ガンダムビルドファイターズ Evolution   作:さざなみイルカ

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【はじめに】





 I'd like to provide you with……おっと失礼。

 もしよろしければ、皆様方にガンプラバトルを説明させていただきましょう。

 それは今から30年前。プラフスキー粒子の登場により、ガンプラバトルは誕生しました。
 ガンプラの素材となっているプラスチックにのみ反応するその青白い粒子物質は、本来動力を持たないガンブラに命を吹き込み、動作を可能にするのです。さらに粒子操作によって、実弾やビームの光軸、爆発といった視覚・聴覚的演出も加えられ、それによって作り出されるバトルは、アニメ作品の劇中のそれと遜色ありません。

 かつては、六角形の置き型バトルフィールドの上で行われていたガンプラバトルですが、近年の技術向上によりバトルシステムの携帯化に成功。いつでもどこでも、ガンプラバトルが楽しめるようになりました。

 いやはや、いい時代になったものです。

 しかし残念ながら、ガンプラバトルには深刻な問題もありました。そう、ファンの高齢化です。

 年々、ガンプラバトルを始める子供は徐々に減り、ガンプラを離れていく若者も少なくありません。その最大の原因は「バトルに参加するためには、労力と時間、お金をかけてガンプラを制作しなければならない」という、ガンプラバトルの原則そのものにあるようです。
 困ったものですねぇ。

 しかし考えてもみれば、娯楽の溢れるこの時代に、準備に手間がかかりすぎる競技が若い人たちに受けないのは、至極当然のことかもしれません。

 では、ガンプラバトルはこのまま廃れていってしまうのでしょうか?プラフスキー粒子が織り成す模型達の戦いは、新しい時代に何ももたらさないのでしょうか?


 その答えは、この本。『水の国のアクア』が教えてくれるかもしれません。

 何故かって?……フフ、それはこの物語を読み進めて確かめて下さい。


 おっと、お時間のようです。

 それでは!ガンプラバトル!レディィィィィ……ゴォォッ!!


 ~ガンダム専門店『G-MAX』星見店 眼帯店長・ストーカーより~



01話『戦場を舞う妖精!フェアリーノーベル!!』
01話-01「スローネタイラントの猛襲」


≪①≫

 

 

 そこには、無窮(むきゅう)の暗黒空間が広がっていた。

 

 蒼と紺、そして、過っては破裂する小さな閃光たちに彩られたニセモノの宇宙。それと機体の駆動音が相まって、彼女に強い臨場感と錯覚を与えた。

 まるで自分が、目の前に佇むプラモデルの人形に乗っているかのような感覚―――。

 

 仲吉(なかよし)理穂(りほ)は、プラモデルを作ることも、それを戦わせることも、得意じゃないし趣味と言うほど好きではない。しかし、そんな彼女であっても、この瞬間だけは胸中熱くならざるを得なかった。この“ガンプラバトル”にはそれだけの魔力と魅力が備わっている。

 

 

 ガンプラ……。

 

 それは、アニメ作品『機動戦士ガンダム』をはじめとする「ガンダムシリーズ」において、劇中に登場した(例外もある)“モビルスーツ”と呼ばれるロボットを立体化したプラモデルのことである。「ガンダムのプラモデル」の略称で、日本国内外に多くのファンを抱え、アニメ作品と合わせて長い歴史を持つ。

 

 そしてガンプラバトルとは、専用の機器を用いて、文字通りガンプラを同士を対戦させる競技のことである。

 

 

 青白いバーチャルモニターに四方を囲まれた中で、理穂はリモートコントローラーを握る。立体映像の画面には、彼女の操作するエールストライクガンダムの視覚情報や、残弾数、ブースト量などを示したゲージなどが表示されていた。

 

 いつやってもすごい――。

 

 理穂は内心、ガンプラバトルシステムに感銘を受ける。

 されど、彼女が「好きでもない」ガンプラバトルを、今日もやっている最大の理由は、システムの作り出す仮想現実の完成度でも、十数秒後に始まるであろうガンプラ同士の戦いでもなかった。

