かなり遅れてのクリスマスネタです。
いやまさか、自分でも二つに分けなくてはならない程長くなるとは思いませんでした。
正月ネタも書こうと思ってるけど、どうしよう…既に過ぎてるよ。
《番外編》メリーコワシマス(上)
数ヶ月程前の話…
今日の削板はいつもより少し違っていた。
いつもはハチマキに白い学ランを羽織るというのが彼の正装なのだが、今日は赤い帽子に赤い服…赤いズボンという全身真っ赤の所々白が混じった格好をしている。
何より変なのは、顔につけている真っ白の付け髭だ。
薄々感づいている人もいるだろう…その通り、サンタクロースの格好である。
何故こんな格好をしているか…答えは簡単である。
今日はクリスマスイヴだからだ。
彼の趣味…すなわちヒーロー活動を行っているため、殆ど登校してはいないものの彼も学生なので、一応は学校に在学していた。
そんなある日に、久しぶりに学校に登校した削板が、担任の教師にある頼み事をされたのが始まりである。
その頼みというのが、その担任教師の友人が園長をしている、“ひまわり”という施設で、サンタの格好をして子ども達にプレゼントを配って欲しいとのことだ。
(“ひまわり”…というのは、身寄りの無い“置き去り”と呼ばれる子ども達の保護施設…いわゆる孤児院のような施設らしい)
その役目を、何故削板に頼んだのか…それは彼の能力に起因する。
この時には既に、削板は不断の努力によって、Level5の第七位にまで成り上がっていた。
なんでもその施設の園長が、子ども達に「サンタクロースというのは不思議な力を使える魔法使いのようなおじいさんなんだよ」とか、夢を与えるためにいろいろと話を盛り過ぎてしまったらしく、子ども達の間でのサンタクロースという存在は「人類を超越した完全な存在」…みたいな感じで、崇拝に近いレベルで憧れの的になってしまっているらしい。
そんな完璧超人と化してしまったサンタクロースを演じるのに、もはや普通の人間では力不足なのだ。
そこで目をつけたのは高位能力者だ。
魔法の様な力を使うことのできる能力者…それもLevel4以上の者ならば、子ども達が理想とするサンタ像にも限りなく近づけると考えた。
幸いにも、そんな能力者達の中でも最高クラスの能力者…Level5が友人の務める学校に一人だけいた。
それが削板である。
元々は頼まれたら断れない性格の人間だった上、それなりに御礼もすると言われたので、削板も二つ返事でOKした。
この施設の者達は本当に運が良かったと言えるだろう。
Level5といえば“人格破綻者集団”という話をよく聞く、事実その通りだ。
こんな頼みを聞き入れてくれる者など、七人いる中でも削板を入れて二人しかいないだろう。二百万人近くの能力者の中の頂点七人…そしてその中で二人、奇跡にも近い数字であった。
ともかく、削板は承知したのだ。
そして今日は約束の日である24日、クリスマスイヴだ。
早速削板は、サンタの格好で街へと繰り出した。
シーズン真っ只中というだけあって、町中がクリスマス一色に染まっている。
店々にはクリスマス定番のリースやベル、サンタの人形やトナカイの人形などが飾られており、大小様々なツリーが建てられている。
建造物だけではない、町を歩く人々もクリスマスモードに変わっており、その景色はサンタの服装をしている削板がまったく目立たないほどである。
「盛り上がってるなー」
削板がキョロキョロと辺りを見回しながら言った。
よく見てみると、LED電球のようなものがちらほらと見える、現在は昼だからわからないが、おそらく夜になるときらびやかなイルミネーションが現れるのだろう。
そしてここは科学の最先端の街学園都市だ、その科学力を生かした素晴らしい光のアートが期待できる。
「夜になったらツリーだけでも見に来るか…」
削板が謎の機械が取り付けられた、一際でかいツリーを見ながら言った。
しばらく歩いていると、大きなケーキ屋の前に到着した。
「確か…待ち合わせ場所はここだったよな…?」
ケーキ屋の周辺を見回しながら呟く削板。
