仮面ライダーLYRICAL A’s to StrikerS   作:(MINA)

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みなさん。 お久しぶりです。

しばらくぶりですが、皆大好は無事に生きております。

ぼちぼちではありますが、投稿再開いたします。


第十話 「0068年 復活の翼」

0067年補足 高町なのはが重傷に遭うという身内間で大きな出来事が起こったが、その陰に隠れた出来事がいくつかある。その中に『フェイト・T・ハラオウンの執務官試験の不合格』がある。

不合格原因は、自身の力量不足か親友の容態が気がかりで集中できなかった事によるものだが真相はフェイト当人にしかわからない。

なお、コレがネタとして使われてフェイトが散々からかわれたりするのだがそれはまた別の話。

 

*

 

0068年 

ユーノ・スクライアは今日も黙々と『無限書庫』で業務に勤しんでいた。

無重力状態なので立ちっ放しで疲れるという事はないが、長時間無重力にいすぎると筋肉を使わなくなるため重力のある普通の空間で耐えられなくなるのだ。

スペースシャトルに乗り込んでいる人達が、通常では考えられない回数のトレーニングをするのも無重力空間から重力空間へ移行する際のギャップを身体に感じさせないためのものでもある。

彼は宙で胡坐を組んで、両目を閉じて数十冊の本に囲まれている。

本はひとりでにページを開いてパラパラと規則正しい動きをする。

本は全て同時に閉じられて、本棚へと戻っていく。

「ふう……」

ユーノは一息吐いてから、首をバキボキと鳴らす。

0067年の魔導師ランク試験で魔導師としてはピークを迎えていると宣告されてはいるが、彼は相変わらずアルフ、ザフィーラ、シャマルと共に秘密裏の鍛錬に励んでいた。

皮肉な事にその苛烈な鍛錬のお陰でユーノは体力が向上して、少しくらいの徹夜で倒れたりしないようになっていた。

目的とは違う場で活かされているというのも少々変な話だが。

「あ、そろそろ時間だ」

ユーノは携帯電話を取り出して、液晶画面に表示されている時間を見た。

今日はフェイトとヴィータと一緒に、なのはの見舞いに行く日だった。

「それじゃあ、少し抜けますけどあとよろしくお願います」

ユーノは『無限書庫』を抜けた。

 

時空管理局本局にある病室。

なのはは車椅子で迎えてくれた。

あれだけの重傷に遭って、暦は変わっているがそれでも一年は経過していないのにここまで回復しているのはもはや、なのはの『生』に対する執念がなされたものだろう。

「何だか前より車椅子の扱い慣れてねーか?」

ヴィータがなのはの車椅子の手さばきを見て、感心半分呆れ半分になっていた。

「時間があればアチコチ回ってるからね」

なのはの天性の明るさによるものか、車椅子生活でありながらも痛々しさのような物があまり感じられなくなっていた。

「なのは。それ病人のすることじゃないと思うよ……」

フェイトはなのはの行動にまるで、保護者のように心配をする。

「そういえば、もうすぐリハビリも『歩く』方向に移るんだってね」

ユーノは前に来た時に、なのはから聞かされたことを思い出す。

「うん。リハビリを受けてるとね。自分が回復してるって気持ちになってるんだよ」

「オマエ。底抜けに能天気だからなー。身体も単純にできてるんじゃねーの?」

ヴィータがからかいながらその場から逃亡する。

「ヴィータちゃん。それひどいよー!」

なのははそれを追いかける。

もちろん車椅子で。

「車椅子ってあんなに速く走れるの?」

「さあ……」

フェイトはなのはが操る車椅子の速度の異常っぷりを直視できないのか、ユーノに訊ねるが彼も何ともいえないのが本音だった。

 

*

 

