ガンダムビルドファイターズ Evolution   作:さざなみイルカ

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01話-07「戦場を舞う妖精」

≪⑦≫

 

 

 ミコトがほのかの戦法から何かを感じ取っているころ、理穂もまた彼女のガンプラを自分なりに分析していた。普段、あまりガンプラが好きではないと口にする彼女だが、幼馴染や弟達の影響あって、それなりの知識と見識があった。

 

 現在までに、披露されたフェアリーノーベルの武装は3つ。ビームブーメラン、ビームピストル、ハンドグレネード。いずれも、飛距離はそれほど長くなく、威力も大きいとは言えない。ただ、武器自体の重量は重くなく、瞬時に使用できることが強みだ。

 外見を見る限り、他に武器を隠し持っているとは思えない。となると、あの機体のコンセプトは、その“軽さ”にあるようだ。

 

 回避性能に特化させ、敵を翻弄する機体。それが理穂の見識の中で出した分析結果だった。

 

 

「おのれぇ~………」

 

 爆煙が晴れ、再びその姿をフィールドに現すスローネタイラント。ハンドグレネード自体の殺傷力はそれほど高くないのか、その身体に酷い損傷は見られない。

 ただ、爆発によって体中についた黒い煤が、まるで漫画のようで、スローネタイラントに間抜けな姿をさらさせていた。アニメ作品中の緊張感に満ちたバトルが、さらに遠ざかる。

 

「おいコラっ、てめぇ!さっきからおちょくってるのか!?」

 

 城ヶ崎はコントローラーを握った手で対戦相手を指差す。

 別に、ほのかが悪いわけではない。悪いのは、城ヶ崎の単調な攻撃パターンと、相手との相性だ。

 

「えー、そんなことないよ~」

 

 ノーベルにポーズさせて、答えるほのか。その態度も、城ヶ崎の苛立ちに拍車をかけていた。

 蒼い瞳を持つ彼女の喋り方には、ブリッ子のきらいがあるように思える。しかし、理穂はほのかを悪く思わなかった。何故なら、同性として彼女に抱く不快感よりも、鼻持ちならないバカにお灸を据えてくれている爽快感が勝っていたからだ。

 

「さっ、それよりも早く立って。バトルの続きしよーよ」

「クっ……。言われなくても」

 

 身体を起こすタイラント。両手に持っていたGNビームサーベルを捨てた。右肩に装備された巨大な剣に手を掛ける。

 

「もう容赦はしねぇ。この、必殺のGNバスターソードでその両手両足叩き斬ってやる!」

 

 鋭利ではないが重量感に満ちた大剣が、頭を出した。地面を蹴り、真紅のブーストを最大噴射。その飛翔を、8基のGNファングが飾り立てる。

 

 蜿々(えんえん)たる赤い軌道を描いて、相手に先駆ける牙達。光刃光軸を絡めて、再び妖精を捕まえようと試みる。

 

「ほっ」「よっ」「惜しい♪」

 

 当たらない。

 

 旋回した1基が、振り返って再びビームを放った。ノーベルは、自分に突撃を仕掛けようとしていた別のファングを掴み、赤い光軸に向かって投げつける。ビームに直撃したそれは四散した。

 

「ぬあッ!?てめぇ、俺のファングをよくもッ!!」

 

 バスターソードを振り上げ、突撃するタイラント。左だ。

 

 相手の背後を狙おうとするあたり、彼も考え始めたのかもしれない。それでも、当たらない。8つの遠隔射撃武器を簡単に避けてしまうフェアリーが、1つの超重武器を躱せないハズなどないのだ。

 

「まだまだッ!」

 

 気合い。振り下ろした刀身を、すぐに振り上げる。逃げられるよりも早く、次の攻撃を仕掛ける。

 

 当然、空振り。

 

 

