仮面ライダーLYRICAL A’s to StrikerS 作:(MINA)
戦地となっている村から数キロ離れた街にあるペーシモの屋敷。
彼の私室の床に赤い液体---血がじわーっと広がっていた。
短剣で腹部を挿されたペーシモがうつ伏せになって倒れていた。
現在アンビシオンはカタカタと端末を操作していた。
「お前がこの街を始め、あの村にも爆破装置を仕掛けてあるのは既に調査済みだ。もちろん停止するためのコードもな」
アンビシオンはそう告げると、端末を操作する指を停める。
停止コードを入力して爆破装置を停止させたからだ。
「だが俺達の方も無事ではないな……」
ペーシモを瀕死に追い込んだのはいいが、こちらの被害も半端ではなかった。
構成員は九割が地に伏しており、残りの一割は戦意を喪失して逃亡。
この時の為に購入した機械兵器二十体は大破。
契約していた二体のイマジンも倒されている。
立て直すには相応の時間が必要になることは仕方ない事だ。
だが端末のモニターでは停止のコードが消去されていく。
「何!?」
アンビシオンが驚愕の表情を浮かべて、もう一度端末を操作する。
だが全く受け付けない。
誰かはわからないが、完全に端末のコントロールを奪っているのだ。
私室に大きく設置されているモニターは戦地から『SOUND ONLY』へと切り替わった。
「何だこれ?」
『はぁーい。この端末を操っている方はどなたですかぁ?この端末の持ち主であるペーシモさんですかぁ?それともそのペーシモさんの利権を奪おうと画策していたアンビシオンさんですかぁ?』
この声に憶えがあったのはアンビシオンの方だった。
そう自分達に機械兵器を売りつけたおさげで眼鏡をかけた妙な格好をした女性だ。
『まぁどちらでもいいですけどね~。実はですねぇ。今から一分以内に私がお売りした子達に組み込まれた自爆装置が作動する事になります。一体が爆発しても家を二、三軒は軽く粉砕する事が出来るほどの威力がありますよ~』
声の女はおっとりしながらもサラリと嗜虐的な事を言う。
「何だと!?自爆装置が搭載されているなんて聞いてないぞ!!それに自爆の起動をそっちが握っているなんて」
アンビシオンは狼狽を隠さずにはいられなかった。
『あれ~。でもご購入の際に言いませんでしたっけ~?何が起こっても責任は負いませんって~』
確かに声の主の言うとおりだった。
機械兵器を破格の値段で購入する際の『条件』だった。
「嵌めたのか……」
アンビシオンはモニターを睨みながら、唇をかみ締める。
爆発までの秒読みは既に始まっているので一秒も早く、爆破圏内に出ることを選んだ。
『あ、あと言い忘れましたけどぉこの屋敷を始点にして設置されている爆破装置もコントロールは私が奪いましたので停止コードは役に立ちませんよ~。こちらも既に起動していますので逃げるのなら頑張ってくださいね~』
おっとりしている声だが聞き取り方次第では人の命を弄んでいるようにも捉えれる内容だった。
声の主の宣言どおり、ペーシモの屋敷は爆発した。
ソルプレーザを撤退させた連合軍は勝利に浸っていた。
ある者達は抱擁を交わす事で『生』に対する実感を味わっていた。
ある者達は人質に取られている家族を取り戻すために収容されている場所へと向かった。
シリウスフォームからプロキオンと分離したAゼロノスはそのような光景を浮かべて安堵していた。
フィリオやファーティ、ドロールやグランベールも酔いしれていた。
「みんな、喜んでますね」
プロキオンは喜んでいる人々を見て、笑みを浮かべていた。
「これでこの村の脅威はなくなったんだ。当然だよ」
Aゼロノスは労うようにプロキオンの左肩を掴んだ。
「スクライア君!」
喜びに酔いしれていたフィリオが笑顔で駆け寄ってきた。
その表情はまさに高町なのはそのものといってもよかった。
「ありがとう!」
ただ短く感謝を込めて深く頭を下げてから母と妹がいる収容されている場所へと駆けていった。
「お父さん!早く早く!」
ファーティを促すように呼んでいた。
「お主、とうとう決めたのじゃな」
「ええ。僕はこれからもこのカードを使って彼と共に戦っていきます」
グランベールが杖を突きながら、Aゼロノスの隣に立つ。
Aゼロノスは『誓い』とも『覚悟』ともいえる台詞を吐く。
