ガンダムビルドファイターズ Evolution 作:さざなみイルカ
「えっ?」
それを訊かれたとき、アクアは返答を躊躇った。フィリオは、父親を人魚に殺されたと言っていた。だとしたら、人魚を恨んでいるに違いない。
正体は明かせない。元々、地上世界の人間には隠していなければならない約束だったが、それ以上に彼に自分が父の仇と同種族だとを知られるのが怖かった。
「私は……、その……遠い外国から来たの。船に乗って」
「へぇ。出稼ぎか?」
「え……あ、そう。出稼ぎ。お金が必要で……」
そう答えると、フィリオはじっとアクアの目を見つめた。
「えっと……何か?」
「お前が働いてるのって、モックウィンの紡績工場?」
「えっ?」
「女の働き口ってそこくらいだろ?違うのか?」
「えっ……そう。紡績工場で働いているの。こう、ミシンを使って……」
嘘つきを相手に、嘘をついた。紡績工場がどんなところか知らないが、とにかく嘘を言うしかなかった。
正体を知られたくない。知られれば、彼は自分から離れていく。そんな気がしてならなかったからだ。
~ 『水の国のアクアと嘘つき少年』 第一章「港町アネスタ」より ~
《⑦》
内容についていくのに必死で、作品の魅力を理解する余裕がなかった。
観始める瞬間から観終える瞬間までに蓄積した疲労感を抱いたまま、次の話を観る。その繰り返しに耐えられず、全話鑑賞しないままDVDを返却してしまった。
シベリアの大地でガンダムが自爆するシーンを観たとき、ミコトは自らの感受性の矮小さを悔やんだ。もっと自分に慧眼があれば、話題の種を充実させることができただろう。ガンプラファイターであるほのかに、好まれる会話も展開できたかもしれない。
この一週間、ミコトは自分の無能さに暗然としていた。
どうしてもっと上手くできないのか。足元を見ながら、自分を呪った。
ほのかからハロが直った旨の連絡が届いたのは、DVDを返却した翌日だった。
連絡が来たのは嬉しかったが、正直もう一度会うのが怖い。再び顔を合わせ、つまらない話でも展開しようものなら愛想を尽かされるかもしれない。生まれかけていた友人意識が消えてしまう瞬間が、ミコトにとって何よりも恐ろしかった。
怜奈は、自分には魅力があると言っていた。その言葉がお世辞であったとは思えないが、事実を捉えているとも信じられなかった。
怜奈は良い人だが、彼女が知っているのは佐々波イルカとしての自分だ。
本当の海嶋ミコトのことは、それほど知っていない。ペンネームの下に隠れる本当の自分は、カリスマ作家でもなければ、ファンタジー世界を冒険する主人公でもない。地味で、臆病で、十人並み以下でつまらない、ちっぽけな存在だ。
そんな自分が、誰かに好かれるためには、嫌われないためには、相手に合わせる他何もない。ミコトはそう思っていた。
ほのかが指定した時間は放課後だった。
ハロはわりと荷物になるので、自分に気遣って帰る間際にしてくれたのだろう。
ホームルームが終わると、すぐに待ち合わせ場所である校門に急いだ。
「あっ、ミコトちゃん!」
駆けるミコトに、先に到着していたほのかは手を振る。その笑顔は相変わらず爛漫で、快晴な空の下でも輝いていた。
「遅れてごめん」
「ううん、ボクも今来たとこ。はい、これ」
ほのかは、左腕の関節に掛けていたトートバックをミコトに差し出した。黄緑色の生地が、すっぽり入った中の物の形状を顕著に表している。
受け取ったミコトが口を覗き込めば、そこには粒状の小さな目と滑らかな波線の口が青空を見上げていた。電源は切ってある。
「ありがとう」
「いいの♪いいの♪それより、ミコトちゃんこれから時間ある?」
「えっ、どうして?」
「実はね……」
「友里さん」
ほのかが述べようとしたとき、別の女子生徒が彼女に話しかけてきた。
編み上げにセミロング。左右両方耳の上に小さなリボンを飾った、やや背の低い女の子だ。
「あたし、
「待ってました♪今日はよろしくー」
ミコトは、その女子生徒に何度か見覚えがあった。違うクラスの人だが、選択授業で何度か顔を会したことがある。それに一週間前、G-MAXに小学生らしき少年達とほのかのバトルを観戦していた。