空は青色、雲ひとつない快晴である。

ユーノはあお向けになって倒れていた。

肩を上下に揺らして、激しく息を乱して。

全身汗ばんでいた。

「しっかし、アンタの今の強さはまさに執念だねぇ。付き合うあたし等も正直ここまでになるとは思わなかったよ」

アルフ(人型)は腰を下ろしながら、両肩を揺らして息を乱していた。

「魔力が向上しないから、今持てる強さを限界まで活かしきる事を選ぶ。一見単純な発想だが中々奥が深い」

ザフィーラ(人型)もこの鍛錬に付き合ううちに学んだものがあるようだ。

人に教えながら、自分も学ぶ。

これは教育という点では究極の理想像といってもいい。

「最近は私の治療の回数も減ってるものね。一日に何十回も治癒魔法を使ってた頃が懐かしいわ」

シャマルとしては怪我が減るのは嬉しい事だが、自身の役割が少ないというのも正直寂しかったりする。

三人が思うに、今のユーノ・スクライアは単純な殴り合いなら余程の相手でない限り負けることはないくらいになり始めている。

尤もそんな『殴り合い』の場になる事自体、ユーノの性格からして珍しいといえば珍しいのだが。

「ねぇアルフ、ザフィーラ。今のユーノ君なら私達の身内に何人か勝てるかしら?」

シャマルの素朴な疑問にアルフとザフィーラは目を丸くしたが、考え始める。

「魔法抜きの戦闘なら、魔法頼りとなっている我が主や高町は勝負をするだけ無駄だ。ただの虐めになる。テスタロッサやシグナム、ヴィータと戦うとならば勝つか負けるかはわからないが前者に比べればいい勝負になるのではないか?」

「フェイトやシグナムやヴィータは元々の身体能力の高さもあるからねー」

アルフも同じ意見らしい。

「でもあんな通知を受けても諦めずにここまで強くなれたのだからユーノ君の執念は大したものよ」

シャマルは起き上がろうとしないユーノを一瞥してから、賞賛の言葉を送った。

ユーノは勤務による過労と鍛錬による疲労で熟睡していた。

 

秘密の鍛錬が終わり『無限書庫』に戻ったユーノは業務に取り組んでいた。

いつもの余裕のある表情はそこにはない。

クロノ・ハラオウンの請求があったので現在は自分を始め、他の司書達も血眼になって取り組んでいた。

 

うおおおおおおおおおおおお!!

 

『無限書庫』というある意味文科系な場所には似つかわしくない咆哮だった。

無重力空間を本が飛び交う。

検索していた文献をまとめたレポートが飛び交う。

資料を探しながら半ばグロッキーになっている司書達も飛び交っていた。

『無限書庫』は無重力空間なので何が飛んでいても不思議ではない。

「買出し班!ただいま戻りましたぁ!!」

「遅いぞぉ!!五分の遅刻だ!!」

「すいません!!今すぐ取り掛かります!!」

とても文科系とは思えない会話内容だった。

 

#$%&@*?¥!!

 

人間の咆哮とは思えない声まで飛び交っていた。

 

そんなある意味地獄絵図ともいえる状況をこっそりと見ている者がいた。

請求者であるクロノだ。

せめて労いとして差し入れを持ってきたのだが、とても入れる状況ではない。

入ったら最後。捕食対象になりかねない。

「!!」

『無限書庫』の中にいる一人がこちらと目が合った。

「#$!!」

人ならざる雄叫びをあげながら、こちらに寄ってくる。

しかも凄い速度で。

今まで幾多の事件捜査をしてきたクロノだが、この時は別の意味で恐怖を感じていた。

両手に持っている買い物袋を引っ手繰られて、『無限書庫』を追い出された。

「……請求の量を妥協してみるか」

クロノは自身の身の為にも今後資料の量を減らす事を考えた。

翌朝。

時空管理局本局の『無限書庫』の入口。

「ご、ごくろうさん……」

クロノはユーノから資料を受け取るが、どこか震えていた。

執務官であり、魔導師ランクAAAクラスであり近い将来提督になるのでは?と囁かれている自分だがあそこまでぞんざいに扱われたのは初めてである。

「じゃあ、僕はなのはの見舞いに行ってから寝るよ」

「あ、ああ。そうしてくれ」

クロノはユーノのこれからの行動に異議を唱えるつもりはなかった。

 

