ガンダムビルドファイターズ Evolution   作:さざなみイルカ

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01話-05「ガンプラバトル!Ready Go!」

≪⑤≫

 

 理穂には2人の弟がいる。今日はその弟達、そして、同じマンションに住むエアリーヘアのバカとG-MAXに来ていた。

 

「何が悲しくて、土曜の昼下がりにガンタンクなんて作らきゃならんのだよ」

「はいはい、つべこべ言わずに手動かす!」

 

 不満そうな表情のまま、ヤスリで切り取ったパーツを磨く城ヶ崎。完成すれば機体の胴体部になる部分のパーツだ。脚部のキャタピラーと両腕、コックピットを兼ねた頭部は既にできていた。塗装は省いている。

 

 店内のバトルスペースと模型売り場の境にあるテーブル。理穂は殆ど戦車に近いモビルスーツを制作する幼馴染を向かいにして、委員会関係の仕事を消化していた。

 

「ったくー。ガンプラくらい自分で作れよなー」

「仕方ないでしょ。ハヤトはまだ1年生で、対象年齢じゃないの。ギブアンドテイクよ。昨日はあたしがバトルに付き合ったんだから、今日はアンタが弟のプラモを作ってもらうわよ」

 

 ハヤトというのは、理穂の下の弟のことだ。今はすぐ近くで上の弟と遊んでいる。しかし、制作段階が気になったのか、姉と顔見知りの兄モドキが腰を下ろすテーブルに駆け寄ってきた。

 

「進ー。できたー?」

 身体の小さなハヤトはテーブルの端に顎を載せて、その進捗を尋ねる。

 

「そんなすぐできるか。……てか、なんでガンタンクなんだよ!もっとカッコいいモビルスーツいっぱいあるだろ!渋すぎるわ!趣味が!」

「ハヤトはキャタピラが好きなのよ」

「そして兄貴のカイは、大砲萌えか?」

「いや、セイラ・マス推し。使ってるのはガンキャノンだけど」

「どっちも小学生の趣味じゃねーよな」

 

 城ヶ崎は、すでにポリキャップと棒状のパーツをはめ込んだ背中部分のパーツと、磨き終えた胸のパーツを組み合わせた。完成は近い。

 続けてキャノン砲の排気口の制作に取り掛かりつつ、彼は理穂の弟に言った。

 

「おい、ハヤト。これ出来上がったら、俺とバトルしろ。今日で30連勝決めてやる」

 

「うわっ、最低!バトルしたことない小学1年生相手にする気!?」

「なんとでも言え。俺は早く記録作りたいんじゃ」

 

 塗装されていないガンプラは、バトルにおいて性能が半減する。ちゃんと作られたガンプラが相手では、手も足も出ない。まして、小学1年生と高校1年生、ガンタンクとスローネツヴァイではまともに勝負になるはずがなかった。

 そんな圧倒的有利な状況で勝って嬉しいのか。ファイターとしての、年長者としての、矜持はないのか。理穂は問いたかった。が、そんなこと言っても無駄なことくらい彼女は知悉(ちしつ)していたので、言葉を喉奥に留めて仕事に集中した。

 

 やがて、排気口の取り付けも終わり、胸部の黄色いアクセントも設置完了する。出来上がった胴体に2本の腕と頭部を合わせると、ガンタンクの上半身が形となった。後は、すでに完成したキャタピラとまだ未完成のキャノン砲を取り付けたら完成だ。

 

「あーあ……。しかし、昨日海嶋さん口説き落としてたら今頃デートだったのに……」

 ニッパーで残りのパーツをフレームから取り出しながら、城ヶ崎はぼやく。

 

「そんなわけないでしょ。あれ以上やってたら警察呼ばれてたわよ、アンタ」

「んなわけあるか!彼女とはなぁ!運命の赤い糸で結ばれているんだよ!」

「いままでの24人にも同じこと言ってなかったけ?……じゃあ聞くけど、どうしてそう思うのよ?」

「フフフ……。ならば教えてやろう……。俺と彼女の運命の出会いを……」

 

 質問したが、あまり積極的に聞きたくなかった理穂。しかし、彼が語り出した以上、もはや後戻りできない。幼馴染に、貸したくない耳を傾けてやった。

 

 委員会の仕事は、まったく進んでいない。

 

 

 

 それは、10日くらい前の出来事。

 

 語り手・城ヶ崎の記憶には、かなりの美化が加えられている。そのため理穂は、正常な感覚に基づく脳内フィルターを用いて、当時の状況をイメージした。

 先週というと、自分達、入学したばかりの高校1年生は、部活の体験入部期間の真っ最中だった頃だ。

 

