仮面ライダーLYRICAL A’s to StrikerS   作:(MINA)

19 / 20
青い狩人
第十九話 「0072年 訓練士学校」


新暦0072年6月。

ミッドチルダも例外ではなく、この時季の温度は高い。

室内はどこもかしこも冷房が行き届いていた。

外からセミの鳴き声が鳴いている。

時空管理局武装隊ミッドチルダ北部第四陸士訓練校。

学長室には一人の青年と女性が机に書類を広げていた。

「もう夏ですね……」

青年は向かいに座っている女性の独り言のように呟く。

一匹の白色の毛並みに青色のメッシュが入ったフェレットが窓から景色を眺めていた。

「ええ。そうね」

時空管理局第四陸士訓練校の学長であるファーン・コラード三佐がそのフェレットの仕種が可愛いため、笑みを浮かべながら相槌を打った。

青年---ユーノ・スクライアは机に乗っかっている書類の内容をコラードに話していく。

コラードはユーノが話す内容に質問をしながらも、聞いていく。

彼がここに訪れたのはいわゆる訓練生が所持する教本についてだ。

内容に不備(誤字、脱字、不適切な表現)がないかの確認も彼の仕事だ。

また新版を作成するにあたってどの辺りを重点的にすべきかなどの打ち合わせもかねている。

話が終わると、コラードは紅茶を淹れてくれた。

「ありがとうございます」

ユーノは礼を述べてから、一口含む。

「イマジンが蔓延るようになってから、どのくらいになるかしら……」

「『0069年の悪夢』からですと三年になりますね……」

正確にはもっと前から存在しているが、その事を告げても何の益にもならないとユーノは判断して口を噤む。

「そう。三年になるのね……」

コラードは決して生徒や教官達の前では見せない沈んだ表情を浮かべていた。

三年前の事件の殉職者にはこの学校から卒業した者達もいたからだ。

「『青い狩人』が現れるようになってからは、『青い狩人』がイマジンを倒す事ができる唯一の存在と世間では定着されているのよね」

「そうですね……」

ユーノは特に表情を変えずに返事する。

『青い狩人』。

仮面ライダーANOTHERゼロノスは現在そのような通り名で世間に浸透している。

神出鬼没でイマジンが現れるところ、必ず現れて狩ることから『狩人』と呼ばれている。

「一体何者なのかしら……。どう見ても一般人が戦っているとは思えないもの」

「どういう意味ですか?」

「私も伊達に貴方の幼馴染が務めている戦技教導隊にいたわけではないわ。あの『青い狩人』の動きは一般人のソレではないわね」

コラードは学長になる前は高町なのはが属している戦技教導隊に属していた。

「あの動きは無駄がないわ。無駄を排しながら的確に相手を仕留める事を主においている。魔力に依存している魔導師ではまず出来ない動きね。魔導師の欠点や短所を逆手に取っているといった方がいいわね」

窓の景色を見ていたフェレット---プロキオンがユーノの左肩に乗っかる。

(がくちょうさん。凄いですね。僕達の動きをそこまで見てるなんて……)

(そうだね。元とはいえさすが戦技教導隊ってことはあるね)

プロキオンとユーノは違った二人だけの回線を開いていた。

この回線は契約者とイマジンの間柄のみに発生するものであり、外部から入り込む事は原則不可能である。

「そういえばこの後フェイトも来るのだけど知ってる?」

「まぁ話くらいは聞いています」

恐らく新設する部隊の事だろうとユーノは高を括る。

「それではまた何かありましたらお伺いしますのでその時はよろしくお願いします」

ユーノとプロキオンはコラードに一礼をしてから、学長室を後にした。

 

 

時空管理局査察官個室。

ヴェロッサ・アコースが上着を脱いで、モニターと睨めっこをしていた。

モニターに映っているのAゼロノスとSゼロノスとプロキオン(イマジン)だった。

あらゆる角度から徹底的に調査してみるがめぼしい結果はない。

本当に神出鬼没としか言いようがない。

イマジン現れるところ必ず現れて狩る故に『青い狩人』と呼称されている仮面ライダー。

あとわかっていることといえば、イマジンが頻繁に出現するこの一年くらいから現れたという事だろう。

それだけでも『0069年の悪夢』の際には出現していないだろうと推測は出来る。

もし存在していればそのイマジンを倒していたはずだ。

「正直、管理局でお手上げな相手を倒す以上は『英雄』と呼ばれてもおかしくはないんだけどね」

ヴェロッサが個室である事をいい事に独り言を言う。

昨年から個人で調査しているので既に一年経つ。

「何かヒントがあるはずなんだ。何か……」

ヴェロッサは髪をかきあげながら、自分が相手の立場だったらどうするだろうという想像をする。

そこから何かヒントが得られるかもしれないからだ。

 

