ガンダムビルドファイターズ Evolution 作:さざなみイルカ
≪②≫
2杯の水を置いた。
正直関わりたくなかったが、出入り口で騒いだ手前、もはや他の同僚に任せることもできない。
「指令承ります。早く言い、早く食べ、早く出撃し、早く撃墜されてください。他の方の迷惑になりますので」
幼馴染と愉快な語尾を持つ彼の仲間達が座るテーブルに、メニュー表を叩きつける
メニューを手に取ったのは山田。城ヶ崎は悪びれる様子も、たじろぐ様子もなく、ただ動物園で珍獣を鑑賞しているかのような視線で理穂を眺めていた。
「まぁまぁ。しかし、お前にこんな趣味があったとは」
「仕事よ、仕事。アンタ、うちが母子家庭だって知ってるでしょーが。自分のお金は自分で稼がなきゃいけないの」
「お前のお袋さん、管理栄養士のインストラクターで結構稼いでるじゃん」
「うっさい。うちには弟がいる分、アンタみたいにいつまでも親から小遣いもらうわけにはいかないの」
「ふーん。ところで、ユリンいる?」
「いないっ!女の子指名せんでいいから、さっさとメニュー選びなさいよ!」
すると、メニューを眺めていた山田が喋り出す。
「じゃあ、俺様はマクギリス・ホットチョコレート」
隣に座るドン助に、山田はメニューを回そうとしたが、彼の大きな手が遠慮したので、向かいの城ヶ崎にそれを渡す。
「おいどんは、いつもの。オードリーのホットドックと砂漠の虎コーヒーで頼むゴワス」
「じゃあ俺、杏仁ザクとうふで」
計4品のオーダーを簡略した単語でメモする理穂。城ヶ崎はメニューを返却する。
「よし、じゃあ本題に入ろうか。知っていると思うがドン助、件のヤツに山田が負けちまった。次はお前に……」
「待つでゴワス。その前にお嬢さん。1200円以上注文したからバトルを所望したいでゴワス」
「はい。誰と、対戦されますか?」
理穂は使い終えたボールペンを胸ポケットに刺して応えた。リリー・マルレーンでは、1200円以上注文すると、店員とバトルできるのだ。勝利すると景品が、敗北すると残念賞のクッキーがもらえる。そして3連勝した客は更なる特典が与えられる。
ドン助は、先刻見せた会員証を提示した。
「おいどんはこの店で3連勝しているでゴワス。なので、アカネ店長への挑戦権を使いたいでゴワス」
◇ ◆ ◇ ◆
リリー・マルレーンの一角には、小さなステージがある。
店の内装同様に近未来的な装飾が施された舞台。後ろの白い壁には、ゆうに50インチはある大きな液晶モニター。その演台の上で披露されるのは、BGM代わりに演奏されるジャズでも、余興の手品でもない。ガンプラバトルだ。
ある客がバトルを所願したとき、店内の雰囲気は一変する。音響と照明の操作によって、音楽ライブのような演出が加えられるのだ。
〈―――リリー・マルレーンでお食事中の皆さん、ガンプラバトルのお時間です!〉
1人のスタッフのナレーションと共に、モニターに光が入る。客の視線も、全て舞台に集まっていく。
〈今回バトルするガンダムヒロインはなんと!我らが店長!シーマ・ガラハウ、アカネ店長ですっ!〉
沸き立つ歓声に迎えられ、先刻までデスクワークに勤しんでいた柴摩アカネは壇上に上る。
手には扇子。自らの体格よりも二回りほど大きいコートをマントの様に羽織り、左腕では紫とカーキの特別カラーで彩色されたコマンドデバイザーが光る。
ステージの照明を浴びると共に笑みを浮かべる童顔シーマ様。本人は本物のような妖艶な微笑を意識したのだろうが、顔の年季が足りないらしく、再現できていない。せいぜい、掃除当番をサボるいい方法を思いついた女子生徒位にしか見えない。
アカネが壇上に上がる姿を見つつ、理穂は厨房スタッフにオーダーを届ける。
メモを手渡した後、何かすることはないかと店内を見渡したが、どの席の客もステージに釘付けで新しい注文を希望している仕草はない。ガンプラバトルが始まると、接客スタッフは暇になるのだ。
