仮面ライダーLYRICAL A’s to StrikerS   作:(MINA)

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ANOTHERゼロノス誕生
第八話 「0067年の悲劇」


新暦0067年。

 

今思い返せば本当の意味で僕の『時間』が生まれたのかもしれない。

 

 

時空管理局本局にある『無限書庫』

制服姿の局員達が本棚とにらめっこをしている中に一人の少年がいた。

少年は本棚の側にいるわけではない。

中央に佇み、宙に浮いている数十冊の本がパラパラと独りでにページが捲られていた。

少年はそれらを速読し終えると、すべて元にあった本棚に戻した。

数十冊の本は引っ張られるようにして本棚に収まっていく。

その光景は初めて見る者にとっては手品としかいいようがない。

『魔法』が蔓延している世界に『手品』というのも変な話ではあるが。

少年の一連の動きを見ていた局員達は『無限書庫』に来るのが初めてなのか目を丸くして口をポカンとした間の抜けた表情をしていた。

「見るのは初めてかい?」

局員の一人が間抜け顔をしている局員達に近寄ってきた。

「あ、はい……」

仕事をサボっているのを注意されると思ったのか身構えていた。

「俺達も最初にアレを見た時は驚いたねぇ。どんなに優れた魔導師でもあんな事はできないからね」

「そうなんですかぁ」

見慣れているのか、その局員は尊敬の眼差しで少年を見ていた。

「もしかして、未整理状態だった『無限書庫』を運営可能に持ち込んだのって……」

彼等は噂話で聞かされた事がある。

未整理状態だった『無限書庫』を運営可能に持ち込んだ者がいるという事を。

その人物は少年であるという事を。

『闇の書事件』の解決功労者の中にその人物がいるという事を。

「そう。彼だよ」

初心者局員達は少年を見ていた。

少年の名は。

 

ユーノ・スクライア。

年齢十一歳。

 

彼は一人の司書として働いていた。

 

局員達にそのような紹介をされている事を知らないユーノは黙々と作業を続けていた。

しかし、実際にはというと。

(お腹すいたな。今日くらいは食堂で食べないと、なのはに怒られるもんなぁ……)

一心不乱に仕事を打ち込んでいるとは逆に昼食のことを考えていた。

今週に入ってから、火の通った食事はほとんど食べていないような気がする。

食べたとしても夜中に食べたカップラーメンくらいだ。

その事を高町なのはに包み隠さず正直に話したら、目に涙を浮かべながらも本気で怒ってきた。

女の子を泣かせたという自覚が初めて出た時だったりする。

ここ数日おろそかになっていたため、そろそろ説教が飛んできそうなのでユーノはキチンと食事を取る事を選んだ。

正午になったので、旧式ではあるがベルが鳴る。

他の部署は正午になると全員休憩をとることが出来るが『無限書庫』ではチーム編成で休憩を取るようになっている。

今週はユーノが所属しているチームは比較的楽に活動できるようになっていた。

「それじゃお昼行ってきまーす」

ユーノが手を振って、『無限書庫』を出て食堂へと向かった。

 