しかしながら、事情が呑み込めない。これからどこか行くのか。それを表情で尋ねたら、ほのかは一通の封筒をミコトに見せて応えた。
「これからね、決闘にいくの」
「け、決闘?」
日常生活においては聞き慣れないその言葉に、少々たじろぐミコト。
「うん。ガンプラバトルのね。一週間前に戦った彼、名前は……えーっと……」
対戦相手の名前を思い出せないほのかに、女子生徒が間髪入れずフォローを入れる。
「城ヶ崎 進」
「そうそう、それそれ。彼から挑戦状貰ったの。それでね、今から彼が呼んだファイターと今から対戦しにいくんだ♪ミコトちゃんも見に来る?」
「えっ……いいの?」
「いいよ、いいよ。せっかくだからミコトちゃんもおいでよ♪」
「えっと……それじゃあ……」
結局、ガンダムのアニメは途中挫折してしまった。それでも、やっぱりほのかに近づきたい。それに、彼女のガンプラバトルは、自分の想像力を掻き立てる何かがある。それに触れることはミコトにとって苦ではなく、むしろ新しい刺激であった。
ミコトは誘いをうけた。
すると、案内役である女子生徒が小さく手を挙げて言った。
「あのー、ちょっといい?」
「ほえ?」
「来るのはいいけど、海嶋さんは……その……用心した方がいいと思う」
「どーして?」
「いや……、なんでもない」
「?」
◇ ◆ ◇ ◆
アマノガワ河川敷公園は、その名の通り星見市を流れる二大河川の一つであるアマノガワ沿いにある市営庭園である。十数年前の大規模な河川改修によってできた敷地を活用し、市民にアウトドア活動や自然観察、様々な屋外レクリエーション活動ができる空間を提供している。
河川と車道の間に広大な平地が広がり、駐車場を始め、野球場、サッカー・ラグビー場、テニスコートなど多くの施設が併設されている。
理穂が2人の女子生徒を案内したのは、陸上トラックの隣にある自然広場だった。
黄緑色の絨毯を敷き詰めたような野原。4月のそこを彩るのは、セイヨウカラシナやホシミタンポポといった黄色い地上の星達だ。春の穏やかな風に煽られ静かに揺れる野花や草木の合唱は、僅かな瞬間だけ理穂に過ぎ去りし日の風景を想起させた。
あれはまだ、下の弟が生まれる前。今は亡き父と幼馴染の3人で、ここにピクニックに来たことがあった。弁当やバトミントンの道具以外に、ガンプラを持ってきていた父。そんな彼に呆れたのをよく記憶している。
確か、その日だった。理穂と幼馴染が初めてガンプラバトルをしたのは。
きっかけは、父の持参したG‐3ガンダムに深く興味を示した幼馴染だった。精工に作られたツノツキロボットの模型に目を輝かせた彼を見て、父は「もっとすごいものを見せてやる」と言って、2人を別の場所に案内した。現在はもう閉店した、近所の模型屋だった。
そこで理穂と幼馴染は生まれて初めて、プラフスキー粒子の光とその中で機動するガンダムを見た。そして、自分達もそれを操作した。2人のうち1人はそのバトルにのめり込み、もう1人はそれほどではなかったが付き合う形でバトルを楽しんだ。
あれから数年。
この自然広場に、2人のうちののめり込んだ方が、少女達を待っていた。
「フッ……。来たな。逃げずに来た事を褒めてやろう」
城ヶ崎が佇んでいたのは、木の上だった。
「アンタが呼んだんでしょーが。さっさと降りて来なさいよ。さもないと、管理センターの人呼ぶわよ」
公園内では、木登り行為を禁止している。幼馴染は常習犯だった。
友里ほのかは、そんな木の上の彼を見て何故か感心する。
「すごーい。そんなとこ登れるんだ」
「煙と時代遅れの悪役は高い所が好きなのよ」
「誰が悪役じゃ!誰がっ!」
「今時、スーパー戦隊の悪役だってそんな登場しないわよ」
「うるせー!とうっ!」
飛び降りる城ヶ崎。
野草の上に着地した彼は、ほのかを指差す。
「覚悟しろ、友里ほのか。一週間前の雪辱、ここで晴らしてやる」
「台詞までますます昭和の悪役っぽいわよ」
「だから、うるせ…………ちょっとまて」
「何よ」
急に膝を押さえて中腰になる、昭和の悪役。
「足痛ぇ……」