カウンター近くで佇む巴に歩み寄り、理穂も待機に加わることにした。
「アカネ店長って強いんですか?」
小声で尋ねてみる。すると巴は、同じ大きさの声で返事を返してくれた。
「ああ。何でも昔は名のあるガンプラファイターだったらしい。私はここで半年以上働いているが、柴摩店長が負けたところを見たことがない」
へぇ、と理穂は返した。
理穂自身は、アカネがバトルしたところを見たことがない。「3連勝すれば挑戦権が得られる」という特性上、彼女は滅多にバトルしないのだ。しかし、客の3連勝をことごとく阻止している巴がその強さを認めているほどであるのだから、その腕は本物なのだろう。
〈―――それに挑戦するのは、現在3連勝中!ガンプラビルダー、碇ドン助!〉
城ヶ崎フォース05の男が、壇上に姿を見せた。肥えた体格の彼だが、巨漢というには身長がやや低い。背丈は城ヶ崎と同じ位だ。
間もなく、粒子発生装置が起動し、ステージ上にプラフスキーのドームが形成される。同時に、その背後のモニターにドーム内の風景が表示された。コマンドデバイザーを無線通信でAV機器と繋げることでドーム内のバトルをディスプレイに映すことができるのだ。
フィールドはアイランド・イーズ。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』で登場し、星の屑作戦のコロニー落としに用いられたコロニーだ。無機質な鉄の床と幾多の建物、天井には網目状の硝子。さらにその上には無窮の星の海が広がり、地球とソーラーシステムが顔を出している。
フィールドはアカネが選択したものだった。2連勝以上している客と対戦するとき、フィールドの選択権はスタッフが得る。リリー・マルレーンでは、そういう決まりなのだ。
両者のガンプラが投入される。コロニー内部に降り立った2つのガンプラは、いずれも改造機だった。
その内の1体に、理穂は注目した。
滑らかな流線型のフォルムに、沸き立つ血を情熱で引火したような真紅の身体。両肩側面に備え付けられた大型スラスターと、しなやかな脚部のアンバランスによってつくりだされた逆三角形は、背面から突き出たシュツルム・ブースターと相まって、その機体の高い機動性・運動性を雄弁に物語っている。
「ガーベラ・テトラ?」
『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』にてシーマ・ガラハウが搭乗し、今現在アカネが使用している機体だ。
コスプレしているキャラクターに基づいた選定だが、頭部と肩部、手に持っている武器が本来のものとか異なる。
頭部はモノアイではなく、ガンダムタイプに似た眼窩上隆起と2本角を持ったツインアイ・フェイス。武器のビームマシンガンも、砲身と取っ手の間にエネルギーパックらしきものが扇状に連なっている。専用のカスタムウェポンのようだ。
そして、肩部。大型スラスターを覆う肩あて部分の装甲にフリルに似た反り目が幾つもあり、まるで両肩に巨大な花を飾っている様にも見える。さらにその紅い花の上からは細い刀の柄が二本、前面に向かって伸びていた。
原型は留めている。しかし、細部が違う。まさに原作の世界観を守りつつ新しい味を加えた、改造ガンプラらしいガンプラだった。
「アザレア・テトラ。柴摩店長が自ら製作した、店長の愛機さ」
巴が説明してくれた。
「アザレアって、花のアザレアですか?」
「店長の誕生花さ。ガーベラ・テトラの本来もつ高い機動性と白兵戦能力を活かした機体だ。手に持っているのは手動切り替えでビームマグナムにもなるビームマシンガン。両肩に装備されているのは日本刀型斬撃武器“妖刀・紅躑躅”」
「どちらも強力そうですね」
「主力は後者だ。前者は遠距離対策に過ぎない」
モニターに映る、アザレアの目がエメラルドのような光を放つ。これから戦う敵を捉えたのか、マシンガンの砲身を上げる。