やはりクリスマスと言えばクリスマスケーキだ。このクリスマス一色に染まる街の中でも、一際派手に飾り付けが施されている。
とりあえず中に入った削板だが、店内の方も外と負けず劣らず派手だった。
まず目に入るのは、入店した直後に笑顔でお出迎えしてくれる、ミニスカートのサンタクロースだ。別の場所を見ればトナカイの着ぐるみを着た店員も見られる。
しかし流石に、厨房にいる作業中のパテシエだけは、普通にエプロン姿だった。
「ん…?俺に何か用でもあるのか?」
横から自分を見つめる何者かの視線に気づいた削板が、不思議そうな顔で視線の元の人物に尋ねた。
「あ…すみません。
……えーと…君が…削板君でいいのかな?」
若い男だ。見た目は二十代の後半辺りだろうか…どうやらこの男は削板に用事がある様だ。
「そうだけど?」
「よかった。
いやね、ほら…この店は君と同じ様にサンタの格好をしてる人が多いから」
確かにそうだ、この店の店員のほぼ全員がサンタ…もしくはトナカイの格好をしている。
結構大きな店のため、従業員もそれなりの人数が雇われている。入る瞬間を目撃していなければ、店員と混ざって区別がつかないだろう。
「それでも、こちらが送った物と同じ物を着ていたようだから、なんとなくそうなんじゃないかと思ってね。
因みにその服…私達の手作りでね、ほら、袖の辺りにひまわりがついているだろう?」
「あ…ほんとだ」
そう言われてみれば、この店の店員が着ている服の柄とは少し違う。それに他では付いていないであろう、ひまわりの花のマークが付けられている。
「突然無理を言ってしまって申し訳ない、私達の頼みを聞いてくれてありがとう」
ひまわりの男がぺこりと頭を下げた。
「いいよ、あんまり用事も無かったし」
「本当は直接君の家まで迎えに行きたかったんだけど、いろいろな都合でこのケーキは今日しか受け取りに来れなくてね…」
男が女性店員が運びやすいように箱に包んだ、巨大な二つのケーキを指差して言った。
「気にしてねぇって」
「そう言ってもらえると助かります。
近くに車を停めているので、よかったらそれで案内をしよう」
「わかった」
しばらくして、車は第十三学区に到着した。
ここは小学校や幼稚園が多い学区だ。したがって小さい子どもが多く見られる。
そんな子ども達を狙って現れる、空間系能力者の露出痴女が出没するとかしないとか……まぁ…あくまで噂なのだが…
しかし例えそんな輩が現れようと、子ども達を守るために
(しかし噂の空間系能力者は
車はある建物の前に停車している。
この建物が児童養護施設、“ひまわり”なのだろう。
飾り気が無いが、見た目は普通の保育園とあまり変わらない。
「本当に申し訳ない…荷物運びまで手伝わせてしまって…」
ひまわりの男は本当に申し訳なさそうな顔で、他の従業員と二人がかりで、慎重にケーキを運びながら言った。
「いいって、気にすんな」
対する削板は一人で軽々と持ち上げている。
ぞんざいに扱っているように見えるが、不思議なことに中のケーキは一切崩れていない。
これも能力の応用の一つなのかもしれない…
二つのケーキを運び終えた削板達は、施設内の大広場に居た。
ここでクリスマスパーティをするのだろうか、飾り気のない他の場所と比べてかなり派手に彩られている。
「さて…後は子ども達を待つだけだ…
改めてよろしくお願いします、私がここの園長…杉原です。」
杉原と名乗る男がお辞儀しながら自己紹介した。
「あぁ、よろしくな」
「そしてこちらの二人が、ボランティアでお手伝いをしてくれている、山田さんと村本さんです」
紹介された二人が前に出て、ぺこりとお辞儀した。
因みに山田さんというのは女性で、村本さんが男性である。どちらも見た目は三十代の後半辺りで…どちらも小学校の教師である。
「よろしく」
削板も軽く挨拶を返した。
「今日も来ていただいてありがとうございます」
「いいのよ、私達だって好きで来ているんですもの」
「その若さで一人で園長というのは大変だろう?
