久しぶりの投稿です。
「この度は本当に…本当にありがとうございます。
もう感謝の限りで…上条さんは頭があがりませんよ」
すき焼肉を両手で持ちながら、深々と頭を下げてお礼を述べる上条。
どうやらあの後結局敗北し、削板の戦利品を一つ分けて貰った(もちろん代金は支払ったが)らしい。
「いいって、頭あげろよ」
とは言ったものの、削板も育ち盛りの男子高校生だ。正直1パックだけでは物足りない。
金には苦労しているため、こんな高級な肉は、こういった特売の日くらいでしか食べることはできない。
全く後悔は無いと言えば嘘になる。
しかしその程度の不満など、肉を受け取った上条の幸せそうな顔を見たら、綺麗さっぱりなくなってしまった。
趣味で続けているヒーロー活動…これはただの自己満足でやっていることだ。
別に見返りを求めているわけでもない。
しかし実際に感謝されてみると、存外…悪くないものだと思ったりもする。
そんな事を思いながら、削板はちょっとした悦に浸っていた。
「…何か、騒がしいな」
スーパーから西の方角だろうか…少し離れた場所から、物がゴロゴロと転がる音と、人の叫び声が聞こえてくる。
「誰か暴れてるのかもな、何か最近そういうの多いし」
先日も、能力者で暴れていた不良グループを懲らしめたが、削板の言葉の通り、最近能力を使って事件を起こす者が増えている。
ある意味では、現在気絶している御坂もその一人と言えるかもしれないが…
ともかく、この立て続けに起こる能力者による事件には、何らかの関係性があるのかもしれない。
…と、削板は心の奥底でなんとなくそう思った。
「…まぁ、ほっとくわけにもいかねーし、止めてくるか」
「俺も行く」
「いや、一人で大丈夫だって」
「確かにお前の強さなら大丈夫だとは思うけど、俺だって暴れてる奴がいるって言うんなら、ほっとけねーよ」
「…まぁ、そこまで言うなら止めないけど」
正直暴漢の鎮圧など、一人でも十分過ぎる程に十分だが、上条の目を見る限り言っても聞き入れそうにない。
とは言え削板は
というか、ヒーローを名乗っていようと、削板も一般人と区別される者の一人。他人に対して一般人だからどうこうと言う資格もない。
もし危ないようならば、自分が助ければいい話だ。
二人はスーパーの前にある横断歩道を渡り、騒ぎの現場へと駆け出した。
「俺は無敵だ!おい!誰かかかって来ないのか⁉︎」
馬鹿でかい声が響いてきた。
どうやら削板の推測は当たっていたらしい、騒ぎの中心人物は高位の能力者と思われる。
それもかなり自信家のようだ。口だけではない、凍りついた掃除ロボットや、おそらくこの男と戦ったのだろう…気絶した他の能力者達がそれを物語っている。
「おい!暴れるのは止めろ!しかもこんな街のど真ん中で…迷惑だろ!」
削板の言う通り、男が暴れている場所は、一般人も通行に使う場所だ。
そんな所で暴れられるのは迷惑この上ない。もっと場所を選んで欲しいものである。
しかしそんな事は意に介さない能力者の男は、次の標的を削板へと見定め、尚も暴走を続けた。
「俺に指図してんじゃねーよ!
今度はお前を、この俺の能力でのしてやろうか?」
「いや…指図って言うか…迷惑だから迷惑だって言ってるだけなんだけど」
「それを指図って言うんだよ!
どうしても俺を従わせたいんなら、俺の能力、“
「人の話を聞かない奴だなお前」
自分の能力に過信し過ぎている為、半ば盲目的になっているのか、分子鈍化の男には削板の声が届いていない。
「俺は触れた物の分子の動きを鈍くする事ができる!