 

学長室から出たユーノは腕時計を見て、昼時だと判断して食堂へと向かう。

だが食堂はまだ開放されておらず、ユーノは入口前においてあるカップ麺が陳列されている自動販売機から二つを購入する。

自動販売機の脇には割り箸が置かれており、『ご自由にお取り下さい』と書かれていた。

割り箸を二本抜き取る。

隣にはポットがあり、沸騰していた。

カップ麺の蓋を開け、どぼどぼと中に注ぐ。

ちなみにカップ麺はユーノはカレー味でプロキオンはシーフード味だったりする。

蓋をテープで閉じるとユーノは上着の胸ポケットに割り箸を入れて、左右の手で淹れた湯をこぼさないようにカップ麺を持って屋上へと上がろうとする。

「ユーノ」

声をかけたのは執務官制服を着たフェイト・T・ハラオウンだった。

「フェイト。今来たの?」

「フェイトリアンさん。こんにちは」

前もって知っている情報なので、ユーノは平静でいられる。

プロキオンはフェイトを過去に見た洋画の登場人物の名前と混ぜ合わせて呼んでいる。

「ロッキー。フェイトでいいよ。フェイトリアンは長いって」

「そうなんですか?フェイトリアンさん」

フェイトは苦笑しながらもプロキオンに呼び方の矯正をしようと試みるが、意味はなかった。

「コラード学長に会いに来たってのはわかるけど、もしかして新設予定の部隊のため?」

高を括っていた内容をぶつけてみる。

「うん、まぁね。ユーノは?」

フェイトはユーノがここにいる理由を聞かされてはいない。

「僕は教本の打ち合わせ、かな」

ユーノは短く内容を打ち明けた。

「そうなんだ。それでこれからは?」

「屋上で昼食をとってから本局に帰るよ。今日は特に急な請求もないからね。まったりと過ごすつもり」

ユーノはこれからの予定を告げてから屋上へと上っていった。

 

学長室に入ったフェイトは軽く旧交を温めてから、窓から見える外の景色を眺めていた。

「新人さん達、みんな元気ですね」

「ええ。今年も元気な子達が揃ったわ」

フェイトは眺めながら感想をもらし、コラードは机に座ったまま答えていた。

「七年前の貴女達に負けず劣らずのやんちゃな子達もいるわよ」

コラードは七年前のフェイトを思い出しているようだ。

「はい」

フェイトが答える選択肢はこの一つしかない。

「まぁ貴女となのはは、たった三ヶ月の短期プログラムだったけど」

「その節はお世話になりました」

ドアを叩く音が聞こえた。

「どうぞ」

コラードが入るように促す。

入ってきたのは陸士官制服を着た眼鏡の女性と私服で赤髪の少年だ。

「失礼します」

少年が先に声を出した。

「あーどもです。本校通信科卒業生シャリオ・フィニーノ執務官補佐でっす!配置換えになりましたー」

眼鏡の女性---シャリオが自身の近況を告げながら少年の背中を押しながら学長室に入っていく。

「知ってるわよシャーリー(シャリオの事)。貴女もやんちゃだったから。それにそちらは……」

コラードは少年を見る。

 

「はい!エリオ・モンディアルです!」

 