いつでも頼ってくれたらいい」
御礼を言う杉原に、人の良さそうな笑顔で応える村本さんと山田さん。
「いい人達なんだな」
「あぁ…私も本当に感謝しているよ…今までやってこれたのはあの人達のおかげだ」
削板の言葉に、杉原は何処か悲しそうな顔でそう言った。
「あと二人紹介したい人がいるんだ。
もうすぐ子ども達と一緒に帰ってくると思うんだけど…」
そんな事を言っている間に、ワイワイと小さな子どもが騒ぐ声が聞こえてきた。
「帰ってきた!
削板くん、準備してくれ!」
慌てて削板を指定の位置に誘導する杉原。
「はーい皆さん、外から帰ってきたら、ちゃんと手洗いうがいをするのですよー!」
年長だろうか?子ども達にうがいと手洗いを促す子どもの声が聞こえてきた。
しかしそれにしては変な言い方である、年長者だとしても普通は「皆さん」などとは言わないはずだ。
「削板君、準備はいいかい?」
「あぁ、いいぞ」
準備と言われても、特に何もすることが無いので削板はそのまま答えた。
「それじゃあ私は子ども達を迎えに行こう」
そう言って杉原は子ども達の方へと歩いていった。
「みんな!今から大事な話をするから、静かにして聞くように!」
壁の向こうだから見えないが、その声は削板のいる所までしっかりと聞こえてきた。
「今日はなんと!皆の為にサンタさんがここに、遊びに来てくれました‼︎」
杉原は盛り上げるために、大きな声で子ども達に発表した。
その効果は覿面であり、直ぐ様子ども達の大歓声が聞こえてきた。そしてこのことは同時に、それだけ子ども達がサンタに会いたかったということにもなる。削板には更に責任がのしかかった(もっとも…当の本人はどこ吹く風といった感じで、全く責任感など感じでいない顔なのだが…)
興奮鳴り止まぬまま、子ども達は杉原に連れられて、パーティ会場とも呼べる部屋の中に入ってきた。
そこには自分達の憧れるサンタクロースが立っている。
当然期待に胸を膨らませていた子ども達だったが、いざサンタクロースを目の前にした時の子ども達の反応は…なんとも微妙なものだった。
イメージと違う…
サンタクロースというのは、赤い服に白い髭のおじいさんだ。それに比べて削板は17歳の高校生である、そんな若者が白い髭をつけていれば、小さな子供だろうと違和感は覚える。
「本当にサンタさんなの?」
「当たり前だろ。他に何に見えるんだ?」
半信半疑の子ども達の言葉に削板は応えるが…
正直何にも見えない…サンタにも。
「サンタさんって空も飛べるんでしょ?」
「あぁもちろんだ」
「だったら飛んで見せて」
「いいぞ」
そう言って削板は、子ども達の要望に応えるために外に飛び出た。
興奮して窓に押し寄せる子ども達の中、杉原やボランティアの教師達も、心配そうな顔で削板を見守っている。
「いくぞ、よく見とけよ」
皆が見ている中、削板はそう言って足を曲げ、思い切り地面を蹴った。
ゴオォ‼︎と何かが爆発したかのような轟音が響いたかと思えば、さっきまでいたはずの削板の姿が消え去り、代わりに地面には小さなクレーターができていた。
削板の姿を探して、子ども達が右へ左へとキョロキョロと首を動かした。
最初にその姿を見つけたのは、7歳くらいの少年である。「あそこだ!」と空に向かって指を指し、それに従って他の子ども達の目も空へと向いた。
曇りがかった空の中に、削板の姿が見える。
豆粒程の大きさになったかと思えば、暫く静止した後だんだんと元の姿に戻って行き、やがて完全に元の大きさを取り戻した削板が、小さなクレーターの上に着地した。
かなりの高さ…少なくとも何百メートルはあった場所から落下したにも関わらず、地面に着地した時の衝撃は想像以上に穏やかなものだった。
削板が再び部屋の中に帰ってきた直後、子ども達から今までに無い程の大歓声が巻き起こった。
「すごーい!!!本当にサンタさんだぁ!!!」
「だからそう言ってるだろ」
大興奮で子ども達が削板の元に集まってゆく。
