ガンダムビルドファイターズ Evolution 作:さざなみイルカ
≪③≫
ゲドラフ・ポセイドンの脚の袖部分には、“∀”の記号に似た紋章が付いている。機体が可変したとき、それはアンモナイトの眼となるのだ。そして、眼の先には紫の触手。元々は爪先から伸びた鋭い爪だが、6本合わさったその様は、頭足類の足に似た姿を見事に再現している。
MSが頭足類に変貌した姿に、モニターを観戦していたほとんどが驚いた。度肝を抜かれなかったのは、既に彼の闘いを見たことがある者に限られる。城ヶ崎も、その内の1人だった。
元々可変能力を持たないガンプラに、生物型のMAに変形させる機能を取り付ける技術。碇ドン助のガンプラ制作能力は、驚異的であると同時に芸術的だった。城ヶ崎フォースには彼より強いファイターはいるが、彼以上に高度なガンプラを作りだせる者はいない。彼はまさに、城ヶ崎フォースが誇るナンバーワンビルダーなのだ。
「すごっ……ハッハッハ! いいねいいねぇ、ゾクゾクするじゃないか!」
一瞬、アカネに戻った童顔シーマ様。首を振って、普段の自分を表情から振り落とす。
彼女が演技を忘れてしまうのも無理なかった。ポセイドンの可変姿を目の当たりにして、反応しないガンプラファンはいないだろう。
試合は始まったばかりだった。これまで片方は鉄壁の防御で、もう片方は高い機動性と操縦技術で、それぞれダメージを避けている。戦況が動くとすれば、ここからだろう。
「いくでゴワス!エンジン始動!走れ、ゲドラフ!愛の限り!!」
螺環部分にあたる車輪が、その表面に黒い滝を流れ落とすように回り始めた。黄色のアンモナイトはアイランド・イーズの地を泳ぎ駆ける。鉄の床のために土煙は立たないが、その代わり工場の騒音に似た轟音がその後に残った。
その速度は遅くはないが、高速というにも物足りない。だが、重みがある。大きすぎる殻から感じる異常な重量感が、速度以上のプレッシャーを相手に相手に与えるのだ。
走るアンモナイトが、建造物の外壁に衝突した。アザレア・テトラが足をつけている建物だ。
建物はまるで積み木の城の如く、一瞬で崩れ落ちる。アザレアは空に逃げ、ポセイドンはぶつかった衝撃などまるで無かったかのように走り続けていた。
アイランド・イーズは比較的に障害物の多いステージだ。建造物が多く、平坦なフィールドとはいえない。しかし、可変したゲドラフ・ポセイドンに、そんな事実は関係なかった。立ちはだかる壁は砕き、走行を邪魔する施設は破壊し、フィールドをみるみる平坦な更地にしていく。
「なんだい、ありゃ!?化け物か!?」
コロニーを地ならししながら爆走するアンモナイトに、アザレアを駆るアカネは言葉を吐いた。化け物とは、良い得て妙な言葉である。宇宙の居住地を食い荒らすようにして爆走するあの姿はまさに、モンスターだった。
アカネが放ったのは言葉だけではない。
アザレアの足が地面につくと共に、1発のビームマグナムを見舞った。素早く次弾を装填して、もう1発。角度の異なる2つの太い筋が、アンモナイトの殻に命中する。
しかし、一方は車輪の回転に弾かれ、もう一方は側面を固めるビームシールドによって中和された。
「ちっ!駄目かいっ!」
ポセイドンの走行は一向に弱まらない。
迫りくるモンスターの突進に、アザレアは避ける以外選択肢はなかった。コロニーの中央を突き抜ける空中空間に、その逃げ場を求める。
「今でゴワス!」
飛んで躱された刹那、ポセイドンは変形を解除する。可変の反動で瞬時に空を仰ぎ向き、その視界に敵の背面を捉えた。
「喰らえ!どす恋ビィィィィムッ!!」
カリドゥスの大口径から、青白い閃光を纏った赤線が飛び出す。