「ユーノ君。眠そうだね」

なのはの病室に入って早々、ユーノは眠そうな顔をしているのを隠す事ができなかったようだ。

「うん。クロノの請求でね……」

「にゃはは。そうなんだ……」

『クロノの請求』と聞いただけで、なのはは事情を察した。

ユーノの頭はカクンカクンと揺れている。

「ユーノ君。無理しないで寝た方がいいよ」

「うん」

そう言うと直後に椅子に座ったまま眠っていた。

「早い……」

なのははあまりの寝るまでの早さに両目をパチパチと開いて驚く。

「何だか、わたしももうひと眠りしたくなってきちゃったよ」

なのはも欠伸をしてからベッドに背を預けて夢の世界へと飛び込んだ。

夕方となり、椅子に座って眠っていたユーノは目をパチリと開いた。

「あ、ここで寝てたんだ……」

なのははベッドですやすやと眠っている。

その寝顔を見ると、自然と笑みを浮かべてしまう。

すぐに真剣な表情になる。

(僕はまだ……、なのはを守れる力を手に入れていない)

拳を強く握ってユーノは病室を出た。

 

*

 

ユーノはマグカップに入っている酒を一気に煽った。

「ぷはぁ」

夕食である缶詰を開けて、フォークで突き刺して口の中に入れる。

隣にいるプロキオン(イマジンモード)は薪を燃えている炎の中に放り込む。

パチパチと燃える音が鳴る。

(魔導師で強くなる可能性を断たれた僕は純粋に『力』で強くなる事を。今持てる力全てを活かしきる強さを手に入れることを選んだんだ)

ユーノは見つめている掌を拳にした。

 

*

 

「あった!!」

フェイトが電光掲示板に映っている自身の受験番号を見て、歓喜の声を上げた。

本日は執務官試験の合格発表の日だ。

彼女は今回で三回目だ。

過去に二度不合格になっている。

なのはも杖を突きながらだが、会場に来ていた。

ユーノが念のためと思って車椅子を押していた。

八神はやてのリハビリは終了しており、今は普通に歩いていた。

アルフやヴォルケンリッターも見に来ていた。

「みんな、やったよ!!わたし執務官になれたよ!!」

「おめでとう」とお決まりな台詞しか出てこないが、フェイトに感激の言葉を与えるには十分なものだった。

フェイトはポケットから懐中時計を取り出す。

それは二年前に野上良太郎からハラオウン家の養子に向かう際にお祝いとして貰ったものだ。

(やったよ!良太郎!!)

一番この事を伝えたいのはここにはいない一人の青年だが、逢えないのならばいつか必ず逢える事を信じて前へ進む事を選ぶ。

「これで野上に顔向けできるな。テスタロッサ」

シグナムが懐中時計を見ている自分の背後から声をかけた。

「まだまだですよ。良太郎はまだ遠くにいます」

フェイトの視線には良太郎の背中が見えているのだろうとシグナムは予想した。

ユーノは二人のやり取りを見ていた。

(良太郎さんや侑斗さん、それにモモタロスさん達のような『強さ』はまだまだ遠いんだ……)

ユーノの力への探求はまだ始まったばかりなのだ。

 