グランベールは、はしゃいでいるイマジン---プロキオンを微笑ましく見る。
「お主にも共に歩いてくれる者がいるのじゃな」
「はい」
村に平和が戻ったと誰もが思った瞬間だった。
爆発音が鳴り響き、人の悲鳴が聞こえてきた。
「一体何が!?」
Aゼロノスは爆発音の方向へ顔を向けると、爆煙がたっていた。
家が粉々になり、その近くにいた人々は全身から煙がブスブスと出ていてうつぶせやあお向けになって倒れていた。
あちこちから爆発が起こり、その度に悲鳴が起こる。
「ドロールさん!人質になっている人達はどこに収容されているんですか!?」
「え、ペーシモの屋敷だけどよ……」
「ここから距離は?」
「車で五分ぐれぇだ」
自動車で五分ならば歩きなら軽く二、三倍の時間がかかる。
空の空間の一部が歪んで、線路が地上にまで敷設されていく。
空間から遺跡に放置されていた『時の列車』であるANOTHERライナーがAゼロノスの側で停車した。
「プロキオン!」
Aゼロノスはプロキオンを呼んでからAライナーに乗り込む。
三両目であるAライナー・マガジンの口扉が開いて、滑り台が設置される。
T-REXの頭部を髣髴させる青い装甲車輌---レックスランダーがバックで降りてからそのままペーシモの屋敷のある方向へとタイヤを回転させていた。
「一体どうしたんですか?急に車に乗って……」
「フィリオやファーティさんは今、ムッティさんやスールのいるペーシモの屋敷に向かっている。その間の道が爆破装置の爆破圏外とは思えない……」
Aゼロノスは左側に数個あるボタンの一個を押す。
直後にメインモニターにペーシモ屋敷から伝導されている爆破装置のラインが映し出されていた。
「今走っている道もラインに含まれてます!」
「フィリオ達がこの爆発に巻き込まれてなければいいけど……」
「あのおデブのおじさんのお家が爆発の始まりなら人質に取られている人達は……」
「………」
プロキオンの予想に対してAゼロノスは何も言わなかった。
ドゴォォンという爆発音が鳴り響き、地中に埋め込まれているものが作動したのだ。
レックスランダーでも車体が一瞬だが傾くほどの威力だ。
「ぐっ!」
「うわっ!」
ズシャンという音を立てながらも、レックスランダーは体勢を立て直しながら前進する。
「降りるよ」
「はい!」
これ以上は車輌に乗って前進しても歩いてもあまり変わりがないと判断した。
レックスランダーのキャノピーが開いて、一人と一体は降りる。
地に足着くと同時にゴゴゴゴゴという音が耳に入ってきた。
「「!!」」
ドオオオオオンという音が一人と一体の耳に入り、その直後に更に大きな爆発音が鳴り響いた。
その日一つの街と一つの村が滅び、三つの組織が壊滅した。
空は茜色から漆黒となり、月と星が光り輝いていた。
「う……ぐぐぐぐ……」
仰向けになって倒れていたAゼロノスがよろめきながら起き上がる。
身体に付着している土を叩く。
「プロキオン、大丈夫!?」
隣で仰向けになっているプロキオンを呼ぶ。
「だ、大丈夫です……」
よろよろだが起き上がる。
一人と一体は周囲を見回す。
あるのは幾数の死体。
ペーシモの屋敷に訪れると屋敷は瓦礫の山と化していた。
そこからはみ出ている赤い液体が何なのかはすぐにわかった。
生存は絶望的だろう。
「……行こう」
Aゼロノスはプロキオンを連れて、レックスランダーに乗り込んで村へと戻った。
村に戻っても、生存者がいるとは思えないくらい悲惨な状況だった。
道に倒れているのは死体で転がっているのは瓦礫ばかりだった。
「生きてる人いるんでしょうか……」
プロキオンが弱弱しく訊ねる。
「わからないよ……」
Aゼロノスはよろよろと歩きながら、生存者を探す。
ピクピクと動く人影が見えた。
肥満体型---ドロールだ。
「あの人生きてます!」
プロキオンが大声で言う。
「ドロールさん!しっかり!」
Aゼロノスがドロールを起こす。
「よ、よぉ。お前か……。その姿だったから助かったみてぇだな……」
ドロールがAゼロノスを見て笑みを浮かべる。
「他の……奴等は?」
ドロールの問いに首を横に振るAゼロノス。
「そ、そうかよ……。グラン爺が死んじまった以上、この村の真実を伝えるのは俺だけじゃねぇかよ……」
「村の真実?」
ドロールの一言にAゼロノスは関心を持った。
「いいか。この村は普通の村じゃねぇ……。この村は……この村は……」