食堂は正午という事もあって、色んな服装をした局員が賑わっていた。

教導官に執務官に提督に陸士隊などひとつの組織に部署ごとにこんなに制服分けする必要があるのかどうかと思うと考えてしまう事がある。

私服姿で業務している自分が言えることではないのだが。

厨房で料理をしているおばちゃんに声をかける。

「すいません。日替わり一つ」

「あいよ」

ユーノは食堂に行っても、何を食べたいかなんて考えたりはしない。

食が細いわけではないが、不味くなければ何でも食べれる健啖家資質だからだ。

本日の日替わりは白米に味噌汁に白身魚のフライに漬物だ。

海鳴で高町家で何度か白米を食べていくうちにパンより白米の方が好みになっていた。

「いただきます」

合掌して、お椀を左手に持って味噌汁をすする。

食道を通過して、身体の内部が温かくなっていくような感じがした。

「同席いいですか?」

「どうぞ。って……」

頭上から声がしたので、ユーノは特に気にせずに相席を許したが聞き覚えのある声なので顔を向ける。

教導隊の制服を着たなのはと武装隊の服を着たヴィータだった。

「ユーノ君。食堂で会うのは久しぶりだね」

蟹クリームパスタをトレイに乗せたなのはが笑顔で言った。

「お前、私服だからこーゆー時には目立っていいよな」

から揚げ定食をトレイに乗せているヴィータがからかいながら向かいの席に座る。

「『無限書庫』まで専用の制服着るように強要されたらさすがにわからなくなるね」

ユーノは白身魚のフライをかじる。

「二人はこれから任務?」

「ううん。明日の任務の最終打ち合わせ」

なのはは左手にフォークを握ってパスタをくるくると巻いて口の中に入れる。

その仕種自体は特に不自然のようなものを感じる事はないのだが、ユーノには何か違和感のような物を感じた。

「ある次元世界の捜査なんだと」

ヴィータが面倒臭そうにから揚げを一つ口の中に放り込む。

「なのはやヴィータが出るって事は危険な任務?」

高ランクの魔導師二名をかりだすという事はそういう意味合いを取るには十分なものだった。

「さーなー。捜査任務だから保険かけてんじゃねーの」

ヴィータの言い分は尤もだった。

「備えあれば憂いなし、だよ」

なのはもヴィータと同じ考えのようだ。

「とにかく気をつけてね。特になのは」

「ふえ?」

「最近激務なんじゃない?少しは休みなよ」

「ありがとう。でも平気だよ」

そう言いながら、なのはは両手を拳にして『元気です』とアピールする。

先程同様に妙な違和感をユーノは感じる。

「そう。それならいいんだけど……」

今までだってどんな危険な任務からも無事に帰ってきた。

だから今回も大丈夫だろうとユーノは思った。

「あ、そうだユーノ君。今日は忙しいの?」

「クロノからの請求はないから割とゆったりしてるよ。それがどうかしたの?」

クロノ・ハラオウンの請求がない。

それが『無限書庫』に勤めて二年になるユーノにとってはどれだけありがたい事になるだろう。

クロノの請求はいつも重要性が高く、それでいて難解なのだ。

何度休暇を潰されて、何度も直接殴り飛ばしてやろうかと考えた事もあったりするがそれは口には出さない。

「じゃあさ、今日の夜。ウチに来ない?みんな会いたがってるしさ」

なのはの折角の誘いを無碍にする訳にはいかない。

「わかった。何もなかったら海鳴に行くよ」

「うん!」

なのはの笑顔を見ながらも、ユーノにしてみれば曖昧な約束の取り付け方で申し訳ないと思っていたりする。

「なのは。さっさと食わねーと冷めちまうぞ?」

から揚げ定食を半分くらい食べ終えているヴィータがなのはを促した。

ユーノ・スクライアの周辺は相も変わらず平穏だった。

 

 

ユーノとプロキオン(イマジン)が足を踏み入れている次元世界。

揺らいでいる炎の奥には自分の内なる部分が見えているのではとユーノは酒の入ったマグカップを片手にぼんやりと考えていた。

(あの頃は何も変わらないと思ってた。いつまでもこんな順風満帆な毎日や時間が送れると思ってたんだよね……)

マグカップに入っている酒を一気に飲んでから、ボトルの酒を注ぎ込む。

注ぎ込まれた酒をユーノはじっと見ていた。

 

 

夜となり、本日の業務が終了となった。

『無限書庫』はいまだに業務に徹している者達もいるが、ユーノは定刻で終了だった。

「お先に失礼しまーす」

とユーノは退勤の際に言うお決まりの台詞を口にしながら『無限書庫』を出た。

なのはは多分先に海鳴に戻っているのだろうと推測したユーノは転送ポート室へと向う。

「第97管理外世界をお願いします」

ユーノは転送ポートの捜査を担当している局員に告げる。

局員は素早く操作しながら、ユーノに注意事項を告げていく。

ユーノはわかりきっている事だが、万が一の事があるかもしれないと思って真剣に耳を傾けていた。

その五秒後にユーノの姿はなくなった。

第97管理外世界---地球へと向ったのだ。

 