「う~。やっぱりわたしも参加したい~!!」

なのはは病室で頬を膨らませて不満をこぼしていた。

「しょうがねーじゃん。オマエ病人なんだしよー」

「フェイトの合格発表の会場に行くのも本当は反対されていたんだけど、何とか上手く言って許可を貰ったくらいなんだよ」

ヴィータは容赦なく『諦めろ』と言い放つ。

ユーノはこれ以上のワガママは通じないと警告する。

「ごめんね、なのは」

フェイトは両手を合わせて申し訳なく告げる。

「……うん。しょうがないよね。ごめんね。ワガママ言っちゃって……。みんなは楽しんできてね」

なのはも諦めがついたのか、受け入れる事にした。

これから三人はフェイトの執務官合格のお祝いに出席するのだ。

なのはが重傷に遭った際は中止にしようかという声が出ていたが、なのはの「気にせずにやってもいいよ」という声で決行する事になったのだ。

そう言った当人だが、実際決行されると一人だけ除け者状態になる事に気付いてしまったので寂しかったりしていた。

三人は病室を出ると、なのはは一人残されていた。

「美味しいもの食べたいなぁ」

どんな料理が出ているのだろうと、なのはは想像する。

時空管理局の病食は決して不味くはないのだが、それでも健康管理が徹底されている料理なので飽きが来るものだ。

ある程度は身体が自由になったのでそうなると後は身体を動かしたくなるものだ。

「ユーノ君。来てくれないかな……」

なのはは今一番ここに来て欲しい人物の名前を呟く。

件の人物は今は皆と共に盛り上がっているはずだ。

「来ないよね……」

なのはは寂しげな表情を浮かべてからベッドに寝転がる。

コンコンとドアをノックする音が耳に入った。

なのはは身だしなみを整える。

髪やパジャマが着崩れていないかを確認する。

「どうぞぉ」

なのはがそのように言うと、ドアが開いた。

入ってきたのは両手に荷物を持ったユーノだった。

 

「ユーノ君……。どうして?」

なのはがそのように問いかけるのはユーノにしてみれば予測の範疇内なので驚いたりはしていなかった。

むしろ冷静にテーブルに持ってきた荷物を置いて、広げていく。

「なのはが一人で寂しがってるんじゃないかって、ね。みんなを代表して僕が」

「うぅ。否定できないよ」

そのように言われて、なのはは顔を赤くする。

図星だからだ。

「食事で注意は受けてる?」

「ううん。私元々外傷だったから内蔵とかは大丈夫だったんだって……。だから食べ物は何食べても平気だよ」

「よかった」

ユーノは遠慮なくなのはの前に料理を置いていく。

なのはに割り箸とフォークとスプーンと取り皿を渡す。

「うわぁ」

なのはの双眸が輝いていた。

「でもこんなにたくさんは食べれないよ。わたし」

「ああ、僕の分も含まれてるから心配しなくてもいいよ」

ユーノはちゃっかり自分の取り皿を手にしている。

「ユーノ君。食べてないの?」

「うん。入ってすぐに一式持たされて追い出されたんだよ」

「にゃははは。どう言ったらいいのかな。わたしとしては嬉しいんだけどね」

「そう?だったらいいんだけどね。さ、食べよう。ここまで飲まず食わずだからお腹すいちゃって」

「うん!いただきまーす!」

なのはは笑顔で目の前の料理を味わう事にした。

「もうすぐ、リハビリの最終段階なんだ」

「うん。もう歩いたり走ったりはできるけど、魔導師だからやっぱり……」

「魔法が使えて空が飛べるか否か、だね」

「うん」

なのはは取り皿をテーブルに置く。

真面目な話なので、ユーノも取り皿をテーブルに置く。

「なのは。聞いていい?」

「うん。なぁにユーノ君」

ユーノは凄く真面目な表情で、なのはを見る。

「なのははもう一度、空を飛んだり魔法を使えるようになりたいんだよね?」

「うん。そうだよ」

なのははユーノの質問に首を縦に振る。

「ということは、また同じ目に遭うかもしれないって事も考えてるんだよね?」

「え?」

ユーノの一言は、なのはの思考を停止させるには十分なものだった。

「どうなの?僕はなのはが真剣に考えた末にもう一度今の舞台に戻るなら反対しないし、このまま管理局を辞めて普通に生活する事も反対しない」

「ユーノ君?」

「でもね、そんな事も考えずにまた戻ろうとするんだったら僕は反対だね」

ユーノがなのはを見据えていた。

「ユーノ君……」

「なのは。時間はまだあるんだ。その辺りの事もゆっくり考えてみたほうがいいと思うよ」

ユーノはそう告げると、テーブルに乗っている取り皿を手にして料理を口に含んだ。

(これが僕が、なのはにしてあげられる最後の事かもしれないね)

ユーノは『なのはの魔法の師』という立場でしてあげられる事は数少なくなっているのは自覚していた。

そしてこれを最後と定義している以上、なのはが自分が満足する回答を出したのなら『巣立ち』という事になることも。

フェイトの合格祝いの打上の日から二日が経過した。

その間ユーノは『無限書庫』で業務に勤しみながら鍛錬に励んではいたが、なのはの見舞いには行っていない。

なのはが自身で考えて答えを出さなければならないから敢えて行かないようにしていたのだ。

クロノの請求がないので、『無限書庫』の空気は比較的穏やかなものだった。

(自分で言った手前とはいえ、不安だなぁ)