対峙する相手。それもまた、原作のものに異なる味付けが加えられたガンプラだったが、アザレアよりも改造の比率が高い。
まず何より目を奪われるのは、ビンの蓋に似た巨大な二つの環状のパーツだ。それが両肩に、まるでトンボの翅のように備わってV字を描いている。
特徴的過ぎる環に対して、身体はかなり小さく、本体の全長はアザレアの2/3ほどしかない。丸いシェルエットを描く黄色いボディに、ゴリラのような太い腕。足は短く、爪先からは鋭く長すぎる紫色の爪が、左右3本ずつ伸びている。
手に武器は持っておらず、武装らしい武装といえば、両肩の環の下に備えられておるミサイル・ランチャーと、腹部の大口径エネルギービーム砲くらい。他にも何か隠し持っているのかもしれないが、貧弱で鈍足な印象を覚えずにはいられない。
巴が、その機体の元々の姿を言い当てた。
「ゲドラフか」
「ゲドラフ?ゲドラフって、あのタイヤの?」
「ああそうだ。正確にそれはアインラッドだが、あれはゲドラフを改造した機体したみたいだな」
「なるほど。でも、あれって強いんですか?」
「それについては、私が解説致しましょう」
聞き覚えのある声がした。すぐ傍のカウンター席である。声の主は、食事をしながら理穂の方に顔を向けていた。食べているのは、“チン=チクリンの焼飯”である。
「
違う店の店長の姿に、声を上げる理穂。
ニット生地のアーガイルチェック柄ベストにジーンズ。今日は休日着のようだったが、それでも眼帯を忘れていない。
「知り合いか?」
「ええ、まぁ……。あの、いつの間に来ていたんですか?」
理穂の記憶だと、さっきまでその席には誰も座っていなかったし、今日焼飯を注文した客もいないはずだった。眼帯店長が神出鬼没なのは今始まったことではないが、今回ばかりは不気味に感じる他何もなかった。
正直答えて欲しかったが、回答しないのも相変わらずで、G-MAXの店長は解説を語り始めた。
「華咲さんのおっしゃる通り、あの機体は『機動戦士Vガンダム』に登場する、ベスパが開発し使用していた汎用量産MSZM-S24Gゲドラフを改造した機体です。その名も、ゲドラフ・ポセイドン!」
「なんで巴さんの名前も知っているんですか」
「その最大の特徴は、肩に取り付けられたタイヤ型支援機“アインラッド”の改造パーツでしょう。アインラッドを本体と一体化させることで、劇中のように敵に奪われるのを防いでいるのです。両腕には少々特殊なビームシールドが備わっている他、チタン合金ネオセラミック複合材の装甲にビームコーティングを施すなど、防御性能に特化した機体です」
「耐久性重視か。しかし、アインラッド部分の武装が省かれているようだが、火力は追加武器頼りなのか?」
「それはどうでしょう。ただ1つ言えることは、碇ドン助はかなりの腕をもったガンプラビルダーだということです」
「解説に関係した質問には答えるんですね」
「そんな碇ドン助と対峙するは、かつて“星見の蜉蝣”と呼ばれたガンプラファイター・柴摩アカネ!どうやら今回のガンプラバトルも、見ごたえ十分なようです」
機体は出そろっている。舞台に上がっている2人はコマンドデバイザーを掲げ試合開始の掛け声を上げる。
「ガンプラバトル!レディィィィィ……」
「ゴワス!!」
◇ ◆ ◇ ◆
スペースコロニーとは、機動戦士ガンダムシリーズに登場する宇宙空間での人工居住地である。作品によって形状が異なるが、最も一般的な形状はシリンダー状の開放型コロニーだ。円柱を六分割し陸地と“河”と呼ばれるガラス面が交互にあり、河から光を取り入れている。
コロニー内部の景色は、足をつくと地球のものと遜色なく見える。しかし、湾曲する地平線や頭上にも在る大地の存在が、この空間が自然が作り出したものではない幻想郷なのだということを教えてくれる。
本来、人類の第二の棲み処として造られたはずのスペースコロニーだが、このアイランド・イーズは異なる目的のために使われていた。地球への攻撃、つまり兵器として用いられていたのである。
