ガンダムビルドファイターズ Evolution   作:さざなみイルカ

2 / 27
 振り返ってしまった。
 新しい世界に向かう不安と、今日までの時間を過ごした故郷をさる淋しさから。

 光サンゴの放つ華やかな輝きに満たされていた水の国。それはもう、深海の闇の彼方。
 その暗がりは無言のまま、アクアが今いる場所が別世界であることを教えてくれた。

 頬を伝う涙は海流に流され、泣くこともできない。
 不安も、淋しさも、全部胸の内に押し殺して、アクアは虹の真珠のペンダントを握りしめる。

「私は、地上に向かう」

 呟いた。

 海の異変の原因を突き止めるため。生き別れた兄を探すため。そして、白皙の城の奥で引きこもっていた臆病な自分を変えるため。

 大丈夫―――。

 この真珠を手に入れるために、あの凶暴なダイオウ貝を倒したのだ。
 協力してくれた海の仲間たちとは別れなければならなかったけれど、独りなのは初めて城を抜け出した時も同じだ。
 きっとまた、新しい仲間と出会える。
 水の国はあんなに広かった。地上の世界はもっと広いだろう。

「行ってきます。お父さん、お母さん。みんな……」

 希望の色を秘めた真珠を胸に、幼い人魚姫は太陽の下を目指す。

 青空は、もうすぐだ―――。




 ~佐々波イルカ著 『水の国のアクアと虹色の真珠』 巻末より~





01話-02「ソイツの名は城ヶ崎」

《②》

 

 

 

 ソイツの名は城ヶ崎(じょうがさき)(すすむ)

 

 スローネタイラントを製作したビルダーであり、操縦していたファイター。そして仲吉理穂の幼馴染であり、ガンプラバトルを好きになれない最大の理由。

 

「いぇーい!やったぜ!今日も俺の勝ちだ♪」

 

 赤みがかった茶髪のエアリーヘアに、痩躯だが肉付きのいい体格。均整のとれた顔立ちで、黙っていればカッコいいと言えなくもない。

 しかし、その内面から溢れ出す人格と中二臭い指貫グローブ存在が、遺伝子から受け継いだ彼の素質を殺してしまっている。

 

 ここは、理穂や城ヶ崎が通う高校のすぐ近くにある、ガンダム専門店『G-MAX』。2人は、学校帰りに店内のバトルスペースで対戦していたのだ。

 

「ウフフン~♪ついに29連勝♪あと1勝で30連勝♪」

 

「はいはい、それはよかったね」

 

 付属品のコントローラーを本体に差し戻し、携帯ガンプラバトルシステム“コマンドデバイザー”を左腕から外す理穂。床に置いていたプラフスキー粒子フィールド発生装置と一緒にすると、それら一式をそのまま鞄にしまった。

 

 有頂天になっている幼馴染など、まともに相手しない。

 

「こんなに勝っちゃうなんて俺って最強?天才?それとも、ニュータイプ?」

「そうなんじゃないのー?」

 

 傷だらけのエールストライクガンダムを拾い上げる理穂。

 持ってきていた水筒のような機器にそれをしまい、スイッチを入れる。

 

 ガンプラ自動修復装置“リペアポッド”だ。ガンプラ内部に仕込まれたマイクロチップの情報を読み取り、プラフスキー粒子の力によってバトルで破損したガンプラを元の状態にまで修復するのである。

 

 コマンドデバイザーもリペアポッドも、技術向上によって生み出された産物で、それらの登場はガンプラバトルをより手軽なものに進化させた。

 

 しかしながら、近年ガンプラバトルをする高校生は多数派とは言えない。極端に減ったわけではないが、競技が最盛期を誇っていた十数年前に比べると、3割以上も減ったという。

 年代ごとに愛好家が減少していく傾向は、中学生、小学生と遡るごとに顕著で、玩具会社の悩みの種となっている。

 

 若者の“ガンプラ離れ”と呼ばれる現象だ。

 

 理穂は、その流れは自然だと思っていた。

 

 確かに、バトルシステムの完成度は凄い。弾丸が着弾した時や、ビームサーベル同士が交わった瞬間などは胸躍らされるものがある。原作のアニメ作品だって、物語の内容は見る側の好みによって好き嫌いあるが、作画や映像技術に関しては確実に進化していると断言しても、反論は返ってこないだろう。

 