 

 

 

  ◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

 最初っから帰宅部所属を決め込んでいた城ヶ崎は、どこの部活にも体験入部せず、暇を持て余していた。

 

 愛機・スローネタイラントのメンテナンスでもするか――。

 そう思って、彼は美術室に足を運ぶ。彫刻刀を拝借しようと考えたのだ。……先生に許可は取っていないのだが。

 

「失礼」

 美術室に入ると、そこには水彩画を描く1人の女子生徒以外、誰もいない。「しめた!」と思った彼は、彫刻刀のありそうな棚に手を伸ばした。が、見つからない。

 手あたり次第、他の棚も探してみたが、やっぱり見つからない。

 

 観念した彼は、部屋にいた彼女に聞いてみることにした。

 

「ちょっと、ごめん」

「……はい?」

 

 彼女が振り向いたとき、城ヶ崎は、静かなる春の稲妻に、心を撃ち抜かれた。

 そのルックス、声のトーン、絵を描く姿、雰囲気。どれもが彼の理想に寸分違わない、タイプの少女だったのだ。そう、彼女こそが海嶋ミコトであり、彼が生まれて25人目に好きになった異性である。

 

「………」

 言葉を失う城ヶ崎。声を掛けられていた彼女は、「えっと……なんでしょう?」と用件を訊いてきた。

 

 城ヶ崎は、すぐさま正気を取り戻し、中指で軽く自分の前髪を払う。

 

「君、美術部員さん?」

「いえ。体験入部しているもので……」

「へぇー……」

 

 彼女の描いていた絵を、のぞき込む。そこには青空と、熱帯魚達が泳ぐ海の断面が描かれていた。薄い水色と濃い青の対比の中で、深海を彩る彩色豊かな魚たち。そこには青色の持つ清々しさと、静かさの中で輝く美しさがあった。

 

 が、突然部屋に入ってきて自分の描いている絵を盗み見出した男子生徒の存在に、当然戸惑うミコト。

 

「あの……なんでしょう?」

「いや……。下書きも上手いけど色使いが綺麗だなって思ってね」

「あ、ありがとうございます」

 

 その表情は、困惑の色を隠せない。

 感想を述べても城ヶ崎はその場を立ち去らなかったので、ミコトは間を持たせるために質問した。

 

「えっと……、美術に興味があるんですか?」

 

 すると、城ヶ崎は再び自慢のエアリーヘアを(なび)かせて、答えた。

 

「フッ。俺が興味があるのは、デッサンくらいさ。自分の頭の中にあるイメージをちゃんと絵にしたくて。ま、絵の基本位は身につけている」

「な、何のために……?」

 

 二瞬ほど間を溜める。

 そして、指を鳴らして、こう言った。

 

「ガンプラ」

 

 

 

  ◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

「いや、ありえんッ!!」

 

 回想の途中で、理穂は机を叩いてツッコんだ。腰を上げ、指摘を続ける。

 

「どこの世界に、ガンプラのためにデッサン技術習得したバカに好意抱く女の子がいるのよッ!!ちょっと褒められたくらいでッ!!」

「えー?べアッガイⅢを使う眼鏡をかけた理知的な委員長さんとか、恋に落ちそうだろ?」

「落ちんわッ!!落ちたとしたら相当センス悪いわよ、その子!!」

 

 まったく――、と呆れながら再び椅子に座る。頭を搔き、進んでいない仕事の続きに意識を戻した。

 すると、今度は城ヶ崎の手が止まる。

 

 その目線はある一点にくぎ付けになっていた。

 

「なぁ、リボン。どうやら、運命の赤い糸は互いに引き合う性質があるようだ」

「あー、寒寒。春先なのにすっごい寒い。急に体温が下がること言わないでくれる?……今にはじまったことじゃないけど」

 

 無視したかったが、経験上嫌な予感がしたので、城ヶ崎が指さす方に顔を向けた。

 

「いっ!?」

 

 そこにはさっきの回想の登場人物にして、25人目の被害者に選ばれてしまった女の子が、ガンプラを飾ったショーケースを眺めている姿があった。

 彼女はその身に危険が迫っていることを、まだ知らない。

 

「それじゃ、運命掴んでくるわ。よっこいしょ……」

 

 立ち上がる城ヶ崎。

 理穂は両手両足を広げて、彼の行く手を阻んだ。

 

