ガンダムビルドファイターズ Evolution 作:さざなみイルカ
≪⑥≫
何だかよく分からないまま、対戦が始まってしまった。
ミコトは状況に流されるまま、ほのかの戦いを観戦することとなった。ガンプラバトルを見るのは、兄と別れた5年前以来である。あの頃に比べて、システムは大分様変わりした。
「へぇ。使用機体はノーベルガンダムの改造機か」
昨日今日、何故か自分に付きまとっていた男子が、ほのかのガンダムを見て言った。
「そう。ボクのフェイバリットガンダム。その名も“フェアリーノーベル”♪」
ほのかが投げ、フィールドに着地したそのガンダムは、かなりアバンギャルドなデザインの機体だった。
軽いカールのかかったブロンドの長髪に、アクセントとなる髪飾りとホワイトブリム。ふんわりとした胸部の白いインナーと、腰回りを絞めるレース付きのコルセット。フリルエプロンが重ねられた黒く短いスカートからは、ロボットなのにも関わらず美しく長い脚が伸びている。
首にはチョーカーが、肩あてもない露出された肩と両二の腕にはリボンが、それぞれ飾られているそのガンダムは、まるで、露出と可愛らしさと凛々しさを見事に調和させた“メイドさん”のようだった。
“ガンダム”と“女の子”という、相いれない筈の要素。それが、1体のプラモデルを器にして互いを殺さずに融合している。それらが無音で奏でる
「…………」
それは、ミコトを静寂の中で驚かせた。
「よろしいですかな?お嬢さん」
「はいっ……!?」
そんな彼女を背中から声をかけたのは、
「もしよろしければ、彼女の使うガンダムについて説明させていただきましょう」
「は……はぁ……。……あの、いいんですか?お店……」
ミコトの小さい声が聞こえなかったのか、あるいは聞いていないのか、店長は解説を始める。
「ほのかさんの使う、フェアリーノーベルのベースとなった機体、ノーベルガンダムは、1994年に放送された『機動武闘伝Gガンダム』に登場する
「そ、そうなんですか……」
「そんなノーベルガンダムを改造した、ほのかさんのフェアリーノーベル。それに本日対戦するは、自称“攻撃の新星”城ヶ崎 進の愛機、スローネタイラントっ!……今回のガンプラバトル。どうやら、新しい何かの始まりかもしれません……」
「はぁ……」
困惑しながら、今日は変な人ばっかりに会うなぁ、と思うミコト。
一方、粒子ドームの中で対峙する2体のガンダム。その間に表示される、7文字のアルファベット。
『
立体映像の数字によってカウントがなされ、2文字の単語と共にスタートの合図が下される。
『――……3!――……2!――……1!……GO!!』
表示が消えた瞬間、城ヶ崎と呼ばれていた男子のガンダムが地面を蹴った。くるりと一回して、空中で静止。両肩に備わっている羽のようなバインダーを広げる。
「スローネタイラント、エクスターミネートッ!……俺は出し惜しみなんかしねぇ。最初っから全力で行くぜッ!行けよ、ファングッ!!」
幾つかの赤い閃光が、左右バインダーを飛び出した。すると、スローネタイラントというらしいその機体も、ほのかのガンダム目指して飛んで行った。
背中から、赤い粒子をまき散らしながら。
その飛行する様は、ミコトの兄が使っていたガンダムと、よく似ていた。ただ、違うのは、その粒子が清らかなエメラルドグリーンではなく、真っ赤な血のような色をしているということ。そして、禍々しさをその身に纏っているということ。
「!」
刹那。ほのかのガンダムに、何本もの光の槍が放たれた。フェアリーノーベルは軽く身体を後天させて、それら避ける。
ビームだ――。
撃ったのは、先刻タイラントのバインダーから放たれた小さな機械である。“ファング”と呼ばれていた、6つの赤い光。
それらはフィールドの空を縦横無尽に飛び回り、後退する金髪のガンダムを追う。
「うわ~。怖い怖い」
楽しそうな表情を浮かべて、ほのかは言った。
2発、3発と、牙の形をした機械から射撃されるフェアリー。彼女はそれを、時に跳ね、時に回転し、回避していく。一方、迫りくるタイラントはその両前腕に装着された、細い銃口を構えていた。
