「ポケベル!」
「正解! 菜々ちゃん&ユッコちゃんチームに10ポイントです! それにしても菜々ちゃん、よくそんな昔のこと知っていたわね」
「アハハ、やだな川島さん。私はこうみえて博学なんですからね! 」
こんにちは。歌って踊れるラブリーキュートなJKアイドルこと安部菜々です。
現在346プロ企画のクイズ番組『アイドルクイズビリオネア$』の収録をしています。この番組はアイドルが二人で組んで二人三脚で優勝を目指すクイズ形式の企画です。
私のパートナーはサイキックアイドルのユッコちゃん。私は基本ソロで活動することが多いのですが、こういったバラエティ番組ではイロモノ……いえ、キュートなアイドル枠としてこうしてユッコちゃんとよく共演しています。
「それじゃあ次が最終問題ね。2チームとも準備はいいかしら?」
「はい!」
「はいにゃ!」
そしてとうとうやってきた最終問題。
私たちが優勝をかけて争う相手は同じく346が誇るバラエティアイドルユニットアスタリスクです。アスタリスクの二人はデビューしたばかりながらところかまわず喧嘩をしては見る人の笑いを誘い、何気に教養もあってクイズも得意とハイスペックです。
特に猫ちゃんアイドルを目指す前川みくちゃんはそのキャラとかわいさ、若さと様々な点で私と被っているので先輩アイドルとして負けられないところです。……えっ、若さは被ってない? な、菜々は永遠の17歳なのでみくちゃんと2歳しか変わりません! なので被っています!
「それじゃあラスト問題。青チーム解答者堀裕子、赤チーム解答者多田李衣奈、壇上へ!」
「ユッコちゃん、あとは任せましたよ!」
「おまかせください! 私のサイキックパワーで必ずや正解してみせます!」
優勝するかどうかが決まる最終問題。こうしてパートナーにバトンを渡すのは番組的にもいい光景であるのに違いありません。
ユッコちゃんはちょっと?クイズが苦手ではありますが私の頼れるバラエティパートナーです。ここはぜひとも一緒に優勝杯を手に入れましょう!
「――では第14問」
解答者席にカメラが集中し、番組のなかでも最高状態の緊迫感がスタジオを包みます。きっと壇上の二人にはとてつもないプレッシャーがかかっているでしょう。ユッコちゃん頑張ってください……!
「近年、若者の間で人気の――」
するとその時でした。
スタジオ内に突如として響き渡った電子音。それは紛れもなく解答者がボタンを押した音でした。
「早い! 青チームユッコちゃん!」
押したのはユッコちゃん。
しかし問題文はまだ読まれたばかり。この段階で正解できるだなんて万に一つもありません。もしかして緊張しすぎて誤って押しちゃったとか……。
「ユッコちゃん……」
私は思わず心配になってユッコちゃんの名前を呼んでしまいました。
しかしユッコちゃんは自信にありふれた顔で笑いました。
「大丈夫です。菜々さん。こうみえても私、サイキックアイドルなんですから」
ユッコちゃんの言葉に思いがけず胸がキュッとしてしまいました。そうでした。ユッコちゃんは私の頼れるパートナー。だから私がとるべきパートナーを信じることただ一つです。
「それではユッコちゃん、答えをどうぞ」
優勝が決まるかどうかの余白。私の心臓はドクンドクンとひどく昂ります。
問題もろくに聞かずに正解できる確率なんて限りなくゼロ。しかし私はそうは思いませんでした。ユッコちゃんならやってくれる。ユッコちゃんとなら私は優勝できる。根拠なんてありませんが、不思議と私はそう思いました。
そして見ている人すべての期待を背負ったユッコちゃんの答えは――
「ニュプマギョルレイエ!」
……えっ? ニュプマギョ……。……えっ、何それ。復活の呪文?
というか大事な局面でユッコちゃんそれはさすがに――
「正解!!」
っっっ!?!?!?
いや、えっ、何? えっ、どういうこと?
「正解はニュプマギョルレイエです。それにしてもユッコちゃん、よく即答できましたね」
「はい!私のサイキックパワーでピンって来ました!」
いやいや、サイキックじゃなくて。何ですか、ニュプマギョルレイエって?
今まで◯△年生きてきましたが、そんな早口言葉みたいな言葉初めて聞きましたよ?