見た目にこそは違和感を抱かれていたが、削板は子ども達にサンタクロースと認められたようだ。
「おい、あんまり引っ付くな、歩きにくいだろ」
流石の削板も、10人もの子ども達に一斉に攻め寄られるのはきついらしい。
「こらこら、あまりサンタさんを困らせちゃだめよ」
「えぇー!もっとサンタさんがどんなことできるか見たいー‼︎」
山田さんが削板に気を使って子ども達に注意をするが、サンタに興味津々なのでブーたれる子ども達。
「言うこと聞かない悪い子には、サンタさんはプレゼントをくれないぞ?」
ここで村本さんが魔法の言葉「悪い子はプレゼント貰えない」を唱え、子ども達は渋々大人しくなった。
「クリスマス会は始まったばかりなんだ、サンタさんと遊ぶ時間は後でたっぷりある。
それより先にご飯を食べよう!皆!準備を手伝ってくれ!」
「はーい!」
杉原の言葉に、子ども達は元気良く返事をした。
子ども達や大人達、そして削板がそれぞれ協力し、全員座れるようにテーブルを並べ、その上にピザやチキン、サラダやケーキを運んだ。
「先生、今日は凄いご馳走だね!」
「今日は特別な日だからね、遠慮せず食べるんだよ」
目の前のご馳走を見て喜ぶ子ども達に、杉原が優しい笑顔で笑いかけた。
「そぎ…サンタさんも遠慮せずに食べてください。
今日はクリスマスであり……子ども達がここで過ごす、最後の日ですからね」
「いいのか?貰えるって言うんなら貰うけど」
「えぇ、もちろん」
削板は万年金欠だ。こんなご馳走をただで振舞って貰えるのは、正直とてもありがたい。
別に断る理由も無いので、遠慮無くいただくことにした。
「そういえばサンタさん、さっき言っていた、紹介したい人が二人いるんですが、構いませんかね?」
「あぁ…そういや言ってたな」
確か後二人ボランティアがいたとかだったはず…と、削板はさっきの話を思い出していた。
「あなたが削板ちゃんですねー」
話をする削板後ろから、小さな女の子の声が聞こえてきた。
この声はさっき、他の子ども達に手洗いうがいをするように言っていた、あの時の子どもの声だ。
振り返ってみると、そこには案の定小さな子どもが立っていた。
それも服と髪の毛が両方ピンクのド派手な配色だ。
「ちゃん…?何でこんな小さな子どもにちゃん付け呼びされなきゃならないんだよ」
「私はれっきとした大人なのですよーッ‼︎」
「大人?いやいや、ありえねーだろ」
自分の事を大人だと言い張る桃色の髪の幼女。
対する削板はまったく信じていないと言った顔だ。無理もない、見た目は完全に子ども…それも下手をすれば、他の子ども達よりも低い身長だ。
「彼女の言うことは本当だよ。こう見えても彼女は高校の教師なんだ。
その上私よりも年上でしてね」
「マジで⁉︎」
「マジで」
これには流石に驚きを隠せない削板。
「紹介します。
彼女の名前は月詠小萌さん、山田さんや村本さんと同じ、ボランティアで度々ここを訪れてお手伝いをしてくれています」
「へぇーそうか、ちっちゃいのにえらいな」
「削板ちゃん、まだ私のこと子ども扱いしてません?」
そんな二人のやり取りを見て、苦笑しながら杉原が話を続けた。
「それともう一人。
こちらにいる眼鏡をかけた女性が、鉄装さんです。
彼女は月詠さんの飲み仲間らしく、たまにここへ訪れてくれます」
「飲み仲間…って、やっぱ酒飲めるのか?」
もちろん小萌のことである。
「喫煙だって、運転だってできる歳ですよ?」
そのちんちくりんな体で、どうやって運転するのかは気になったが、聞かないことにした。
「今日は本当に、来ていただきありがとうございます。
特に鉄装さんなんて、
「そこは何とか、休暇を取ることができました。
…黄泉川さんは都合が合わなかったようですけど」
「それは残念ですね。今まで碌に御礼なんてできていませんでしたし…最後の日くらいは…と思っていたんですが…」
削板はさっきから気になっていたことを尋ねた。
「さっきも言ってたけど、最後ってどういうことなんだ?」