「オラオラッ!じゃんじゃん行くぜぇーッ!!」
翔びながら、赤い光軸を連射させる。ファングと合わせて、幾つもの閃光が、フェアリーに向かって駆けて行った。
「よいしょ♪」
しかし、躱した。脚のステップだ。
ほのかはその弾道を見切っているようで、自分のガンプラに一発も被弾させようとしない。
ファングのような遠隔射撃武器を、ミコトは昔見たことがあった。兄のバトルで、である。
ある機体と対戦したとき、その機体は“ファンネル”という武器を使って兄のエクシアに挑んできた。不規則な動きで四方からビームを撃ってくる武器だったが、エクシアはそれらを全弾、華麗に回避していた姿をミコトは記憶している。
今のほのかの操作もそれと同じであるが、少し違う。兄のような華麗さが見受けられない。
「ほっ♪」「よっと♪」「危ない♪」
しかし、その代わりに明るい無邪気さがあった。まるで、襲い掛かる閃光の嵐を
その姿は文字通りフェアリー。獰猛な獣の怒りで遊ぶ、悪戯好きの妖精のようだ。
「どうした!?どうしたァッ!!避けているばっかじゃ勝てないぜ!」
一方、スローネタイラントは惜しむことなくビームライフルを撃ち込んでくる。まさに、烈火怒濤の如く。
危険さを演出する赤紫の体色に、右肩の巨大な剣と砲身。破壊衝動に溢れたその姿は、まさに“攻撃”の二文字が装甲を着て飛んでいるようだった。
迫りくる攻撃獣と、遊ぶ妖精――。
その構図は、再び新しいインスピレーションの輪郭を、彼女に垣間見せる。
やがて戦いの中心は、ドームの端に移行した。城ヶ崎はその絶え間ない攻撃の連鎖によって、フェアリーノーベルをフィールドの淵にまで追いやっていたのだ。
ノーベルの背にドームの見えない壁がぶつかる。そのとき、ほのかも自分が押し込まれていたことに気づいた様子だった。
次の瞬間、先端に光の刃を形成した6つの牙が一斉に彼女のガンプラに迫る。
ほのかは瞬時にコントローラーを捻り、それらからフェアリーの身体を空中に逃がした。
「フッ……、もらったぜッ!!」
タイラントは左肩にある取っ手を引き抜く。細い光の柱を放出させたそれは、ビームサーベルだった。それを振り下げ、タイラントは宙を落下するノーベルへ向かって突進する。
切り上げられたビームサーベルの赤い刃が、ほのかの機体に迫る。
「――――!!」
ミコトは息を呑んだ。次の瞬間、金髪の乙女が切り裂かれる姿を彼女は予想した。
しかし、そのイメージは実現しなかった。
細い美脚がスローネの手首を打ち、その刃の進攻を防いだのだ。
「なっ……!?」
一瞬の出来事に、目を張らせる城ヶ崎。
次の瞬間、その脚はスローネの手首を蹴り、フェアリーの身体を後ろ向きに宙返りさせた。さらにほのかは、フェアリーにスローネの角を掴ませる。
「えいっ!」
爛漫な掛け声と共に、一発の頭突きが、タイラントの額に打ち込まれた。
「「はいッ!?」」
ガンプラバトルではまずあり得ないその体技に、対戦相手の城ヶ崎はおろか、試合を観戦していた誰もが驚いた。ガンダムをほとんど知らないミコトですら、それが異質な攻撃であることは瞬時に理解できた。
空中でたじろぐ、スローネタイラント。フェアリーノーベルはさらに、2発のキックをその腹に喰らわせる。
地上に叩きつけられる城ヶ崎の機体。フェアリーは寝そべる敵を背に、フィールドの淵を脱出する。
「くそ~……」
打たれた頭を擦りながら、身体を起こすスローネ。首を振り、立ち上がる。まるで操縦者の心境を人間的な動作で表現しているかのようだ。
さらに拳を握り、逃げる妖精へ文句を投げつける。
「おい、てめぇっ!ヘッドバットとは、随分味な真似してくれたな!」
「えへっ♪おどろいた?」
人差し指を口元にして、振り向くフェアリー。すでに彼女は、フィールドの中心まで逃げていた。
「どこの世界に頭突きするガンダムがいるんだよッ!カウンターならもっと、モビルスーツらしい攻撃でやれよッ!」
「モビルスーツじゃないもーん。モビルファイターだもーん」
「うぐっ……!」
フィールド越しのガンプラファイター達の会話を、動作で代弁するガンダム達。その間に戦闘らしい緊張感はなく、代わりにコメディドラマのような賑やかでシュールな空気が満たされていた。