「それに何と言ってもニュプマギョルレイエは私がサイキックアイドルを目指したきっかけでもありますからね。ここは何としても正解しなければって思ってました」
「それはまさしく運命ですね。さすがニュプマギョルレイエと言ったところ」
えっ、ユッコちゃんがアイドルを目指したきっかけ何ですか!?
一見でたらめな言葉にしか聞こえませんがそんなにすごいものなんですか、そのニュプマギョルレイエとやらは。
「いやぁ〜、参ったよ。まさか正解されちゃうとはね」
すると対戦者だった李衣奈ちゃんにマイクが移りました。
私もこれにはびっくりですよ。まさか問題文もろくに読み終えないうちにボタンを押したかと思えば、聞いたこともないようなことを言って正解させちゃったんですから。
アスタリスクの二人からしてみれば事故でしかありません。
「けど解答したかったな〜、ニュプマギョルレイエ。ロックなアイドルを目指すならなおさらだよ。私もパッと押したんだけどタッチの差だったね、ユッコちゃん」
「ええ、紙一重でした!」
李衣奈ちゃんも知ってたんですか!? そのニュプマギョルレイエとやらを!?
というか『若い人たちの間で人気の〜』くらいの情報で分かるものなんですかそれ!?
もしかしてそれ若い人たちにとっては常識とかそういう……。いやいや、いくらジェネレーションギャップがあるからと言って、さすがに全く知らないものなんてことはないはずです。……きっと。
「みくたちの負けかぁ〜。でもいい勝負だったにゃ! おめでとう、ユッコちゃん、ナナちゃん!」
「ア、アハハ……。ありがとうございます」
みくちゃんからは賛辞をいただきましたが何でしょう、この消化不良感は。ニュプマギョルレイエとやらが気になってしかたありません。
「だけどニュプマギョルレイエが解答かぁ。こればっかりはみくも答えたかったにゃ。みくが思う一番ポップでキュートなものがニュプマギョルレイエだし」
「えっ!?」
みくちゃんの発言に思わず声が裏返ってしまいました。
「どうしたの、ナナちゃん?」
「……い、いえ。何でもありませんよ」
というより何ですか? これみんな知っていて当たり前なんですか? ニュプマギョルレイエ?
「ナナちゃんもそう思わない? ニュプマギョルレイエ?」
「ナ、菜々ですか……」
ど、どうしましょう。
みくちゃんにニュプマギョルレイエの是非について聞かれてしまいました。
しかし当然のようにそんな言葉私は知る由もありません。ここは素直にニュプマギョルレイエとやらが何なのか聞くべきでしょうか。
し、しかしユッコちゃんやアスタリスクの二人が当たり前のように知っているとなるとそれを聞くのは何だかためらってしまいます。みんな知っているのに私だけ知らないだなんておかしいでしょう。それにもしこれが年代ネタなら『菜々さんってJKなのにニュプマギョルレイエも知らないんですか?』ってなって年齢が永遠の17歳ではなくなる恐れがあります。
ここは何としてでも合わせないといけないでしょう。
しかし合わせると言ってもニュプマギョルレイエがどういうものなのかまずは見当をつけなければいけません。
えっとみなさんの言葉をまとめますと、若い人たちの間で人気で、ユッコちゃんのサイキックアイドルのきっかけで、ロックなアイドルは知っていて当たり前で、ポップでキュートなもの……。
何だか共通性が全くなくて推測がまったくできません。みなさん言っていることがバラバラすぎませんか? 逆に言えば人によって受ける印象が違うものと言ったところですが……。
も、もしや音楽的なものなんですか!?
音楽なら人によって感じ方は違いますしロックやポップというのもうなずけます。それに感化されてアイドルを目指そうと思っても不思議ではありません!