コロニー落とし。それは、コロニーそれ自体を巨大な質量兵器として地球上に落下させ、大規模な破壊を行う攻撃。ガンダムシリーズ、とりわけ、宇宙世紀を舞台にした作品では幾度かこの攻撃が実行され、多くの地上人に空が落ちる恐怖を与えた。
アイランド・イーズもまた、その攻撃の為に地球に向かっている。
救いなのは、天井の河にから見える地球は実際には存在せず、このアイランド・イーズ自体もプラフスキー粒子が作り出した疑似空間に過ぎないということだ。
人が住むこともなく、また地球攻撃に使われることもないアイランド・イーズ。それでも、降り立った2体のガンプラにとってそれは、短い命を行使する大切な場所だった。
アザレア・テトラ。ゲドラフ・ポセイドン。2機の闘いが、今始まる。
〈
土偶の目に似たゲドラフのメインモニターに、7文字のアルファベットが映る。それを我が目にも映したドン助は最初の一手を思考していた。
自分の、ではなく相手の行動を。
〈――……3!〉
バトルの前、彼はいつも落ち着いていた。
〈――……2!〉
意識的ではなく、自然とそうなのだ。
〈――……1!〉
無駄に動く必要などない。何故なら、
〈GO!!〉
待てば、勝利は向こうから転がってくる。自分の作ったガンプラは常に、勝利が流れてくる先にいるのだから。
「あたしゃ気が短いんだ、すぐ楽にしてあげるからねぇ」
対峙する敵が、鉄の大地を蹴って宙に跳んだ。アカネのアザレア・テトラである。
柴摩アカネは、ガンプラバトルのとき普段の自分を捨ててシーマ・ガラハウになりきる。役になりきることで、自らも操作するガンプラの一部となって、その芸術品を完成させているのだろう。
ガンプラバトル開闢以降、ガンプラにとって真の完成とは、ただ制作し、色を付けて、棚に飾ることではなくなっていった。作り上げたガンプラを、プラフスキー粒子の世界で動かし、闘わせ、勝利させる。その過程を、如何に理想形に近い形で実現させるか。それが第二次ガンプラブーム以降のガンプラビルダーに求められる技量なのだ。
ファイターとして特化した手腕。製作技術のみに長けた技量。ドン助はどちらも認めているが、真の一流ガンプラビルダーになるならば、どちらも欠かせないと考えていた。
彼はそれを目指している。彼には憧れる人物がいる。その人物に少しでも近づけるように、彼は日々ガンプラを作り、技術を磨いている。ゲドラフ・ポセイドンは、今日までの自己研鑽の集大成だった。故に、彼は自らのガンプラを信じていた。
油断ではない。信頼は自然な冷静さを産み、彼に余計な行動から遠ざけていた。
全てのスラスターを吹かして、距離を潰して迫るアザレア。ある地点で減速し、銃口を構える。
「さぁ、派手に行こうかぁッ!!」
閃光が放たれた。パルス状のメガ粒子である。集弾されない短い光線たちが、空気を撃ち抜きながらポセイドンに迫る。
片腕を上げた。ビーム・シールドを展開し、全ての閃光を迎えた。虹色の膜が、ビームを中和し、緑色の微細な粒に変換する。それらは一瞬宙を漂ったあと、ゲドラフのネオセラミックの肌に溶けてなくなっていく。
「そらそらそらぁッ!」
アザレアは左上に回り込みつつ、ビームの速射を続けるアザレア。着弾地点をシールドから徐々に逸らして被弾させる戦法だ。
ポセイドンも、盾の向きを相手の飛行方向に合わせて傾けていく。
防戦一方。舞台外の傍観者たちにはそう見られているかもしれない。
ドン助は感じた。アカネは自分にシールドを解くタイミングを与えようしない。そしてさらに間合いを詰め、得意の白兵戦に持ち込もうとしている。
運動性の高い機体なら、いつまでも防御に徹せず、回避して反撃したり、距離を取り直したりもできるだろう。しかし、ポセイドンはそこまで機敏には動けない。
「サーベルの熱にやられな!」