「だったら飛び降りんなッ!てゆうか、登るなッ!!」
2人のやりとりに、ほのかは手を叩いて呵々大笑した。
「あっはっはっは!面白~い!」
「くっ、これくらいでいい気になるなよ」
アンタが勝手に自滅したんでしょーが。理穂は、心の中で突っ込んだ。
「あ~、笑った笑った。ところで、ボクの対戦相手はどこ?」
「待ってろ、今呼ぶ」
城ヶ崎は片手をメガホン代わりにして、彼方に声を飛ばした。
「おいっ!!山田っ!!対戦相手が来たぞっ!!」
すると、やまびこのような薄い声で、「じぇ~~」と返事らしき台詞が返ってくる。間もなく、その声を追うように、返事の主が4人のもとにやってきた。
小柄な背丈に、乱れた髪。垂れた目尻と、小さすぎる鼻。ネズミを思わせる出っ歯が特徴的な、山田コージの登場である。
初対面の2人をはじめ、一度顔を合わせたことのある理穂すら驚かせたのは、その移動方法だった。走ってきたが、自分の足ではない。
「セグウェイ!?」
二つの車輪を繋ぐプレートに、底から伸びたT字型のポール。外国の警官などが乗る、その立ち乗り二輪車は、日本においては滅多にお目にかかれない代物だ。
近未来的なその電動二輪車にほのかは声を上げ、未だ喋る機会を見出せないミコトは無言で目を丸くする。
「じぇ~じぇっじぇっ。待たせたな」
「コイツこそ、我が城ヶ崎フォースのナンバー33。名は……」
紹介する城ヶ崎だが、少女の関心は今日の対戦相手ではなく、その彼が乗ってきた乗り物に引きつけられていた。
「すご~いっ!これテレビでやってたやつだー!」
ほのかは、初めて見るセグウェイを興味のまま触り、眺める。
「っておいッ!セグウェイはいいからっ!聞けっ!」
「ねえ、これ乗ってみていい?」
「かまわんじぇ。乗りこなすのにちょっとコツがあるじぇ」
「こらッ!お前も快諾すなっ!」
と言っている間に、ほのかはプレートに足を乗っけていた。
「ねぇ、これどうやって動かすの?」
「後にしろッ!今日はセグウェイを体験しに来たんじゃねぇ!ガンプラバトル!ガンプラバトルしにきたんだろうがッ!」
「え~」
「え~じゃない!」
◇ ◆ ◇ ◆
自然広場の中央にある、円形に敷き詰められた石畳の上で、2人は対峙した。粒子発生装置の設置はもう完了している。
快晴の空の下、風が吹いた。それは、これから繰り広げられる戦いを発揚させようとしてくれたのかもしれないが、牧歌的な小鳥の囀りによって自然の心意気は挫かれる。決闘と言われていた割には、とても緊張感に欠く光景だ。
張り詰めているのは、対峙する両者よりも、むしろ、ミコトの心の中だった。
ほのかとは、校門で少し会話して以降、結局言葉を交わせていない。そして、これからガンプラバトルが始まる。ますます、彼女と喋るのが難しくなる。
この場にいる他の3人と彼女は友達というわけではなさそうだが、ほのかは彼らと上手く馴染んでいた。しかし自分は、会話に入れもしない。
ミコトは、トートバックの中のハロに目をやった。
ほのかは、ハロを救ってくれた。新しい世界を自分に見せてくれた。そして何より、こんな自分に近づこうとしてくれた。なのに自分は、何もできず、ただ彼女に付いていくことしかできない。話題用に観始めたガンダムも、途中挫折してしまった。
自分は本当にこの場に居合わせていいのか。ミコトは思った。
空気の盛り上がりに貢献できない自分は、ただ邪魔な存在なのではないか。そう思考したとき、彼女の視線は、ハロの無表情に引き込まれていった。
そんなとき、彼女の視界に写ったのは、赤い薔薇の花だった。
「やあ、海嶋さん」
ほのかを決闘に誘ったという、茶髪の男子だった。自身の前髪を払い、彼は迫るように話かけてきた。口調が、他の人達と話すときと違う。
「君まで来てくれるなんて感激だなぁ。こんなことなら、タイラント持ってきて、俺の勇姿も見せたかったよ」
一輪の薔薇を嗅ぎながら、語りだす彼。
自分は、揶揄われているのだろうか。それとも、会話に入れない女の子に対して、彼なりに気を遣ってくれているのだろうか。いずれにしても、ミコトはどう反応するのが正しいのか皆目つかなかった。
「どうかな?この後俺と食事でも……」