 しかしやはり、プラモデル作りがネックだ。精工に作ろうとすれば当然、手間がかかる。

 よしんば、手間をかけて自慢のガンプラを作り上げたとしても、フィールド上で強敵と出くわしたらその苦労が、撃墜によって報われる。バトル愛好家のほとんどは、十数年前の第二次ガンプラブームでガンプラを始めた古強者で、適当な対戦相手を友人に持たない者は、彼らのいいカモにされる。

 

 理穂自身だってそうだ。腐れ縁断ち切れないバカの、連勝成績構築員をさせられている。別段、ガンプラを一緒に楽しむ仲間など欲しくないのだが。

 

 模型作りという趣味は、本来一人遊びという性格が強い。それなのに、ガンプラバトルは対戦仲間がいないと初心者には敷居が高すぎる。

 バトルと模型作り。2つの持つ性質の矛盾によって生じた構造的欠陥が、近来の若者のガンプラ離れを生み出しているのではないか。理穂はそう考えていた。

 

 玩具会社もそれに気がついたのか、最近は組み立て済みガンプラを売るようになった。

 しかし、それはかなり値を張る。しかも、大量生産品のために「完成度が性能を決める」という原則が存在するバトルフィールド上では、どうしても手作り品に劣り、強くない。

 

 

 理穂は、城ヶ崎を見やった。幼稚園入園前からの付き合いであるその幼馴染は、ほぼ無傷で帰還した改造スローネを眺めて悦に浸ってる。

 

 

「あー、やっぱ俺って強い!これも日頃の訓練の賜物だな!……リボンも、もっと努力しないとダメだぜ~?」

 

 上から目線の模範的な例を示すような笑みで、こちらを見てくる。

 

 リボンというのは、理穂のあだ名である。普段こめかみを小さなリボンで飾っていることから、幼い頃そのあだ名が付けられた。理穂の両親が発祥で、親しい友人はもちろん、そうでない知人も彼女のことをそう呼ぶ。

 

「あのねー……」

 しゃがんでいた理穂は、立ち上がって反論する。

「いつも言ってるでしょ?あたしはアンタとは違って、ガンプラにお金も時間も労力もかけられないの」

 

「ププっ…。負け惜しみは醜いぜ」

 

 口を隠して呟く城ヶ崎。

 

 その言葉は、聞こえるように言ったであろう。耳にした瞬間、理穂はこんなバカに話す舌を持って生まれたことを激しく後悔した。

 怒りを奥歯で噛み殺し、腹の代わりに足音を立てて店内を後にする。

 

「お、おい!待てよ!」

 無言で歩き去る理穂を見て、エアリーヘアのバカは慌てて自分のデバイザー一式とスローネタイラントをボディバックにしまう。

 

 間もなく、後を追って駆けてきた。

 肩を並べる幼馴染に目線を合わせたくない理穂は、そっぽを向く。

 

 

 勿論、さっきの言葉は負け惜しみなどではない。

 

 人付き合いの多い理穂は、女友達からの頼みで複数の部活を掛け持ちしていて、学業にも真面目に取り組んでいる。その上、家の家事のほぼ半分を担い、働きに出ている母親に代わって2人いる弟の面倒も見てるいのだ。委員会活動だってしている。

 細かい手間と根気のいるガンプラ作りや、バトル訓練などしている暇なんて、ほとんど無いのだ。対戦相手になっているだけでも、ありがたいと思って欲しい。

 

 そもそも、ガンプラバトルがしたいから相手になって欲しい、と頼んできたのは城ヶ崎なのである。

 

 少し歩き、幹線道路の横断歩道を渡り、学校でも評判のケーキ屋さんの前を通過した。

 

 小奇麗なショッピングモールのアーケードの下を通過するとき、城ヶ崎はその減らず口を、嫌味成分増量させて動かす。

 

「大体、お前の戦い方は後手後手なんだよな~。ダメだぜ。もっと積極的にならないと。勝負は先手先手を取って流れをものにしないと」

 

 言っていることは一理あるかもしれない。

 

 しかし、コイツに言われると腹が立つ。

 無視してもよかったのだが、理穂は買い言葉を返してやった。

 

「手あたり次第射撃武器使いまくって、乱暴に剣振り回してばっかのアンタに言われたくないわよ」

「フッ。俺はチマチ小細工弄したり、ウロチョロ回避したりするのが嫌いなんだ」

 

 ちょうど、アーケードの中心にある噴水の前に差し掛る。すると城ヶ崎は、水柱を背にポーズを取り始めた。

 

「1に攻撃!2に襲撃!3、4は追撃!5で勝利!!」

 

 数字のカウントと共に両拳を動かす。

 

 もう、他人のフリがしたい。理穂はそう思った。

 