ユーノにしてみれば多分最も厳しい課題を出したと自覚している。

(多分、なのはは重傷に遭った時の事を思い出してるはずだから苦しんでいるはずだ……)

ユーノには、なのはがそ

・

れ

・

に恐怖をしている姿が安易に想像できた。

(なのは。もう一度同じ舞台に戻るなら、これは絶対に乗り越えなきゃ駄目なんだよ)

ユーノは心を鬼にして、なのはが回答を出す事を待った。

 

時を同じくして、なのはが入院している病室。

「う……ううう……」

ベッドの中でうずくまっていた。

両手で胸を押さえながら、なのはは内にある恐怖と戦っていた。

彼女の脳裏には、自分が撃墜された事が蘇っていた。

(いやだ……。いやだいやだ。怖いよ……。助けてよ……)

視界が真っ白になり、両目を開いた時には泣きそうな表情をしているヴィータが映っていた。

全身に激痛が走り、自分の身体なのに自分のものではないような感じがした。

『死』というものを初めて実感した時でもあった。

「怖いよ……。いやだよ。死にたくないよ……」

全身を震わせて両目には涙が浮かび上がっている。

病室は消灯しているので、辺りは暗い。

室内の闇がなのはの内の闇を現しているようにも思えた。

リハビリをこなせば身体は確かに治っていく事は実感していた。

だが、同時に心に負った傷が癒えたわけではないのだ。

リハビリによる痛みは治療のため、復活のためだ。

だから今、心に起こる痛みは心に負った傷を治すためのものだと思うようにする。

「絶対に逃げない……。絶対に……」

身体をうずくまらせながらも、なのはは呪文のように呟いた。

真の意味で復活する為に。

 

なのはの異変にフェイトとヴィータが見逃すはずもなく、不安な表情を浮かべていた。

「なのは。どうしたんだろ……。目の下にクマが出来てたよ」

「それだけじゃねーよ。何かに怯えてたようにも見えてたしな」

なのはの見舞いのあと、二人は休憩室でジュースを片手に話していた。

昨日まではそんな事はなかった。

回復が順調に向かって、復帰できる事を心待ちにしていたなのはの表情が急に暗くなったのだ。

昨日の内に何かがあったに違いないと推測するのは別段難しい事ではなかった。

「昨日、なのはと会ったヤツって……」

「ユーノしかいないよ」

ヴィータが思い出しながらフェイトは結論を導き出した。

「じゃあ、ユーノが何か言ったのかな?」

「ありえねーだろ。アイツ、基本なのはに甘いし」

「そうだよね……。でもハッキリさせておく必要があるから本人に直接聞いてみようよ」

「ま、そーだな」

フェイトの提案にヴィータは賛同した。

二人は『無限書庫』の入口前に立っていた。

「クロノが言ってたんだけど、たまにここって事件現場よりおっかなくなるらしいよ」

「あたしもはやてから聞いた。司書全員が人じゃなくなってるって言ってた」

『無限書庫』とは時空管理局の中では影に近い部署だ。

司書達はいくら功績となる事をしても、表彰される事はない。

表彰された場合、前線に出ている者達から無用な因縁を吹っかけられる事は確実だろう。

その辺りを考慮してか、それとも『無限書庫』が機能して歳月が浅いため軽視されているのかはわからないが上層部は『無限書庫』の功績を表立って認めるような事はしないのだ。