「何してんだよ?」

「不本意だけど、あたしは学校の皆からアンタと仲が良いと思われてんの」

「名誉なことじゃねーか」

「アンタが変なことやらかすたび、あたしまで友達から痛い目で見られるの!後生だから、サイコな行動は慎んでくれる!?」

 

 突き刺すような勢いで、城ヶ崎を指さす理穂。

 その気迫と警告にたじろいだのか、彼は赤みがかった茶髪を掻き毟った。

 

「誰がサイコじゃ……ん?」

 

 すると、理穂から見て死角の位置に何かを見つけた様子で、急に叫びだした。

 

「おい、ハヤト!何やっているんだ!?店の物だぞ、それ!」

 

 彼の言葉に、一瞬背筋に冷気が走る姉。彼女はすぐに、彼の目線の先にいる弟のもとへ駆けつける。

 

「え……!?ちょ、ハヤト!!何やって……」

 

 しかし、ハヤトは別段何もしていなかった。ただ、二つ上の兄・カイがゲームをしているところを彼の肩越しに見ていただけだった。

 

「え?どうしたの、姉ちゃん?」

 2人の弟はキョトンとした表情で、駆けつけてきた姉を見つめる。そのとき彼女は、かなりクラシックな子供騙しに自分が引っ掛かったことを理解した。

「謀ったな、進!!」

 

 理穂が離れた僅かな間に、城ヶ崎はミコトにモーションを仕掛けていた。

 

「やぁ、海嶋さん」

 作りかけのガンタンクに亜空間から出現させた一輪の薔薇を持たせ、再び彼女に迫る。

 

「えっと……、昨日の……」

 当然、ミコトは困惑すると同時にその身体を後ずさりさせる。壁を背に、少しずつ、彼から離れていく。

 

 逃がさないということなのか、壁伝いに逃げる彼女を城ヶ崎の右腕が阻止した。いわゆる、壁ドンというやつである。

 

「フッ。覚えてくれていたんだね。こんなところで会うなんて奇遇だなぁ」

 

 ホラー。まさに、ホラー。

 2014年頃流行し、当時の乙女たちが憧れた壁ドン。しかしそれは実際、恐怖に類する体験なのだと、この状況を見る者は悟らざるを得ない。

 

「もしかして、ガンプラに興味があるの?」

 近すぎる城ヶ崎と薔薇に、涙目になっていくミコト。怖さで、呼吸が震えていた。

 

「いえ……、そういうわけじゃ……」

「大丈夫、俺が教えてあげるよ。手取り、足取り。きっと好きになる。ガンプラも俺も……」

 

 次の瞬間、バカの左こめかみに一冊のホビージ●パンが叩きつけられた

 

「やめろッつってんだろッ!!」

 

 G-MAX店内に響き渡る空気音と、理穂のツッコミ。

 その勢いは凄まじく、叩かれた衝撃は城ヶ崎の身体を押し飛ばした。

 

「痛ってぇ~~……。ホビージ●パンをそんなことに使うなよ!」

 叩かれた部分をさすって、城ヶ崎は抗議する。理穂は丸めた本誌の頭を彼に向けた。

 

「黙れッ!いい加減にしないと通報するわよ!?」

 

「俺が何したってんだよ」

「ストーカー規制法違反と壁ドンによる暴行」

「肉食系男子なら普通の行動だ!」

「黙れ、サイコ系男子!世の男性は、アンタみたいになるのが嫌で草食化するのよッ!」

 

 怯える1人の少女を傍らに言い争う2人。すると、二階から誰かが駆け下りてくる足音が響いてきた。

 

「ミコトちゃーん。ハロ直るけど数日かかるみた……」

 

 下りてきたのは、蒼い目をした女の子だった。

 

 ストラップ付きの半袖ブラウスにホットパンツとハイソックス。靴はスニーカー、手にはハンドバック。胸元には、それらに統一感を演出するシンプルなループタイ。そのアクティブなファッションスタイルは、天真爛漫な雰囲気をもつその少女に、少年のようなさっぱりとした印象を付け加えていた。

 

「……って、誰?」

 

 城ヶ崎と理穂を目にして、首をかしげる少女。

 

 ミコトの連れだと察した城ヶ崎は、彼女が1人で外出していたわけじゃないと知り、地団駄を踏んだ。そんな彼の手元にある上半身だけのガンタンクを見て、少女は蒼い瞳を輝かせて言った。

 

「あッ!それ、ガンプラ!?」

 

「ん?あ……おう。俺のじゃねーけど。コイツの弟の。俺が作ってた」

「へぇ~。君、バトルするの!?」

「フッ、愚問だな。星見市最強のガンプラファイター、“攻撃の新星”城ヶ崎 進とは、俺のことだ」

 