アザレアは咄嗟にバーニアを噴射させたが、躱し切ることができなかった。シュツルムブースターが光軸に呑まれ、爆音と共に四散する。
「ぐうぅ…っ!この程度で!」
爆風に押された、アザレアは反転する。付属武装を失ったものの、本体は殆ど無傷だった。お礼参りとばかりに、左腕部の110ミリ機関砲を速射した。
バルカンより威力が優れた弾丸が、ゲドラフの装甲を襲う。
「ムムっ!」
何発か被弾は避けられなかった。幾らかのダメージを許してしまったポセイドン。後退し、機関砲の射程外まで距離を置いた。すると、今度はビームマグナムの追撃が彼を襲う。
ビームシールド。すかさず防いだ。
「やっぱり、あのシールドがやっかいだねぇ」
シーマになりきったアカネは、再び距離を詰めようとスラスターの出力を上げる。アザレアの真紅の身体が、更地となったアイランド・イーズの地を飛ぶ。
「
変形し、それを迎え撃つポセイドン。タイヤをフル回転し、再びアザレアに突進攻撃を仕掛ける。
紅の花と、黄色いアンモナイトが、互いを目指して駆けた。
このまま激突すれば、アザレアが力負けするのは確実だった。
しかし、そうはならなかった。
衝突の刹那、アザレアはマシンガンを捨てた。そして右に踏み出し、紙一重で敵を躱したのだ。さらにすれ違う一瞬で、肩に備わっていた刀を抜き、その刃を車輪の側面に突き刺す。
「ナヌ!?」
弾けるような電気音と、絞られるような電流音が、閃光と共に短い時を駆ける。
アザレアの抜いた刀はポセイドンの虹色のビームシールドを破り、左腕を貫いた。
片方の前腕を落として、走り去るポセイドン。やがて、受けたダメージに一輪車のバランスを奪われ、左に右にぶれた後、鉄の床に滑り倒れた。
「やられたでゴワス!
「遅いよ!ウスノロがぁッ!」
MS姿に戻ったのも束の間、もう1本の刀も抜刀した西洋ツツジの化身が、ポセイドンに襲い掛かる。
一振り。太刀筋はネオセラミック複合材を斬り、その黄色い身体に大きな傷を負わせる。
たじろぐポセイドン。次の攻撃も、避けることができない。
連続攻撃が続いた。
間合い、スピード。それらを二振りの妖刀と共に手にしたアザレアは、一方的な攻勢を欲しいままににする。幾つもの斬撃を与えた後、その細い脚でポセイドンを押し退けた。
短い距離が開く。追撃とばかりに、右腕の機関砲を敵に浴びせる。小さな弾丸の一粒一粒が、先刻切り拓いた傷口をさらに広げ、ダメージを上塗りしていった。
「まだまだでゴワス!どす恋ビィィィムッ!」
機関砲を受けながらも、カリドゥスで反撃するドン助。至近距離での発射だったが、その行動はアカネに読まれていた。
「攻撃するたびにわざわざ叫んでりゃ、世話無いね」
躱された閃光は虚空を貫く。アザレアは空中だった。
2発目を放つ。当たらない。いや、当てるのが目的ではなかった。
敏捷性で遥かに上回るガーベラ・テトラの改造機から逃げるのは、困難を極める。牽制射撃によって、反転攻撃を防ぐ以外、間合いを取り直す術がないのだ。
カリドゥスは高い威力と連射性を兼ね揃えた、非常に優秀な武装だ。ドン助の機体は武器が限られている分、エネルギーパックを余分に搭載している。そのため、尽きるのを覚悟で発射し続ければ、敵の反撃や追撃を阻み切ることはできる。
アザレアは後退した。
「やってくれるねぇ」
アカネは余裕の表情を浮かべた。その童顔をできるだけシーマに近づけつつ、相手の様子を覗う。
「けど、弾はもっと考えて使うもんだよ。もうその武器、使えないんじゃないのかい?」
数発のカリドゥスを撃った。残弾が残っているとは思えない。再リロードが完了するまで使えないはずだが、ドン助は別段慌てている様子もなかった。