「これが俺の作戦にして、最強の戦術だ!ハーハッハッハ!」

 両手を腰にを当て、高笑いするスローネタイラントの持ち主。

 

 そのまま逃げるのが賢明だった。つい足を止めてバカの口上を全部聞いてしまった自分に、損な性があると感じる理穂。

 

「その戦い方に知性や戦術性があるとは思えないけど?」

 

「黙れ、負け犬!」

 城ヶ崎の人差し指が、理穂に向けられる。

 

 その短くも、彼の自分勝手さを余すことなく表現しきった台詞。それは、面倒見の良い1人の少女をついにキレさせた。

 

「なによ!アンタだって負けるのが怖くて、小学生や始めたばかりの初心者ばっかり狙って連勝成績重ねてるくせにッ!」

「ギクッ……!……お、お前こそなんだよ!ガンプラ好きじゃねぇくせに、なんでエールストライクだけ一丁前に拵えてんだよ!」

 

 二人の男女の、どちらかというと次元の低い言い争い。

 それは徐々に、噴水の近くを通りかかった人々の視線を集める。

 

「あれか?フラガが乗ってた機体だからか!?少佐が乗ってた機体だからなのか!?」

「べ、別にいいでしょうが!お陰でアンタの遊びに付き合ってあげてるんだから!むしろ、感謝しなさいよ!」

「するかぁッ!!俺のタイラントより完成度高くて腹立つんだよ!!どうやって仕上げたんだよ、ソイツ!!」

「愛の力よ!!」

「なんだよ、それ!いつまでエンデュミオンの鷹引きずってんだよ!SEEDはとっくに終わったんだよ!少佐はもう死んだんだよ!」

「死んでないわよ!!DESTINYでちゃんと復活しましたッ!!」

 

 言い切ったとき、理穂はようやく周囲の目線に気が付いた。みんな、注目している。

 火が出るくらい顔を赤面させた彼女は、幼馴染のボディバックの肩紐を引っ張ってその場を走り去った。

 

 

   ◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

「あ!そうだ」

 駅前の書店に差し掛かったとき、理穂は足を止めた。

 

 どうした、と城ヶ崎が反応する。

 

「あたし、買いたい本があるんだ」

 

 書店に入る理穂。

 

 そこはDVDレンタルショップと併設された店で、書籍や漫画が置いているコーナーは奥にある。新作DVDを横目でチェックしつつ、目的の品が置いているであろう棚に向かう。

 城ヶ崎も、彼女についてくる。

 

 理穂の予想通り、探していたその本は「今月の新刊」コーナーの最も目のつく場所に山積みされていた。宣伝用ポスターと書店員の描いたのであろうカラフルなPOPが、その小説を大々的に推している。

 

 理穂は、一番上の一冊を手に取った。

 

「なんだ?ソレ」

「最近、友達の間で話題になってるケータイ小説。書籍化されたから買おうと思って」

 

 ふーん、といって城ヶ崎も一冊手に取り、パラパラめくりはじめる。

 

 『水の国のアクアと虹色の真珠』と題されたそれは、水の国の幼い人魚姫・アクアの冒険を描いたファンタジー小説だ。

 その繊細、かつ、精錬された文章で構築された物語は、読者を引き込こんで退屈させない。そしてそこで描かれる、様々な葛藤を越えて成長していくアクアの姿は、多くの少女達の共感を呼び、多くの支持を集めていた。

 その人気は絶大で、ネット上では来年のアニメ化と海外進出が噂されているくらいだ。

 

 理穂は説明した。

 しかし、城ヶ崎の興味の琴線には引っかからなかったようだ。

 

「挿絵ねーじゃん」

「ライトノベルじゃないんだから、あるわけないでしょ」

「けっ、やだねー。文章の並びだけ見てて何が面白いんだか」

 

手に取っていた本を元に戻す城ヶ崎。

 

「はいはい。アンタは新聞も読めないもんねー」

「バカにするな!テレビ欄位は読むわ!」

「あと4コマも?はいはい、すごいわねー。ご褒美に、コ●コロコミック買ってあげようか?」

「いらねぇよ!………代わりに少年ジ●ンプ買って。今週の田所さんの活躍見たいから」

「自分で買え。それに、当分あの子出番ないわよ」

「ちぇっ」

 

 帯に書いてある有名人のコメントに目を通す理穂。

 さらに冒頭部分だけ読もうとしたとき、城ヶ崎が「おッ!?」と短い声を上げた。

 

「どうしたのよ?本屋なんだから静かにしてよ」

 