地球---海鳴市に到着したユーノは高町家に向かう際に何かお土産を買おうと思い、高町家からずれた座標を依頼していた。

「お菓子とかスイーツとかが普通なんだけど、なのはの家はそのお菓子とスイーツで生計立ててるからこの手は使えないんだよね」

ユーノは何を買おうかと悩んでしまう。

「飲み物かなぁ。お酒のつまみで喜ぶのは士郎さんだけだし……」

高町士郎は酒類は何でもござれであるが、他の高町桃子、恭也、美由希がそうというわけではない。

それに桃子と恭也は飲酒可能だが、美由希はまだ未成年だ。

この世界---日本では飲酒は二十歳にならないといけないらしい。

その事を知った時、自分はどうなるのだろうとユーノは考えた事がある。

スクライアの部族の教育の一環としてアルコールに対する免疫をつけるための訓練を受けているので、自分は常人よりも酒には強い方だ。

しかし、十一歳の少年が飲酒というのは世間的にはいい顔はされないためユーノは自粛することにしていた。

「食材かなぁ。でももう作ってたら嫌味になっちゃうしなぁ」

スーパー等で高級な食材を購入してもいいが、既に料理を作り終えている中で持ってきたら嫌味になる可能性は十分にありえる。

散々考えたが、特に何かいい案が浮かぶ事もなくユーノは酒屋に入って、酒とジュースを購入する事にした。

酒屋に入って、高級ワインを手にするとカウンター兼レジにいる店主にじーっと見られていた。

(やっぱり僕が一人で酒屋に入るのって不自然なんだろなぁ)

十一歳の少年が一人で酒屋に入ってワインを手に取るというのはどうみても不自然でしかない。

ユーノは買い物カゴに高級ワインと1.5リットルのジュースを数本入れてレジへと向かう。

「すいません。お会計をお願いします」

店主は何も言わない。

ただ黙ってユーノを見ていた。

「あの~」

ユーノは恐る恐る声をかけてみる。

「言わんでいい。俺には何もかもわかってるんだからよ……」

「はい?」

店主が妙な事を口走ったのでユーノは訊ね返す。

「飲んだくれの両親に買いにいかされたんだろ?言わんでもわかってる!」

店主は涙ぐんでいた。

(もしかして僕、はやてと同じ目にあってたりする?)

ユーノは以前、八神はやてと談笑していた時の話の内容を思い出していた。

ヴォルケンリッターの私服を買いにいった時の事らしいのだが、洋服店の従業員達に家庭環境を誤解されて、定価の七割引で買えたという事だ。

「あのですね。僕は……」

ユーノは何とか釈明しようとする。

「あんたぁ!何大声だしてんだい!?」

カウンターの奥から店主とは対照的な容姿とスタイルをしている女性が出てきた。

(この人の奥さんなんだろうけど、海鳴の女の人たちって老化って言葉に縁がないのかな……)

「おお。母ちゃん。それがさぁ聞いてくれよぉ。語るも涙聞くも涙ってやつでさぁ」

(僕、何も言ってないですよ……)

ユーノの言うとおり、彼は自分の身の上を何一つ語っていない。

夫婦間で何か話し合っている。

「あの~」

ユーノはもう一度釈明しようとする。

店主夫人も涙を流していた。

「アンタもロクでもない親の元にいるんだねぇ。いいよ。そんな子に定価で売るなんて事はしない。残った金はアンタの小遣いにしな?ね、それがいいよ」

店主夫人は涙を流しながら、会計を済ませてくれた。

定価の八割引でユーノは購入できた。

「あ、ありがとうございます……」

ユーノは感謝二割、申し訳なさ八割の気持ちで言葉を発した。

 

高町家への入口前に立ったユーノはインターホンを押す。

『はーい。どなたですかぁ?』

なのはがリラックスしているような声を出していた。

「ユーノです」

『あ、ちょっと待っててねぇ』

戸が開き、私服姿のなのはが出てきた。

「いらっしゃい。ユーノ君」

「今日はありがとう。あ、これみんなに」

ユーノは軽く会釈してから酒屋で買った品の入った袋をなのはに見せた。

「え?こんなに!?いいの?高かったんじゃ……」

袋の中身を見て、なのはは目を丸くしていた。

「いやそれがね……。僕もはやてと同じ目にあっちゃって……」

ユーノは後頭部を書きながら苦笑している。

「にゃはは。しょうがないよ……」

なのはも苦笑するしかなかった。

「さ、上がって。もう晩御飯できてるから」

「お邪魔します」

ユーノは高町家へと足を踏み入れた。

リビングに踏み入れると、高町家全員がテーブルを囲っており後はなのはとユーノが座るだけだった。

「久しぶりー。ユーノぉ」

美由希が手を振って迎えてくれる。

「よく来たな」

恭也が短い言葉で応じてくれる。

「久しぶりユーノ君。少し背伸びた?」

桃子が笑顔で本日の夕食のおかずをテーブルの上に並べている。

「お父さん。ユーノ君がコレを……」

なのははユーノから預かった買い物袋を新聞を読んでいる士郎に見せる。

「いや悪いねぇユーノ君。いつももらってばっかりで……」

士郎はユーノに気を遣わせていることを詫びながらも、もらった高級ワインに目が泳いでいた。

「いえ。お給料もらっても僕一人の生活じゃ結構余るんですよ……」

ユーノの何気ない一言に桃子、恭也、美由希はユーノを見る。

「ユーノ君。月にどのくらい貰ってるの?」

「結構余るって事はお前倹約家なのか?」

「ねぇねぇ。それって私のお小遣いより多い?」

単純な好奇心なのだろうか三人はずずいとユーノに詰め寄ってくる。

「ええとですね……」

ユーノは近寄っている三人に耳打ちする。

反応はというと、桃子と恭也は「おお~」と感心し美由希は「負けた……」と打ちひしがれていた。

「おいおい。ユーノ君がいくら一人身だからって集ろうなんて考えるんじゃないぞ」

士郎が早速高級ワインをグラスに注ぎ込みながら釘を刺していた。

(温かいな……)

