のほほ~んとダンジョンに行くのは間違っているだろうか   作:takubon

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第一話 のほほんと始まり

 眼前に広がる夢のような光景に、思わず息を飲んでしまう。まるでルビーやサファイアなどの宝石の様な輝きを放つそれらは、見る人が見ればまるで天国の様な物でした。

 

「わぁ・・・・・ッ!」

 

 今、その光景を見ている人物もその一人だった。感嘆の声を漏らし、キラキラとした目で目の前の絶景────お菓子の山に目を奪われています。

 

 ケーキ、クッキー、シュークリーム、アイス、パンケーキ、etc・・・数えきれないほどのそれらの山から漂って来る甘い誘惑に、ふわふわと蝶々の様に導かれていく。

 

 あとほんの少しでその伸ばした手が届きそうになった時・・・・・・

 

 

「へブッ!?」

 

 お菓子とはほど遠い、固く冷たい床とご対面しました。

 

「いったぁ~い」

 

 痛む頭をさすりながら周りを見渡すと、そこは見覚えのある部屋でした。

 特別狭いという訳でも無く、1人で生活するには十分な広さの部屋には、ベットが一つとその脇にある小さめの机があるだけ。部屋に一つある窓から朝日が降り注ぎ、部屋全体を明るく照らしていた。どこからどう見ても殺風景な安宿の一室です。

 

「さっきのは、夢?・・・・・うぅっ」

 

 先程の絶景(お菓子の山)が夢だと分かったこの部屋の主は、その事に深い悲しみを覚え項垂れた。あと少しというところで目が覚めるとは、何と非情なのだろうと多くの人が思ったであろう事を感じていると、突如はっ、として机に置かれた小さな時計に目を移しました。

 

「は、8時20分・・・・・ち、遅刻だよぅぅ!」

 

 さぁー、っと顔から血の気を引かせる事数秒、床にへにゃり込んでいる状態から、飛び起きる勢いそのままに大急ぎで昨日机の上に畳んで置いておいた服を手に取り、支度を始めました。その表情から本人は十分急いでいるつもりなのでしょう。しかし傍から見ればそれは、思わず手伝ってあげたくなる位にゆったりしたものでした。まだおねむなのでしょう。ここは温かく見守りましょう。

 

『おぅ、ようやく起きたか相棒』

 

 そんな時、部屋にもう一人の声と、カチャカチャと金属がぶつかる音が響いた。しかしこの部屋には人は今着替えをしている者しかいません。

 

「もぉーでるるん! 何で起こしてくれなかったのさぁ~!」

『いや、俺はちゃんと声かけたのに相棒が『あと5分~』や『もうちょっとぉ~』とか言って全く起きようとしなかったじゃねぇか』 

「そ、そうだっけぇ~?」

 

 しかしそれに対して驚く事は無く、寧ろ自分から話しかけている為、どうやらこれは日常的な事の様です。

 

『それよりさっさと行かないと嬢ちゃんに、まぁたお説教喰っちまうぞ』

「そ、そうだったぁ!」

 

 それから少しして袖の余る少しゆったりしたサイズの服装に着替え終えた部屋の主は、会話の相手を掴んでパタパタと部屋を飛び出した。

 

「レッツごー!」

『あ、相棒!振り回さないでくれ!』

 

 いつもの元気いっぱいの様子で、少し急ぎ目に小道を抜け大通りに出ようとした所で──

 

『・・・・・そう言えば相棒、戸締りはしたのか?』

「・・・・・わ、忘れてたぁ~!」

 

 再び戸締りの為に戻ったため、更に時間がかかったのであった。

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 所狭しと立ち並んでいる数多くの工房から、幾度となく金属を打つ槌の音が響き渡り、一軒一軒の煙突からはいくつもの白い煙が朝の澄んだ空に立ち昇る。まだ肌寒い時間帯にも関わらず、この地区には工房から漏れる熱で、少し熱い程。

 

 そんな工房の一つの前に立つ二人の女性の前を通りかかる者達は一様に、彼女達に対して敬意を払う様に頭を下げて挨拶をして行く。その様から察するに、彼女等はそれなりの地位や実力の持ち主だという事が窺えます。

 

「ふむ、そろそろか」

「多分、そう」

 

 工房の前で腕を組んで仁王立ちし、黒髪赤眼で左目に眼帯を着け東洋のバトルクロスに身を包んだ褐色の肌の女性と、水色の髪に赤い目で眼鏡をかけた和服の色白の女性。

 どちらも世間一般で美女と美少女の部類に入るこの二人がある人物を待っていたちょうどその時、二人の耳は金槌を打つ音に混じって間延びした声を拾う。

 

────ふぇ~、大遅刻だよぅ~!

