仮面ライダーLYRICAL A’s to StrikerS   作:(MINA)

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最終話 「0075年 未来へと路線は繋がれる」

新暦0075年。

時空管理局本局査察官個室では、ヴェロッサ・アコースが仮面ライダーANOTHERゼロノスに関しての調査が行われていた。

かれこれ既に四年の時間を費やしていた。

それだけ時間をかけたにも関わらず、芳しい結果は得られていなかった。

個室には資料が散在しており、所々にサインがされていた。

「ここまでアリバイが完璧とはね……」

ヴェロッサはとある人物の勤務時間の記録を凝視していた。

アリバイが完璧、それ自体がいいか悪いかというと複雑になる。

アリバイが『ない』場合は事件がらみならば確実に『容疑者』になる可能性が大になる。

だが、アリバイが『ある』場合も扱いは安全というわけではない。

本来ならば『ない』のだが、『ある』ように細工をしたという可能性も否定できない。

いわゆる『アリバイ工作』だ。

このアリバイ工作というのは偶然や奇跡で崩される事もあるが、その逆はまずない。

計画的に行って初めて成功するものだ。

「この人ならばそのくらいはやりかねないね……」

ヴェロッサの瞳が鋭くなり、ギラリと光っていた。

 

 

ミッドチルダ中央区画湾岸地区は人で賑わっていた。

殆どが制服の局員であり、みなトラックに詰め込まれている物資を隊舎に運んでいた。

これからここは古代遺失物管理部『機動六課』の本部となるのだ。

二人の女性がいた。

一人は局員制服の上にコートを着込んでいる金髪でショートヘアのシャマル。

もう一人も局員制服だが、コートを肩にかけている濃い目の茶髪でショートヘアの八神はやてだ。

「なんかこうして隊舎を見てると、いよいよやなーって気になるなー」

隊舎を見上げながら、はやては体内が熱くなっているような気がした。

「そうですね。はやてちゃん……」

隣のシャマルが、はやての逸る気持ちが理解できていた。

彼女の念願の夢が叶ったのだから。

 

「いえ。八神部隊長♪」

 

シャマルが茶目っ気を込めて、これからのはやての呼称を言う。

「あはは♪」

はやてとしては嬉しいと同時にくすぐったかった。

シャマルは現在機動六課所属の医務官となっており、はやては機動六課部隊長で二等陸佐となっている。

「いい場所があってよかったですねぇ」

「交通の便がちょうよくないけど、ヘリの出入りはしやすいし機動六課にはちょうどええ隊舎や」

シャマルの感想に、はやてはこの場所のメリットとデメリットを告げる。

「なんとなく海鳴市と雰囲気も似てますしね」

シャマルが周囲を見回しながら、かつての故郷を思い出す。

「そうやなぁ」

はやてもその意見には同意した。

「隊長室はまだ机とか届いてないんですよね?」

「リィン用のデスクでええのがなくってなぁ。エイミィさんに探してもらってるんよ」

隊長室は何もないという事になる。

今日くらいは床でゴロゴロ出来るんやなぁって、はやてはシャマルに悟られないように考えていた。

 