よし、そういう方向で話を合わせてみましょう。
「アハハ。菜々もよく聴いていましたよ、ニュプマギョルレイエ!」
しかし私がそう言った直後、スタジオの空気が一気に凍り付きました。
隣にいるみくちゃんは驚いた顔を通り越して血の気の引いた顔で見てきました。
『ちょっと! カメラ止めて!』
そして番組プロデューサーの怒声。途中で収録中の企画が中断されるされるなんてよっぽどのことです。
わ、私はいけないことを言ってしまったのでしょうか……。
◇
何とか終わった番組の収録後、私は番組スタッフの人に呼ばれてすごく怒られてしまいました。何でも私の発言は『ニュプマギョルレイエに失礼!』、『ニュプマギョルレイエをバカにしている!』だそうです。ニュプマギョルレイエのことなど何も知らない私は本当にただ頭を下げて謝るしかありませんでした。
「お疲れ様です。菜々さん」
「コンニチハ、ナナさん」
げんなりした気持ちで三城本社に帰ると、受付近くでラブライカの新田美波ちゃんとアナスタシアちゃんに声をかけられました。
「菜々さん、顔色悪いみたいですが大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですよ!菜々はいつでもピンピンしてますから」
絶賛落ち込んでいるところではありますが、後輩にそんな顔をみせるわけにはいきません。
「そういえばミクから聞きました。ナナさんは番組で優勝したらしいですね。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
恐るべしシンデレラプロジェクト。仲間内でもう話題が共有されるとは。
「しかし最終問題が何でもニュプマギョルレイエだったらしいですね」
「……ええ」
すると美波ちゃんがその忌々しいワードのことを聞いてきました。
そういうことまで共有されてるんですね。なんか若い子ってすごいなって思ってしまいます。
しかし美波さんも知っているんですね。ニュプマギョルレイエ。どうせでしたらちょっと聞いてみるのもいいかもしれません。
「いくら時間帯が深夜枠だからと言ってそれは問題だとは思いませんか?」
「えっ? 何がですか?」
しかしその時、美波ちゃんはちょっと気恥ずかしげにそう言いました。
「だからニュプマギョルレイエのことですよ。ニュプマギョルレイエなんてエッチな言葉、アイドルに言わせるのは何ていうか……」
え、エッチ!?
ニュプマギョルレイエってエッチなものなんですか!? 普通にユッコちゃんとかアスタリスクの二人が開けっぴろげに好きって言っていたものだから、てっきり憧れ色の強いものだと思っていましたがまさかそういう……。
最近の若い子は進んでるってこと何でしょうか……?
「ミナミ、ニュプマギョルレイエとは何ですか?」
するとここでアーニャちゃんがニュプマギョルレイエの言葉の意味を美波ちゃんに聞いてきました。
でかしましたアーニャちゃん!
エッチっぽいって聞いて聞きづらくはありましたが、これでニュプマギョルレイエの正体を聞けそうです。
「もう、アーニャちゃんったら!」
しかし美波ちゃんはよっぽどそれが恥ずかしかったのか、アーニャちゃんに小さく耳打ちしました。それでは私には聞こえません。
「なるほど、ニュプマギョルレイエとはアレのことですか」
納得の様子のアーニャちゃん。私も知りたかったです。
しかしここでアーニャちゃんはとんでもない発言をしました。
「しかし日本は本当に平和ですね。もしロシアでニュプマギョルレイエのことを公で話したらシベリア送りにされてしまいます」
シ、シベリア送り!?
ニュプマギョルレイエとやらはどんだけ過剰なものなんですか!?
もうまるで意味が分かりません。収録の時は馬鹿にするなとまで言われたニュプマギョルレイエが、ラブライカの二人曰くかなりエッチでやばいものとか……。
もはや別のものにすら聞こえてしまいます。ニュプマギョルレイエとはいったい……。
◇
ラブライカの二人と別れた後、私はプロデューサーと打ち合わせを行いました。
これからのことなどを話す場ではありましたが、私の頭の中はニュプマギョルレイエとはいったい何なのかということばかりです。
ラブライカの二人曰くエッチでヤバいらしいのでプロデューサーにはもちろん聞けません。
ネットの掲示板でも何なのか尋ねたりもしてみましたが、フザけたレスしか返ってきませんでした。
結局私は終始上の空のまま打ち合わせを終わらせることとなりました。
「あれれぇ。ナナちゃんだにぃ☆」
「おつかれー」
帰り際にシンデレラプロジェクトの部屋を通り過ぎようとした時、ばったりきらりちゃんと杏ちゃんに会いました。
「お疲れ様です。きらりちゃん、杏ちゃん」
いつもなら後輩に対しては『キャハ☆』とかきゃぴきゃぴアピールするのですが、もう今回ばかりそんな余力はありません。年ではありません。
「ナナちゃんどうしたのぉ。今日は元気ないよ?」
「きっとあれだよきらり。ほら、年……」
「それ以上はだめだよ、杏ちゃん☆ きらり、怒っちゃうよ?」
「あ、はい」
なんか今さらりと気を遣われた気がしますが、今はどうでもいいですね。
そうだ。この二人ならニュプマギョルレイエのことを聞いても問題なさそうですね。知らないふりすれば大丈夫です。きっと。
「そういえばお二人とも、ニュプマギョルレイエって知っていますか?」
勇気を出して私は聞いてみました。変な人って思われなければいいですが……。
「もちろん知ってるにぃ☆」
「えっ、そうなの。杏は知らないな」
「ほ、本当ですか!?」
な、なんとニュプマギョルレイエを知らない同士がいました!