少年---エリオは敬礼をしながら自己紹介をした。

「今日は見学の許可をいただきまして本当にありがとうございます!」

エリオは見学の機会を設けてくれた事に感謝の言葉を述べる。

「訓練校の事、色々勉強させてもらいます!」

「はい。しっかり勉強していってね」

コラードは笑顔で応じた。

「シャーリーごめんね。エリオをよろしく」

「はい♪勝手知ったる母校ですから」

フェイトはこれから予定があるのでエリオの見学には付き合えないため、シャリオに依頼する。

「じゃあエリオ。私は学長先生とお話があるから」

「はい。フェイトさん」

「シャーリーについていい子でいてね。帰りは一緒だからね」

フェイトはしゃがんでエリオと同じ目線で話しながら、エリオの身だしなみを正す。

「はいっ!」

エリオは笑顔で頷く。

そしてシャリオとエリオは学長室から出て社会見学を行う事になった。

「いってらっしゃーい」

フェイトが笑顔で二人を見送る。

完全に二人きりになると、コラードの右目がうっすらと開く。

彼女はいわゆる糸目なのだろう。

「あの子が例の……?」

「ええ。私が研究施設から保護した子です」

コラードはエリオの素性を大まかだが知っていた。

「あの子も将来は局員に?」

「本人はその気みたいなんですが、私からはよく考えるように言っています。今日は特に社会勉強ですね」

フェイトはエリオが自身で考えた末の結果ならば異議は唱えないと考えている。

「しかしあのやんちゃ娘の片割れがもう子供の世話をしてるとはね。私も老けるわけだわ」

「またまたぁ」

コラードが年寄りじみた事を言うので、フェイトは否定をしようとする。

「そういえばシャーリーとはいつから?」

「先月です。希望指名で補佐につけてもらいました」

フェイトはシャリオとの経緯を大まかに説明する。

「さてそろそろ本題に入りましょうか。執務官殿の相談事は何かしら?」

「はい……」

フェイトとコラードの雰囲気が『生徒』と『学長』から『執務官』と『学長』へと切り替わった。

 

青空を見上げながら、ユーノとプロキオンは昼食であるカップ麺を食べていた。

湯気がもくもくと空へと昇っていく。

はふはふと言いながら、ラーメンをすするのがカップ麺の楽しみの一つである。

「おいしーです♪」

「うん。やっぱり外で食べるカップ麺は一味違うね」

器用に食べるプロキオンの仕種を微笑ましく見ながら、ユーノはラーメンをすすっていた。

ガチャリという音が鳴り、ドアが開く。

「ここからなら陸戦訓練場を見ることが出来るよって、カレー?」

「本当だ。カレーの匂いがしますね」

シャリオとエリオが屋上に足を踏み入れると、鼻腔をくすぐる匂いを当てる。

「スクライア司書長!」

「フィニーノ執務官補佐」

匂いを発生させている原因をシャリオは言い当てる。

「お食事ですか?」

「ええ。食堂でとも考えてたんですけどまだ開放されていなかったもので……」

「シャーリーさん。あの……」

エリオはユーノやプロキオンとは面識がないので首をかしげている。

「君がエリオ君だね?」

だがユーノはエリオの事を知っていた。

情報収集源はどこからでも手に入れられるから特に困りはしない。

「僕はフェイトの友達のユーノ・スクライアっていうんだ。それでこの肩に乗っているのが……」

「使い魔のロッキーです!」

ユーノとプロキオンは簡単に表面上の自己紹介をする。

フェイトとの間柄を『幼馴染』ではなく『友達』と言ったのは今の自分が『魔導師』ではなく、『ANOTHERゼロノス』だからだ。

プロキオンも本来は『使い魔』ではなく『イマジン』なのだが、それを明らかにするわけにはいかないので偽っている。

これも『プランAZ』の一つである。

「変わった毛並みのフェレットですね」

「触ってみる?」

エリオがプロキオンに触りたがっているのでユーノはプロキオンを訊ねてみた。

「え?いいんですか!?」

「どうぞ」

ユーノが肩に乗っているプロキオンをエリオに渡す。

エリオはプロキオンを恐る恐る受け取る。

「わあ」

エリオは小動物に触れる事に感動した。

初対面の人間に触れられている際は、プロキオンは下手に声を発しない。

エリオがプロキオンを撫でている。

その度にプロキオンがくすぐったいのかむずむず動いていた。

しばらくプロキオンを触って満足したのかエリオはユーノに返して、礼を言った。

指定席とばかりにユーノの左肩に乗っかるプロキオン。

カップ麺を食べ終えるとユーノは空同士を一つにさせて、割り箸も一つに纏めていた。

それからエリオ、シャリオ、プロキオンと共に陸戦訓練場を眺めていた。

「広い練習場ですねー」

エリオが覗き込むようにして見ながら感想を述べる。

彼の現在の身長では自力では見れないので足の下には踏み台が置かれている。

「陸戦訓練場だからね」

訓練場は更地ではなく、より実戦的にという事を想定しているためかわざと高低差があるような地形になっている。

そのような悪条件で様々な技術を駆使しなければならないという事なのだろう。

「ここは陸戦魔導師さんの訓練場なんですよね?」

「そうだよー。ほとんどの戦闘魔導師のスタート地点で今も一番数が多くて、空を飛ばずに戦う魔導師達が学ぶ場所なんだ」

シャリオが更に説明を続ける。

「フェイトさん達みたいに先天資質でA以上とかそういう人を除けば飛行訓練はかなり大変だからね。予算もかかっちゃうし、空戦魔導師になる場合でも陸戦魔導師として訓練や実績を積んでから……って場合も多いんだよ」