機動六課駐機場では様々な資材が箱積みになっていた。

局員達は開封して、中の物を取り出してセッティングの最中だった。

その中を一組の男女が歩いていた。

「ヘリの実機はまだ来ていないんだな」

「今日の夕方。到着っス」

機動六課フォワード部隊『ライトニング分隊』副隊長のシグナムと機動六課ヘリパイロットのヴァイス・グランセニックの二人である。

「届くのは武装隊用の最新型!前から乗ってみたかった機体なんでこれがもー楽しみで楽しみで!」

ヴァイスは欲しかった玩具を待ち望む子供のようにワクワクしていた。

「隊員達の運搬がお前とヘリの任務だ。お前の腕からすれば物足りなくはあるかもしれんがな」

シグナムはヴァイスに改めて自身の任務を告げると同時に、内心不満ではないかと気にかける。

「いやぁなに、ヘリパイロットとしちゃ操縦桿を握れるだけでも幸せでしてね。めいっぱいやらせてもらうっスよ」

ヴァイスには不満の色はなかった。

「シグナム副隊長ー!ヴァイス陸曹ー!」

一人の女性局員が二人の下に駆け寄ってきた。

「アルト・クラエッタ二等陸士!ただいま到着です!」

アルトが駆け寄って停まってから敬礼をする。

「ああ。早かったな」

「何だよオメェ、半年ばかり見ねぇ内に背ぇ伸びたか?」

「はい!三センチほど!」

ヴァイスの指摘にアルトはさらりと答えるが、シグナムにしてみれば三センチ伸びたのかどうかといわれると、正直わからない。

「ヘリはまだ来てないんですか?あのJF704式が配備されているって聞いて急いで来たんですよ!」

アルトの表情は先ほどのヴァイスと同じ表情になっていた。

「まだだよ。夕方だ」

ヴァイスは先輩として、逸るアルトを抑える。

「相変わらずだなアルト。通信士研修は滞りなく済んだのか?」

シグナムは苦笑しながらも、アルトの近況を訊ねる。

「はいっ!シグナム副隊長!ついでにいくつかの資格も取得しました!」

そう言いながらアルトはその証明として身分証を見せる。

そこには様々な資格が記されていた。

「おーおー、生意気な資格が並んでる!」

「えへへー。いつかはヘリパイロットのAも取りますよー」

今後の抱負も語るアルト。

「人員配置の都合で整備士や通信スタッフは新人が多い。お前ももう新人気分ではいられないぞ。しっかり頼むぞ。先輩としてな」

「はいっ!!」

シグナムの言葉にアルトは気を引き締めるようにして再敬礼した。

「こんにちは失礼します!アルト・クラエッタ二等陸士はこちらに……」

女性局員が敬礼をして入ってきた。

「あ……ルキノさん!どうもお疲れ様です!」

「ああどうも、お疲れ様です」

ルキノと呼ばれた女性局員はアルトの知り合いらしい。

「あ、紹介しますね。通信士研修で一緒だったルキノさんです」

「本日より機動六課『ロングアーチ』スタッフとして情報処理を担当させていただきます。ルキノ・リリエ二等陸士です!」

ルキノが自己紹介をして敬礼をする。

「前所属は次元航行部隊で艦船アースラの事務員だそうで……」

つまりクロノ・ハラオウンの下にいたという事になる。

「アースラには昔幾度か大変なお世話になった。艦長のクロノ提督はご健勝か?」

「はいっ。今はアースラを降りてXV級新造艦の艦長をされています」

「そうか」

シグナムはクロノの近況を訊ね、ルキノが答えてくれた。

「お前達の上司については聞いているか?」

「はい。通信主任のシャリオ・フィニーノ一等陸士と」

「指揮官補佐のグリフィス・ロウラン准陸尉ですね」

アルトとルキノが思い出しながら交互に語る。

「おう。そのお若い准陸尉殿とメカオタ眼鏡の一等陸士がお前等の直接の上司だ。まぁロングアーチのトップは八神部隊長だがな」

「「はいっ」」

ヴァイスの説明を受けて二人は返事する。

「二人は今後コンビで通信管制や事務作業をしてもらう事になる。シャリオが戻るまで二人で隊舎の中でも見回ってるといい」

「はい!」

「ヴァイス陸曹。ヘリが到着したら!」

「あー、通信で呼んでやるよ」

アルトの言いたい事をヴァイスは理解していたので、しっしと手で払う。

二人は駐機場から出て隊舎見学と洒落込む事にしたようだ。

「大丈夫なんスかねえ。あんなガキンチョどもで……」

姿が完全になくなると、ヴァイスが愚痴った。

「入局したてのお前を見て私は全く同じ感想を持ったものだよ。なあ八年目?」

「いやシグナム姐さん。それは言わねー約束で」

ヴァイス、アルト、ルキノよりキャリアのあるシグナムにとってはどんぐりの背比べでしかなかった。

 