その辺りが司書達にも知れ渡っているので、辞めていく司書達も少なくないという。

扉を開けて、二人はこっそりと覗く。

司書達は鬼気迫るような雰囲気を纏ってはいなかった。

平和なのだろうと二人は推測する。

「大丈夫そうだね」

「ユーノを呼んでもらおう」

二人は『無限書庫』の扉を開き、足を踏み入れた。

そして無重力の中を巧みに身体を操り、最寄の司書の元まで移動する。

「すみません。スクライア司書はいらっしゃいますか?」

フェイトが訊ねる。

「スクライア君ならあそこにいるよ。彼は身なりと行動で『無限書庫』

ここ

では目立つからね」

司書の指差す方向にユーノはいた。

彼の周りには宙に浮き、独りでにページがパラパラと動いている数十冊の本が囲まれており、役目を終えた数十冊の本は閉じて、全て本棚へと戻っていった。

「スクライア君!友達が来てるよー」

司書がユーノを呼ぶ。

「わかりましたー」

ユーノは即座に返して、フェイトとヴィータの元まで移動した。

「で、なに?僕に何か用?」

三人は現在、休憩室に移動しておりフェイトとヴィータはユーノと向き合うかたちで座っていた。

「今日、お見舞いに行ったんだけどね……」

「なのはの様子が変なんだよ。何かに怯えてるみてーにな」

フェイトとヴィータの説明をユーノは黙って聞いている。

「なのはは今戦ってるんだよ。たった一人で乗り越えなきゃいけないものとね」

ユーノは知っている口調で静かに告げる。

「ユーノ?」

「オマエ何か知ってるんだったら、あたし等にも教えろよ!」

フェイトはいつもと違うユーノの様子に戸惑い、ヴィータは元々気の長い方でもないので苛立ちを露にしていた。

「確かになのはの身体は完治の方向に向かっているよ。順調にね。でもね心に植えつけられた『恐怖』を乗り越えているわけじゃないんだ。違う?」

「それはその……」

「ユーノ、まさか……」

ヴィータはユーノの言葉につまり、フェイトはなのはの異変の原因を知った。

「………」

ユーノが何も言わない事が、なのはの異変の原因を作ったのが彼だという証明になった。

「なのはの事を本当に思うなら、今は何もしないであげてほしいんだ。これはなのは自身の戦いなんだ。避けて通ったらきっとまた今回みたいな事になる……」

ユーノはそう告げると、椅子から立ち上がって休憩場を出た。

「あたし、アイツの事よく知らなかったのかもしれねー」

「ユーノも良太郎みたいな事ができたんだ……」

フェイトとヴィータはしばらく顔を見合わせ、そのまま動かなかった。

 

数日後。ユーノはなのはに呼び出されていた。

場所は病室。

なのはの現在の衣食住の拠点というべき場所だ。

病室に入ってから五分が経過している。

互いに一言も発しない。

ユーノは、なのはの言葉を待っている。

なのははユーノに自身の『覚悟』を伝える言葉を再確認していた。

「あのね。ユーノ君」

なのはが真剣な表情でユーノを見る。

その双眸には『決意』と『覚悟』が含まれていた。

 

「わたし。やっぱり戻りたい!あの青い空を飛んで大切な人達を護りたい!」

 

短く告げた。

(やっぱりね)

ユーノにとって、なのはの回答は予想通りの内容だった。

「もし戻っても、また前みたいに遭うかもしれないよ?いや下手をすれば死んでしまうかもしれない。それでも戻りたい?」

ユーノも真剣な表情でなのはに確認するように訊ねる。

「その事を考えた時。とても怖かった……。ユーノ君の言うように管理局を辞めて普通に暮らす事もできるって思ったけどそれだと、わたしがわたしを許せなくなるよ」

「自分が自分を許せない?」

「うん。わたしは誰かに強制されて管理局にいるんじゃないもん。わたしの意思でいるんだよ。それなのにわたし自身がその事から逃げるなんてやっぱり嫌だよ。死ぬのは怖いけど、それに怖がってばっかりじゃ何にも出来ない。でしょ?ユーノ君」

なのはの回答は間違いなく自身の『恐怖』と向き合った末の結論だとユーノは判断した。

「なのは。よく一人でそこまで答えを出せたね」

先程までの真剣な表情とは打って変わってユーノは笑みを浮かべていた。

「その気持ちと覚悟。絶対に忘れちゃ駄目だよ」

ユーノは自然と右手をなのはの頭の上に置く。

「うん!」

なのはは顔を赤らめながらも、笑顔で頷いた。

 

*

 

薪がパチパチという音を鳴らしながら、炎を燃え盛らせている。

(なのはが導き出した答えは僕にとっても十分な励みになったんだ。そして僕は今、なのはが導いた答えの事をしている……)

ゼロノスカードを用いて、周囲の人々が自分に関する事を忘れていくのは正直怖い。

そしてゼロノスカードを使い切った時、どのような末路を辿るかは知らない。

影も形もなくなって消滅するかもしれない。

そう考えると、使う事自体に躊躇いを感じてしまう。

(でも僕がAゼロノスになったのは僕の意思なんだ。あの人達が身を挺して助けてくれた命を時間を、僕は僕が正しいと思う方向に使う!)