分子の動きが小さくなれば、物体の温度も低くなる、これを利用して、物質を凍らす事すら可能だ!」
男は脅しかける様に、自分の足元に能力を使用した。
男の足元を中心に、凍った地面がどんどん広がっていく。
意外にもかなり凶悪な能力であった。
言ってしまえば、触れただけでも人を簡単に殺せる能力だ。
「まぁ安心しろよ、死なないように手加減はしてやるからよぉ」
「厄介な能力だな…だけど俺の右腕なら…」
そう言って上条は、右の拳を強く握り締めた。
彼の右手には
例え
それが上条当麻の、生まれながらにして持つ力だ。
「俺があいつの能力を封じてる間にーー」
いかに強力な能力であろうと、それそのものを無効化してしまえば恐ろしくは無い。
上条当麻の右手を使えば、それが可能なのである。
「って、おい!」
しかし削板は、上条の右手の事を知っているにも関わらず、上条の言葉を無視しいつもの無気力な顔のまま、前にズンズンと進んでいった。
「いい度胸だな」
男はニヤリと笑みを浮かべて、削板を見下した。
男を中心に、大気が冷たく凍えてゆく。
肌に突き刺さる様な冷気を浴びても未だ、削板には一切の危機感も見られない。
削板は真っ直ぐに相手を見たまま、拳を硬く握り締め…
「ぽっちり凄いパンチ」
の掛け声と共に、それを放った。
「ビブルチッ⁉︎」
削板の拳から放たれた衝撃波をその身に受け、
「よし、事件も解決したし、今日は帰るか…」
削板は何事も無かったかの様に、左手で御坂を担ぎ、右手でスーパーで購入した肉の入ったビニール袋を持った。
「あー…やっぱ俺、来なくてもよかったかもな…」
あまりにも呆気なく、一瞬にして事件が解決したのを目の前に、上条は脱力感を表せずにはいられなかった。
しかし考えてみれば当然の事なのかもしれない、今現在削板が担いでるのは常盤台の
この街でももっとも有名な能力者の一人であり、
「そう言えばこいつって、何処に住んでるんだろうな。
このまま連れて帰る訳にもいかねぇし、送り届けておかないと」
「…常盤台の生徒だし、多分常盤台の寮にすんでるんじゃないか?」
こいつ…というのは、もちろん御坂の事である。
その辺に捨てて行く訳には行かないし、かと言って連れて帰ったら…何かと誤解を生んでしまう可能性もある。
あまり他人からのイメージにこだわる気はないが、流石に気絶させた女子中学生を自室に連れ込んだ男…何て噂が立つのはヒーローとして…というか人間として避けたいものである。
(…というか、それ以前に白昼堂々、公衆の面前でこんな、明らかに異常を来たしていると思われる人間を、それも剝き身で運んでいてもいいものなのか!)
…と、上条が今更ながらに疑問に思った瞬間…
「ジャッジメントですの!」
ツインテールの常盤台生が、削板達の目の前に、文字通り突然現れた。
「能力を使用しての暴動が起きてると聞きつけ、駆けつけました。
無駄な抵抗は、しない事をおすすめしますわ」
ツインテールの少女が腕章を見せつけながらそう言った。
この腕章には見覚えがある。
この街の治安維持組織の一つ、
「おっ、あの制服って、こいつと同じ常盤台だよな。
じゃあ後はあいつに任せようぜ」
「えっ⁉︎いや、今はやめといた方が…」
「え?何で?」
「何でっつーか…」
などと話をしている内に、二人は既に風紀委員の少女に目を付けられていた。
上条が危機を感知したが、それも虚しく手遅れになってしまったのだ。
「あ…あなたが左手に担いでいるのは…もしかして…!」
突然御坂を指差し…目に見えて動揺し始める風紀委員の少女。
なにやら御坂の知り合いだったらしい。
「あぁこいつはさっきーー」
と、削板が言い終わるよりも前に、少女は削板の前に一瞬で移動し、御坂の体に触れて、共に再び元の場所に瞬間移動した。
「
少女の一連の動きを見た上条がそう言った。
上条の言う通り、彼女は空間移動系の能力者だ。
名は白井黒子。
「や…やっぱりお姉様でしたの!!?
で、でも…一体何故気絶して担がれて…まさか!」
「そいつはさっき俺が…って、話きいてる?」
削板が語りかけるが、彼女の耳には届いていない。より一層大きく動揺するだけである。
「あ…あなたが暴動を起こした犯人、そしてお姉様に危害を加えたにっくき暴徒ですのね‼︎」
ビシッと指を指して削板を睨みつける白井、その目にはハッキリとした怒りが表れている。
そう、彼女…白井黒子は
彼女の御坂に対する想いは、憧れを通り越し、歪んだ愛情に変わっている程である。
「おい!違うぞ!
いや…確かに半分合ってるけど、違うぞ!」
言い訳をするが、やはり彼女の耳には届いていない。
怒りのまま、今にも襲いかかってきそうな顔になっている。
「問答無用!正面からお姉様を倒すことなんてできない!
きっと何か卑怯な手を使ってお姉様を陥れたに違いまりません!わたくしはそんな輩に負けませんの‼︎」
完全にヒートアップしてしまった白井。もう何を言っても聞き入れてはくれないだろう。
「ちょっ、おまーー」
流れる様に、削板の両腕が手錠で縛られた。
「話は署で聞きますの!おとなしく!お縄につきなさいな‼︎」
「あ!ちょっ!ちょっと待て!俺のすき焼きがぁぁぁ‼︎」
せっかくご馳走を手に入れたというのに、このままだと何日も食べられないかもしれない。
しかしそんな事は、相手にとっては知った事ではない。削板は風紀委員の支部へと引っ張られていった。
「…不幸つーか、本当についてないな、あんた」
と、他人事のように憐れみの目で削板を見つめる上条であったが…
「何を言ってますの?共犯であるあなたも一緒に逮捕するに決まっていますわ」
不運な彼が逃げられる筈などない。
削板共々、今回の事件の犯人として、
「ふ…不幸だぁぁぁぁ!!!」
最近…なんか無駄な話が多い気がするな