「あぁそういえば、サンタさんには言ってませんでしたね。
実はこの施設、今日を最後に閉めるんですよ」
「閉める…?じゃああいつらはどうなるんだ?」
削板が子ども達を指さして言った。
「子ども達は別の施設に預けられることが決まりました。
せっかく皆、ここで仲良くなったのに、離れ離れになるのは悲しいことですけどね…」
杉原は暗い顔で言った。
「昨日までは大変でしたよ。子ども達に話した途端、全員泣きだしてしまってね。
その悲しそうな顔を見ると、私まで泣いてしまいそうになりました。
同時に少しだけ嬉しくもありました、それだけ子ども達にとって、ここは大切な場所だったってことです」
杉原はとても寂しそうな表情をしている。
それが子ども達と離れることによるものなのか…子ども達の悲しむ顔を見たことからなのか…心優しい人達によって支えられてきた、この施設を閉めることになったからか…
いや、おそらく全てだろう。
「あなたのおかげだ、サンタさん。
あなたのおかげで、子ども達はあんなに笑顔を取り戻した。
あなたのおかげで、最後の日を笑顔で迎えることができた」
杉原は溢れる感情をぐっと堪え、削板に笑いかけた。
「本当にありがとう、サンタさん。
いや…御礼を言う時にはちゃんと名前で呼ばなきゃな…
ありがとう、削板君」
杉原は溢れんばかりの笑顔で、子ども達には聞こえない様に感謝を述べた。
「おっと…少し湿っぽくなったな…パーティに暗い雰囲気は似合わない。
今日は存分にパーティを楽しんでいってください!なんたって今日は、クリスマスなんですから!」
こうして、クリスマスパーティが始まった。
美味しい料理を食べた。
骨までついている柔らかいフライドチキン…トロトロのチーズを乗せたあったかいピザ…甘い、優しい舌触りのケーキ…寿司まであった。
いつもと何ら変わりのないサラダやパンですら、この時はとても美味しく感じられた。
いっぱい遊んだ。
サンタさんと一緒に鬼ごっこをした…隠れんぼをした…ボール遊びをした…サンタさんは慣れていないようだったけど、おままごともした。
サンタさんに色々な特技を見せてもらった。
目に見えない程速く走ったり…ボールを信じられないほど遠くに投げ飛ばしたり…全身燃えているのに無傷だったり…車でお手玉してくれたり…戦隊モノのヒーローのポーズをとったら背後が爆発したり…西側にまっすぐ走って行ったと思ったら東側から戻ってきたり…
挙げ句の果てにはパンチで雲を吹き飛ばして、曇っていた空を無理矢理晴れ空にしていた。
楽しい時間は、流れるように過ぎていった。
「さぁ皆、お待ちかねの時間がやってきたぞ。
サンタさんからのプレゼントだ」
「やったぁー!!!」
サンタクロースと言えばプレゼント、ようやくサンタとしての使命を果たす時がきた。
因みに、削板の持つ袋に入っているプレゼントは、削板が選んだ物ではなく、あらかじめ杉原が用意した物を削板が配る…といったものである。
「そんじゃあ、今から渡していくぞー」
削板が順番にプレゼントを子ども達に手渡した。
「やったぁー‼︎車のおもちゃだぁ‼︎」
「僕は飛行機‼︎」
「僕は電車だ!線路も付いてる‼︎」
「うわぁー!可愛いお人形さんだぁー‼︎」
「私もー!」
「私のはお洋服だぁ‼︎」
それぞれ自分の欲しかった物を貰い、喜びはしゃぐ子ども達。
「あれ?他にも手袋が入ってる」
「私のにも入ってる!お揃いだー!」
それは杉原がどうしても入れた、全員お揃いの手袋だった。
これからここを離れる皆に、ここの事を忘れないで欲しいと、そんな想いを込めた物なのだろう。
興奮鳴り止まぬ楽しい一時…そんな時間も、もう終わりが近づいてきた。
「皆、サンタさんはそろそろ帰らなくちゃならないらしい、お別れの挨拶をしよう」
「やだ‼︎まだサンタさんと一緒にいたい‼︎」
サンタさんとのお別れ。
もちろん子ども達はごねた。
「わがままを言わない!サンタさんだって忙しいんだ!