アルトとルキノは隊舎内を歩き回っていた。

「あ、お疲れ様です」

「お疲れ様ですー♪」

妙な光景を見て二人は停まる。

小さな少女が普通に挨拶をしていたのだ。

しかも宙に浮いていた。

「「かわいい……」」

二人とも年代としては若いので、可愛いものには目がないのだ。

「何あの子?誰かの使い魔とか?」

「そうかも!あんなちっちゃい子は初めて見るけど!」

二人は興奮状態になっていた。

周囲の事はお構いなしに両手をぶんぶんと振っていた。

他にもその少女を見ながら、色々と推測しあっていた。

「あ、お疲れ様です。クラエッタ二等陸士とリリエ二等陸士ですね」

「「はい。あ、え?」」

「二人のお話はシグナムとフェイトさんから伺ってるんですよー」

少女に声をかけられたことで、二人の思考は停止していた。

 

「はじめまして。機動六課部隊長補佐及び『ロングアーチ』スタッフ。リィンフォースⅡ空曹長です!」

 

小さな少女---リィンは二人の前で敬礼する。

((上司ぃぃぃぃぃぃ!?))

アルトとルキノが心の中で叫んでしまった。

「「し……失礼しました!」」

二人は失態の詫びも含めて敬礼をする。

「あー、いいですよ。そんなに固くならなくて、私のほうが年下でありますし『ロングアーチ』スタッフ同士仲良くやれたら嬉しいです」

リィンが笑顔で今後の抱負を語る。

「「ありがとうございます!」」

「はいです」

ひとまず締めくくられた。

「アルトのことはシグナムからよく聞いてたですが、私の事は聞いてなかったです?」

リィンはシグナム経由でアルトの事は知っていたのだからその逆があってもおかしくはないのだから。

「あのご家族にリィンという小さな末っ子がいるとは伺っていたんですが、まさかその……こんなに小さい方とは……」

失礼と思いながらもアルトは本音を打ち明けてしまう。

「あはは。シグナムらしい説明不足さですぅ」

リィンは気分を害した様子はなかった。

ルキノはその間、リィンの仕種に虜になっていた。

 

 

時空管理局本局査察官個室。

椅子に思いっきり背を預けているヴェロッサは気分転換としてある一冊の本に目を通していた。

それはミッドチルダで流行っているミステリー小説だ。

「こんなトリックを使う人間なんてそうそういないような気がするけどね」

一人で作品内容にツッコミを入れてしまう。

内容は魔法を用いてアリバイをでっち上げるというものだ。

確かにありえそうだが、現実にはありえない。

フィクションなので、変に深く考えたりはしない。

ヴェロッサはある人物がAゼロノスだという確信を持っている。

だが、それを現段階で当人に突きつけても勘や直感の域を出ていないので確実にはぐらかされるのは確定だ。

その人物を相手に舌戦で勝利するには、根拠が必要になる。

そう、誰が見ても納得するような根拠が。

「もし、この人のアリバイがこの本のトリックを用いたものだったら……」

ヴェロッサは小説を読むのをやめて、立ち上がって散在しているサインつきの資料をもう一度見直す。

「本当に恐ろしい人だよ」

ヴェロッサはまた新たな角度から分析を始めた。

モニターに人名と数値が羅列される。

それは『無限書庫』の作業能率を数値化させたものだ。

「やっぱり……」

目に見えるものと仕種は騙させても、個人の能力までは魔法でも模倣できなかったという事だ。

 

 

ミッドチルダ西部二十一区管理局市民窓口センター。

管理局の陸士隊服を着た少年、エリオ・モンディアルが長椅子に座っていた。

「モンディアルさん。エリオ・モンディアルさーん」

「はいっ!」

窓口の男性職員に呼ばれて、エリオは席から立ち上がる。

「IDカードの更新ですよね。更新事項は武装局員資格と魔導師ランク陸戦B。役職は陸士研修生改め三等陸士。お間違いないですか?」

男性職員が最後の確認をする。

「はいっ。大丈夫です」

エリオは間違いはなかったので、即答する。

「ではこちら正規の管理局員としての新しいIDカードです」

「はい!ありがとうございます!」

男性職員が笑顔でエリオにIDカードを渡した。

「エーリーオー♪」

シャリオ・フィニーノがエリオを呼ぶ。

「シャーリーさん!」

「更新終わった?」

「はいっ」

エリオがシャリオの元に駆け寄り、予定が完了した事を告げる。

「ふっふっふ。それじゃあ……。フェイトさんからのお祝いメッセージ~」

そう言うと同時に宙からモニターが出現して、フェイト・T・ハラオウンが映し出される。

『エリオ。正規採用おめでとう!』

「フェイトさん!!」

エリオがモニター越しとはいえ、保護者に会えた事に素直に喜びの表情を見せる。

『あたしもいるぞー』

フェイトの横に彼女の使い魔であるアルフ(幼女)が映し出されていた。

「アルフ!」

エリオがフェイトの世話になっている以上、その使い魔の事を知っていても何ら不思議な事はなかった。

 