表情の変化に薄いその目は、相変わらず呑気で、焦慮などとは無縁の色をしている。
城ヶ崎は知っている。彼にはまだまだ秘策があることを。そして、彼は彼自信が作ったガンプラを信頼していることを。
そういえば誰かがこんなことを言っていた。「勝敗は、戦いが始まる前から決まっている」と。戦術よりも戦略こそ勝負の要であることを説いた台詞だが、戦術信奉者の城ヶ崎はその言葉を信じていなかった。しかし、その言葉に一理あるとすれば、ドン助のような者がその体現者なのだろう。
彼はガンプラを制作した段階で、既に勝敗をモノにしているのだ。
「アカネ店長。さっきの衝突ざまのフェイント攻撃は見事でゴワした。感服したでゴワス。星見の蜉蝣の異名は伊達ではないでゴワスな」
「お褒めに預かって光栄だねぇ。で、媚びを売って時間稼ぎかい?」
「いや、選別でゴワス。間もなく、バトルは終るでゴワしょうからなぁ」
「降参宣言かい?」
「いや、勝利宣告でゴワス。おいどんは切り札を使うでゴワス」
「切り札?」
「括目するでゴワスッ!!おいどん作りし、ガンプラの究極秘儀その3!“リペレイション・ヒール”!!」
ドン助とポセイドンは、ポーズを構えた。宣言と共に、ゲドラフの身体は翡翠色の輝きを発光する。
「!?」
眩い光の中、ポセイドンの黄色い肌から小さな粒が発生する。それは、恒星の周囲を回る惑星ように、ゲドラフの周囲を回り、そこに小さな天体をつくりだしている様だった。すると、変化が起こる。もっとも顕著だったのは、先端が切り落とされた左腕だった。
「えっ……!?」
アカネの童顔は、再び驚きの色に染まった。モニターを観戦していた傍観者も、再び目を丸くせざるを得なかった。
「嘘だろ……?」
「そんな」
「すごい……」
誰もが短い単語でしかその現象を言い表せない中、ある1人が、ゲドラフの身に起きている超常現象を言葉にした。
「修復している!?」
修復。その通りである。
刀の傷跡は徐々に閉じ、機関砲の弾痕は瞬く間に消滅していく。落とした左腕も、収束した光の粒たちによって本来の形を形成されていき、やがては元通りになる。
輝きが尽きたとき、ゲドラフ・ポセイドンの姿は試合開始時とほぼ同じ状況になっていた。
「そんな!?どうして!?」
驚愕のあまり、シーマを忘れるアカネ。自分のキャラのことよりも、その手品の正体に全意識が持っていかれたようだ。
「リペアポッド。あの原理を粒子変容に応用したでゴワス」
リペアポッド。それは、数年前にG-NEXT社からコマンドデバイザーと平行して発売した、ガンプラ自動修復装置である。バトルによって負ったガンプラの傷を、プラフスキー粒子の力で元の状態にまで復元することができる筒型の機械。
それが世に出回って以降、世界中のガンプラビルダーの頭の中で次のような想像が生まれた。「この原理を応用して、“自己再生能力”を実現できないか」と。
あらゆる国、あらゆる年齢のビルダーが、新品のリペアポッドを分解し、その構造を調べ、夢の新能力に向かって研究を推し進めた。そんな中、東アジアのある国のビルダーが、世界でいち早くその構想を実現させた。しかし、それは超大型のMAに搭載したもので、回復スピードも遅く、実践には向かず、燃費だけひたすら喰う穀潰し機能で以外なんでもなかった。
それからも自己再生能力を実現させる研究は世界中でなされたが、公式戦でそれを用いたガンプラが登場したことは1度もない。インターネット上に発表される研究成果はどれも、前記したものと変わらない、微々たる進歩を誇示した作品ばかりだ。