まだ皆以外の子ども達にも、プレゼントを配らなくちゃならない」
杉原は厳しく言い放った。
子ども達はそれでも納得していないような顔だったが、それでも仕方なく耐えた。
「そういえば皆、サンタさんに渡す物があったんじゃないのか?
サンタさんが帰る前に渡しておかないと」
杉原の言葉である事を思い出した子ども達は、それぞれがどこからか何かを取り出し、削板の前に集まった。
「サンタさん!今日はありがとう!
これ、私達からのプレゼント」
代表として他の子ども達からも集めたプレゼントを、一人の少女が削板に手渡した。
「これは…?」
それは…全て子ども達の手作りだった。
折り紙で折ったリースやサンタクロース…遊んでいた時に描いた削板の似顔絵…少し形の崩れたクッキー…糸のほずれた手編みのマフラー…
どれも若干形がいびつではあったが、一生懸命作ったことがわかる。
「もらって上げてください」
杉原が削板にそっと頼んだ。
「そうか…じゃあありがたく貰っとくよ。ありがとな」
削板は子ども達からプレゼントを受け取り、にっこりと笑いかけた。
「じゃあ、元気でな」
そして削板はそのまま背後を向いて、軽く手を振って、その場から去っていった。
一蹴りでとんでもなく遠い距離に跳んでいく削板の姿を、子ども達は見えなくなっても尚、手を振って見送り続けた。
「今日は最後まで付き合っていただき、本当にありがとうございました」
杉原がボランティアの教師達に向かって、深々と頭を下げた。
「本当に今日が最後なのか…寂しくなるな」
「あの子達も離ればなれになっちゃうのよね…」
山田さんと村本さんが残念そうな顔でそう言った。
この二人は最初の方から、今までずっとここに通ってきたのだ。その分、思い入れも強いのだろう。
「子ども達はそれぞれ別の施設に預けられるらしいですが…あなたはこらからどうするんですか?」
鉄装が尋ねた。
「私ですか、そうですね…
一応、栄養士なんかの資格も取ってますし、それ関連の仕事を受けさせて貰おうかな…と考えているところです」
「どんな仕事をするにしても、挫けず、諦めずに頑張ってくださいね!」
「ありがとうございます」
ぐっと拳を握る小萌の励ましに、杉原は笑顔で応えた。
ボランティアの先生達とも別れ、いよいよクリスマスパーティは完全に終了した。
一時間後…あれだけ騒ぎ声が聞こえていた“ひまわり”だったが、今は一切の声も聞こえてこない程静かだった。
子ども達は全員、遊び疲れたのか眠っており、現在この施設には杉原以外で目を覚ましている者はいないからだ。
「パーティも終わり…あの子達ともお別れか…」
誰も居ない静かな部屋の中、杉原は小さく息をつき、子ども達の顔を思い浮かべながら…その場で泣き崩れた。
「私は…無能だ…!情けない…!
あの子達を…あんなにいい子達を…一人も救うことができないなんて…!」
メリーコワシマス(下)に続きます。
あとこの話に出てきた、山田さんと村本さんと杉原というキャラは、この話だけのキャラクターです。
ではまた次回。