例外及びスタンダードな流れを説明する。

「あ、もちろんどちらが上とか偉いとかってことはないんだよ」

「はい。わかってます!陸も空もそれぞれの場所でそれぞれに働いて助け合ってるからこの世界を守ってるんだって、フェイトさんに教えてもらいました」

シャリオが補足を告げると、エリオは頷いてからフェイトに教えてもらった事を告げる。

「うん。偉い偉い」

シャリオは笑顔で褒めながら、エリオの頭を撫でた。

ユーノとプロキオンはそんな二人を微笑ましく見ていた。

 

 

一人の男の身体から砂が噴き出てて上半身と下半身が逆転した全身白色の怪人が出現する。

男は怪人に呟く。

怪人は上半身と下半身の位置が入れ替わり、『人型』になる。

「お前の望み、聞いたぞ」

怪人---トカゲ型のイマジン、リザードイマジンが時空管理局第四陸士訓練校へと飛び立った。

男の手には時空管理局第四陸士訓練校の不合格通知がぐしゃりと握られていた。

 

 

時空管理局本局査察官個室。

ヴェロッサは目元を押さえながら、悩んでいた。

Aゼロノスの足跡を追いかけてはいるが、一向に掴めない。

「僕は視野を狭くしていたのかもしれない」

そう思い当たると、キーボードをカタカタと叩く。

Aゼロノスそのものを調べても足取りを掴む事は不可能だろう。

イマジンが出現したところに現れて、倒して去っていくのだ。

「はやてが言ってたな。時の列車を所有している以上、アジトを捜すのは不可能に近いって」

時の列車は『時の空間』を経由して移動することが出来る。

決まった入口や出口のようなものが存在しないため、潜伏先を探ろうとする者達の煙をまくには十分なものだった。

「アジトが無理ならどうやってイマジンの情報を仕入れて、その次元世界に迷わずに行動する事ができるか、だね……」

無駄がない行動をする為に事前にある程度の事を知っておく必要がある。

つまり、Aゼロノスは相当の知識人だということになる。

「一般人でない事だけは確かか……」

ヴェロッサは的を一つ絞り込む事が出来ただけでも上出来だと思う事にした。

それでも、正体が誰なのかはわからない事に変わりないことだが。

 

 

陸戦訓練場で訓練生が精を出していた。

優秀な者もいるが、中には内容を把握せずに行動している者がいたりしていた。

無論ペナルティーをもらったのは言うまでもない事だ。

ちなみにそのペナルティーをもらった二人を見たエリオはというと、

「あれ楽しそうですね!。僕もやってみたいです!」

無邪気な事を言うが隣にいるシャリオはというと、

「うーん。エリオは真似しちゃ駄目だよー。フェイトさん泣いちゃうからねー」

保護者が確実に泣き顔になることを予測しながら窘めた。

(訓練中止を受けた片方はたしかナカジマ三佐の娘さんでもう一人はティーダさんの妹さんか……)

ユーノは調べた内容と現実を照合させて一致させた。

訓練風景を眺めること三十分。

そろそろ本局に帰ろうと踵を返したときだ。

急に場内の雰囲気が変わったようにプロキオンは感じた。

(ユノさん。イマジンです!)

(わかった。行こう)

プロキオンは自慢の嗅覚でイマジンの臭いを感じ取り、特別回線でユーノに伝えた。

物音を立てずに、ユーノとプロキオンはその場から離れた。

エリオとシャリオは一人と一匹がいなくなった事に気付かなかった。

 

学長室ではフェイトとコラードの会談が続いていた。

「去年の空港火災。公にはされていませんが原因はロストロギアです。密輸品として運び込まれたものが爆発したと見られます」

フェイトの眼前には小型の半透明なモニターが出現している。

コラードはフェイトが提出した資料を凝視している。

「そしてそのロストロギアに付随するように現れる機械兵器があります。ロストロギアに付随する事から『ガジェット』あるいは『ドローン』と仮称していますが、これらは一機ずつでAMFを展開する機能を保有しています。そしてどこからどうやって現れるのか神出鬼没にロストロギアに群がって確保しようとする……」