これは自分が本当にやりたかった事だ。

そこに恐怖が付きまとっていても、逃げる気はない。

逃げた時は、なのは同様に自分自身を許す事ができなくなるだろう。

ユーノは缶詰の残りを食べきる為に、フォークに突き刺して口の中に放り込んだ。

 

*

 

なのはが自身の『恐怖』を乗り越えてリハビリをこなしてから一週間が経過して、最終日となっていた。

なのはは現在外にいた。

空は雲ひとつない快晴である。

左手にはレイジングハート・エクセリオンが握られて、服装はパジャマではなく白がメインのバリアジャケットだ。

主治医を始めとして、時間の空いている殆どの身内がそこにはいた。

「それでは始めてください」

「はい!!」

主治医の言葉に、なのはは頷いて両目を閉じて深呼吸をする。

そして、意識を集中する。

自分の内にあるリンカーコアが一年振りに目覚めようとしていた。

(大丈夫だよ。わたし達

・

はできるよ)

なのはは自分のリンカーコアに語りかける。

リンカーコアは輝きを増していく。

(行こう!!)

なのはの意思とリンカーコアが完全に同調した。

『フライヤーフィン』

レイジングハート・エクセリオンの紅玉部分に名称が表示される。

なのはの両足首付近に桜色の双翼が出現する。

ブワッと音を立てながら風が吹き、なのはは地上から空へと場所を移した。

周囲を見回す。

一年ぶりの懐かしい視点だった。

見上げるわけではなく、見下ろすでもなくその場にいるだけで青い景色を見る事が出来るこの位置。

『一年ぶりのご感想をどうぞ』

「最っ高!!これからもよろしくね。レイジングハート!」

レイジングハート・エクセリオンの台詞に対して、なのはは満面の笑みを浮かべて返した。

『はい。マイマスター』

なのはは地上に目を向けると、身内が全員で諸手を挙げて喜んでくれていた。

「みんなぁ!!ありがとぉぉぉぉ!!」

なのはは両手を振って、感謝の言葉を述べた。

喜んでくれる身内の群れの中をはぐれている人影が見えた。

ユーノだ。

なのはは早速、速度を上げてユーノの元に着陸する。

「ユーノ君!わたし、帰ってこれたよ!」

「うん見てた。おかえり、なのは」

なのはは自身の復活を自覚して笑顔を浮かべ、ユーノもまたその事を我が事のようにして喜んだ。

「これで晴れて巣立ちの時が来たね」

「ふえ?巣立ち?」

なのははユーノが何を言っているのかわからない。

 

「うん。僕がなのはに教えてあげられる事はもうないからね。だから巣立ち---卒業だよ」

 

「そんなユーノ君。わたしまだ色々と教えてもらいたい事もあるよ。だからそんな事言わないでよ!」

なのはとしてみればいきなり卒業といわれて、嬉しいどころか寂しさと納得できない事の方が幅を占めていた。

「僕が最後にしてあげられる事も、なのはは乗り越えたじゃない。だから本当に僕はなのはにしてあげられる事はないんだ」

狼狽しているなのはとは対照的に、ユーノは穏やかで落ち着いていた。

「だからなのは。もっと胸を張っていいんだよ。自分の恐怖を乗り越えるって口で言うのは簡単だけど、誰でも出来る事じゃないからね」

ユーノは、なのはを諭すと歩き始めた。

「ユーノ君!ありがとう!!本当にありがとう!!」

ユーノは振り返らずに、左手を軽く挙げて返した。

なのはは振り返ってくれると思ったが、ユーノは一度も振り返らなかった。

 

*

 

新暦0070年。運命の歯車が遂に動き出す。

 




次回予告

    十四歳となった少年は苛立ちを感じていた。

    自身が望む強さが何なのかを迷い始めていたのだ。

    そんな時、とある次元世界での発掘の依頼が舞い降りた。

    第十一話 「0070年 回りだす歯車」
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