自己再生能力実現の最大の障壁は、そのエネルギーの消費量だった。リペアポッドを動かす電気エネルギーと、プラフスキー粒子の粒子変容によってガンプラ内部に発生する動力エネルギーでは、その量に圧倒的な差がある。それを実現するためには、機体の機能殆どをエネルギータンクにしなければならず、標準的なMSはもちろん、大型のMAであってもまともな武装を搭載する余裕を失ってしまう。必然、発表された再生能力を装備した機体はXXL級以上のMAに限定されるし、実戦で使える代物ではまずなくなる。
増して、MSへの自己再生機能搭載を成功させた者など、いなかった。
しかし、それはあくまで公式記録上での話である。碇ドン助は、人知れずMSへの自己再生機能搭載を成功させていたのだ。しかも、徐々に回復する持続性機能ではなく、瞬発的に一気に再生する起動性機能で、である。発表すれば、それはガンプラバトル界における大発明だった。
城ヶ崎と山田は、数日前に完成したその機能を、既に目の当たりにしている。故に驚くこともない。ドン助の内心同様、周囲の人間達が驚きざわめく様を、沈黙の中で愉しんでいた。
「そんな……どうやってMSに再生能力を!?」
アカネが問うた。もはや、彼女が纏っていたシーマ・ガラハウという役柄は、リペレイション・ヒールの光によって吹き飛ばされたようだ。
「ゲドラフ・ポセイドンの装甲表面に、
さらにドン助は続けた。
「このリペレイション・ヒールを搭載するには、2つの条件が必要でゴワス。まず、余計な武装を省き必要なエネルギータンクを搭載できる余裕があること。そして、これでゴワス」
ゲドラフ・ポセイドンは両腕を掲げてみせた。それぞれの前腕側面から虹色の閃光膜が展開される。
「ビームシールド……?」
アカネは、それが何を暗示しているのか掴めないようだった。すると、ある店のスタッフが声を上げた。
理穂の隣にいる、モニクの恰好をした店員だ。
「変換した……そうか、アブソーブシステム!」
第7回ガンプラバトル世界選手権で登場し、その後のガンプラバトル界の主流となった改造武器の1つである。敵のビーム攻撃に変容されたプラフスキー粒子を、シールドを介して本体に吸収するシステムのことで、ビーム兵器抑止とエネルギー蓄積の二重効果があった。
「その通り。これがおいどん作りし、ガンプラの究極秘儀その1!アブソーブビームシールド!吸収したビームを濾過するように変容させ、特殊装甲に吸収させる再生能力実現の盾でゴワス!」
「そんな……、アブソーブシールドをビームシールドで実現させるなんて」
その他にも、ゲドラフ・ポセイドンには再生能力搭載のための様々な工夫がある。例えばタイヤ。MA形態で走行する際、タイヤに搭載された発電装置が作動し、新たなエネルギーをゲドラフの体内に蓄積させる。ガンプラの動作自体に必要なエネルギーはフィールド中のプラフスキー粒子によって賄われるため、走行自体に機体内のエネルギーを消費することはなく、発電によって得た動力はそのまま予備タンクにループされるのだ。
また、ゲドラフ・ポセイドンを防御重視の鈍重機にコンセプトを絞ったのは、許容量大きいエネルギータンクを採用したためだった。再生能力を搭載し、かつ、敏捷性まで両立させるなど不可能だ。それに、防御機体はアブソーブシールドによるエネルギー吸収ともシナジーがある。
「しかしながら問題もあるでゴワス。リペレイション・ヒールは予備エネルギーの全てと、装甲に蓄積した粒子、そして武装用の主動力の半分を使ってしまう。そのため、使えるのはバトル中1回のみ。しかも、使った後どす恋ビームがしばらく使えなくなるでゴワス」
ドン助は再び、ゲドラフ・ポセイドンをアンモナイト型のMA形態に可変させた。
「リペレイション・ヒールを使用した後のポセイドンにできる戦術は、限られるでゴワス」