フェイトはそこで一呼吸してから続ける。

「これらが多数出現すれば局員達は各地でAMF状況下での戦いを強いられます。後は……」

「イマジン、かしら?」

「はい。お伺いしたいのはそういった状況下に対応できる魔導師を育成するとしてかかる時間と『卒業』の期待値なんです」

「なるほどねぇ」

コラードは顎に手を当てて、天を仰ぎながら予想できる範囲の事を口を開く。

「確実に時間はかかるし、卒業期待値もあまり高くないわよ。それに適性のある精鋭を揃えて短期集中での訓練なら私の古巣、貴女の親友がいる本局の戦技教導隊に依頼すべきだと思う」

コラードの言うように、訓練生が卒業したとしてもいざ実戦で即戦力になるかというと答えはノーだ。

次元犯罪者やAMF搭載の機械兵器を目の前にして訓練校での動きを活かすだけでも至難の事になる。

ましてやイマジンとなれば先の二つよりもはるかに厄介な存在であり、訓練校卒業して間もない者達が瞬時に対応する事は更に難しい。

「そっちでも動いてはいるんですが……。将来を見越しての準備をしたいんです。数年計画の……」

「それはまた……」

気の長い人間でなければやれないような事を言うフェイトにコラードは苦笑する。

「それにしても難しいわよ。新暦になって質量兵器の使用が原則として禁じられて以来、平気も戦力もほとんどが純粋魔力頼りだもの……」

コラードは複雑な感情を抱きながら、新暦になった兵力事情を呟く。

この事から旧暦だった頃は魔力だけでなく、質量兵器も認められていたことになる。

「……ええ」

魔力だけではどうにもならない事があるというのをフェイトはよく知っている。

七年前に関わった『プレシア・テスタロッサ事件』と『闇の書事件』及び『ネガタロスの逆襲』でいやというほどに。

「まぁ折角訪ねてきてくれたんだし、もう少し詰めた話をしましょうか。それと最近の貴女達の事もね」

コラードは笑みを浮かべて、フェイトに促した。

「はい」

促されたフェイトも笑顔で応じた。

訓練場にイマジンが出現したと聞くのはこれから三十秒後の事である。

 

陸戦訓練場ではリザードイマジンの乱入により、訓練生も教官もパニックに陥っていた。

とてもではないが、対応なんて出来るものではない。

恐怖による悲鳴を上げながら、我先にと逃げていく訓練生達。

教官も自分の身の安全を考えながら、訓練生達の避難をする。

その中、反省清掃をしていたスバル・ナカジマとティアナ・ランスターはほうきとちりとりを駆使して、テキパキと作業を進めていた。

「何か騒々しいね」

スバルがほうきで埃を掃きながら、訓練場に視線を向ける。

「訓練にしては妙に切羽詰ったような感じよね」

ティアナがちりとりで埃を受け止めながらも、スバルと同じ様に訓練場に視線を向けていた。

この距離からでも訓練ならでは独特の雰囲気が伝わってこない。

清掃を終えて、スバルに掃除用具を片付けさせると二つの影が訓練場へと向かっていくのが見えた。

「何よ?アレ……」

ティアナは生まれて十三年。あのようなものを見たことがなかった。

二足歩行ではあるが、明らかに人間とは違う何かだった。

「ランスターさん。ただいまぁって、どうしたの?」

「訓練場に何かが向かっていったんだけど……」

ティアナが訓練場を指差し、スバルは首を傾げた。

「気になるの?」

「なっ!?べ、別にそういうわけじゃないわよ!」

強く否定している事が『気になる』の裏返しでしかない。

「行ってみようよ。掃除終わったし」

「え?」

「気になるんでしょ?だったら行こうよ」

そう言うと同時にスバルは先に訓練場へと向かっていった。

「あ、ちょっとナカジマ訓練生!」

ティアナは結局、訓練場へと向かう事になった。

 

