のほほ~んとダンジョンに行くのは間違っているだろうか   作:takubon

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第十話 のほほんと笑う門にはのほほん来る

 

 

「そうだアイズ、あの話聞かせてやれよ!」

 

 ロキに遠征の話をしていた時、飲み比べには参加していなかったが、大分酒を飲んで赤ら顔のベートがそんな風に切り出した

 呼びかけられたアイズはというと、リヴェリアの膝に座る本音に野菜スティックを食べさせていた。邪魔された事に若干不服そうだが、今のベートは気が付いていない

 

「ほら、帰る途中で逃がしたミノタウロス!最後の一匹をお前が始末した時にいたろ!?ほれ、あのトマト野郎が!」

 

 アイズは彼の言わんとしている事を理解した。自分が助けた兎の様な少年

 同時にこの後の流れも。完全実力主義者の彼は、この場であの少年の事を笑い話にしようという事を

 その事を知らないティオナが確認する様にベートに問う

 

「ミノタウロスって17層で襲い掛かってきてすぐに返り討ちにしたら逃げて行ったやつ?」

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に行きやがって、俺達が追いかけて行ったあれ!それでよ、いたんだよ、最後の一匹を始末する時にいかにも駆け出しって感じのひょろくせぇガキが!」

 

 ―――止めて、と。心の中でアイズが呟いたのと同時に、何かが上から落ちて来る気配を感じた

 次いでパシャンッ、と、水音と何かがぶつかる音

 

 釣られて皆の視線がある一点に集まり、言葉を失った

 

「・・・・・・」

 

 頭から赤い液体を盛大に被り、びしょ濡れになっているベート。その頭にはそれが入っていたと思われるジョッキが乗っていた

 一瞬何が起こったのかわからないという表情だったベートだが、次には額に青筋を浮かべ殺気立つ

 それを見た他の客は思った。やった奴死んだな、と

 

「おりょ?ゴメンねーローロー、手が滑っちゃったぁ」

 

 そんな時、いつもの間延びだ口調が聞こえて来る。勿論それはリヴェリアの膝に座る本音で、変わらずニコニコと笑顔を浮かべていた

 

「・・・おい間延び野郎、テメェ「あれれ、なんかローロー真っ赤っかだねぇ。顔も赤いし・・・まるでトマトみたいだね~」

 

 店内の空気の殆どが死んだ。その残りはというと・・・

 

「「「「「・・・ぷっ、あははははッ!」」」」」

 

 ロキ、フィン、ガレス、ティオナ、ティオネが声を大にして笑う

 

「あっははははッ!な、なんやベート、新しい一発芸かいなッ!?ウチ、メッチャ腹いたいんやけどぉ!」

「ガッハハハッ!見事に真っ赤じゃぞい!」

「と、トマトっ、くふふっ、つ、ツボに入った・・・!」

「団長の爆笑も素敵です!」

「やーい!真っ赤っかのベートだ!」

「~~~~っ!」

 

 笑われて煽られて、怒れば怒る程真っ赤になり、さらに笑いを誘うという循環が出来てしまった

 他で言えば、リヴェリアは裾で口元を隠して顔を背けて、その肩が小刻みに揺れており、

 レフィーヤは口を両手で塞いで机に突っ伏し、ラウルは絶対に笑い声を漏らさまいと必死になるあまり顔が青くなっていた

 そしてアイズはというと・・・

 

「っっ・・・くすっ」

 

 我慢していた様子だったがそれが少し決壊し、年相応の少女の様に小さく笑みを漏らしていた

 

「おぉ~、アイアイ面白い?べちょべちょ真っ赤っかなローロー面白い~?」

「本音っ・・・止めて・・・!」

 

 すぐさま気づいた本音がさらに言葉を重ねると、アイズは笑いを堪えようと頑張っていた。しかし本音がそうはさせまいとさらに笑いを触発して行く

 そのやり取りの波紋は他にも広がっていき、特に彼女と付き合いの長い者達は皆その事実にこれ以上ないくらい衝撃を受け、驚愕していた

 リヴェリアなど、普段は絶対にしない口を開けたまま呆けた表情を浮かべている

 

「なっ・・・!?ア、アイズたんが笑ったやてぇ!?え、ちょっ、さっきのお代わりお代わり!」

「お待たせしました。トマトジュースのお代わりです。そしてサービスで唐辛子ジュースもどうぞ」

「「早っ!?でも色々ナイス!!」」

「よっしゃぁ!ベートを取り押さえて皆で真っ赤にしたれぇ!!」

「「おー!」」

「はぁ!?ちょっ、離せこの馬鹿ゾネス共ぉぉぉぉ!!」

 

 2人に取り押さえられたベートは、皆からかけられるトマトジュースによってどんどん赤くなっていく

 店内には笑い声の数がまたドンドン増えていった

 

 

「ふふふっ、見て見て~アイアイ、ローロー真っ赤になりすぎて誰かわかんなくなっちゃってるよぉ」

「ふっ・・・あははっ」

 

 その笑顔は、この世で一番綺麗だと思う程だった

 

 

 

  ◇ ◆ ◇ 

 

 

 

「ふぃー、つかれたぁぁ・・・」

「「にゃぁ・・・」」

 

 営業時間が終わり、店の片付けもようやく終わった頃には真夜中になっていた

 本音と、猫人(キャットピープル)の2人、アーニャ・フローメルとクロエ・ロロは背中合わせに磨き終えた床に座り込んだ

 

「今日は一段と大変だったねぇ」

「団体客が来たからにゃぁ」

「あとはあのトマト騒ぎのせいにゃ。お蔭で床までびしょびしょだったにゃん」

「でも楽しかったよね~。またやりたいなぁ」

「「もうこりごりにゃ・・・」」

 