何という僥倖。おかしな話かもしれませんが菜々、とても感動しています。
「あれれ、杏ちゃん知らなかったんだぁ」
「そんな変な名前のもの知ってる方がおかしいよ」
「そんなことないにぃ☆ ニュプマギョルレイエを見ているととっても、とっってもハピハピになれるんだにぃ☆」
何でしょう。今までいろんな人の意見を鑑みるにそのハピハピってかなりやばい意味のような気がするのですが大丈夫なのでしょうか。
「そうだ! ちょうどプロジェクトルームにきらりのニュプマギョルレイエがあるから、杏ちゃんに見せてあげるね」
「いや、別に……」
「遠慮することはないよ、杏ちゃん」
そう言って二人はプロジェクトルームに戻っていきました。それにしてもあの二人は本当に仲いいですね。見ていてとてもぽかぽかします。
そうしてしばらく二人がプロジェクトルームから出てきました。せっかくですし杏ちゃんにニュプマギョルレイエとは何なのか聞いてみますか。
「杏ちゃん、ニョプマギョルレイエはどうでしたか?」
「アンズ、ハタラク、24ジカン、365ニチ」
ん?
聞き違いでしょうか。なんかおかしな言葉が聞こえてきたような……。
「ハタラクッテステキ、キットナガシタアセハウツクシイ」
杏ちゃん!?
あの自称ニートの杏ちゃんがこんなこというなんて……。恐るべしニュプマギョルレイエ……! というよりハピハピってやっぱりやばい意味だったんだ……。
「あっ、もしかしてナナちゃんもニュプマギョルレイエ見てみたい?」
するときらりちゃんが私にまでフッてきました。二人が出てくるまで待っていたのが仇になったようです。
「い、いいです! ナナこれからなんか用事があった気がします」
私は急いでその場から離れようとしました。しかしにょわっと私の肩にきらりちゃんの手が乗せられました。
「遠慮しなくていいよ、ナナちゃん。すぐに終わるから」
「あ、ハイ」
きらりちゃんの眼光に、私は抵抗すらできませんでした。そして開かれるプロジェクトルームの扉。そこで私が見たものは――。
◇
「ナナちゃん起きて、起きて」
「あれ?」
ふと目を覚ますとそこは楽屋でした。目の前にはこれから『アイドルクイズビリオネア$』に向けて準備をしている前川みくちゃんの姿がありました。
「ナナちゃん大丈夫? さっきからずいぶんとうなされていたみたいだけど」
どうやらさっきまでのできごとはすべて夢だったみたいです。
「いえ、ちょっと怖い夢を見ていただけだったようです」
それもそうですね。普通に考えてニュプマギョルレイエのようなものが存在するはずがありません。やっぱりあれは架空の存在ですよね。
ちょっと最近漫画やアニメを見すぎていたみたいです。
「それにしてもナナちゃん、ずっとニュプマギョルレイエ~。ニュプマギョルレイエ~って言ってたにゃ」
「アハハ。ちょっと変でしたよね」
意味不明な寝言を聞かれていただなんて普通に恥ずかしいですね。
でもよかった。ニュプマギョルレイエなんて存在しなくて。
「えっ? 別に変じゃないと思うけど」
「へっ?」
「だってずっとナナちゃんの後ろでずっとニュプマギョルレイエが見守ってたんだよ。ずっと、ずっと――」
冷や汗が垂れました。
振り向いてはいけない。そうした脳内警告を無視し、私は思わず振り向いてしまった。そして――。
元ネタは世にも奇妙な物語のアレです。