 

『心配しなさんな、仔猫ちゃん。俺がついてる』

 

 機械音声。

 

 その声の主は、理穂の右手のモニターにいた。

 

『忘れた~?俺は不可能を可能にする男だってことを』

 

 その美声とセリフを耳にしたとき、理穂の顔は綻びを隠せなくなった。

 

 ムウ・ラ・フラガ。TVアニメシリーズ9作目にあたる『機動戦士ガンダムSEED』の登場人物で、“エンデュミオンの鷹”という異名をもつ地球連合軍のエースパイロット。もしくは「不可能を可能にする男」。劇中では主人公・キラの兄貴分として彼を支え、活躍し、物語後半では今彼女が使用しているストライクガンダムのパイロットを担った人物だ。

 そして、理穂がガンダム史上最も好きなキャラクターでもあった。

 彼女はバトルナビゲートシステムでフラガを設定いるため、戦闘中は彼がさながら劇中のキラを支えるがごとく理穂をナビゲートしてくれるのだ。部屋にフラガのポスターを飾っているほど彼を愛する理穂にとって、それは夢のような機能だった。

 

『おっ、敵さん見えてきたぞ』

 

 しかし、理穂はやはりガンプラバトル自体を好きになれない。その最大の理由が今、視界の向こうに降り立った。

 

 

 右肩に装備された、機体の背丈とほぼ同等の刀身をもつ巨大な剣“GNバスターソード”。

 両腰を覆うように備え付けられたバインダーに、流線形のスマートな脚部とは対照的な、刺々しい上半身。機体中央部に筒状の動力源をもつそのガンダムは、内在する攻撃性と戦闘意欲を全身のフォルムから余すところなく表現していた。

 『機動戦士ガンダムOO』に登場するモビルスーツ、“ガンダムスローネツヴァイ”だ。

 

 しかし、それは劇中でミハエル・トリニティが使用していたそれと少し違う。本家のスローネツヴァイは、メインカラーがオレンジ色だったのに対し、今エールストライクと対峙しているそれは濃い赤紫色だ。

 それと、右肩。バスターソードと頭部の間から、“GNハイメガランチャー”の長い砲身が突き出ている。

 『機動戦士ガンダムOO』において、スローネツヴァイには初登場時、装備や色がそれぞれ異なる2体の同型機が一緒に登場した。いうなれば、その2体の特徴をそれぞれツヴァイに融合させたような容姿、といったところだ。

 

 “ガンダムスローネタイラント”。理穂の幼馴染が作り、そして操る改造ガンプラだ。

 

 あれを見て理穂は思う。

 幼馴染に造形芸術的感性があるとは思えない。しかしながら、スローネタイラントは彼の性格を見事に物語っている。

 特に、派手な近接・射撃武器を両方盛っている様と「スローネ3機を1機にまとめたらどうなるか」というベタな発想が。

 

 軽く、溜息をつく。

 

 間もなく、エールストライクとスローネタイラントの間に7文字のアルファベットとカウントを示す「3」の数字が、立体映像によって表示される。

 

Standby(スタンバイ)――……3!――……2!――……1!』

 

 瞬間、文字達は光を放ち、別の単語に変化する。

 

『GO!!』

 

 スタートの合図だ。

 

 立体文字が消失した瞬間、黒みがかった紅の閃光が、ストライクガンダムに迫ってくる。

 

「っ!!」

 

 理穂は、咄嗟(とっさ)に右手に握ったコントローラーを横に傾けた。親指を強く押す。

 

 エールストライクは右に転身して、エールストライカーパックに備わっている大型可変翼を広げる。同時に4基の高出力スラスターを最大噴射。

 間一髪、光軸を躱した。

 

 GNランチャーである。

 

「あのバカッ!いきなり、撃ってきた!」

 