ユーノは高町家のこの空気が好きだった。

温かくて優しくて心地よい。

赤の他人も包み込んでくれる事が純粋に嬉しかった。

「さ、みんな食べるぞ」

士郎の一言に全員が席に着いて合掌し、夕食を食する事になった。

本日の夕食はサラスパとビーフシチューだった。

夕飯を食べ終えると、ユーノは美由希のリクエストに応える為にフェレットになっていた。

スリスリされたりしてユーノとしては複雑である。

美由希の表情は心底幸せそうだった。

なのははグッタリしたユーノを両手で優しく抱きかかえて、ソファに置く。

フェレットから人間に戻ってもユーノはグッタリしていた。

「ユーノ君。大丈夫?」

なのははコップに入ったジュースを渡しながら心配する。

「……久しぶりだったからね。正直参ったよ」

ユーノは引きつった笑みを浮かべながら答えた。

コップを受け取ってジュースを一気飲みして落ち着いた表情を取り戻す。

「あぁ。あの感触はユーノ(フェレット)じゃないと無理だね~」

美由希は触り心地を思い出しながら浸っていた。

「もぉ、お姉ちゃんったら……」

なのはは姉の若干行き過ぎた行いに呆れながらも笑みを浮かべていた。

「ユーノは今日は泊まるのか?」

「いえ。明日も仕事がありますので帰ります」

恭也は夜も遅くなってきたのでユーノの今からの事を訊ねるが、帰ってきたのは仕事している人間なら誰もが多分一度は言うような台詞だった。

「若いからってあまり根を詰めるんじゃないぞ」

「はい」

士郎が父親のようにして忠告してきたのをユーノは素直に首を縦に振った。

 

 

翌日となり、ユーノは時空管理局本局『無限書庫』で業務に勤しんでいた。

彼の周りに浮いている数十冊の本は役目を終えるようにして、本棚へと収まっていく。

(やっぱり、なのはの家の食事が一番美味しいな……)

昨日の事を思い出しながらもユーノは業務を怠る気配はない。

(そういえば、なのはとヴィータは今日捜査任務だけど無事にやれてるかな……)

今日はなのはとは会っていない。

時間が合えば挨拶はしておきたかったのだが、合わなかったのだから仕方がない。

(それにしても何だったんだろ……。あの違和感は……)

ユーノはなのはの仕種で感じた違和感を思い出していた。

(悪い予感じゃなきゃいいんだけど……)

外れてほしい予感なので口には出さない。

声に出せばそれが現実になりそうだからだ。

「スクライア司書!いますか!?」

業務に集中しようとしたユーノを制服局員が呼び止めた。

「はい」

ユーノは呼ばれた理由を知る為に制服局員の側まで寄る。

無重力空間なので歩み寄るというよりはふわーっと寄るという表現の方がいいのかもしれない。

「スクライア司書ですか?」

制服局員が真剣な表情で確認する。

「はい、そうです。ユーノ・スクライアです」

「そうですか……。今から言う事を聞いても心を乱さないようにしてくださいね」

「は、はい……」

 

「高町士官が未確認に撃墜されました……」

 

「え?」

制服局員の一言をユーノは理解できなかったため、間の抜けた声を出す。

「もう一度言いますよ。高町士官が未確認に撃墜されました」

ユーノがその言葉をきちんと理解するのに要した時間は十秒必要だった。

 

 

炎がゆらゆらと揺れて、過去の事が映像で映し出されているのかユーノはじっと見つめていた。

(悪夢や悲劇は必ずといっていいほど何の前触れもなくやってくるんだ……。そしてみんな決まってこう言うんだ)

それは自分も例外でない事をユーノは知っている。

何故なら自分もそれを思い、そして口に出したからだ。

 

どうしてこんな事に……ってね。

 

夜空の星は光り輝いていた。

 




次回予告

第九話 「0067年の決意と挫折」
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