訓練場ではAゼロノスとプロキオン(イマジン)がリザードイマジンと戦っていた。

AゼロノスはDダガーを逆手に持って構え、プロキオンも両腕からフリーエネルギーで構築されているプロキオンクローを出現させていた。

リザードイマジンはフリーエネルギーで棘の入った鞭を出現させて、自らの尻尾のように巧みに操っていた。

鞭が獲物を食らう蛇のように向かっていく。

左手に握られているDダガーをダガーグリップからバレットグリップへと持ち替えて、Dバレットへと切り替えて狙いをつけて引き金を絞る。

フリーエネルギーのレーザー光線が数本一直線に向かって飛んでいく。

リザードイマジンは鞭でかき消す事はできないので右へ避ける。

「やあああ!!」

プロキオンがその隙を狙って懐に入り込んで、右、左と正拳を繰り出すがリザードイマジンは後方へと下がる事で全て避けていく。

距離が開くが素早く詰め寄って右拳を掬い上げるようにして放つ。

「あっぱー!!」

ブォンと凄まじい音が鳴るが、結局は空振りであってプロキオンが勢いあまって宙に浮いている状態だった。

無論プロキオンは飛行能力を有したイマジンではないので、重力に逆らう事が出来ずにただただ下がっていくだけである。

リザードイマジンがそんな好機を逃すはずがなく、鞭を繰り出してプロキオンに巻き付けて地面に叩き落とそうとする。

「ぷぎゃっ!」

プロキオンが右肩から地面に落下した。

鞭が離れていき、今度はAゼロノスに向かっていく。

「!!」

瞬間、Aゼロノスは『理屈』ではなく『本能』が身体を支配した。

左手に握られているバレットグリップからダガーグリップへと瞬時に持ち替えた後、すぐにスナップを利かせて投げた。

Dダガーは一直線にリザードイマジンの右手の甲に刺さる。

「がわああっ!!」

リザードイマジンの右手から鞭が離れる。

「今です!」

地面に叩きつけられていたプロキオンは立ち上がっており、地面に転がっている鞭をどこか後方へと蹴り飛ばす。

Aゼロノスが駆けて間合いを詰め、逆手に持ったDダガーを弧を描くような流れで首元に狙いをつけて切りつける。

イマジンの反射神経がなせるものかリザードイマジンの皮一枚を切りつける結果で終わった。

半歩踏み込んで左前蹴りを胴に食らわせて後方へと下がらせる。

その瞬間にリザードイマジンの右手の甲に刺さっているDダガーを抜き取る。

二本ともバレットグリップに持ち替えてから横連結にさせてツインDバレット(以後:TDバレット)へと切り替える。

軽くグルンとTDバレットを回してから、リザードイマジンへと詰め寄っていた。

 

「す、すごい……」

「高ランクの魔導師でも恐れるといわれているイマジンと対等にしかも押してる……」

逃げ遅れたというより、事情を把握できていないスバルとティアナだが目の前に起こっている光景をただただ見ているしかなかった。

「アレって確か『青い狩人』よね?」

「うん。たしかお父さんから聞いたんだけど、仮面ライダーANOTHERゼロノスっていうのが本当の名前らしいよ」

スバルは父であるゲンヤ・ナカジマ経由での情報をティアナに打ち明けた。

AゼロノスはTDバレットの銃口をリザードイマジンに向けていた。

 

Aゼロノスはゼロノスベルトのバックル上部にあるフルチャージスイッチを押す。

『フルチャージ』

機械音声が発して、バチバチと伝導されているゼロノスカードを引き抜いてTDバレットのガッシャースロットに挿しこむ。

「はあああっ!!」

TDバレットの引き金を絞る。

銃口にフリーエネルギーの光球が収束されて一直線に放たれた。

その速度は速く、来るとわかっていても防御など意味がないと思わせるものだった。

リザードイマジンの胸部に大きな穴が出来ており、火花が飛んでいた。

「ぐ、ぐおわあああああああ!!」

仰向けになって倒れて肉体が維持できなくなり、爆発した。

爆煙が昇り、呆気に取られている二人の訓練生を一瞥してからAゼロノスとプロキオンはその場から退散した。

 

死亡者ゼロ。

重傷者は二名。

軽傷者は十名。

とイマジン襲撃にしては比較的に被害の少ない事件であった。

この一件は後に『第四陸士訓練校襲撃事件』と歴史に記される事になるのだが、このイマジンを倒したのがAゼロノスによるものだと知っている者はほとんどいない。

 

 

外は夜となり、大抵の局員は家路に向かう準備をしている頃。

時空管理局1039航空隊では本日の教導が終了し、全員が整列していた。

「それでは以上で教導を終わります。お疲れ様でした」

戦技教導隊教導官である高町なのはが終了の挨拶をした。

 

お疲れ様でした!!

