冥さんの姿とかを参考にしてもらうと良いだろう。ちなみに3話だ。

 

 ただ、やっぱ顔が暗いのだ。まぁそうなる理由もわかるけど……。

 

「そして最後になる。諫山の私事にはなるが、分家の皆が揃っているタイミングで一つ発表させて頂きたい」

 

 そういや冥さんの座り姿とかも物凄く綺麗だよな……と思いながら話を聞き流していると、奈落さんから何やら不穏な言葉が発せられる。

 

 横目で奈落さんの弟である諌山幽を見ると「何だ何だ?」って顔で見ているし、その娘である諌山冥も今まで保っていたポーカーフェイスをやや崩して奈落さんを見ていた。

 

 さっきもいった通り俺は勿論知らないしこの二人すら知らない。だが隣の黄泉はすまし顔というか今までとほぼ変わらない表情をしている状態だ。……ということは黄泉には共有があったのだろう。

 

「黄泉。入ってもらいなさい」

 

「はい」

 

 奈落さんの言葉を受け、黄泉は襖を開ける。

 

 その奥に居たのはよく見知った顔が一人と、あまり馴染みのない顔が一人。今世でもあったことは右手の指で足りるぐらいしかない顔だ。

 

「飯綱家……?」

 

 誰かがポツリとそう呟く。

 

 そう、襖の奥に居たのは飯綱家。つまり紀さんとその親父だった。

 

「噂には聞き及んでいるとは思うが、我が諫山家は飯綱紀之君を婿として迎え入れることとした」

 

 会議室の空気が一気に張り詰めたのがわかる。

 

 紀さんの父親が一歩前に出て、重々しい声で言葉を紡ぐ。

 

「このような場を設けていただき、感謝いたします。飯綱家としても諫山家の意思を尊重し、紀之が諫山家の一員となることを名誉と受け止めております」

 

 彼が頭を下げると、紀さんも同様に深く頭を下げた。その表情は無表情にも見えたが、どこか決意を帯びているようにも感じられる。

 

 奈落さんは、ざわめく会議室の視線を受け止め、静かに口を開いた。

 

「まず、この場で明確にしておきたい。黄泉と紀之の婚姻についてだが、これは黄泉が高校を卒業してから執り行う予定である」

 

 その言葉に、一瞬の沈黙が生まれた。分家の当主たちや参加者たちが一斉に奈落さんの言葉に耳を傾ける。黄泉も視線を伏せたまま微動だにせず、その言葉を受け入れるように聞いている。

 

「そしてもう一つ、ここで皆に伝えたいことがある」

 

奈落さんが皆を見回しながら、さらに言葉を続ける。その厳格な表情に、会場の緊張はさらに高まっていく。

 

「黄泉が高校を卒業した際、私は諫山家の家督を黄泉に譲ることとする」

 

 その瞬間、諫山幽の表情が険しいものに変わっていく。無言のままだが、抑えようとしても滲み出てしまう憤りが彼の顔に明らかに浮かび、口元はわずかに震えている。その鋭い視線は一度奈落に向けられたが、すぐに視線を落とし、自分の足元を見つめる形になった。その間も、彼は何度も目を瞬かせ、内心の苛立ちを表に出さぬよう必死に押し殺しているのが手に取るように分かる。

 

 周囲をちらちらと見回す視線が、無言の抗議とも、あるいは自らの立場をどうするべきか考えあぐねているかのようにも見える。どんなに気丈に振る舞おうとしても、心の奥で揺れ動く小物感は隠しきれていない。周囲の面々には、そんな幽の取り乱しがどう映っているのか。俺は少しだけ冷めた気持ちで、その様子を観察していた。

 

 そして、ふと視線を幽の隣へと移す。

 

 ……彼女とはそれなりに長い時間を過ごしてきた。

 

 だからこそ、俺は彼女の表情を読み取ることに関しては黄泉や神楽以上に自信がある。

 

 諫山幽の隣に座る諫山冥は、その父の様子をただ一瞥しただけだった。

 

 わずかに眉を寄せたが、それも一瞬のこと。次には静かに息をつき、元の冷静な表情に戻っている。冥は何も言わず、まっすぐ前を見据え、その落ち着いた佇まいには一切の揺るぎがない。

 

 その無言の静けさに、俺の視線は自然と引き寄せられる。

 

 その表情はあいも変わらず凛として、内心に何を抱えているのか一切窺わせない。まるで氷の彫像のような佇まい。だが、不思議とその無表情に、何故か笑ったようにも見える影がかすかに浮かんでいるようだった。

 

 何故か笑ったように見えるその無表情が、不思議と俺の目に焼き付いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。