ガンダムビルドファイターズ Evolution 作:さざなみイルカ
≪⑧≫
最初の星が、地上に落ちた。
天空の彼方から墜落したそれは、青空と草原を暗黒に染め上げる。ドーム内部が、曇天の内部に閉じ込められたように変貌した。
星屑はさらに次々と降り注ぎ、2体のガンダムのいるフィールドを襲う。
片方は爆弾を使って、もう片方は大剣を振るって、黒煙を振り払った。それぞれ頭上には、巨大なソーラー板。
瞬時、回避する。
跳んだ先が重なった2体。ガンプラを背中合わせに、両者は会話する。
「ちぃぃっ!軌道エレベーターぶっ壊しちまうとは!」
「フィールドエフェクト発動させちゃうなんて。キミ、面白いね♪」
「うるせー!」
上を見上げる。煙で霞む空に、幾つもの影。
「いっぱい落ちてくるねー。ボクは大丈夫だけど、キミの機体重そうだね。大丈夫?援護しよっか?」
「黙れっ!」
ほのかの指摘は、的を射ていた。スローネタイラントは、GNランチャーにGNバスターソード、GNファング格納用バインダーと、大きな武器の数々をその身に纏いすぎている。このまま、何十秒間降り注ぐピラーの雨を、全て躱し切れる公算は大きくない。操縦者が攻撃重視の猪突猛進タイプのファイターならなおさらだ。
だからといって、相手の施しを受け入れるのは、城ヶ崎の矜持が許さない。
タイラントは地面を蹴り、その身を宙に寝かせた。そして、ファング全基とランチャー、ライフルの銃口を全て空に向ける。
「避けなくてもなぁ!ピラーなんぞ、全部撃ち落としてやるぜッ!」
「えっ!?そんなことができるの!?」
「俺とタイラントに不可能はねぇ!!見てやがれっ!!」
原作じゃあるまいし、そんな話聞いたことがない。理穂は思った。しかし、それが城ヶ崎なのである。ムキになってヤケを起こす。
やがて、影は流星群となって地上を襲いにかかってきた。スローネタイラントは、持てる火力の全てをもって、ピラー撃ち落としを試みる。
「オラオラオラオラオラオラァ!!」
10の銃口から放たれる赤い閃光。エレベーターの破片を1つ1つ砕いていく。一方、ほのかは回避行動しながら対戦相手の頑張りを見物していた。
「おお~っ」
城ヶ崎の気迫には鬼気迫るものがあり、それなりにピラーを掃討した。ほのかも、フェアリーを操縦しつつ感嘆の声を上げた。
しかし、ピラーの雨は止むどころかさらに激しさを増す。星屑の増加量に追いつこうと、とにかく撃ちまくる城ヶ崎。やがて、ランチャーの先端から、閃光の代わりに「かちゃ、かちゃ」と音がするようになった。
「げっ、弾切れ!?………ぎゃッ!」
小さな破片が、軽くスローネの頭を小突いた。
「あっ、大丈夫?」
「まだまだぁッ!!」
ほのかの声を振り払うように、再び撃ちまくるタイラント。
「オラオラオラオラオラオラァ!!」
「おお~っ」
「また弾切れた!………うぎゃッ!」
また破片に小突かれるタイラント。今度はファングのエネルギーが底をついたようだった。
「おーい。もう、バトル中断しよっか?」
「まだじゃーっ!!情けはいらんッ!!」
体勢を立て直し、2本のライフルでピラーに立ち向かう城ヶ崎。
「オラオラオラオラオラオラァ!!」
「おお~っ」
彼の雄叫びと疑似太陽炉エネルギーの閃光が、幾つものピラーを地上の星に変える。乱暴だが、その芸当は理穂すらも驚かせた。
「どうだ!?」
「すごーい!」
拍手を送るほのか。それも束の間、2体のガンダムを、巨大な影が覆った。
「……あ、次来たよ!」
「……ん?」
先刻までのピラーとは、比べ物ならないほどの大きなソーラー板だった。
「で、デケェ!?」
それでも、城ヶ崎は一歩も引かない。
「オラオラ……げっ!弾がっ!!」
ついに最後の射撃武器の弾も底をついた。気迫で降り注ぐ星屑の雨と戦った勇者は、巨大ピラーと共に地面に落ちる。
「ぎぃゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
轟音と共に、城ヶ崎の断末魔が響く。彼の機体は押しつぶされたようだ。
やがて、星屑の雨は止む。暗雲は消え、草原には無数の破片が剣山の如く突き刺さっていた。
全てを躱し切ったノーベルは、スローネが下敷きになっているであろうピラーの残骸に近づく。