『あれ?でもフェイトさんお仕事中じゃ……、それにアルフも……』

モニターに映るエリオが時間帯を見て、フェイトとアルフが自由に動いてるのを不思議に思っていた。

「今、食事休憩中」

「あたしはちょっと、おつかいがあってな」

二人が自由に動いてる理由を告げる。

「エリオの事だから大丈夫だとは思っていたけど、試験も研修も無事に終わってよかった」

「がんばったなー」

フェイトとアルフが労いの言葉を送る。

『ありがとうございます!』

エリオは素直に感謝の言葉で返してきた。

「出会った頃はあんなちっちゃかったエリオがもう正規の管理局員なんて、私は何だか感慨深いんだか寂しいやらで……」

姉というよりは母親の心境だねぇ、とアルフは隣でフェイトを見て思うが口には出さない。

『すみません。フェイトさん……』

エリオは叱られたと思い、しょぼんとする。

「何で謝るの。いいんだよエリオが選んだ夢だから」

失言だとフェイトは反省しながら苦笑する。

『はい……』

エリオは表情を戻しながらも、返事する。

「私との約束もエリオはちゃんと守ってくれるもんね」

フェイトは最後の確認させる。

『友達や仲間を大切にする事。戦う事や魔法の力の危険と怖さを忘れないこと。どんな場所からも絶対元気で帰ってくること!』

エリオはフェイトの『教え』を復唱した。

「そう。六課(機動六課の略称)では同じ分隊だから来月から私や新しい仲間達と一緒に頑張ろうね」

『はいっ!』

「シャーリーはこの後は?」

フェイトはエリオに同伴しているシャリオに視線を向ける。

『エリオが訓練校に行くのに付き合って、それから六課の隊舎に行ってきます』

シャリオは自身の予定を告げる。

『フェイトさんとなのはさんのお部屋とかデバイスルームの最終チェックとか色々やることが山積みで~♪』

「ありがとうよろしくね。じゃあエリオ本当におめでとう」

『はい!』

「あたしも今度お祝いしてやっからな~」

『あはは。ありがとうアルフ……』

フェイトは後は定型的な挨拶を終えると、交信を切った。

「エリオはすぐに六課に合流ってわけじゃないんだよね?」

「まだ出向研修の日程が残っているんだって」

アルフはエリオの今後について訊ね、フェイトは答える。

その間に彼女はモニターをタッチしながら、自身のスケジュールの確認をしていた。

「うーんでも今の日程だとエリオとキャロの初顔合わせに私は立ち会えそうにないのが残念だな……」

「そっかぁ。キャロも保護隊から陸士研修の日程があるもんなぁ」

本当に母親の心境だねぇとアルフは思ってしまう。

良太郎が見たら驚くかもねぇ、とも思っていた。

「まぁ、あの二人ならきっと仲良くなれるよ」

アルフは二人の顔を浮かべながら想像する。

「うん。私もそう思う」

フェイトも頷く。

「キャロは自然保護隊の皆さんにお別れの挨拶をしてるところかな……」

「ダダこねてなきゃいいんだけどね~」

アルフが意味ありげに言いながら、フェイトを見る。

フェイトはそれがどういう意味を示しているのか理解できたので顔を赤くした。

 