「それにせっかくのガンプラバトルなんだから、もっと自由な発想で戦った方が楽しいし、面白いよ♪そうは思わない?」
「知るかッ!次こそ、叩っ切ってやる!……行けッ!ファングッ!!」
使用者のダウンによって一時帰投していた牙たちが、再び出動する。今度は、さっきよりも2基多い。スローネタイラント自身も、右肩にあるもう1本のビームサーベルを抜き、双頭の刃を構えてフェアリーノーベルに仕掛ける。
再び、軌道エレベーターの根元で赤い閃光の嵐が吹き荒れる。
「きゃ♪」「ほっ♪」「いやん♪」
ノーベルは、しなやかな動作で8基の牙達の猛攻をまたも躱していく。そんな戦場を舞う妖精を捕まえようと、距離を詰める攻撃魔。
顔正面に両腕を交差させて、ノーベルに迫る。
「今度こそッ!!」
2本の剣による、十文字切り。真紅の剣筋が、フェアリーノーベルの身体にバツを描く。
「なっ……!?」
しかし、それは城ヶ崎から見た視点。実際に刃を当てたわけではなかった。
「残念でした♪」
ほのかは、ノーベルを一歩引かせ、紙一重で避けさせていたのだ。そして今、サーベルを空振りさせたスローネタイラントは、無防備にも自分の頭と上半身を、少女ガンダムの目前に差し出している様な状態になっていた。
次の瞬間、右肘から放たれたエルボーがタイラントの鼻に直撃した。さらに膝蹴り、回し蹴り。
受けた体技の数々に、顔面を右手首で押さえながら3歩引くタイラント。
「くそッ、いい気になるなぁッ!!」
体勢を立て直して、再度襲い掛かる。フェアリーは再び振り下ろされた紅の剣を躱すと同時に、背後に跳ぶ。そして追撃に向かってくるタイラントに、背中に仕込んでいた“何か”を投げつけた。
刹那、勢いよく翔んだ“何か”がタイラントの左腿を
「ブーメランだと!?」
相手の身体を迂回してフェアリーの手元に帰ってきたそれは、ミコトの目にもはっきり捉えられた。くの字型のビームブーメランだった。
「武器も使ってみました♪」
「だからなんだってんだ!!」
損傷した腿のまま、再び襲い掛かるタイラント。しかし今度は、閃光の弾丸によってその攻撃は阻まれた。
「ばきゅーん★」
それは、ライフルと言うには小さすぎるビーム兵器だった。右腰に仕込まれていたビームピストルから放たれた光軸が、スローネの左脇腹を貫通したのだ。
「くそッ…!」
三度にわたって、逆撃を被った城ヶ崎。その表情には、焦りの色が見受けられた。
被弾した部分から溢れる電流。致命傷には程遠いが、耐久値以上に操縦者の精神に深い一撃を与えていた。
さらにフェアリーは、怯んでいたスローネに背負い投げを一発。相手の身体を、地面に叩きつけてやった。
「あと、これはサービス♪」
新体操で使う、プラスチッククラブに似た何かを2本投げ置いて、フェアリーはその場を跳び去る。
「ハ、ハンドグレネード!?」
彼がその武器の名前を言った瞬間、それは白と黄色の爆風に変貌し、スローネタイラントの身体を呑み込んだ。
「うぎゃーーーーっ!!」
響く轟音と断末魔。
友里ほのかと、フェアリーノーベルの戦い方には、明らかな特徴がある。そのことを、5年前毎日のように観ていた兄の戦い方と比べて、ミコトは理解した。
基本的に、彼女は機体のフットワークを活かして回避に徹する。しかしそのとき、相手の攻撃パターンを見極めると同時に、敵の隙を
しかし、兄の戦いには研ぎ澄まされた刀のような、鋭さと美しさがあった。ほのかの場合、前者がまったくなく、後者の代わりに春の星空のような輝きがあった。夜空の闇を照らすようなその輝きを用いて、彼女は自らの存在に相手を引き込む。
フィールドの中を、闘志ぶつかる戦場から、明るい世界へと変えてしまう。
刹那、ミコトの脳裏に1人の少年の姿が浮かぶ――――。
◇ ◆ ◇ ◆
夕暮れの港町―――。
少年は、アクアに笑顔を投げかける。その瞬間、彼女の翡翠色の瞳に映る世界は違う表情を見せ、脚から伝わる大地の感触は確かな質感を持ち始めた。
「俺は嘘つき。嘘つきフィリオ」
~ 佐々波イルカの新しいイメージより ~