 

なのはとその場にいた航空隊員全員が敬礼した。

「高町教導官。ありがとうございました……」

シグナムが公の場なので慇懃な態度で接していた。

「シグナム三尉。お疲れ様です」

なのはも同じ様な態度で返す。

公私のけじめをつけている表れでもある。

「よければ食事を一緒にどうです?」

「ああ。いいですね」

シグナムの誘いに、なのはは即答した。

「本体の魔導師達はいかがでしたか?」

「いいですね。しっかり鍛えられています。仮想敵もやりがいがありました」

廊下を歩きながら恐らく隊長格とも取れる男の言葉に、なのはは率直な感想を述べた。

「では我々はこれで」

「またよろしくお願いします。教官殿」

隊長格二人が、なのはに敬礼するとその場から去っていた。

「ふぅ。お疲れ様です。シグナムさん」

「ああ。すまなかったな。気を張らせてしまった」

なのはとシグナムの雰囲気がプライベートの時と変わらぬ状態になった。

「食事は私の同僚達とだけだ。気楽にしてくれ」

「はい」

シグナムの気遣いに、なのはは笑顔で頷いた。

廊下を歩いてしばらくすると、一組の男女がいた。

長身の男性と、小柄だが男が長身であるため余計に小さく見えてしまう女性だ。

「アルトとは初対面のはずだがヴァイスの方は……」

「お疲れ様です!ヴァイス・グランセニック陸曹でありますッ」

「アルト・クラエッタ整備員でありますっ」

シグナムが紹介する前に、ヴァイスとアルトは先に自己紹介をしながら敬礼をした。

「あー、地上本部の面白いヘリパイロットさんですね!」

「憶えていただいて光栄であります。教導官殿」

なのはの妙な記憶の仕方にヴァイスは後頭部を掻きながら苦笑した。

 

ユーノとプロキオン(フェレット)は陸士訓練校でリザードイマジンを倒してからは『無限書庫』に戻って通常業務を定時から一時間くらいまで勤しんでから本局を出て、レストランへと赴いていた。

プロキオンと食事するのは一番気楽なので、あえて誰も呼ばない。

見知った人間を呼んでいないので、酒も注文する。

オードブルとして生野菜の盛り合わせが出て、プロキオンにいくつか分けてあげながらも自分も口に含む。

「おいしいです~」

プロキオンはドレッシングがかかっているレタスを食べてから感想をもらす。

「うん」

ユーノは頷く。

「オニオンスープでございます」

ウエイターがスープをユーノの前に置き、右側に避けられている空になった前菜の食器をトレーの上に乗せて去っていった。

スプーンで掬ってからプロキオンに向けて飲ませる。

スプーンで掬われている量はフェレットサイズのプロキオンの一杯としては十分なものだった。

「はあ~。ラーメンもいいですけどこういう料理もいいですね~」

「比べる対象が違うよ」

ユーノは笑みを浮かべながら、プロキオンに突っ込みを入れながらもオニオンスープを口の中に含む。

食道を介して身体全体が温まるような気分だった。

スープは空になり、食器をウエイターが回収しやすいようにテーブルの端に置く。

しばらくしてから、いくつかの靴音が耳に入ってきた。

次の魚料理が出てくるまで退屈なので、靴音の源を見てみることにする。

「なのさんとチルナムさん(シグナムの事)です」

プロキオンが来店してきた四人のうちの二人の彼なりの呼び方で言う。

「後の二人は、シグナムさんの同僚ってところかな……」

ユーノがそのように分析した後に、魚料理である『鯛とアサリのアクアパッツア』が運ばれてきた。

 

なのは、シグナム、ヴァイス、アルトの四人も空いている席に座って、それぞれ注文してからナイフとフォークを手に食事をしていた。

「そう……。二人とも『レリック事件』については知ってるんですね」

なのははヴァイスとアルトが件の事件を知っている事が話がスムーズに進むと考えて、話を続けた。

「今後も関わっていく方向で動いているからな。そちらの方では何か進展があったか?」

シグナムがヴァイスとアルトもこれから追いかけようとする事件の『仲間』になると告げながら、なのはの近況を訊ねる。

「クロノ君が各方面で調査や調整依頼をしてくれてるそうなんですけど、今のところは何も……」

ナイフで肉を切ってフォークで突き刺して、なのはは口の中に含む。

「AMF関連はテスタロッサが動いているが、あちらもあまり芳しくはないようだ。レリックがこれまで出てきた三つ以外にいくつあるとか、AMF兵器がどれくらい存在しているかもまだ何もな……」