管理世界61番『スプールス』自然保護区。

自然が満ちており、都会のような物々しい雰囲気がまるでない世界である。

その中で一組の男女が一人の少女を見送っていた。

田舎の両親が子供を都会に送り出すシチュエーションに似ていなくもない。

「じゃあキャロ。忘れ物ないね?」

女性---ミラが少女---キャロ・ル・ルシエに最後の確認をさせる。

その隣にはキャロの相棒である使役竜フリードリヒがパタパタと翼を羽ばたかせていた。

「はい!本当にお世話になりました」

キャロは名残惜しい表情を浮かべていた。

「あー、いざ行っちゃうとなると寂しいもんだね~!キャロにはずっといてほしかったよ~」

ミラがキャロの目線になるようにしゃがんでから、両肩を掴んで未練がましく言う。

「ミラさん……」

キャロもミラの態度を見ながら、心が揺れ動く。

「おいおいキャロの保護者の方がいる部隊に行けるんだし、こんな山奥から都会の陸士隊に栄転でもある華々しい門出じゃないか」

「タントさん……」

男性---タントがキャロの異動が彼女にとって大いにプラスになることだ告げる。

「あの、わたし保護隊でお世話になって……、お仕事させてもらって……本当に楽しくて……」

キャロが精一杯告げようとする。

「あたしも楽しかったよ。キャロはまだちっちゃいけどさ。一人前の魔導師になれるように、いつか大好きなフェイトさんの事助けてあげられるようにって、いつも一生懸命頑張ってたこと、あたしやタント達はちゃんと知ってる」

ミラがキャロに元気付けるように告げながら、抱きしめる。

「キャロはもう保護隊員としては一人前だからさ。陸士も魔導師もしっかりやっていけるよ。がんばっておいで!」

「ありがとうございます。がんばります……」

二人の励ましを受けて、キャロは旅立つ。

 

 

ミッドチルダ南部陸士386部隊本部隊舎。

災害担当部配置課応接室では担当者が来客者二名にモニターでとある二人の紹介をしていた。

「ええ、二人とも突入隊のフォワードです。新人ながらいい働きをしますよ」

担当者は自慢げに誇らしげな笑みを浮かべていた。

「二年間でしっかり実績も積んでいます。いずれそれぞれの希望転属先に推薦してやらんとは思ってましたが、本局から直々のお声がかりとはウチとしても誇らしいですなぁ」

担当者が続ける。

「スバル・ナカジマ二等陸士。ウチのフォワードトップ……武装隊流にいえばフロントアタッカーですな。とにかく頑丈で頼もしい子です」

モニター映像では災害担当の防護服を着たスバルが、被災場を歩いていた。

「足も速いし、タテ移動も優秀です。インドアや障害密集地なら下手な空戦型より、よっぽど速く動きますな」

モニター映像のスバルが右拳を振りかざして、障害となる壁を粉砕していた。

「本人の希望は特別救助隊でしてね。で……二人目」

そう言うと同時にモニターの画面の人物が切り替わった。

「シューター……放水担当ですね。ティアナ・ランスター二等陸士。武装隊向きの射撃型な上に本人も将来的には空隊志望とかで、正直ウチではどうかと思ったんですが訓練校の学長先生からの推薦もありまして。射撃型だけあってシューターとしていい腕ですし、覚悟がいいんでしょうね。飲み込みは早いし今やるべき事は完璧にこなすって気概があります」

モニターの映像ではスバル同様に防護服を着たティアナが放水活動をしていた。

「ナカジマもランスターも魔導師ランクは現在Cですが、来月昇格試験を受ける事になっています」

「あ、両利きなんですね?」

来客者の一人がティアナの利き腕に注目していた。

次元世界でも利き腕は右利きが幅を占めているところは変わりはないようだ。

「ええ。魔力カートリッジ用のデバイスですね。本人の自作だそうです。何より訓練校からコンビ三年目ってことでこの二人の技能相性やコンビネーション動作はなかなか大したもので……」

モニター映像にはスバルとティアナが互いを守るように背中合わせのフォーメーションを取っていた。

「ああ。いや航空教官のヴィータ三尉や戦技教導隊の高町教導官がご覧になれば穴だらけとは思いますが……」

担当者が来客者である高町なのはとヴィータのお目汚しになるのではと思い、とりあえず愛嬌を振りまく。

現在、なのはは航空戦技教導隊教官で機動六課『スターズ分隊』の隊長である。

ヴィータは『スターズ分隊』の副隊長だったりする。

 