 城ヶ崎が妖精に攻撃を当てる瞬間を、理穂はもはや想像出来なかった。手数は彼の方が明らかに多い。しかし、当てられた攻撃はまだ1つもない。相手は全ての攻撃を見切り、最小限の動作と攻撃で確実に勝負の流れを掴んでいる。

 

「クソ!!今度こそッ!!」

 

 しかし、彼はそのことを意識していない。気付いているかもしれないが、認めようとしない。放った攻め手の数々が、状況を打開してくれると妄信して疑わないのだ。手数や武器の威力だけで勝敗が決する程、ガンプラバトルは単純ではない。

 

 攻め続けているのは城ヶ崎だが、相手を追い詰めているのはほのかの方だった。

 

 

「おりゃあぁぁぁぁッ!!」

 

 バスターソードを横薙ぐ。瞬間、フェアリーは姿を消した。

 

「!?」

 

 城ヶ崎は目を見張らせる。ソードの巨大な刀身に、妖精の華奢な身体が乗っていたのだ。

 咄嗟に、片腕のライフルを放つ。刀身を蹴った乙女は、そのまま宙を舞い、タイラントの背後に着地した。

 

「しまっ……」

 振り返ろうとしたとき、ビームピストルの銃口が、タイラントの頭に押し付けられた。

 それは、銃が登場する映画などではお馴染みのシーン。

 

「動くな♪」

 

 無謀で無鉄砲な城ヶ崎も、さすがにこの状況では相手に従うしかないと踏んだ様だった。動作を止める。

 

 

 勝負あった――。

 

 

 理穂はそう思った。ほのかは今、城ヶ崎のコマンドデバイザーを意のままに操作できる立場にある。引き金を引くか、降参させるか。いずれも勝利に直結した無意味な二択を、後は選ぶだけだった。

 

 そのはずだった。

 

「はい、これあげる♪」

 

 1つのハンドグレネード。投げ落とすと、フェアリーノーベルはその場を跳び去った。爆風が、再びスローネタイラントを呑み込む。

 

 

 それは理解しがたい、行動だった。小学3年生のカイも、姉と同意見らしく、疑問を口にした。

 

「ええっ、ちょ、あのまま勝てたんじゃないの?」

 

 ハンドグレネードは、相手を一定時間足止めし、一時ダウンさせることで重宝されるが、威力自体が大きいわけではない。あのまま、ビームを脳天にぶち込んだ方が、確実に相手を仕留められたはずだ。なのに、何故。

 

 理穂は思考を巡らせる。その行動の裏にある、彼女の意図はなんのか。

 

「おいッ!なんであのまま撃たなかったんだよッ!お前、勝ててたじゃねーか!」

 

 姉弟の疑問を、ストレートに口にする城ヶ崎。

 軌道エレベーターの根元まで距離を離したノーベルを振り返らせて、ほのかは答える。

 

「だって、あのまま撃ったらバトル終わっちゃうでしょ?ボク、もうちょっと君と遊びたいなぁ」

「なっ……!?」

 

 彼女は、このバトルを楽しんでいる。故に、まだ終わらせたくない。それが答えのようだった。

 純粋な気持ちに基づく発言だったかもしれないが、余裕をひけらかしているように聞こえなくもない。少なくとも、理穂の幼馴染はそう取ったようだった。

 

「それは、俺なんか相手にならないとでも言いたいのかッ!?」

「そういうわけじゃ……」

「もう許さん!!こうなったら、必殺の城ヶ崎ファイヤーフォーメーションで、その目障りな金髪、燃やし尽くしてやるッ!!」

「ほえ?なにそれ」

 

「何それ?」

「姉ちゃん、何なのさ?その、城ヶ崎なんちゃらフォーメーションって……」

「えっとね……。バカが無い知恵絞って立てる作戦」

 

 城ヶ崎ファイヤーフォーメーション。それは、行き当たりばったりで作られる攻撃フォーメーション。具体的に内容が決まっているわけではない。

 