シグナムがナイフとフォークを巧みに操って料理を切りながらフェイトの近況を伝える。

「発生場所や発見間隔が中途半端で、だから合同捜査本部がなかなか設立されないとか……」

アルトもナイフとフォークを操りながら、芳しくない結果の原因を言う。

曖昧な事件に時間と労力と費用を使う事を渋っているというのが、実状だろう。

「そうなんだよー。地上部隊同士だと中々連携も取れないからね」

迅速に行動できない事に、なのはは溜め息をつく。

「そこが地上の面倒くせえとこっスね。次元航行部隊だとその辺はいくらか身軽らしいけど……」

ヴァイスもなのは同様にその辺りの妙なしがらみに辟易していた。

「海は海で大変だと思うけどね」

次元航行部隊には次元航行部隊なりにしがらみのようなものがあると、なのはは言う。

「どちらにしても私達武装隊員は誰かが出動をかけてくれないと出られないからね……」

ナイフとフォークを手放して、両肘をテーブルに着いて考えるようなポーズを取る。

自然と目つきも鋭くなっている。

「なのはさん。もう教導隊なんスから、そんなに前のめりにならなくても……」

「ふえ?」

ヴァイスに諫言されるまで、なのは自身自覚がなかったらしい。

「そうだな。すぐにでも出たそうな顔をしていたぞ」

シグナムも頬杖をつきながら、なのはをからかう。

アルトも苦笑していた。

「落ち着いてます!別に好き好んで前に出たいわけじゃないですけど被害とか出したくないじゃないですかー!」

なのはがムキになって弁解する。

「それは勿論だが」

シグナムがなのはの言い分も尤もだと頷く。

その後も四人は今後の創設される部隊の事などで盛り上がっていた。

 

粗方料理を食べ終えたユーノは司書達のお土産を物色していた。

「中々決まりませんねぇ。まだですかぁ?」

プロキオンが痺れを切らしかけていた。

「あー、ごめん。もう少しだけ我慢してよ」

「むー」

ユーノが謝りながら物色しており、プロキオンが頬を膨らませていた。

「駄目だよロッキー君。ユーノ君をあんまり困らせちゃ」

背後から声がしたので顔を向けると、なのは、シグナム、ヴァイス、アルトの四人がいた。

「来ていたのか」

「ええ」

シグナムの問いにユーノは短く答える。

「あのシグナム姐さん。この方は?」

ヴァイスがユーノを知らないのも無理がない事だ。

彼が『無限書庫』に訪れる機会がない以上、知り合うことはない。

「ユーノ・スクライア。『無限書庫』の司書長だ。そして左肩に乗っかっているのは使い魔のロッキーだ」

「「司書長!?」」

シグナムの紹介にヴァイスとアルトは敬礼する。

「ああ、いいですよ。そんな畏まらなくても……」

ユーノは敬礼を解くように二人に告げる。

司書長となると『無限書庫』のトップであり、上下関係でいえば自分達より上になるとヴァイスとアルトは判断しての行動だろうと察する。

プロキオンはヴァイスとアルトに頭を下げる。

「ユーノ君。決まらないの?」

「うん。どれにしようか悩むよ。みんな美味しそうだしね」

なのははユーノの土産選びに自然と参加していた。

「そうだよねぇ」

なのはもその意見には同意していた。

それから決まるまでに十五分もの時間がかかった。

 

ユーノとプロキオンは現在は、なのはと共に帰路を辿っていた。

シグナム、ヴァイス、アルトとは途中で別れて現在は二人と一匹だけだ。

ちなみにレストランで購入した土産は宅配便で『無限書庫』に送るようにしていた。

「ユーノ君の方はどうなの?何か進展あった?」

「いや、何も出てこないね。レリックに関する事やAゼロノスに関することは今のところは全くわかってないね」

前者は本当だが、後者は嘘だ。

「そうなんだ……」

なのはとしても一瞬だけ気落ちしたが、すぐに平静を取り戻す。

「相手も相当な切れ者って事だよ。変に焦ったら足元掬われるかもしれないからね」

「うん!そうだよね」

ユーノの言葉に、なのはは頷く。

(そう。あの村を滅ぼした奴等やドロールさんの言っていた意味もまだわかってない。でも必ず見つけてみせる。そして……)

ユーノは強く拳を握っていた。

「ユーノ君?」

なのはがユーノの異変に不安げな表情を浮かべる。

「ん?どうしたの?」

「え、えとね。凄い怖い顔をしてたからその……どうしたの?何か悩みがあるんだったら、私相談に乗るよ」

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

ユーノは、なのはに笑顔を見せて安心させる。

 

(必ず潰す!!)

 

ユーノはこれから自分が行う事に対しての『決意』と『覚悟』をより強くした。

 

エースオブエースは知らない。

隣に『青い狩人』がいる事を。

その内に秘めた炎の火種を。

それを彼女が知るのは今より三年の時間が経った時である事も。

 

 

 




次回予告

    最終話 「0075年 未来へと路線は繋がれる」


 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。