 理穂は、幼馴染の眼差し先に目をやった。

 そこには、理穂と同じ制服を着た少女が、漫画が並ぶ本棚を眺めながら佇んでいた。

 

 か細い肢体(したい)と、華奢な腰。背は理穂よりやや高く、肌は乳白色。少し長めであろう鮮やかな黒髪は髪留めで後ろにまとめられていて、彼女のうなじを阻むことなくさらけだしている。

 

 その女子生徒の名前を、理穂は知っていた。

 

「海嶋さんじゃない」

 

 海嶋(うみしま)ミコト。理穂や城ヶ崎とは別のクラスの女の子だ。

 

「お前、なんで名前知ってるの!?」

「選択授業で時々一緒になるのよ。話したことはあまりないけど……」

「海嶋さんだな!よし!」

 

 理穂の肩を軽く叩くと、城ヶ崎は歓喜の足取りでその女子生徒の方に歩いて行った。

 

 その姿は、幼稚園の頃から何度か見たことある、彼のお決まりの行動パターンだった。

 

「えっ?ちょ、………まさか!」

 

 あれは、2人が幼稚園に入園して間もない頃。

 当時は()()可愛かった幼馴染の隣の席に、“みうちゃん”という、大人しくも可憐な女の子が座っていた。みうちゃんと城ヶ崎が隣同士になったのは、(当たり前だが)円を作って男女交互に座っている故の、ただ偶然だった。にも関わらず、みうちゃんが隣の席になったことは、運命の赤い糸の故だと解釈した当時の城ヶ崎。

 席が隣になった翌日、彼は園長先生が大事に栽培していた薔薇を摘み、花束にしてみうちゃんにプレゼントしていた。愛の告白という付録と共に。

 そのさらに翌日。みうちゃんは怖くて、園長先生はショックで、それぞれ幼稚園を休んだ。

 

 城ヶ崎は、とかく女の子に惚れやすいのだ。とりわけ、自己主張過少で庇護欲をくすぐってくれる気弱な女の子に。

 

 みうちゃん事件以降、他に幼稚園時代に2回、小学校時代に13回、中学時代に8回、合計22人の少女と2人の女性教師に、彼は愛の告白付き薔薇の花束をプレゼントした。

 

 そして今日。奴は25人目の被害者を生み出そうとしている―――。

 

「海嶋さんだよね?」

 

 ミコトに声をかけるサイコパス。本棚に左手をつき、斜めに傾けた自らの体重をそれで支えている。

 

 右手には一輪の薔薇。

 小学校7回目の告白したあたりから、彼はどこからともなく薔薇を出現させるという特技を習得していた。

 

「え?あ、はい……」

 

 ビクリと反応するミコト。まるで、轟く雷鳴を耳にしたかのようだ。静かに語りかけられたハズなのに。

 

「俺のこと覚えてる?」

 

「え、いえ……。ごめんなさい」

 

 目を閉じているせいか、城ヶ崎はなんの臆面もなく自らのナルシズムを雰囲気にして放出している。

 

 一方、声をかけられた側は、怯えるウサギの如く身体を小さくている。数センチだけ、その不審者からその身を離した様が、離れて目撃している理穂にもしっかり確認できた。

 

「ほら、一週間前に美術室で……」

「えっと……」

「俺は忘れもしない。放課後の美術室……。夕日に染まる教室で、君は深海の楽園を描いていた。その優雅で繊細な筆遣い……それはまるで―――」

 

 刹那、理穂は傍らの雑誌コーナーに置いてあった月刊ホビージ●パンを手に取る。

 

「やめろぉッ!!」

 次の瞬間、折り曲げて棒状にしたそれで、バカの頭を張り倒した。弾けるような空気音が、店内を駆け抜ける。

 

「痛てて……何しやがる!!」

「見ててこっちが恥ずかしくなるわッ!!怖がってるじゃない!!一週間前何があったか知らないけど、アンタいい加減、その惚れやすい性格直しなさいよッ!!」

 

「フッ、俺みたいなクールでグレイトな男は毎日がロマンスなんだよ」

「痛いから!痛いを通り越して、激痛だから!!もう、やめて!!」

 

「とにかく、俺の恋路の邪魔するなよ……ってあれ?海嶋さんは?」

「とっくに逃げたわよ」

「えぇー!?」

 

 もとい、逃がしたのだ。

 

 もう付き合ってられない。そう悟った理穂。

 

 買う予定だった『水の国のアクア』と、バカ撃退のために使ってしまった月刊ホビージ●パンをレジに持って行く。

 

 

 

   ◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。