噴射するスラスターの勢いに乗りつつ、右腿上部にマウントされたビームサーベルを抜くアザレア。
刹那、ドン助はシールドを解除し、ポセイドンの身体の正面を相手に向ける。
「今でゴワス!“どす恋ミサイル”っ!」
両肩のミサイルランチャーを散りばめるように放った。
仕掛けるよりも速く発射された弾道弾の飛沫に、アカネは緊急回避を余儀なくされる。
「小賢しい!」
シーマらしい台詞を投げ捨てたアカネだったが、その表情は自分のカウンターを称賛する驚きと喜びに満ちていた。彼女は噂通り、血気盛んで大胆不敵な女傑には向かないようだ。
しかし、腕は一級品だ。あの距離で全てのミサイルを掠りもせずに躱し切った。反射神経以前に、近接戦闘を仕掛けるタイミングが絶妙だったのだ。カウンターを想定しない者はもっと踏み込んでいただろう。
童顔シーマの技術に、ドン助の交感神経も高揚する。闘気溢れる言葉が、口から自然と漏れ出した。
「だったら次はこれでゴワスっ!“どす恋ビーム”っ!」
ポセイドンは腹部から、極太な光軸を放つ。“カリドゥス複相ビーム砲”。アビスガンダムやストライクフリーダムなどが持つ胸部内蔵の大出力ビーム砲だ。。固定装備のため機体正面にしか撃てないのがネックだが、発射アクションが少なく、このような状況ではとても使い勝手が良い。
しかし、躱された。高速戦闘を得意とするガーベラ・テトラの改造機とだけあって、回避性能は侮れない。
アイランド・イーズの空を自在に泳ぐアザレアは、サーベルを捨て、左手でマシンガンの背に付いたレバーを引いた。すると、砲身側面につけられたランプの色が赤から青に変わる。
「だったら、これならどうだい!?」
再び、銃口が光を吹いた。今度はパルス状のマシンガンではない。カリドゥス程ではないにしろ、太いビームだ。
ビームマグナムである。ドン助は、咄嗟にビームシールドを展開した。
「無駄でゴワスっ!」
両腕にシールドが備わっているため、防ぐのは容易だ。手持ち武器を持たせていないのも、この防御性能を活かすためでもあった。
再び受けた閃光は緑色の微細な粒に変化し、ポセイドンの身体に溶けていく。
「ちっ、なんてシールドだいっ!」
スラスターを尽かせてしまったアザレア・テトラは、一旦施設の屋根に足をつく。打ち終えたマグナムのエネルギーパックを捨て、扇状に連なる次弾を装填する。
「だが、守ってばかりじゃ勝てないよ」
「動かざることコンブのごとし。それがおいどんのモットーでゴワス。しかし、店長が相手ではそうとばかり言えなさそうでゴワスなぁ」
「何?」
「難攻不落の大爆走、とくと見るでゴワス!ゲドラフ・ポセイドン、
掛け声と共に、ゲドラフ・ポセイドンの“ポセイドン”である所以を発動させた。
機体の変化に、対峙するアカネはその童顔を驚愕の色に染め、観客達はどよめき立つ。
「変形!?」
ゲドラフはその身体を丸くする。両肩の環状パーツがその身体を左右から閉じ込め、アインラッド本来のタイヤ状を作りだす。それだけなら誰も驚かない。誰もが驚嘆したのは、ゲドラフの脚部の変形だった。
脚部だけはタイヤ部分に収まらず、後ろにはみ出す。はみ出した二本の脚は、足裏から合体し、別の物に形を変えた。その姿は、タイヤ部分と合わせて見る者に、ある生き物を連想させる。
「アンモナイト……」
ドン助がモデルにした生き物の名前を、誰かが呟く。太古の深海に生きる巨大なアンモナイト。転じて、海の王者。それが、ゲドラフ・ポセイドンの名の由来であり、本当の姿だった。
碇ドン助。彼が目指すのは一流のガンプラビルダー。彼には、憧れる人物がいる。
奇抜なデザインで世のガンプラファンの注目を浴び、プラフスキー粒子の戦場でそれらを完成させていった伝説のガンプラビルダー。七代目メイジン・カワグチ―――通称“ダッチボーイ”。
ゲドラフ・ポセイドンは、姿を消したメイジンに傾倒されたドン助が、そのデザイン嗜好を真似て作りだしたガンプラだった。
◇ ◆ ◇ ◆