機体内の動力エネルギーを必要としない突撃攻撃。それを主力にして戦うのだ。
「いくでゴワス!」
再び螺環が回転し始めた。コロニーを切り裂くような勢いで、アンモナイトは鉄の床を駆ける。
対峙するアザレアは、両手の刀を構え直す。
「……でも!回復したって状況は同じ!もう一度、紅躑躅でダメージを与えれば」
「ムダでゴワス」
「え?」
刹那、何かが飛んだ。
それは大きな手のように、アザレアの身体を鷲掴みする。
手ではない。指が1本多い。それにそれは、指ではなく爪だ。
ポセイドンの足だった。
アンモナイトの胴体と化していた足が、車輪の表面を滑り前に出、ワイヤー武器として射出されたのだ。
「なっ!?」
ワイヤーレッグ。ゲドラフ・ポセイドンの隠し武器だ。ポセイドンの両足首は発射できるようになっていて、MA形態時、敵の身体を捉えるアンカーとして使用できるのだ。
捉えられた機体は身動きできず、簡単にゲドラフの接近を許してしまう。
今まさに、アザレアはアンモナイトの触手に捕われた獲物と化してしまったのだ。
「おいどんがゲドラフ・ポセイドンのMA形態にアンモナイトを選んだのは、伊達や酔狂のためではないでゴワス!」
射出した足を本体と合体させ、6本の爪でアザレアを捉えたまま、変形するポセイドン。使っている足の代わりに腕で立つ。
全ては、ドン助の策略通りだった。序盤は特異な可変と突撃攻撃で相手に「MA形態時は突撃してくる」という先入観を与え、中盤に再生能力を披露して相手の動揺誘う。そして終盤。予め植え付けておいた先入観を裏切る形でワイヤーレッグで敵を捉え、自由を奪う。
あとは、大技を決めるだけだった。
「この爪はヒートクローでもあるでゴワス!」
紫色の爪が、静かに赤黄色に変色する。その周囲から陽炎が漏れ、アザレアの紅の装甲は、徐々に柔らかい質感を得ていく。
「溶解している!?」
「その通り。このまま装甲を溶かして、防御力を一気に削ぐでゴワス!」
「だったらこれで!」
アカネは、コマンドデバイザーの本体にコントローラーを差し、2体のガンプラを取り出した。ゲルググ・マリーネだ。
それをセンサーに読み込ませると、戦場広がるドームの中にそれらを放り込む。
〈乱入ペナルティ!70%!〉 〈乱入ペナルティ!70%!〉
稲妻の洗礼を潜り、海兵隊仕様のゲルググが2体、アイランド・イーズの空に現れる。
「ウム。モビルアシストでアザレアを救出する気でゴワスな?だったら、おいどんもッ!進!コージ!」
「よっしぁッ!!待ってたぜ!」
ドン助の胴間声に、城ヶ崎と山田は席を立った。そして、既にテーブルの上に出してあった自分達のガンプラを手にとる。
「受けとるじぇ!」
それぞれの愛機を彼に向かって投げると、ドン助は身なりに合わない俊敏な動きでそれらをキャッチ。コマンドデバイザーに読み込ませ、相手が投入した機体と同数の機体をアイランド・イーズに向かわせる。
〈乱入ペナルティ!70%!〉
〈乱入ペナルティ!70%!〉
スローネタイラントとシュヴァルベ・グレイズがコロニーの内部に姿を現す。片方は疑似太陽路を、もう片方はエイハブリアクターを、最大出力で起動させ、敵の援軍の前に立ちはだかる。
「アシスト・カット!?」
モビルアシストをモビルアシストで妨害する手法である。
スローネはGNファングを展開して1体の進行を阻み、シュヴァルベはその高機動を活かした連続攻撃で別の1体を牽制した。
どちらのゲルググも簡単にやられはしないが、本来召喚された目的を遂行できそうになかった。
ゲルググが城ヶ崎フォースMSに足止めを喰らっている頃、アザレアの装甲の液化は進行していた。