その時。彼の頭に、スパンッと丸めた雑誌が叩きつけられた。案内役のリボンの女の子が、彼を叩いたのだ。
「痛ってぇ~~…。リボン!てめぇ、何しやがるっ!!」
「やめろって言ってるでしょーがッ!本気で通報するわよ、このサイコ崎 進!」
「誰がサイコ崎じゃ!勝手に改名させるなっ!」
「ごめんね、海嶋さん。コイツ危険だから、近づいちゃだめよ」
「イテテテテ。耳を引っ張るな」
そのまま彼女は、二本の指で彼を向こうの方へ牽引していった。
ミコトから少し離れた場所で、言い争いのような会話を始める2人。罵り合っているようにも聞こえるが、その会話に堅苦しい建前や、息の詰まるような遠慮がない。彼らは正直な感情をぶつつけ合っているのだ。
ミコトには、そんな2人が少し羨ましく思えた。
自分には、そんなことをすることも、そんな会話をする相手もいない。ほのかや今の両親はもちろん、最も親しかった兄にさえも、気遣いや遠慮を省いて話すことなんて出来なかった。
誰もが自由な空の下で、他人と交じり合う。ほのかにせよ、あの2人にせよ、めいいっぱい自分を出して他者と交響する。
なのに自分は、暗い海の底で1人、明るい水面を見上げるだけ。誰とも交じり合えない。
悲しいことだが、仕方がないことでもあった。自分には、他人に曝け出す“自分”がない。あるのは、1つの物語と、佐々波イルカという仮面だけだった。いずれも多くの人の注目を集める力があるが、その所有者が自分であっていいような物ではない。自分と切り離されているからこそ、その2つは人々の心を掴む輝きを放つのだ。
「よし。準備いいじぇ」
「それじゃあ、始めるよ~!」
それぞれのガンプラとコマンドデバイザーを構える2人。間もなく、プラフスキー粒子のドームが石畳の中央に形成される。
「ガンプラバトルッ!レディィィ……」
「ごぉ~~っ!」
◇ ◆ ◇ ◆
赤茶けた赤土の荒野と、ハニカム構造状の模様に覆われた赤い空。大小様々な施設の中で一際目立つのは、MSよりも数倍大きいパラボラアンテナ。
“通信基地”。捻りも遊び心もないそれが、このフィールドの名称だ。
ほのかが投擲したフェアリーノーベル。
彼女はプラフスキー粒子が作り出したその世界の中で生を受け、闘いの一生を過ごすために大地に降り立つ。勝っても負けても、ドームの消滅と共に得た命を失い、次の闘いまで1つのガンプラとして無機質な眠りにつく。
この粒子空間は、生命を持たぬ人形が唯一生きれる場所。ある意味での、おとぎの国。
そのおとぎの国に、もう一体のガンプラが降り立つ。
青と黒のフレームに、シャープなフォルム。長躯な脚部は実物以上に機体を高く錯覚させ、武装した両腕は交戦前からその強さを誇示している。一本の角の下で光る二本線の眼光と、張った胸部。高貴さと猛々しさを兼ね揃えた、勇騎士といった印象のMSだ。
「わぁ、カッコイイ機体だね。何ていうの?それ」
「シュヴァルベ・グレイズだじぇ。お前、オルフェンズ知らないじぇ?」
「原作アニメは殆ど観たことがないの」
「そうなのか」
会話を遮るように、両機体の間に立体文字が表示される。
〈
赤茶色の砂を巻き上げ、両機の間に風が突き抜ける。ノーベルの金髪もそれに靡き、風下に引き寄せられずにはいられなかった。
〈――……1!GO!!〉
アルファベットが閃光となって消滅した刹那、両者は地面を蹴った。
勇騎士は前に、妖精は左に、それぞれ跳ぶ。
「世界レベ~ルの実力、とくと味わうじぇ!」
7基のスラスターを巧みに使い、突撃から一転、宙返りするシュヴァルベ・グレイズ。その不規則な動作に気を取られた一瞬、2発の閃光がフェアリーに迫る。
「!」
躱した。反射神経が、何とかついてこれた。
しかし、ほのかの瞳には、彼方で銃口を向けるグレイズの姿が、しっかり見えていた。
3発。
跳躍で被弾を避けた。
右手首に固定されたライフルに、左手も添えて命中精度を高めているシュヴァルベ・グレイズ。加えて、至妙に使いこなされたバーニア操作によってつくりだされる高機動によって、様々な角度からの乱射撃を放ってくる。
近づくのは容易ではない。