重要な事を言う前に、ドロールは息絶えた。
ドロールを地面に寝かしてからAゼロノスは空を見上げた。
両拳を震わせてから、右腕を振り上げて地面に叩きつける。
地面には拳の二倍くらいのクレーターができた。
「うおわああああああああああああああ!!」
一人の戦士は戦場の跡地で獣のような咆哮を上げた。
仮面ライダーANOTHERゼロノスの初陣は辛い結果となった。
*
その後、僕とプロキオンは自力でミッドチルダへと戻った。
その直後に僕は肉体と精神が限界に達したため、入院をする事になったわけで。
*
ユーノ・スクライアは心身をリラックスしているかというとそういうわけにはいかなかった。
「さてと、コレはどういうことか話してもらえるかしら?ユーノ君」
ユーノが入院している病室には現在シャマル、ザフィーラ(人型)、アルフ(幼児)とベッドで寝ているユーノとミッドチルダに到着する前に予め主に指示を受けて白い毛並みに青いメッシュが入っている風変わりなフェレットに変身したプロキオンがいた。
「あと、この妙なフェレットもな」
アルフがプロキオンを掴んでいる。
シャマルが手に持っているのはゼロノスカードのケースである。
ユーノがICUに入る前に、シャマルが失敬していたのだ。
「このケースの中の空間から察するに一枚は使っているわね。コレを使ったのはユーノ君?」
シャマルが確認する為にユーノに訊ねる。
「内容次第では主達には伏せておいた方がいいかもしれんな」
腕組をして成り行きを見守っていたザフィーラが口を開く。
「それでユーノ君。話してくれないかしら?このカードケースの事、そしてアルフが掴んでいるフェレットの事もね」
シャマルが代表して問い詰めてきた。
ユーノとしては口を噤んだままやり過ごしたかったというのが本音だ。
だがこの状況では自分の方がはるかに不利だし、最悪この事を高町なのは達に報告されでもしたら自分がこれからやろうとしている事が頓挫してしまうのは明白だ。
「わかりました。全てお話します」
ユーノは自分の身に起こった事を三人に全て打ち明けた。
シャマルとアルフは複雑な表情を浮かべており、ザフィーラは表情には出ていないがどのような言葉をかければいいかわからないようだった。
「アンタ、イマジンだったんだね……」
「はい。僕はユノさんと契約を交わしたプロキオンです」
掴んでいるフェレットを見ながらアルフがしみじみと呟く。
「とてもではないが、主達には報告する事は出来んな」
ザフィーラの言うように迂闊に八神はやて達に報告したら、規則に従っての措置が行われる可能性が十分に考えられる。
最悪ゼロノスカードとAライナーが没収される事も有り得る。
そして現在次元世界に蔓延るイマジンと戦い、そして倒す事が出来る者はユーノしかいないのだ。
「ユーノ君、さっき言ったことを本気でするつもりなの?」
これからユーノがやろうとする事は明らかに管理局が定めた法律に抵触する事だ。
「本気です。でも相手は巨大権力。正当な方法でいっても簡単に潰されるのがオチですからごくわずかの人数で内々にやっていくしかありませんね」
そうなると、ここにいる三人は比較的目立たない立ち位置にいる。
シャマルはユーノの瞳に今までにない『決意』と『覚悟』を見た。
そしてその『決意』と『覚悟』を瞳に宿した人物を自分は知っていた。
桜井侑斗と野上良太郎だ。
この二人と同じ場所に彼は向かおうとしているのだとシャマルは感じた。
それは同時に『魔導師としてのユーノ・スクライア』はもういないものだと解釈できてしまう事でもあった。
シャマルにはわかっていた。
恐らくアルフとザフィーラも理解しているのだろう。
これは彼が自分で考えて望んだ事なのだと。
そしてこれは彼にしか出来ない事なのだと。
内々で鍛錬に付き合ってきたからこそわかるようになっていた。
「わかったわ。ユーノ君がこのカードを持っていた事やそこのプロキオン君がイマジンだという事、そしてユーノ君がこれからやろうとする事は、はやてちゃん達には伏せておくわ」
「その方がいいです。言えば確実に参加したがるでしょうし……」
シャマルの案にユーノは賛成する。
今からやろうとしている事は時空管理局の『闇』に触れる可能性もあるので、『夢』を叶えようとする彼女達の障害になることは必至だ。