もはや、助かる見込みはない。
対峙するお互いのファイターが洞察したとき、ポセイドンは拘束を解いた。
「トドメでゴワス!」
スラスターを噴射させ、アイランド・イーズの空に跳ぶゲドラフ。変形し、駆動系を焼き切られ動けないアザレアをその影の中に納める。
巨大な螺環型タイヤが、敵とそれが足をつける鉄の床目掛けて落ちる。
「必殺……」
バーニアが、その落下速度を速める。次の瞬間、アザレアの頭上にアンモナイトの全体重が落雷の如く叩き落とされる。
「どす恋
ヒートクローによって溶解された装甲諸共、アザレアは押し潰された。
闘いが終わる。
戦っていた残り4機のMSも戦闘を辞め、その短い命を次の闘いに向けて眠らせた。
ドン助の勝利だ。
◇ ◆ ◇ ◆
注文していた料理が席に届いた。
4つの品。テーブルにはそれ以外に、1体のガンプラがあった。アカネが現役時代に使った愛機で、本人の直筆サインが入っている。バトルサービス勝利でドン助が得た、最上級の景品だ。
ドン助は、名だたるガンプラファイターの機体を収集するコレクターでもあるのだ。今回アカネにバトルを挑んだのも、自分のコレクションを増やすためだった。
城ヶ崎は杏仁ザクとうふを一口食べた。スプーンにモノアイを持っていかれたザクの顔の中心には小さなクレーターのようなへこみができる。
さらにザクの顔を削ぎつつ、向かいに座るドン助に訊いた。
「なぁ、ドン助。お前どうしてリペレイション・ヒールをネットに公表しないんだ?したらお前有名人じゃねーか」
友人の問いに、コーヒーを啜るドン助は、ひと間開けて返答する。
「リペレイション・ヒールはまだまだ未完成でゴワス。ゲドラフ・ポセイドンも」
「けど、実戦で使えてたじゃねーか」
「俺様には完成している様に見えるじぇ」
ホットチョコレートを息で冷ましている山田も、会話に参加する。
「いいや、未完成でゴワス。おいどんの腕はあの方に……ダッチボーイ様に追いついていないでゴワス」
「ダッチボーイって、七代目メイジン・カワグチ?」
「そうでゴワス」
「けどよ、もう超えているんじゃないのか?」
「そうだじぇ。さすがのメイジンだって、自己再生能力を実現させているとは思えないじぇ」
「コージ、進。不肖ながら、おいどんも一流のガンプラビルダーでゴワス。ガンプラを見れば、製作者の腕もわかる。ダッチボーイ様の腕は、おいどんなんかを遥かに凌駕する技術を有しているに間違いないでゴワス」
「相変わらずの七代目信奉者だな、お前。ま、俺はそんなお前の理想に突き進む姿が好きだけどな」
「進……」
「進、そろそろ本題に入るじぇ」
「お、そうだな」
城ヶ崎は自分のスマートフォンを取り出す。
「ドン助。次はお前に戦ってもらいたいんだ。例のノーベル女を、お前の技能でギャフンと言わせてほしい」
「お前も相変わらず、後ろ向きな情熱でゴワスなぁ」
「この間の山田が戦ったときの戦闘映像をコマンドデバイザーからインストールしたんだ。必要ないと思うが参考に見てくれ」
動画を起動した横向きのスマートフォンを手渡す城ヶ崎。
彼の言う通り、ドン助はあまり必要ではないと思った。しかし、動画を見た瞬間、彼の脳内に電撃が迸る。
「!!」
脊椎反射的に起立し、その大きな腹でテーブルに振動を引き起こす。コーヒーカップは倒れ、卓上に撒けた黒い熱湯が城ヶ崎の肘に接触する。
「あっつッ!!」
「こ、これは……」
「ど、どうしたじぇ……?」
「このしなやかな曲線に、メイド服仕様にアレンジされた装甲……間違いない。これは……」
「そのノーベルガンダムがどうかしたのか?」
「ダッチボーイ様が、世に出した最初のガンプラ……。フェアリーノーベル……!!」
◇ ◆ ◇ ◆