 いつ呼ばれたんだ、と理穂は心の中でツッコんだ。こんな奴が最強になるくらい、自分達の住む市はレベルが低いのか。

 

「そうなんだ!じゃあ、ボクとバトルしよう♪」

 少女は持っていたバックから折り畳まれたコマンドデバイザーを出して見せる。

 

「え?なんでだよ?」

「ボク、最近ガンプラバトル始めたの。だから、いろんな人と戦いたくて」

「最近?」

 

 その単語を聞いた瞬間、城ヶ崎の眼つきが変わった。

 彼には、普段から求めているものが二つある。恋する相手と、自分の連勝成績に貢献してくれる獲物だ。

 

「……ちょっとID見せてみろ」

「ほえ?いいけど……はい、これ」

 

 少女は自分の財布から白いガンプラファイターIDを取り出して、城ヶ崎に手渡す。

 

 スマートフォンを取り出し、そのIDの情報を読み取らせる自称・星見市最強のガンプラファイター。その画面に、彼女のガンプラファイターとしての基本情報が表示された。

 

 名前は、友里ほのか。ファイターの強さを表す階級は、少尉。今までの公式戦回数は500戦弱。そのうち勝利した回数は50勝に満たない。勝率は、1割にも届いていなかった。ID登録日は去年の暮れで、最近始めたという言葉に偽りはないようだ。

 

 中尉の階級を持つ攻撃の新星は、IDを彼女に返却して言った。

 

「いいだろう。どんなやつからの挑戦でも、受けて立つのがガンプラファイターの流儀!俺と勝負だっ!!」

 

 もしもその子の階級が大佐で、勝率が7割を超えていたら、幼馴染は同じことが言えたのか。理穂は内心思った。たぶん、いや、絶対言えない。

 

 

 かくして、城ヶ崎はその友里ほのかという少女とガンプラバトルをすることとなった。

 2人はそれぞれが持参したコマンドデバイザーを左腕に装着し、バトルスペースに移動、対峙した。理穂と2人の弟、そして先刻まで壁ドンの被害にあっていたミコトは、その周囲を囲む仕切りの外で2人のバトルを観戦する。

 

「それじゃ、準備はいいか?」

「いいよ~。早く始めよっ!」

「よっしゃ!粒子発生装置発動っ!!」

「発動!」

 

 あらかじめ床にセットしていた2基のプラフスキー粒子発生装置から、青白い粒子が散布される。その光の粒子たちはやがてカマクラ状のドームを形成し、両者の間にバトルフィールドを形成した。

 

「フィールドはどこがいい?」

「ボクが決めていいの?」

「ああ、いいさ。レディーファーストってやつさ。俺はフェミニストなんだ」

 

 ウソつけ。理穂はまたも心の中でツッコんだ。相手が4ヶ月前に始めたビギナーだと知って、余裕をこいているだけである。

 

 そんなことはつゆ知らず、ほのかはフィールドを選定した。

 

「じゃあ、ココ!」

「AEU軌道エレベーター直下……。悪くねぇチョイスだ」

 

 ほのかが決定を操作すると、粒子のドーム内に選ばれたフィールドが形成された。

 

 緑の草原と、灰色の軍事施設。自然と人工建造物が調和した、基本的なバトルステージ。しかし、その青空を貫くような軌道エレベーターがそのフィールドを普遍的あらざるものに変えている。

 『機動戦士ガンダムOO』の第1話の舞台となった場所だ。

 

「それじゃ、始めるぜ」

「いつでもおっけーだよ」

 

 2人は、互いのガンプラを右手で握る。

 

「ガンプラバトルッ!!」

「れでぃ~~~……ごおっ♪」

 

 掛け声と共に、それぞれが自分のガンプラをドームの中に放り投げる。

 

 コマンドデバイザーでガンプラバトルをする場合、置き型のフィールドでバトルする場合と勝負開始の勝手が少し異なる。アニメ劇中を再現した出撃シーンがなくなった代わりに、互いが自分の機体を投擲するのである。

 粒子の中に投げ込まれたガンプラは、落下する過程でその身に生命を宿す。生命を宿したガンプラは、やがて自律的に着地。システムが形成した戦場の上で、対戦相手と相見(あいまみ)えるのである。

 

 

 これが、プラフスキー粒子発明から30年経過した末に辿り着いた、ガンプラバトルの新たなる境地なのだ。

 

 

 

 

  ◇    ◆    ◇    ◆

 

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