シャマルはユーノにカードケースを返す。
「でもユーノ。アンタ一人にそんな危ない道を行かせる気はないよ」
プロキオンをユーノに渡しながら、アルフは強気な笑みを浮かべる。
それは『自分も付き合う』という表れだった。
「そうだな」
ザフィーラも短くだがアルフと同じ意思表示をしていた。
「アルフ、ザフィーラさん……」
ユーノとしては嬉しくもあるが、同時に申し訳なくも感じる。
何せ『主』を裏切る事に近い行為になるからだ。
「フェイトちゃんやはやてちゃんとの関係を思っているなら、今更って感じになるわよ」
シャマルは『何を今更』というようにユーノに告げる。
「三年間も内々にしてきたのよ。これからは内容が少し変わるだけじゃない」
「内容が少し変わるって下手をすれば犯罪者になりますよ!?それでもいいんですか?」
シャマルがしれっと言う事に対してユーノは事態の深刻さを再認識させようとする。
「今の次元世界で必要なものって優秀な魔導師よりもイマジンを倒せる存在だと思うの。ユーノ君はその力を手にした。そしてソレを手にしたユーノ君をサポートできるのは私達だけだと思うの」
シャマルはユーノに同情しただけで賛同しているわけではない。
彼女は自分をサポートする事で直接的ではないにしろ、主を始めとして人々を守ろうと考えているのだろう。
「『無限書庫』のみんなも案外参加してくれるかもしれないねぇ。みんな、アンタに惚れ込んじまってるしそれに前線に出てる連中を出し抜けるとか思って喜んでやってくれるかもしれないよ」
アルフの言っている事は決して脚色でも誇張でもない。
時空管理局の内勤と前線を主とする武装局員は決して折り合いがいいとはいえない。
武装局員は内勤者を軽視し、内勤者は武装局員のサポートをしながらも評価されない事に不満を抱えたりしているのが現実だ。
特に内情を知らない者達が一番陰口を叩くとなると、『無限書庫』にあたる。
『無限書庫』のスタッフが育たないのは業務内容よりもそういった心無い誹謗中傷で精神的に参ってしまうのが主な原因といってもいい。
武装局員は内勤者を中傷したり、八つ当たりすることで精神安定になるかもしれないが内勤者には鬱憤を晴らす捌け口がないのが現状だ。
「賛成すると思う?」
「賛成するんじゃない。前線出てる連中が手も足も出ないイマジンを自分達の身内が戦ってるんだからさ、内心いい気分になれると思うよ」
ユーノがAゼロノスとして戦う事が『無限書庫』スタッフの励みになるというのも妙な話だった。
「みなさん……」
プロキオンは三人を見ながら感激すると同時に、ユーノの味方になってくれるのは自分だけではないと確信した。
その後、なのは達も時間が空いていれば見舞いに来てくれた。
ユーノはもう今まで纏わりついていた憑き物が落ちたように、表情が晴れ晴れとしていた。
だがその表情の裏には並々ならぬ決意があったことを彼女達は知らない。
『魔導師』ユーノ・スクライアが死亡し、『仮面ライダーANOTHERゼロノス』ユーノ・スクライアが確実に誕生した事も。
*
パチパチと薪が鳴り、炎がゆらゆらと燃えている。
毛布に包まったユーノは空にしたマグカップを地面に置く。
毛布を払いのけてから、眼前の墓標の前に立つ。
一つは村の人々とドロール一家を纏めた慰霊碑。
中央にあるのは、なのはに瓜二つの少女---フィリオことフィーユの墓標。
そして最後の三つ目は『魔導師』としての自分の墓だ。
何故あの村が滅ぼされなければならなかったのか、犯人は誰なのかもわかってはいない。
だがそれでも小さくではあるが、着実に一歩ずつ進んでいるのも確かな事だ。
『プランAZ』が動いている以上、もう後には退けない。
ただただ前に進むしかない。
先に眠っているプロキオン(イマジン)に毛布をかけてあげながら、ユーノは気を引き締めた。
ユーノ・スクライア。
時空管理局データベース『無限書庫』司書長。
司書の傍ら古代史の論文を発表、学者としての実績を重ねる。
そして……
そして仮面ライダーANOTHERゼロノスとして次元世界の『時の運行』を守る戦士として戦う事を選ぶ。
次回予告
0072年となり、Aゼロノスは『青い狩人』と呼ばれるようになる。
その青い狩人を単身調査する者がいた。
彼は真実に辿り着く事が出来るのか?
第十九話 「0072年 訓練士学校」