 両手を上げて頭を振るアーニャとクロエだった

 

「お疲れ様です。アーニャ、クロエ、本音」

「はいこれ、冷たいお水」

「今日は疲れたねー」

 

 そんな3人に、エルフの女性、リュー・リオンとヒューマンの銀髪の少女シル・フローヴァと、同じくヒューマンのルノア・ファウストがジョッキを手に労いの言葉をかけてくれた

 

「「ありがとにゃ」」「ありがと~」

 

 水を飲んで一息吐いた3人は立ち上がって体を伸ばす

 

「あれ?ミア母ちゃんはどうしたかにゃ?」

「先に帰りました。あと、戸締りはしっかりしておくように、と」

「にゃるほど、つまりいつも通りって訳だにゃん」

「それで、本音ちゃんは今日はどうするの?私はもう遅いので今日は泊まって行くつもりなんだけど」

「うにゅ?うーん、どうしようかなぁ?」

 

 腕を組み、少し考える仕草を取る本音に、シルは小悪魔チックな笑みを受けべてその腕に抱き付いた

 

「迷ってるなら泊まっちゃお?それに遠征の話も聞きたいし・・・ダメ?」

「おぉ、わかったよ~」

 

 密着した至近距離からの上目遣い。並の男性ならば一コロ確定の必殺技だろう。もっとも、本音にはあまり効果があるように見えないが

 

「にゅふふ、じゃぁ根堀り葉堀り尻堀り全部聞いちゃうにゃん」

「クロエ、あまり変な事を言っていると強制的に寝かせますよ」

「お、落ち着くにゃリューッ、分かったからそのモップを下ろすにゃっ」

「全く、クロエはアホにゃん」

「「アーニャがそれを言う資格はないね・にゃん」」

「にゃにおー!」

 

 追いかけっこを始めた3人を他所に、本音達は着替えの為に店の奥へと向かう

 

「ほらシル、貴女はこっちです」

 

 本音が入って行った部屋に何食わぬ顔で入ろうとしたシルの首根っこを掴んで止めるリュー

 

「えぇっと、でも本音ちゃんの着替えの手伝いを・・・」

「必要ありません。いくら本音でも、それくらい一人で出きr・・・」

『あ、あれ?んしょ、んしょ・・・あぅぅ、引っかかっちゃったよぉ。リュンリューン、シルルーン、た、助けてぇ~!(´;ω;`)』

「・・・・・」「ね?」

 

 結局、2人で本音の着替えを手伝った

 

 

 

 『豊穣の女主人』は一階が店、二階三階が居住区となっていて、シルと本音以外の従業員はそこで寝泊りをしている。寝間着に着替えた6人は一つの部屋に予備の簡易ベットも並べて談笑していた

 ちなみに、シルは自前の水色の寝間着を。本音はリューから借りた黄色のものを着ている

 

「「「「「それは本音が悪い・にゃ」」」」」

「うぅ~、や、やっぱり?」

「当たり前にゃん。いくらにゃんでもモンスターの上を走り回るにゃんて」

「それは流石に危険すぎるねー」

「やっぱり本音はアホにゃ」

「「だからアーニャは人の事を言えない・にゃい!一番アホなん・にゃんだから」」

「シャー!?上等にゃ!おみゃぁ等歯を食いしばるにゃー!」

 

 隣のベッドで取っ組み合いを始めた3人を再び他所に、リューとシルは本音に詰め寄っていた

 

「それで、何故そのような奇行をしたのですか?」

「嘘は言っちゃダメよー?」

 

 有無を言わさぬ迫力のリューと、笑顔なのに怖いシル。そんな2人に本音は完全に縮こまってしまっている。そりゃぁそうだ。もしここにデルフリンガーがいたら、また余計な事を言ってへし折られるかもしれない

 

「え、えっとね?さ、最初はモンスターの注意を引こうとして周りを走ってたんだよ?そしたら体の上の方が注意を引けるかなぁーって思って、飛び乗ってみたらぶよぶよ~ってしてて楽しくなっちゃって、高かったから見晴らしも良くって、つい・・・ごめんなしゃい」

「「ッッ!」」

 

 謝っているのに無自覚に心にダメージを与えて来る本音。この子のそれは、あの神すら遠慮ないミア母さんすら躊躇わせるほどの威力を持っているのだ

 そんな風に保護欲と母性を全力で刺激して行くことから、密かに「魔性ののほほん」という二つ名で呼ばれている事を本音は知らない

 もし、仮に、億が一にも本音が自らその力を意識して本気で実行しようものならば、冗談抜きでこのオラリオは滅ぶ危険性がある。とある神々はその事に頭と胃を痛めているそうな

 一個人が神々の黄昏(ラグナロク)を軽く引き起こす程の起爆剤になるとかホントにシャレにならん

 

「ま、まぁ、十分反省している様子ですし、ファミリアの方々からも散々言われている事でしょうから、私達からはもう責める様な真似はしません。ですが、今後はもうそのような事のないようにして欲しい」

「そ、そうね、もうこんな事しちゃダメよ本音ちゃん。約束だよ?」

「うん・・・心配かけてごめんね?」

 

 身体を小さくし、小首傾げながらうるうる目で上目遣い。シルよりも強力なコンボをクリティカルヒットさせられた2人のHPという名の理性は吹き飛ぶ事となった

 これが萌のハルマゲドンか

 

 

 

 

『はぁ、もう慣れたけどよ・・・せめてにんにくの傍に置いてくのは止めてくれよぉ!』

 

 食糧庫で悲痛な叫びを上げる今作不憫担当のデルフリンガーさんだった

 

『ぶった斬るぞ!?』

 

 

 

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