「どんどんいくじぇ!」
さらに3発。
内、1発が髪に掠ったものの、被弾せずに建造物の陰に逃げ込めた。
「うー、思ってたより手強い」
呟いたものの、対抗策は少なくとも2つはあった。
まず、弾切れを狙うという策。射撃武器には弾数制限がある。一度使い切れば、再使用可能になるまで一定時間のリロード時間が必要となる。
次に、フィールドの活用。幸い、このフィールドには遮蔽物が多く、射撃攻撃を避けるのは容易だ。
前者は受動的な安全策、後者は能動的な積極策。開始から1分も経っていない状況で、前者を選ぶ理由など、ほのかにはなかった。
瞬時にフィールドマップを確認したほのか。フェアリーに、ハンドグレネードを持たせた。
「それ!」
それを、物陰から力の限り投擲。ノーベルガンダムの性能で遠くの敵まで爆弾を投げられるかは疑問だが、目的は攻撃ではない。
「じぇ!?」
対戦相手は、飛んできたハンドグレネードに反応した。攻撃の手を緩め、爆風を逃れるためやや後退する。
狙い通りだった。ほのかは、ノーベルを素早く別の建造物の物陰に移動させ、敵機との距離を縮める。目的は、相手の気を逸らすことだったのだ。
「小癪なっ!喰らうじぇ!」
再び射撃を放ってるシュヴァルベ。
ビルを盾に、それを防いだフェアリーは、ビームピストルで反撃。既に、敵を射程圏内まで入れていた。
放った光軸は当たらなかった。それでいい。回避している間、敵は何もしてこない。その間。さらに距離を詰められた。
その動きからして、相手は高機動を取り柄としたMSであることに疑いはない。しかし、地走における機動力なら、フェアリーノーベルも決して他の機体に劣っていない。
中距離から、中近距離へ。もはや、両者の位置は互いの目と鼻の先である。
「甘いじぇ!」
刹那、シュヴァルベは左腕袖についた武器を射出した。ハサミ状のワイヤークローである。
近接戦闘を予測していたほのかは一瞬、反応を遅らせる。結果、白刃のハサミに妖精の右腕を捉えられてしまった。
「しまったっ!」
「じぇーじぇっじぇ。射撃ばかりが俺様の見せ場じゃないじぇ!」
さらに対戦相手は、シュヴァルベ・グレイズの右腕に固定されていたライフルを外す。同時に、左脇下のバトルアックスを右手に持たせた。
「八つ裂きにしてやるじぇ。エイハブリアクター全開、いくじぇーっ!」
背面と臀部のスラスターを最大限吹かし、手斧を左肩まで振り上げるシュヴァルベ・グレイズ。詰められていた間合いを、自らゼロに近づけていく。
ほのかの目前に、二本線の眼光が迫る。
刹那、フェアリーは右前腕を回した。ワイヤーを握り、それを左に引く。その瞬間、ほのかの脳内に敵の攻撃軌道が一瞬浮かび上がった。
斧が、振り下ろされた。
軌道を読んでいたほのかは、ノーベルの身体を逸らさせてそれを回避。殆ど紙一重だった。
空を掠めたバトルアックス。左手の手刀で、それを叩き落とす。
敵との密着状態で近接武器を失ったグレイズに、為す術はない。たじろぐ敵機に膝蹴りを見舞うノーベル。1発、2発。目だった損傷を与えられたわけではないが、それでもそれなりの耐久値を奪うことはできただろう。
「ちっ、分が悪いじぇ!逃げるじぇ!」
ワイヤークローを外し、両足腿のスラスターを吹かせたグレイズは、そのまま背後のビルまで後退した。膝蹴りを受けた腹を押さえ、片膝をつく。
「意外とやるな。お前」
「えへへ、ありがとう♪」
状況はかなりほのかに有利だった。シュヴァルベ・グレイズはライフルとバトルアックス、主力武器の2つを落としている。これではまともな戦闘継続は不可能だ。
拾えば別だが、そのうち1つはノーベルの足元にある。
「だが!俺様の真骨頂はここからだじぇ!こいッ、バーザム隊!!」
〈乱入ペナルティ!70%!〉 〈乱入ペナルティ!70%!〉
赤い空に、青白い稲妻が光った。
それが止んだとき、新たなMSが2体、グレイズの背後に降り立った。
青と黒のボディに黄色いライン。広がった手足の袖に、2本の爪のようなカバーで挟まれている独特の形状の武器。魚の様な顔と鶏冠状の角が特徴的な、モノアイMS。
乱入制度が、使われたのだ。
◇ ◆ ◇ ◆