 幼馴染の性格を考えれば、別に珍しいことではない。そういう奴なのだ。

 知ってはいたが、いつ戦っても相手の戦法には稚拙さと粗さを感じずにはいられない。

 

『おい、次が来るぞ!』

 

 ナビゲートシステムのフラガが注意喚起した時、スローネタイラントは左右両腰のバインダーをへの字型に展開していた。

 刹那、6つの赤く短い閃光が、(つぼみ)を描くように射出される。

 

 “GNファング”。スローネツヴァイに元々備わっている、その機体の2つのアイデンティティの1つだ。

 そしてもう片方のアイデンティティ、GNバスターソードを片手に、タイラント自身もストライクに迫ってきた。

 

「ああ、もう!」

 

 理穂は、ストライクに高エネルギービームライフルを握らせ、機体の慣性を生かしたまま迎撃射撃する。

 

 悠長に狙いを定める余裕など、ない。彼女の脳裏には、迫りくるタイラント以上に気掛かりな存在があるからだ。

 

『上だ!嬢ちゃん!!』

 

 斜め上から射られた閃光を、咄嗟に回避。

 

 先刻放たれたGNファングだ。

 GNファングはその名の通り、牙のような形状をした遠隔操作可能な移動ビーム砲である。先端から射撃できるのはもちろん、先端部にビームサーベルを発生させ、敵機を貫くこともできる。

 

 理穂は、慣れきれない操作技術で回避と迎撃を平行してこなした。

 別の2基の射撃攻撃も回避。続けて、タイラント自身が放ってきた複数の光軸をシールドで弾き、さらには、サーベルを形成し突進してきたもう1基のファングも回避した。

 

 しかし、もう1つの牙の追撃を逃れたとき、ストライクのブーストゲージは底をついてしまう。

 

「しまった!」

 

 スラスターの出力は急激に落ち、ストライクは岩肌に足をつく。

 次の瞬間、まだ攻撃をしていない6基目のファングの赤い刃が、ストライクの左脛を貫いた。

 

 完全に足を取られた理穂。

 

 すでに近接戦闘距離まで間合いを詰めていたタイラントは、バスターソードを左斜め上に振り上げ、容赦なく切り込んできた。

 

「きゃあッ!!」

 

 振り下ろされた巨大な刃。

 それはストライクのシールドを砕き、フェイズシフト装甲を破り、耐久値を抉る。

 

 攻撃は二撃・三撃と続き、空中に叩き上げられ、四撃目の唐竹割りで地面に叩き落とされた。 

 

 白と青のプラスチックの身体に大小多くの傷を刻まれたストライク。

 身体を起き上がらせ、エールパックのサーベルを抜き迎撃態勢をとる。ライフルは、さっきの連撃の最中で落としてしまった。

 

 敵は、動力源から赤い粒子をまき散らして飛んでくる。

 頭部両側にそなわっている対空自動バルカン砲塔システム“イーゲルシュテルン”で迎撃を試みるが、気休めにもならない。ガンプラたちから見て、米粒にもみたない小さな弾丸達は、白とダークブラウンの大剣によって弾かれてしまった。

 

 対処が厳しいと踏んだ理穂は、機体を後退させた。

 

 しかし、迂闊(うかつ)なことにそこはフィールドの端。見えない壁がストライクの背を阻み、退路を塞ぐ。

 

 そして前方からは、空飛ぶ牙と赤い粒子を率いた攻撃魔が追い込んでくる。

 

 再び、大打撃を受けた。

 もはや、片膝を突かずにはいられない。

 

 そんな理穂の機体に、相手はすかさず蹴りを見舞う。

 

 宙を駆け、地面に叩きつけられる白い身体。

 ガンプラのHPたる耐久値は、まだ少し残っていた。しかしそれも、追撃に飛んできたファングたちに、まるでハイエナのように蝕まれる。

 

 あげく、バスターソードに串刺しにされ、ストライクは2度と立ち上がることなく敗北の『LOSE』の4文字を迎える結果となった。

 

 

   ◇    ◆    ◇    ◆

 

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