「もうダメかな?」
のぞき込むノーベル。すると、残骸の中から、ゾンビの復活の如く、タイラントの腕が飛び出す。
「きゃっ!生きてた!」
這い出てきたそのガンダムは、五体揃っているとはいえ、もはやボロボロだった。角は半分折れ、体中の傷から電流が溢れ、バスターソードは杖に成り下がっている。戦闘意欲や攻撃性はすっかり消失し、無残のひと言がその姿を形作っていた。
「ま、まだだ……。俺とタイラントに……ふ、不可能は……」
理穂はその姿を見て思った。
そういえば昔、つながり眉毛がトレードマークの無茶苦茶な警察官が、毎回強欲のまま暴走しては最後、悲惨な目に遭うアニメがあったことを。今のタイラントは、まさにそのアニメのオチみたいな状態だ。
「うーん……。これじゃあ、戦闘続行は無理だね。じゃあ、もうトドメさしちゃおっと」
「なにっ!?」
後ろに跳び、タイラントと距離を話すフェアリー。
「それじゃ、BGMスタート♪」
ほのかが指を鳴らすと、どこからともなく熱い音楽が流れている。
〈 チャッ♪ チャチャ♪ チャッ♪ チャーチャー♪ 〉
「明鏡止水じゃねーかッ!!」
〈 パーパッパ♪ パーパッパ♪ パーパッパ♪ パーパッパ♪ パー♪ 〉
「これ、流さないと使えないの。ボクの必殺技」
「ってことはまさか、ゴッド……」
〈 パーパッパ♪ パーパッパ♪ パーパッパ♪ パーパッパ♪ パー♪ 〉
「いくよっ!乙女の鼓動がドキドキ高鳴る!新たな未来にキラメキ走る!」
ほのかが口上を唱えると、フェアリーノーベルの右足裏に光が収束される。しかし、城ヶ崎の気を引いたのは口上の方だった。
「って、原作と違うのかよ!?」
そんな彼のツッコミは虚空に流し、空高くジャンプするノーベル。光に満ちた右足裏を満身創痍のタイラントに向けて突撃。
「とーきめきっ!フェアリィィィィィー・ストラァァァァイク!!」
「蹴りかいぃぃぃぃーーーーっ!!」
ハイヒール状の足裏が、タイラントの胸の疑似太陽炉を直撃。溜めたエネルギーを押し込むとフェアリーは彼の身体を蹴って、その背後に着地する。
「うぎゃーーーーっ!!」
特撮ヒーローの怪人さながら、スローネタイラントは四散。その爆発を背に、フェアリーは可愛らしくポーズを決める。
今度こそ、勝敗は決した―――。
◇ ◆ ◇ ◆
勝負がついたことは、ミコトの目にも明らかだった。ほのかの圧勝である。
敗北した城ヶ崎は、床に手をつき、小刻みに身体を振るわせている。
「ま、負けた……。俺のタイラントが……、俺の30連勝が……」
そんな彼に、ほのかは大破したタイラントを差し向ける。無邪気な笑顔と、ピースサインを一緒につけて。
「チェキ♪楽しいバトルだったよ!またやろうね!」
「うるせー!」
勢いよく腕を振って、自分のガンプラを受け取る城ヶ崎。その動きの中で、宙を舞う2粒の滴。
「あれ?泣いてる?」
「黙れっ、黙れっ!ちくしょー!覚えてやがれー!!」
レトロな捨て台詞と愛嬌のある逃げ足で、店内を走り去っていく彼。その後を、観戦していた小学生が追う。
「あっ!進ー!僕のガンタンクはー!?」
左腕の本体、右手のコントローラー、床に設置していた粒子発生装置の3つを1つにまとめてバックにしまうと、ほのかはミコトのほうに駆け寄ってきた。
「ごめんねー。急にバトル始めちゃって」
「ううん。見てて意外と面白かったし、それに……」
「それに?」
「ううん、なんでもない」
『水の国のアクア』の、新しい展開。そのヒントになるものを得ることができた。それは、佐々波イルカである彼女にとって、最も大きな収穫だった。
踏み出した先。不思議な出会い。知らない世界。友里ほのかとガンプラバトルとの出会いは、彼女の中の物語に次の地平をもたらした。今、彼女の胸は静かな感動で、頭は新たな冒険の光明で満たされていた。
「そっか。楽しんでもらえたならよかったよ。ところで、ミコトちゃん、まだ時間ある?」
「あるけど、どうして?」
「もうすぐ3時だし、ケーキ食べにいかない?近くに、学校でも評判のケーキ屋さんがあるんだよ♪行こうよ!」
「……うん!」
この日、アクアの物語は新たな段階へと移行した。
◇ ◆ ◇ ◆