 

「お、来たか」

「・・・・・予想通り」

 

 揃って声の聞こえてきた方を向けば、余った袖を揺らしパタパタという表現がぴったりな走りでこちらに向かって来る目的の人物を目視で確認した。

 

「おぉ、これは当たりそうだな」

「3、2、1・・・・・」

「ふ、二人とも、遅れてごめんなさ~い!」

 

「「0!」」

 

「ふぇ?」

 

 二人の前までたどり着いてすぐに遅れた事に対して謝ると、口を揃えてそう言われ頭に疑問符を浮かべています。そんな様子を見て、一人はカラカラと笑い、もう一人はクスリと一笑。

 

「はっはっはっ。安心せぃ、お主は遅刻はしておらんよ」

「うん、時間ピッタリ」

「??? どういう事なの?」

 

 ますます訳が分からずに首を傾げます。確かに指定された時間は8時だったはずなのに時間ピッタリとはどういうことなのかという事を尋ねますが、その疑問に答えたのは二人ではなかった。

 

『相棒、俺が相棒に教えた時間は、嬢ちゃん達が言った待ち合わせの時間より一時間早かったって訳だ』

 

 声の主は背中に掛けている長剣の鎺(はばき)と呼ばれる刃の根本の金具が喋っている様にカチカチ動き(実際に喋っているのだが)そう答えました。

 

「今日は時間に遅れる訳にはいかんのでな。手前達は準備があって起こしに行けそうになかった故に、デル坊に言ってお主には早めの時間を伝えてもらっておったのだ」

「おかげで、時間ピッタリに到着。作戦通り」

「おー!さっすが二人とも~、あったま良いぃ~!」

 

 自分の事を考えた見事? な作戦に納得がいったと感心し、笑顔でそう感想を述べるが言われた二人はなんとも言えない微妙な表情になってしまいます。

 

 くぅ~!

 

 そんな微妙な空気を他所に、3人+剣の全員に聞こえるほどの腹の虫が鳴った。その音の主は、恥ずかしそうに笑います。

 

「て、てひひ~、慌てて出て来たからご飯食べ忘れちゃったぁー」

『まぁ、相棒はそれどころじゃなかったからな』

 

 そんな空腹の小動物?(多分間違っていない)の前に笹に包まれた物が差し出されます。

 

「? これなぁに?」

「こんな事もあろうかと、ちゃんと用意してる」

「中身は手前達が作ったおにぎりだ、茶もあるぞ」

『ほぉ、こいつはおでれぇた』

「うわぁーい!ありがとう二人とも~!」

 

 大喜びで二人に感謝し、喜色満面で包んでいる笹を広げれば4つのおにぎりが入っていた。内2つは大きく少し歪な形をしていて、もう2つは小さめだが形が整っている物だった。言われずともどちらが作ったかよく分かります。

 

「いっただっきま~す!」

 

 2種類のおにぎりをそれぞれ両手に持ち、柔らかそうな頬を一杯に膨らませながら朝食を取り始めました。

 

「うまうまぁ~♪」

「相変わらず柔らかいのぅ」

「・・・…癖になる柔らかさ」

 

 正しく天使の様に、幸せそうに食べるその様子を見ていた二人は、柔らかそうな頬を突きながら食べ終わるまで、しばしほっこりと過ごすのでした。

 

『今日から新階層に向けての遠征だっつーのに相棒達は相変わらずだな』

 

 一人の剣が誰にも聞かれないように少し呆れ気味に呟いた。

 

 

 

 おしまい。

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