「交替申し送りは以上です」

引継ぎが行われており、スバルとティアナは引継ぎをする側であり緊張から解放されていた。

「ティア。お疲れー」

表情から険しさがないスバルは相棒に労いの言葉をかける。

「んー」

ティアナも伸びをしながら、相棒の言葉を素直に受け止めていた。

「本局航空隊の方が来てたんだって。何の用だったんだ」

「さあ?もう帰られたそうですよ」

という会話も二人の耳には入っていなかった。

「Bランク試験。来月……ていうかもう再来週くらいだけど準備オッケーだよね?」

「まぁね。任務や待機の合間にずっと練習してきたんだし、私もアンタもね」

「うんっ!」

二人は再来週に魔導師ランク試験を受験する。

それが現在、廊下を歩いている二人の頭の中の大半を占めていた。

「てゆーかね。卒業後の配置部隊とグループまで一緒どころか何が悲しくて魔導師試験まで二人一組枠で受ける事になってんのよ?」

「あはは。何かずっとセット扱いだよねぇ」

ティアナは二人一組という事に妙な呪いでもかけられてるのではと愚痴り、スバルは能天気に笑っていた。

「でも訓練校の主席卒業とDとCランク一発合格。ここまではティアの目標通りにちゃんと来てるよね」

「まぁね」

スバルの言うように、ここまでは順風満帆に進んでいる。

正直、相棒がスバル以外だったら多分こうまで上手くいっていないとティアナは思っている。

「一緒に頑張ろうね。ティア」

「アンタに言われなくても頑張るわよ!」

「あはは~」

スバルは流石に三年間コンビを組んでいるためか、ティアナの言葉に怯む事はなかった。

「でも別に無理して付き合うこともないのよ。アンタも自分の夢があるんだからさ」

「んん?あたしの夢はまだまだ遠い空の向こうだしね」

自分の目標につき合わせていることに若干の申し訳なさを感じたのか、ティアナはスバルはスバルで自由にしてくれればいいと思っていた。

「だからいいいんだ。まだ当分はティアと一緒!」

「あー嬉しくない」

笑顔で言うスバルに対して、ティアナは憎まれ口を叩く。

「あ!そうだティア、駅前のお店今日はサービスランチの日だよ!食べに行かなきゃ!」

「はいはい」

三年間コンビを組んでいるだけあって、スバルの強引さもティアナは熟知していた。

 

 

ミッドチルダ北部旧ベルカ自治領『聖王教会』大聖堂。

カリム・グラシアがペンを取って、書類にサインをしながら眼前に立っているヴェロッサと会話をしていた。

「機動六課かあ。お子様だったはやても、もう部隊長か」

「出会ってからもう八年よ。はやても立派な大人だわ」

二人の会話はどう見ても娘を温かい目で見る親のように思えた。

「部隊の後見人で監査役でもあるクロノ提督はいろいろお忙しいし、私やシャッハも教会からあんまり動けないし、はやての言っていた方達も今はいない。はやての事助けてあげてね。ロッサ」

カリムは動かす手を止めて、ヴェロッサを見た。

「了解、カリム。僕等のかわいい妹分のためにもヴェロッサ・アコース、頑張りますとも」

ウインクをしてヴェロッサはさも当然というように了承した。

「さてと、そろそろ行くよ」

「あら?誰かとお約束?」

「まぁね。どうしても会っておきたいんだ」

カリムは見逃さなかった。

ヴェロッサの表情が『査察官』のものになっていた事を。

 

 

夜となり、紛い物の光が地上を支配し天然の光が夜空を支配していた。

ここは時空管理局本局よりは若干距離が離れているビルの屋上である。

「どうも、お待たせしました」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。お忙しいところをお呼びしてしまって……」

左肩にプロキオン(フェレット)を乗っけたユーノ・スクライアが先に来ているヴェロッサに謝罪したがすぐに返された。

「それで僕にお話とは何でしょう?」

ユーノは遅れた詫びも兼ねてか事前に用意していた缶コーヒーをヴェロッサに渡す。

「そうですね。色々お伺いしたい事はありますが単刀直入に一つだけお聞きします」

缶コーヒーを受け取ったヴェロッサは軽く会釈してタブを開けて、一口飲んでから真面目な表情になって訊ねる。

 

「貴方が『青い狩人』、仮面ライダーANOTHERゼロノスですね?」

 

プロキオンがビクッとした。

それをヴェロッサが見逃すわけがない。

(ど、どうしましょう……。もしかして僕のリアクションでバレたんじゃ……)

(いや、単純にカマをかけてるわけじゃないね。確信があって言ってると思う)

プロキオンとユーノが特別回線で会話をしている。

(ユノさん……)

(変身しているところを目撃したってわけでもなさそうだね)

Aゼロノスに変身する際には細心の注意を払っている。

それでも穴が出来てしまう事には否定できない。

(どうするんですか?)