 しかし、理穂には大体想像できる。まず、GNファングを使って相手を牽制・誘導。逃げ場のない上空あたりに追い込み、フルチャージした最大威力のGNランチャーで狙い打ち。大量ダメージを与え一発逆転……といったところだろう。

 

「“攻撃の新星”の真骨頂見せてやるッ!!いけ、ファング!!」

 

 破壊されたため7基になった牙達を発射するタイラント。さらに、折り畳まれていた右肩の長い砲身を展開させる。

 

 どうやら、理穂が予想した稚拙(ちせつ)浅墓(あさはか)な作戦を本当に実行するようだった。さすが、星見市最強のガンプラファイター。やることが違う。

 

 3つのファングから、妖精の脚目掛けて光軸が放たれる。ノーベルは跳び、軌道エレベーターの土台部分にあたる施設に着地する。

 

 別の牙がそれを追撃。妖精はそれを躱すため、再びジャンプ。天に向かって伸びる軌道エレベーターの表面にとりつく。

 

 さらに追ってくる7つの牙。エレベーターの垂直な壁を、ブースターを噴射して駆け上がる妖精。タイラントは、その姿を地上から静観していた。

 

「フッ、目にもの見せてやる」

 

 前髪を軽く払う城ヶ崎。エレベーターに向けられたGNランチャー。その銃口には、タイラントの全動力エネルギーが集中しつつあった。

 

「ほっ♪」「よっ♪」

 

 エレベーターを走りながら、追撃を躱すノーベル。その前に、2基のファングがビームサーベルを形成して立ちはだかる。

 

 ほのかはコントローラーを操作し、フェアリーノーベルの身体を上空に投げ出させた。雲を突っ切り、青空に飛び出したとき、そのバーニアから吹かれていた青い光が途切れた。

 

「あっ!ブースト切れちゃった!?」

「フッ!もらったぁッ!!喰らえ、必殺のォ!城ヶ崎バーストッ!!」

 

 GNランチャーから、黒みがかった紅の光柱が放たれた。その太い閃光は、大気を貫通してほのかのガンダムに迫る。

 

「くたばれぇぇぇーッ!!」

 

 しかしほのかの表情に、驚きも、青ざめた色も見えない。相変わらず楽しそうに笑っているだけである。

 

 フェアリーは、自分の二の腕を飾る黒いリボンに手を伸ばした。次の瞬間、それは生きた蛇の如く伸び放たれ、その先端をエレベーター表面の突起部分に巻きつかせる。

 妖精がそれを引くと、身体はエレベーターの方に引き寄せられる。ランチャーは空を(よぎ)り、エレベーターを直撃する。

 

 彼女は、リボンをアンカー代わりにしてその攻撃を回避したのだ。

 

「危なかった~。ぶいっ♪」

 

 2本の指のサインに、歯ぎしりする城ヶ崎。渾身の一撃すらも、外されてしまったのだ。

 

「おのれ~~!!だが、いい気になるなよッ!!次こそは当てて……」

 

 突然、両ファイターのコマンドデバイザーが唸る。ディスプレイには赤い表示が示され、危険を知らすサイレンが鳴り始めた。

 

「な、何だ!?」

 

 それは、フィールドエフェクトが作動したことを示す合図だった。各バトルステージには、一定条件を満たすことで発動する“フィールドエフェクト”という効果がある。砂漠ステージの砂嵐や、コロニー破損による気流発生などがそれだ。

 

 軌道エレベーター直下の場合、エレベーター部分が一定以上のダメージを受けるとそのエフェクトが発動する仕組みになっている

 先刻、タイラントのランチャーが軌道エレベーターを貫いた。それにより、条件は満たされたのだ。

 

「ブレイク・ピラー!?」

 

 天空から地上にかけて光の環が、エレベーターの筒身を駆け抜ける。その直後、ピラーの外壁が瞬時に分離を始めた。外装部のオートパージを始めたのだ。

 

 やがて、AEUの青空に、無数の破片が姿を現した。 

 

 

   ◇    ◆    ◇    ◆

 

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