(はぐらかす必要はないよ。自分で捜して行き着いたんだと思うしね)

そこまで言うと、一人と一体の特別回線は閉じられた。

 

「ええ。そうですよ。僕がANOTHERゼロノスです」

 

ユーノのあっさりとした肯定にヴェロッサは目を丸くする。

もっとはぐらかしてくると思ったのだろう。

「それでどうします?僕を局に通報しますか?ロストロギア相当の物を私物化していますから十分な理由になりますよ」

ユーノは逆にヴェロッサに訊ねてきた。

しかも、最もいやな事を。

「捕まるつもりはないもしくは捕まってもいつでも脱走できる余裕、ですか?」

ヴェロッサがユーノの言葉の真意を探る。

「それもありますけど、もっと単純ですよ。管理局は僕を捕まえたりはしません」

ユーノは確信と自信を持って告げた。

「何故?」

「さあ……。五年前のある世界の事を深く調べたらわかるかもしれませんね」

ユーノは、はぐらかすと同時にヒントも出した。

「仮に僕の予想が外れたとして、管理局が手を出してきたとしたらその時は抵抗するかもしれませんね」

穏やかな口調だが、ユーノは覚悟を決めて言っているのだと理解できた。

(一体、この人の覚悟はどこから……)

ヴェロッサは同じ場所にいて、自分がどこか追い詰められているような気がしてならなかった。

蛇に睨まれた蛙のようだった。

(査察という立場で色んな人と関わってきたが、ここまで怖いと感じたことはなかった……)

ヴェロッサの全身から震えが来る。

そして同時に確信した。

はやての幼馴染の彼はいない。

友人であるクロノの義妹の幼馴染の彼はここにはいない。

その義妹の親友であり、彼女の魔法の『師』である彼はもういないのだ。

ここにいるのはユーノ・スクライアという名をした『別人』だと。

「アコース査察官」

「な、何ですか?」

ユーノが呼びかけ、その雰囲気に呑まれつつあったヴェロッサは我に返る。

「どうして僕だとわかったんですか?」

「コレ等を見ていただければすぐにわかると思います」

ヴェロッサは宙にモニターを出現させて、ユーノにデータを見せる。

ユーノは羅列されている内容を素早く目を通していく。

「なるほどコレが『穴』だったんですね……」

ユーノはヴェロッサの作成したデータから自身が立ち上げた『プランAZ』の弱点を発見した。

「ありがとうございます。今後の課題が出来ました」

そう言うと同時に、ユーノは軽く会釈した。

ヴェロッサはその間、考える余裕があった。

今ここで『法』に従って、ユーノを通報するか否かだ。

通報すれば間違いなく、ユーノを強いては仮面ライダーを敵に回してしまう。

それに面子にこだわって、泣きを見るのは自分達を含めて次元世界に住む力なき人々たちだ。

広い視点で見れば彼を捕まえるのは『損』だけで『得』はひとつもないのだから。

左肩に乗っかっているプロキオンが鼻をクンクンさせていた。

「ユノさん。イマジンがいます」

「わかった。行こう。それではアコース査察官失礼します」

「失礼します!」

「え、あ、はいってちょっとスクライア司書長!!」

ヴェロッサの制止もきかずに、ユーノとプロキオンはビルから飛び降りた。

身体全身が輝き、白色がメインのプロキオンクロークをなびかせてミッドチルダの夜空をSゼロノスが翔けた。

「貴方の『覚悟』は本物なんですね」

そう言うと同時にヴェロッサはAゼロノス関連のデータを全て消去した。

「これからも次元世界をお願いします。『青い狩人』さん」

そこにはいない『青い狩人』に向けてヴェロッサは深々と下げた。

これまで救われた次元世界の者達の代表としての意味もこもっていた。

 

野上良太郎を始めとする別世界の仮面ライダーが大地に立つまであと一ヵ月。




第三部 完

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